第43話 860kW
「皆さん、フロアボス戦お疲れさまでした!」
術式を読み取る件は失敗に終わってしまったけれど、気を取り直して。
わたしたちは第二十一層に進み、そちらで待機していた協会職員さんのもとに集まっていた。
今までは大ボスフロア戦に参加してもさっさと進んでばかりだったので、新鮮である。
「正式な審査は映像を確認してからということになりますが……」
「僕らが見てた限りだと、皆さん問題なく合格ってことでいいと思いますよ」
監督役のベテランさんがそう太鼓判を押すので、わたしのCクラス昇格は大丈夫そうだ。
合格のメールが来たら、協会支部で新しいライセンスと交換すればいいらしい。
一応パーティリーダーは逢坂さんということになっているので、報酬の分配をお任せしている間、二十一層の様相を眺めてみる。
なんというか……明らかにぼろっちくなっている。雰囲気も照明も今までより暗い。
このあたりは中継キャンプと同じくモンスター避けのアイテムが働いてるらしく、この間のスペクターみたいなのが突然壁から出てきて襲われるということはなさそうだ。
けれどここから進めば、壁の向こうからゴースト系が現れる可能性を常に警戒しないといけない。
いきなりスペクターに会えるとは思わないけど、どこかでゴースト系を一匹捕まえて、剣の魔法以外にもどういう戦い方なら通用するのか検証しておこうかなあ。
「終わったぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
分配されたドロップアイテムを手に逢坂さんが戻ってきたので、受け取ってカバンにしまう。
例の支援魔道士の人のパーティを目で追うと、リーダーの重戦士の人が戻ってきて早々、先に進んでしまった。
わたしが面の皮の厚いコミュ強だったら、一緒に行かせてくれないか頼んだりするんだけど。
逢坂さんも合わせたら合計六人。パーティの定員オーバーだ。
「ま、次があるさ」
「……ですね」
ぽんぽんと肩を叩いて慰められたので、気持ちを切り替える。
結構回避行動とかとってたのに、結局スキルも何もひらめかなかったけれど……そっちだって、本番は人目のないここからだ。
「さて、行くぞ。ゴースト系相手に実験だ」
「はいっ」
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第二十一層のモンスター構成は以下だ。
まず、言わずもがなゴースト。この上位が徘徊型フロアボスのスペクター。
それから、人型のスケルトン。いわゆるガイコツ。対応するフロアボスはヒュージスケルトンとかいう大型のものになる。
そして最後が……
「クゥン……」
「ご、ごめんね……」
ゾンビードッグ——つまり、死んでしまった犬である。
腐ってグロいとかはまだない。臭いもそんなに酷くないし、いきなり人型のゾンビが出ないあたりには手心を感じる。
ただ、凶暴なモンスターと違い、倒れるときに切なげな鳴き声をあげるので、罪悪感が刺激されてしまう。
「そいつはモンスターなんだ。前は生きてたわけでもなし、そういうふうに作られただけのもんだろうよ」
「わかってはいるんですけど……」
「……どうしても気になるなら、解放してやったと思っとけ」
その言葉に逢坂さんを見上げると、すっと目をそらされてしまった。
……こういうところがなんというか、優しいんだよなあ。
「どうしたら苦痛を感じさせないで済むでしょうか」
「それを俺に聞くか? ……一瞬で全身氷漬けにするとかじゃないか」
「なるほど……」
逢坂さんがそう言うなら、これからはそうしてみよう。
「……この気配……ゴーストだな。ほら、切り替えろ」
ゾンビードッグのドロップを拾っていると、逢坂さんの警告があった。次いで、使い魔からも同じ合図が来る。
スペクターと違い、ゴーストは物理的な干渉力を持たない。その代わり体力とか気力とか、そういうものをじわじわ削ってくるらしい。
障壁の魔法が効けばいいのだけれど……というか、効いてくれないとこの通路に閉じ込めることもできない。
スペクターの攻撃には効いたのだから、下位種であるゴーストにも当然効くものと信じたいところだ。
「この通路に入ってきたら、逃げないように障壁で閉じ込めます。範囲は角から角まで」
「ああ。壁・床・天井まで障壁を張るのを忘れるなよ」
「了解です」
そうこうしているうちに、ゴーストが角を曲がって現れた。
スペクターは人型のように見えなくもなかったけれど、ゴーストはもっと曖昧なかたちをしている。
不定形な靄と人間の五体の間を絶え間なく行き来しているような、そんな印象だ。
ゴーストがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
細長い箱のように障壁を張ってみたけれど、果たして効果はあるのかどうか。
「雷……は当然効かない。氷も水もダメ……斬撃もダメですね。炎も……ダメかあ」
纏わりつこうとするゴーストを避けながら、一通りの属性スペルもどきを試してみる。
「風で吹き飛ばすのだけはできましたけど、それでダメージになってるかと言われたら微妙です」
「剣の魔法は有効で斬撃は無効なのか……」
やっぱり、明確に概念を形にした魔法じゃないと難しいのだろうか。
……逆に「雷という概念」を意識してみたら通じるのかも?
