第1話 ダン活、はじめました
探索中に無断でパーティから抜けたときの罰則って何かあったっけ。
そんなことをぼんやりと考えながら、わたしはダンジョンをひとり進む。わざわざ夜中に危険を冒すような探索者はいないので、出くわすのはモンスターだけだ。
そのモンスターもわたしが指を一振りするだけで、雷の矢が、氷の槍が、風の刃が突き刺さり、塵となって消えていく。もちろん、他の探索者に見られないよう、細心の注意を払いつつ。
これからどうしようか。夜中に一人でダンジョンから出てきたら絶対に理由を問いただされる。かといって姿を消してこっそり出て行っても、記録上はダンジョンに入ったまま出てこないということになってしまう。
憂鬱だ。本当に、これでよかったのだろうか。
「…………はあ」
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
わたしはただ、友達とのダンジョン探索を楽しんでいただけなのに――
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時は一ヶ月ほど前に遡る。
ダンジョン探索者ライセンス。正式名称はもっと長ったらしい。
取得条件は、規定の講習に合格した18歳以上の成人であること。15歳で一斉に行われるダンジョン適合検査で陽性となっていること。
わたし、柊 千世は高校生にしてダンジョン探索者になった。探索者歴0日の新人だ。
わたしの生まれる少し前に地球上に発生した不可思議な構造物、通称ダンジョン。
ダンジョンに満ちる魔力に耐えられる人間だけが、ダンジョン探索者として活動し、モンスターと戦い、様々な資源やアイテムを獲得して日銭を稼ぐことができる。
ちょっと特殊な生まれのわたしは、このモンスターと戦うという点に惹かれて、18歳になると同時に探索者ライセンスを手にしたのだ。
推薦を受けて受験戦争から一抜けしていたので、講習も冬休みを使ってゆっくり受けられた。それでも余裕を持ちすぎて誕生日が来るまでライセンス発行を待つ羽目にもなったけれど。
最初からソロで潜るのは躊躇われた。
一応探索者の人の配信アーカイブは見たし、講習の一環で他の受講者や教官の探索者とパーティを組んで浅層に潜ってもいる。
でも、わたしの目的はフロアボスと呼ばれる強力なモンスターだ。最終的にはソロで行く必要があるけれど、いきなりというのは気が引ける。できるだけ安全な状態で、かつ自分の目でどんなものか下見しておきたかった。
幸い最寄りにあるオオミヤダンジョンは人口の多さもあって盛況で、探索者用のアプリを開けば様々なパーティ求人が載っている。そこから「初心者歓迎」で絞り込んでみた。数が一気に減った。
「盾役募集……斥候型歓迎……うーん……」
ダンジョンに適合した探索者は、ダンジョン内での経験(主にモンスター討伐)によって成長するらしいのだけれど、どういう成長をするのかには個人差があり、かつ一定の傾向があるのだそうだ。
物理的に強くなる戦士型、素早く動き探知や小技に優れる斥候型、そして――「スペル」を唱えて超常的な現象を起こす、魔道士型。
探索者が今後どの方向に成長するのか、初めてダンジョンに入った時点で概ねの傾向が判明することが多い。
わたしは魔道士型でやっていく予定だ。探索者協会にもそんな感じで登録したし。
まあ、何が言いたいかというと、この少ない募集の中から、さらに魔道士型を求めているパーティを絞り込まないといけないのだ。
加えて、もうほとんど登校する必要はないとはいえ、わたしは学生の身だ。手が空いた時にソロでも潜りたいし、そして春からは大学生になる。オオミヤダンジョンまで頻繁に来られるかどうかすら怪しいし、あまりにもガチなところはやめておきたい。
初心者魔道士を求めていて、安全マージンをとって期間限定でゆるく楽しくダン活できるような、そんな都合のいいパーティが果たしてあるかどうか……
「あのぉ、すみません」
ふとスマホから顔を上げると、三人の女の子がこちらを見ていた。多分みんな同年代だ。
「もしかして、新人さんですか?」
「えっと、はい」
「やっぱり! あ、高校生さん……ですよね?」
「まあ、はい。一応」
