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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第1章 青春短し潜れよ乙女
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第2話 はじめてのたんさく

「ねえ、千世ちゃんって呼んでもいい?」


 聞けばこのパーティの面々はみんな名前で呼び合っているようだ。わたしは好きに呼んでもらっていいし、みんなのことも名前で呼ばせてもらうことになった。


「ちーちゃんとか、可愛いと思うんですが……!」


 これは文学少女に見せかけた暴走特急の茜ちゃんだ。まあ、そう呼ぶクラスメイトもいるので好きにしてほしい。

 遥香ちゃん、那月ちゃん、茜ちゃん。うん、覚えた。


「このパーティはね、あたしが支援で那月ちゃんが前衛。そして茜ちゃんが盾役(タンク)なんだよー」

「……茜ちゃんが、タンク……?」


 びっくりした。今年二回目の驚きかもしれない。一回目はこの都合の良すぎるパーティに出会えたことだ。

 当の茜ちゃんと言えば恥ずかしそうに顔を赤らめて苦笑いしている。


「えへ……ほんとは魔道士になりたかったんですが……初めてダンジョンに入ったときに頭に浮かんだのが『ヘイト集中』の()()()で……あ、これ無理だな〜って……へへっ……」

「それは、その……どんまい」

「はぅっ…………」


 悲しい話である。探索者の成長傾向は必ずしも本人の希望通りにはならないのだ。

 探索者としての能力成長も盾役向けに偏っているだろうし、運良くスペルを覚えられたとしても、狙われやすい状態で後衛をやれるとは思えない。


 ダンジョン適合者が初めてダンジョン内に入った時に頭の中に浮かんでくる、「ギフト」と呼ばれる一人ひとつの素質。大抵の探索者は、そこで自分がどういう探索者として成長していくかに見当をつけるのだ。

 茜ちゃんの場合は盾役垂涎(すいたん)のギフトだ。きっと盾を構えるための筋力なり耐久なりがもりもりと伸びるに違いない。


「ま、でも茜がいると安心して攻撃できるからさ、おれはいつも助かってんよ」

「うっ、ううっ、なっちゃあん……!」

「そうそう! ……あ、もうあたしたちの番だね。みんな準備はいい〜?」


 何をしていたかと言えば、ダンジョンに入るための順番待ちだ。ちょうどピークタイムだったので列が発生していたのである。

 待っている間みんなと話しつつ周りを見ていたけれど、意外と同年代は少ないようだ。若くても大学生と思われる人たちがほとんど。

 ……冷静に考えれば、一般的な高校生は共通テストへの追い込み真っ只中なので。当たり前と言えば当たり前か。


「いくよー!」

「おー!」


 威勢のいい号令とともにみんなとゲートを(くぐ)る。その直前、もう一度振り返ってみた。


(……見られてるなあ)


 女子高生ばかりのパーティは珍しい。

 どうやら目立つのは避けられないことを悟りつつ、とぷんとした不思議な感覚と共にダンジョンへと飛び込んだ。



 ---



 ゲートを潜ると、そこはモンスターひしめく危険地帯……ではなく、普通にたくさん人がいた。

 出る時も混んでいれば順番待ちになるのだろうし、安全地帯として確保されているようだ。みんな一様に装備を整えたり準備運動したりしている。入り口外では見かけなかった、大物の武器防具がそこかしこに見えた。


 少し離れたところに簡易的な建物があって、探索者協会の制服を着た職員さんが何か作業をしている。

 今は早い時間だから人がいないけれど、帰りにはあそこで戦利品の査定を頼むことになるのだろう。


 頭上は青空。前方にはだだっ広い平原。

 講習で潜った小規模なダンジョンとは大違いだなと思いつつ、人差し指をくるりとひと回しする。


「あたしたちも準備しよっか!」


 みんなで人の少ない隅の方に寄る。なるほど、()()()()()()の装備を使うならこういう時間が必要かあ。


「千世ちゃんはそのままで大丈夫そ? ごめんね、もうちょっと待ってて」

「大丈夫ですよ、ゆっくりで」


 そう返すと三人とも(特に茜ちゃんが)申し訳なさそうな顔をして、いそいそと何かを取り出し始める。次の瞬間、ぽんと武器や防具が現れた。

 

 ダンジョンで見つけたものは基本的に外に持ち出すことができるし、資源やアイテムは問題なく使用できる。探索者はただの人に戻るのに、不思議なものだ。

 ただし、武器や防具といった装備に関しては、ダンジョンの外に出ると小さな結晶のような状態になってしまうのだ。写真で見た限りでは、結晶の中にその装備が浮かんでいるような見た目だった。

 

