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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第1章 青春ダン活編
3/7

第3話 配信を参考にしてはいけません

「マジ? 今の雷属性のスペルだよね? いきなり使えるって千世ちゃんやば! すご!」


 大きな目をさらに見開いて、きらっきらに輝かせた遥香ちゃん。あまりにも眩しい。

 周囲にモンスターの気配がないのを確認して、武器を収めた那月ちゃんと茜ちゃんも寄ってくる。三倍眩しい。


「そ、そう、ですかね? 最初から使える人くらい探せばいるんじゃ……」

「えー、でも『攻撃型魔道士の最初の属性は火・水・風・土のどれかが普通』って講習で聞いたよ」


 わたしの教官はそんなこと教えてくれなかった。年末年始なものだからやる気がなかったのかもしれない。

 そもそも講習の時にだってスペルは見せたのに……いや、あの時は風属性の「ウィンドカッター」を見せたんだっけ。

 迂闊(うかつ)だったか。でも、まあ、たぶん許容範囲な、はず……


「Bクラス魔道士だと結構使えるらしいけどな」

「……あ、あぁ~……はい……」


 Bクラス。Bクラスね。なるほど。完全に理解した。

 今後は情報収集の仕方に気を付けないと……


「それからそれから、狙いつけてから撃つまでやけに早くなかった!? もしかして千世ちゃんのギフトって――」

「『()()()()()()()()()』です」

「やっぱりー! わあ、いいなぁ〜っ」


 遥香ちゃんが本気で(うらや)ましそうな顔をしている。なんだか申し訳なくなってきた。


「あたしのギフトはね、『支援効果増強』なんだ~。そりゃ支援型としては噛み合うんだけど、他のことに向いてないって言われてる気がして微妙なんだよね。もしもの時のために自衛したいじゃん?」

「じゃあ、攻撃スペルはまだ?」

「うん、ないよ。やっぱ杖で殴るっきゃないか~」


 そう言って溜息をつく遥香ちゃんの杖を眺めてみる。相変わらず長いし、細い。非力な魔道士型にとってはこれでいいんだろうけれど、杖で殴るのはやめておいた方がいいと思う。

 支援型のことはあまり調べてこなかったので詳しくはないものの、自衛するだけならバリアとかありそうなものである。どうなんだろう。そういうのは回復型の領分なのかもしれない。


「ちなみにおれは『ダブルアタック』ってギフトな。一回の攻撃で二回分のダメージが入るんと。単純に攻撃力二倍ってわけでもないらしいけど」

「はやぶさの剣……」

「ん?」

「いや、なんでも」


 通じるかどうかは怪しそうだ。わたしがプレイしたのも、もう何年も前だし。

 それにしても、なかなかに強力なギフトなのではないだろうか。攻撃判定が増えると装備効果とシナジーが生まれるのは、ゲームでのお約束だ。

 遥香ちゃんに攻撃手段がなく、茜ちゃんも防御主体というなか、一人で攻撃担当を担っていただけある。


「で、『一度に二回攻撃すれば四回攻撃したことになる!』って剣二本出るまで粘ったんだよね」

「そんなこともありましたねぇ……」


 やや遠い目をした二人の様子を見るに、それなりの苦労があったらしい。

 そんな話をしつつ強面ウサギのドロップを仕分けてカバンにしまい、さあ改めて出発というところで、那月ちゃんに背後から肩を叩かれた。


「なあ、千世」

「はい」

「やっぱ、掠るんもナシで頼む。さすがにアレが当たったら、死ぬ」

「……はい」


 なりたて魔道士のスペルじゃなくて申し訳ない。


「すみません、配慮が足りなくて」

「まあ、無理して攻撃せんでもいいからさ。気楽にやろう」


 そう言って那月ちゃんはにかっと笑う。

 ものすごく失礼なのは承知の上だけど、小学校のクラスで人気の男子みたいな眩しさと爽やかさだ。わたしが小学生女子だったら恋に落ちていたかもしれない。


「行くよ~」

「おーう」


 駆けていく那月ちゃんの後を小走りで追いつつ、立てた人差し指をそっと回した。変な感覚はない。


 ダンジョンでスペルを見せたのは二回目。

 調子は、悪くない。



 ---



 それから、強面ウサギ・弱い方のスライム・でかい芋虫といったモンスターを危なげなく倒していった。芋虫には近づきたくないので遠距離から狙って撃ち抜いたら、茜ちゃんに非常に感謝された。