そう思って試してみるも、どうしても今までの雷の魔法に引っ張られて上手くいかない。
攻撃によって一瞬穴が空いたように見えるも、すぐに元に戻ってしまう。
細かいことを気にしだすと魔法の幅が狭まる、と前に逢坂さんが言っていたけれど。
何も考えずに魔法を使っていた結果イメージが固定化されるのも考え物だ。
「ゴーストへの特効といえば、光だが」
「そうは言っても、ダンジョンの光属性って聖性を兼ねるとこあるじゃないですか。わたしの魔法が効くんですかね」
まあ、物は試し。どうせならそれらしいものを具現化してみよう。
人差し指をくるりと回すと、テニスボール大の熱い光球が、わたしの手のひらの上に現れる。
同時に周囲の気温が少し上がり、通路全体が明るくなった。
ちなみに、そういう魔法の影響も障壁の外に漏れないようになっている。
「それは——おい、見ろ」
逢坂さんに倣ってゴーストのいた場所に視線を向ける。
……効果は劇的だった。
靄のゆらめきがかつてないものになって、必死そうな様子で壁にぶつかっては弾かれている。
「壁の中に逃げようとしてる……?」
「ああ。ついでに障壁の効果が証明されたな」
光属性だけじゃなくて、光そのものを嫌うということか。
一応このフロアにもちょっとした照明はあるんだけど……光の強さの問題なのか、それとも具現化したものに意味があるのか。
「ちなみに、それは何だ? 俺が前に見せた光球と違って熱をもつみたいだが」
「ああ、太陽です。ちっちゃい太陽」
「————は?」
逢坂さんが後ずさった。
心配しなくても、わたしと逢坂さんには害がないようにしてあるはずだけれど。
目が潰れたりしないし、紫外線とかも受けないし。
「おま、それ……もし本当に太陽ならその大きさでも……」
「? なんですか?」
「…………いや、何でもない。ゴーストに投げつけてやったらどうだ」
逢坂さんがそう言うので、腕をゴーストの方に向けて光球を射出する。
こんな感じの、ライトスフィアという光属性スペルがあったはずだ。ボールじゃないんかい、と思った覚えがある。
『キィアアア——ッ!』
光球がぶつかるまでもなく、ゴーストはか細い断末魔を上げて消えてしまった。
その場にぽとりとドロップアイテムが落ちる。
「効果覿面ですね! 剣の魔法より便利かもしれません」
「……そうだな。だが却下だ」
「えっ」
「光属性は特化型の魔道士じゃないと使えない。お前は散々風だの水だの飛ばした後だろう」
「……はい」
これで魔道士のふりをしつつゴーストも相手にできると思ったんだけどなあ。
「そもそも……どんな魔法がゴーストに通用するかの検証も大事だが、今回の本命はお前がスキルなりスペルなりをひらめくことだ。魔法に頼ってちゃ今までと変わらん」
「そういえばそうでした。……すると一度くらいゴーストの攻撃を受けてみた方がいいのかも?」
「……勧めはしないが、そうかもな」
まあ、痛くないぶん外傷を受けるよりはマシだと思った方がいいかもしれない。
スペクターみたいに弱体化も使ってくるだろうけど、能力低下だけなら魔法を使うのに問題はないはずだ。
「そうと決まれば、ゴーストをあと一匹……うん?」
放っていた使い魔から連絡があった。
ランダムポップ型のフロアボスを見つけたらしい。
正確には、その使い魔が待機している部屋に現れたとか。さっきまで他のパーティと戦っていたのが倒されてリポップしたのだろう。
この階層のランダムポップ型は、「ゾンビーアルファ」と呼ばれるリーダーが統率する、ゾンビードッグの群れだったはず。
「どうした?」
「フロアボスを見つけたみたいです。先にこっちを片付けちゃいますか?」
「そうだな……そうするか」
ここのフロアボスを倒せば、みなとみらいダンジョンのプレートは三枚目。
そろそろ嵩張ってくるかもしれないな、なんて考えながら階段を上っていた、その時。
「————!!」
「——だから——!」
複数人が言い争うような声が、上の方から聞こえてきた。
★★★
Q. 一夜は何を言いかけたの?
A. もし千世が生み出したのが本物の太陽を縮小したものなら、「暖かくて眩しくなる」程度では済まない。
でも千世がその知識を得ると太陽を具現化する魔法を使えなくなる or 本当に危険な太陽を生み出すようになるかもしれないので、何も言わずにおいた。
実際に千世が生み出した太陽は、「地上から見える太陽」をイメージした概念としての太陽の具現のため、ゴーストに有効だった。




