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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第2章 ウィッチ・ミーツ・ウィザード
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第23話 誰も彼女を覚えていない

 今日の探索では、第十層まで通しでフロアボスを倒して、通行証のプレートを一枚コンプするだけの予定だった。

 だから、みなとみらいダンジョンについては、軽くしか調べてこなかった。

 最初の十層程度なら不測の事態もないだろうという(おご)りもあったのかもしれない。


 ダンジョンの階層は進むほど広くなっていくという原則は、みなとみらいダンジョンにもちゃんと適用されている。


 開放的だから意識しにくいけれど、このダンジョンは決まった道を進む迷宮型だ。

 ゲームによくあるダンジョンでたとえれば、空を飛ぶわたしは本来移動できない壁の中をぶっちぎってまっすぐ進んでいるようなもの。

 そして……当然、実際に壁の中を飛ぶことはできない。


 みなとみらいダンジョンは、広大な空間に立体的な足場が張り巡らされているロケーションから始まる。

 道のりは複雑だけど、全体像は把握(はあく)できるので、進むのにそこまで苦労はしない。

 壁にある扉は大部屋に繋がっていて、そこにフロアボスがいたり、たまにモンスターの溜まり場になっていたりする。


 ただし……上の階層に上がるにつれて、この構造は変わってくる。

 足場を上っていくのは変わらない。ただ、壁の向こう――扉の先が順路に含まれるようになるのだ。

 扉から建物の内側に入って、廊下を移動しながら階段を上り、また扉から出て空中の足場に戻る。そういう経路になっていく。

 やがて足場の張り巡らされた空間は狭くなっていき、建物内を進む比率が増え……第十一層からは、完全に建物内を探索する形となる。


 以上、わたしが休憩中にみなとみらいダンジョンについて調べてわかった情報だ。


 わたしは壁を通り抜けられる使い魔を生み出すことはできるけど、自分で壁を通り抜けることはできない。

 お父さんは楽々やっていた覚えがある。わたしはまだその領域にない……というか、ぶっちゃけ怖い。

 魔法は自分の意思で現実を変える力だ。その意思が弱い状態では上手くいかないし、かべのなかにいる、になるのがオチだ。


 言い訳はこれくらいにして、そろそろ探索を再開しようか。


 縦方向のショートカットは想定より効果的だったようで、まだまだ帰るまでに時間がある。

 第十層のボスを倒してから、少し先の階層の様子を見てみるのもいいかもしれない。

 わたしだってダンジョン探索者なんだから、ちゃんとした迷宮型がどういうものなのかくらい、経験しておいた方がいいだろう。


 マップアプリを開き、フロアボスのポップ地点を確認する。第五層からは徘徊型のボスもいるので、そちらもついでに探してみよう。

 一応再び上を見上げたものの、今はそれらしい姿はなく、どうやら建物内をうろついているようだ。


 頭や肩に乗っていたコウモリたちが一斉に飛び立って、各所の扉の向こうに消えていくのを見送りながら、わたしはゆっくりと立ち上がった。



 ---



 やはりあっさりと第十層手前へ到着。


 十の倍数の階層――通称『大ボスフロア』は、一種類のフロアボスしかいない単純な構造をしている。これはどのダンジョンでも変わらない。

 大ボスフロア、つまり階層そのものがフロアボスの領域ということ。するとどうなるかというと……『固定シンボル型・ランダムポップ型のフロアボス戦中は外界と隔離される』というダンジョンの原則に(もと)づき、誰かが戦っている間、大ボスフロアには立ち入れなくなってしまう。当然、挑戦もできない。

 普通の階層ならここで別のフロアボスを倒しに行くという選択肢が生まれるのだけれど、大ボスフロアではそうもいかない。


 さて、そんな状況に探索者たちはどう対応しているかというと……


「十五人を目安に出発しまーす! 順番にお願いしまーす!」

「今反対側で三人待ってるそうです!」

「了解!」


「お疲れ様です、次で監督交代です」

「うーっす」


 こういうことである。


 みなとみらいダンジョンのような人の多いダンジョンの、とりわけ浅い第十層では、大ボスフロアへの挑戦が探索者協会によって管理されている。

 ギリギリの戦いを長時間引き延ばされるのは、危険なだけでなく他の探索者にとって迷惑になるからという理屈だ。

 制限時間を過ぎたり、危なくなったりしたら監督担当のベテラン探索者がフロアボスを片付けてしまうらしい。

 大抵は戦闘に参加せず後ろで見ているだけで終わり、経験値は入らないけれど、なかなかおいしい仕事だとか。まあ、わたしにとってはやる意味がない仕事だけど。


 オオミヤダンジョンでは、結局第十層の大ボスを倒してダンジョンから出ることを選んだ。あの時は真夜中だったので、協会職員さんも他の探索者の人も誰もいなかったから、一人で悠々と挑戦できた。

 けれど、普通に第十層から先への通行証を手に入れようと思ったら、この待機列に並ばざるを得ない。


 ダンジョンに入るときですらソロであることをごまかしているのに、第十層まで来て正直にソロだと申告するわけにはいかない。

 コツは、影が薄くなる程度に隠形の魔法をかけつつ、あたかも「わたし、このパーティの一員ですけど」という顔で五人未満のパーティと一緒に並ぶことだ。効果があることはヨコハマダンジョンで証明されている。