 マップアプリを頼りに次の階層へ下りるための階段に向かっていると、上空に立ち上る光の膜のようなものが前方に見えてきた。


「あれはフロアボスの?」

「うん、そうだよ。ここだとフロアボス戦は外から見えないし加勢できないようになってるの」


 なるほど。

 フロアボスの仕様は知っていたし、それが目的で探索者になったけれど。洞窟みたいな迷宮型のダンジョンならともかく、こういう見通しのいいフィールド型だとどうなるんだろうと思っていた。その答えがあの光の膜らしい。

 

 負けそうになっても助けが望めないというのは、恐ろしい話だ。一応は帰還アイテムで逃げられるらしいけど、恐ろしく高額だとか。


「協会は何回か潜って成長してからボス戦やれって言ってるけどさ、おれらは倒し慣れてるし大丈夫だろ。やってみようぜ」

「ちーちゃんのことは私が守りますっ!」


 頼もしい限りだ。

 ちなみにオオミヤダンジョンの最初のフロアボスについては当然調べてある。今から挑むのは、強面ウサギがふた回りほど大きくなって、角が生えたようなやつだ。

 素材やらなんやらの鑑定結果によると、アルミラージという名前らしい。大抵の人は角ウサギと呼ぶみたいだけれども。


 フロアボスと銘打(めいう)ってはいるものの、大抵はひとつの階層に複数種類のフロアボスがいるらしい。

 角ウサギは俗にいう固定シンボル型にあたる。いつも同じ場所にいて、倒されてから時間が経つとまた同じ場所に現れるタイプだ。

 他にもでかいスライムとさらにでかい芋虫のフロアボスがいて、いずれも固定シンボル型だ。倒すのはどれでもいいのだけれど、那月ちゃんとの相性や、彼女以外のメンバー(わたしも含む)の精神衛生の問題で角ウサギに決まった。


 ちなみに素材の買取価格は角ウサギが一番安い。ままならないものである。


「んー、やっぱり待ってる人いるね。順番待ち結構かかるかも」

「あの、だったら今日はここのフロアボスを倒してお開きにしませんか。ちーちゃんにとっては初めての探索ですし」

「そうなあ、そうすっか」


 なんだかものすごく気遣われている。きっと今まではもっとガンガン進んでいただろうに。


「まだ全然大丈夫ですけど……」

「ううん、無理しちゃだめだよ。それにせっかくパーティに入ってくれたんだし、色々と親睦を深めなきゃ!」

「そうですそうです!」


 ファミレスだとかカラオケだとか、色々計画を立て始める二人に、「おれは焼肉がいいんだけどなあ」と那月ちゃんは苦笑した。




 ★★★


【Tips: ギフト】

 ダンジョンに適合した探索者は、初めてダンジョン内に入った際、一人ひとつずつ「ギフト」と呼ばれる能力を得る。

 「頭の中にギフトの名前が浮かんでくる」感覚と言われており、効果を知りたい場合は名前から類推(るいすい)した上で検証する必要がある。

 「剣技強化」「火属性スペル強化」「状態異常耐性」など、その効果のほとんどはパッシブなものである。稀に「アイテム鑑定」「弱点看破」などのギフトを得る者もいるが、対象に視線を合わせると無意識に効果が発動することから、アクティブではなくパッシブな効果であるとされている。

 ダンジョン黎明(れいめい)期には有志の探索者が自らのギフトを検証し、今では主要なギフトの効果はおおむね判明している。しかし、「隠し玉」といえる希少なギフトを取得した者は、内容を秘匿(ひとく)したり探索者協会に虚偽のギフトを申告することもあるという。

 探索者の成長傾向とギフトが食い違う例は確認されていない。剣のギフトを得たのに振り回せるほど筋力が成長しない、スペル強化のギフトを得たのにスペルを覚えられないといった悲劇は起こらない。

 ただし、ギフトを無視して自らのこだわりを優先する奇特(きとく)な探索者も一定数存在する。

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