 確かに、茜ちゃんのような女の子だと、素の身体能力でごつい鎧を着てでかい盾を持ち歩けるとは思えないし、刃のついた武器だって現代社会で持ち歩くのは厳しい。

 合理的なのは間違いないけど、何かしらの意思も感じずにはいられない。


 わたしは全部メーカー製で揃えたので、家からこの格好で来ている。ちょっと派手だけど、渋谷とかにこういうファッションの人いるよねって感じの、現代風デザインだ。


「わたしも杖くらいはそんな感じで持ち歩いた方がいいかなあ」

「でも小型化加工って高くつくんだろ? 最初はおれみたいにダンジョン産の武器狙った方がいいかもな」


 そういう那月ちゃんの武器は取り回しの良さそうな二本の剣だった。装備も動きやすそうな軽装だ。ダンジョン内は外ほど寒くないので、着込んでいた上着を脱いでいる。

 一方遥香ちゃんは外と同じコートを羽織ったまま、長い杖を抱えていた。わたしの身長近くありそうだ。

 最後にたっぷり時間をかけて、完全防備の茜ちゃんがこれまたごつい盾を背負った。武器は槍のようだ。


「お待たせしましたっ」

「気にしないでー! それじゃ、今度こそ行こっか!」


 盾役重戦士、軽戦士、攻撃魔道士、支援魔道士。

 新人にしては上等なパーティだ。



 ---



 出発してしばらくはモンスターに出会わなかった。わたしたちの前にもたくさんの探索者が来ているのだし、間引かれているのだろう。

 マップアプリを確認しつつ人気のないエリアまで進んでいく。ダンジョン発生後の調査のために整備された通信インフラが探索者にも開放されているのだ。


 講習のときはネットの使用許可が下りていなかったので、中でSNSをチェックできなくてげんなりした。

 まあ、使えたところで探索者アプリの特定機能以外は(すずめ)の涙みたいな通信量しか使えないんだけど。


「Bクラス探索者になるとライブ配信の許可が出るんだって。あたしもいつかはって思うんだけど、どれくらいかかるかわかんないや」


 とは、遥香ちゃんの言だ。ちなみにわたしたちの真新しいライセンスには「Class D Explorer」とおしゃれなフォントで刻まれている。

 動画を録って後から投稿するだけならオフラインでもできるけれど、カメラマンもいなければ撮影用ドローンもなく、編集だって必要になるので、配信に興味のある遥香ちゃんでもそこまでの意欲はないらしい。


「うーん、ここまで来ればモンスターいるかな?」


 既に周囲に人気はない。オオミヤダンジョンの第一層はだだっ広い草原なので見通しが良いのだ。

 茜ちゃんを先頭に、わたしと遥香ちゃんの魔道士組を挟んで、那月ちゃんが後方を警戒している。


「千世は初めての本番だもんな。いい感じにはぐれたやつ、いないかなあ」


 わたしも同じことを考えていると、前方右からがさがさと音を立てて何かが現れた。すかさず茜ちゃんが盾を構え、那月ちゃんも前方へと移動する。


「出たな、強面(こわもて)ウサギ」

「ウサギなのに可愛くない……」


 あらかじめ知っててもショックすぎる。まあ、現実にも目がイってて可愛くないウサギはいるけれども。


「打ち合わせ通り、千世はタイミング見て攻撃入れてくれな! なりたて魔道士のスペルなら(かす)っても気にせんから!」

「当てないように善処(ぜんしょ)します!」


 フレンドリーファイア、ダメ絶対。


「アジリティ・ブースト!」


 数秒間の集中を経て、遥香ちゃんが支援のスペルを唱える。那月ちゃんの動きが目に見えて素早くなった。

 茜ちゃんがウサギの攻撃を弾きつつ、その陰から那月ちゃんが飛び出てヒットアンドアウェイを繰り返す。動画サイトで見た探索者のような(たく)みな連携とはいかないけれど、探索者歴一、二ヶ月と考えれば上出来だろう。

 那月ちゃんが茜ちゃんの後方に引っ込んだ瞬間が攻撃タイミング、かな。


「……よし」


 さて、どんなもんだったかな。

 うん、そう。たしかこんな感じだったはず。

 人差し指を立ててくるりと回し、その言葉を声に出した。


「ライトニングアロー」


 瞬間、わたしが掲げた杖の先から、バチッと音を立てて一筋の光が(ほとばし)った。


「ギギュッ」


 雷の矢は一直線に強面ウサギを貫いて、小さな体を黒こげにする。多少の罪悪感を感じる暇もなく、その(むくろ)(ちり)となり、その場にいくつかの素材が残った。

 モンスターはダンジョンの余剰魔力が作り出す疑似生命体、だったっけ。


「……えっ?」

「おん?」

「はわっ……」


 三人ともびっくりした顔でこちらを見ている。茜ちゃんだけ何か様子が違うような気もするけれど。

 なんだろう、もしかしてやりすぎてしまったのだろうか。




 ★★★


【Tips: 探索者の装備】

 いかに強力な探索者とて、身ひとつでモンスターと戦うのは無謀である。

 探索者が命を預ける装備は、ダンジョン内でモンスターや宝箱からドロップするダンジョン産、および持ち帰った素材をもとに民間会社が製造販売するメーカー製の二種類が存在する。ダンジョン産の装備はユニークな性能をしているものが多く、一方メーカー製はシンプルな性能で使いやすい傾向がある。稀に自作する猛者も存在する。

 ダンジョン産装備の性能を知るためには、『アイテム鑑定』のギフトか、鑑定用アイテムが必要となる。大規模ダンジョンの各拠点には鑑定を担当する協会職員が常駐しているほか、協会支部の窓口からも鑑定を依頼できる。もちろん有料。

 魔石、素材、アイテム、装備といったダンジョンの産物はいずれも外に持ち出すことができるが、このうち装備だけは外に出た時点で強制的に小さな結晶のような形に小型化される。ダンジョン内でならば自由に形態を切り替えることができる。

 メーカー製の装備にそのような機能を付与することも可能だが、貴重なダンジョン素材を必要とするため、初心者が手を出せるようなものではない。

 例外的に、ダンジョン産装備であっても武装に分類されないアクセサリーはそのまま持ち出せる場合がある。非戦闘時にも役に立つ効果ならばダンジョン外でも持続するが、スキルやスペルなど戦闘に関連する効果は無効となる。

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