 大ボスフロアに入ってしまえば、あとは控えめに魔法で攻撃するだけだ。

 ソロ周回できない大ボスフロアに通う意味はないので、プレートの石さえ揃えばもう用はない。


「そこのパーティまでで合わせて十二人ですね」

「向こう側にクリア済パーティいるんすよね? 多少少ないけど大丈夫っしょ。ってことで、出発します! 詰めてくださーい!」

「第十層のフロアボスは『ガーディアン・クレーン』、盾役以外は背後から攻撃するのが基本です! お気をつけて!」


 第九層から突入する九人の中に紛れ込み、第十層への階段を上る。反対側とか向こう側とか言われてたのは、第十一層側から入ってくる人たちのことだ。

 タイミングを合わせて第十層へと足を踏み入れる。最後尾の人が上ってきたのと同時に、階段そのものが閉鎖された。


「ヘイトは俺たちが取る! そっちは背後から攻撃! ヘイトを取れる盾役がいるならこっちに回り込んでくれ!」


 向かい側から入ってきた三人のうち一人が叫ぶ。経験者なのだから、任せてもいいだろう。

 何らかのスキルを使ったのか、それとも茜ちゃんのような『ヘイト集中』のギフト持ちがいるのか、ガーディアン・クレーンはゆっくりと彼らの方へ旋回していく。


 ガーディアン・クレーンは、その名の通りクレーンがモチーフの重機っぽいモンスターだ。

 全高は十メートルほどか、今まで対峙してきた機械系モンスターの中で一番大きい。

 廃墟に溶け込むような錆びた巨体。前方に突き出したアーム(後で調べたところ、この部位はブームというらしい)からは、うねうねと自在に動く細身のアームが伸びている。普通のクレーンのように、慣性に任せてワイヤーで重りを振り回されたりするよりは、いくらか楽かもしれない。

 ゆっくりと盾役たちの方を向いていくその動作はのっそりとしていて、(すき)だらけに見える。


「シールドバッシュ!」


 大きな盾を構えた重戦士の突進が、ボスの巨体を揺らしながらガァンと音を立てる。

 それを合図に、武器を持った人たちが駆けだして、足回りを崩そうと攻撃を加える。関節部に繊維(せんい)の束のようなものがあって、そこを狙っているようだ。

 そこから少し遅れて、魔道士たちがスペルを唱える。地上からは手が届かない高さへ、火・水・風・土の属性スペルが浴びせられた。


「ウィンドカッター」


 わたしもアームの(もろ)そうな部分に向けて、風属性のスペルに見せかけた斬撃を飛ばす。こんなところで雷を見せたら目立ってしまうので使えない。


 アームの相手をしている三人の様子をうかがうと、見事な連携でボスの攻撃をいなしているところだった。

 絶妙なタイミングで攻撃してはヘイトを稼ぎ、防御に徹している重戦士。アームを切り落とそうと何度も攻撃を加えている軽戦士。そして、準備の整ったスペルを(とな)えずに待機状態にしておいて、ここぞというときにアームを弾き飛ばしている土属性の魔道士。

 第九層側から入ってきた盾役の一人は、メインの重戦士をサポートしたり、魔道士の守りに入ったりしているようだ。


 わたしならこのデカブツをどうやって一人で倒すだろうか、と考えたところで、このダンジョンのモンスターは軒並(のきな)みわたしの雷の魔法で動作不良を起こすのを思い出した。

 たとえ雷に耐性があったとしても、ガーディアン・クレーンにはアーム以外飛び道具がない。離れたところから魔法を撃ち込めばいいだろう。


 なるべく関節部を狙いつつ斬撃を飛ばしていると、大きな音を立てて機体がぐらりと傾いた。どうやら脚の一本を破壊したらしい。


「その調子だ!」

「乗り込めー!!」


 崩れた箇所を足掛かりに、戦士たちが機体によじ登っていく。

 こうなればさすがに盾役のヘイトを上回ったようで、アームが盾役たちから離れて邪魔者を()(はら)おうとする。

 それを魔道士たちがさらに妨害する。わたしも風のスペルの名前を唱えながら魔法で対処する。

 そうしているうちに、盾役が攻撃役を守る陣形が出来上がっていた。


 そして――アームの相手をしていた軽戦士が、とうとうそれを斬り落とした。


「アーム破壊完了!」

「こうなりゃもうスクラップだ!」


 そこからはもう、文字通りの破壊活動だ。

 機械だから罪悪感がないのか、普段ダンジョンで見かける戦闘よりも、みんな遠慮なく攻撃しているような気がする。

 人目さえなければ、わたしも見えざる手の魔法で思いっきりぶん殴ってみたい。次のフロアボスではやってみようと思う。


 やがて、ガーディアン・クレーンはエネルギーが切れたかのように崩れ落ち、(ちり)となった。代わりに大量のドロップアイテムが残る。

 首から下げているプレートを見れば、そこには十個目の石が輝いていた。


「えー、ガーディアン・クレーンの討伐を確認しました。ドロップアイテムはこちらで回収し、第十一層で分配します。とりあえず先に進んでください」


 今まで後ろで見ていた監督の人が、そう言ってドロップアイテムを大袋に入れていく。当然、空間拡張が施されたものだろう。

 さて、わたしは分配に参加するわけにはいかないので、ここでお暇するとしよう。


 人差し指をくるくると回しつつ、わたしは第十一層へ続く階段へと進むのだった。



 ---



「お疲れ様です。今回の参加者は、えーっと……」

 

「うちのパーティは三人っすね」

「僕たちは四人です」

「私らも四人です」


「合計()()()、合ってますね。では、分配を始めますんで――――」

週一更新と言ったな、あれは嘘だ

カクヨム様でこのラノweb大賞に応募したので、期間中はできるだけ頑張ります

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