それを聞いて、「よかった」ときゃいきゃいと喜ぶ女の子たち。
いくらわたしが小学生並みの童顔低身長だといっても、探索者ライセンスを引っ提げてここにいる以上は成人女性だ。まだ高校生だけども。
「あたしたち、受験を終えた高三でパーティ組んでダン活やってるんです」
そう言ってきたのは、亜麻色の髪をツインテールにした、可愛らしい女の子だ。身につけている装備も同様に可愛くて、アイドルと言われても納得がいく。
「春からはそれぞれの進路があるし、ゆるい部活みたいな感じでやってるんですけど、三人だけじゃちょっと不安で。条件が合えば、一緒にパーティ組みませんか?」
あまりにお誂え向きの話に、思わず彼女たちの顔を見回した。
話しかけてくれた、おそらくリーダーの、ツインテールの女の子。
一瞬小学生の男の子かと錯覚するような、でも身体のラインから女子であろう、ミントグリーンのベリーショートに猫のような眼差しの小柄な子。冬なのに小麦色の肌が健康的で眩しい。
そしてこの中で一番背が高い、夕日のような赤毛を太い三つ編みおさげにした、丸眼鏡の女の子。伏し目がちな琥珀色の瞳が綺麗だった。
「……願ったり叶ったりですけど、攻撃魔道士型でも大丈夫ですか?」
「攻撃魔道士! ちょうどうちにいないからさ、そうだったらいいなって思ってたんよ!」
「う、運命かもしれません……!」
全員に歓迎されている。おさげの子が言うように、これはもう運命かもしれない。
まあ、実際はわたしの装備を見てあたりをつけたんだろうけど。有名メーカーの初心者魔道士向けローブで可愛いやつを選んだので。あと一応杖もあるし。
「じゃあ、決まりね! っと……あたし、桃園 遥香っていいます! よろしくね!」
「おれは蓮見 那月! よろしく!」
「えへ、えへへ、ちっちゃくてかわい――あ! わ、私は芒原 茜といいます……!」
若干一名怪しいが、まあ、ちょっと変わった子なんてどこにでもいるものだ。
「わたしは柊 千世といいます。これからよろしくお願いします」
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あの誘いに乗らなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。彼女達は、今も三人で仲良く冒険していたのだろうか。
今となっては、後の祭りである。
★★★
【Tips: ダンジョンと探索者】
正式名称・異常領域構造体。
2013年10月5日、全世界で同時多発的に発生した異空間およびその入り口を指す。
地表には入り口のみが露出し、内部には広大な空間が広がっている。モンスターと呼ばれる敵性生命体が跋扈しており、彼らを討伐すると死体が消えると共に魔石資源やアイテムがその場に残る。ダンジョン内で行動を続けた者は、ダンジョン内でのみ人間離れした能力を行使するようになる。
夢のようなエネルギー資源や現実離れしたアイテム――傷を癒やすポーション、土壌や水源を清浄化する石など――をダンジョンから得るべく、各国は軍・自衛隊をダンジョン内に派遣した。
しかし、ダンジョンに入った直後に体調を崩す者が続出し、この異空間に侵入するには個人の適性が必要なことが判明する。
より多くの適合者を見つけ、資源獲得を推奨、および有用な能力を発現する人材を発掘すべく、自国にダンジョンが発生した国々は「探索者協会」を設立。安全なダンジョン適合検査法を確立し、ダンジョンに入る資格である「探索者ライセンス」を国民に向けて発行するようになった。
日本においては、中学三年時の健康診断でダンジョン適合検査が義務付けられており、満18歳から探索者ライセンスを発行できる。その年齢を過ぎた者は、協会支部に申請すれば無料で検査を受けることができる。
なお、ダンジョン発生時、近隣住民にも体調を崩す者が続出した。発生以降に同様の現象は起きていないが、ダンジョン近隣は子育て世代を中心に忌避されているのが現状である。ダンジョンを擁する各自治体は探索者の移住を支援している。
初投稿です。
ゆっくり進行ですが、第1章完結まで毎日投稿予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします!




