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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第1章 青春ダン活編
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第14話 あまりにも恵まれた

 そもそもわたしが探索者になった目的は、ダンジョンの中で思う存分魔法を使い、魔力機関の性能を向上させることである。

 これはソロかつ人目を避けて潜らないと達成できない。駆け出し探索者の今ならなおさらだ。


 それでも遥香ちゃん、那月ちゃん、茜ちゃんとパーティを組み続けているのは、気の合う友達とのダンジョン探索――ダン活が楽しいからだ。

 わたしも、みんなも、命を()けているという実感は薄いだろう。ゲームとかスポーツの感覚と範囲で、楽しみながら実益を得ている。


 わたしと違って、みんなはダンジョン探索者として成長することが目的のためのプラスになる。

 それに神林さんたちの実力なら、こんな浅い階層のモンスターなんてほとんど一撃で倒せるだろうに、わたしたちに経験値を分けるためにわざわざ手間をかけてくれている。


 だから面と向かって文句を言うつもりはない。

 けれど、会ったばかりの人たちに戦闘を全部任せて、とどめだけを作業のようにこなすだけなんて、全然、ちっとも、楽しくない。身になっているとも思えない。


「……まあ、どうせ第十層までですから。たまたま運がいい日があってもいいんじゃないですかね」


 小声でそう返すと、茜ちゃんは納得したように頷いた。

 こんなことも明日でおしまいだ。いくらわたしでも、そのくらいなら他人に合わせられる。


 そう自分に言い聞かせながら、茜ちゃんと那月ちゃんが攻撃を加えたのを確認してから哀れなモンスターを仕留めた。

 本職のヒルデさんに見咎(みとが)められないよう、ごく小規模な魔法で。


「マサミツ、ほめて」

「はいはい。ヒルデはいつもすごいなあ」

「あっ、ヒルデちゃんずるい……!」

「ひなたも。偉かったな」


 ……まあ、あっちはあの調子でいちゃついてるから、気づかれはしないだろうけど。



 ---



 相変わらず寄生プレイみたいな状態で、元々の目的の第六層を超えて、第七層のフロアボスを倒すまでに至った。

 徘徊型ボスであるオオカミの群れを、運よく見つけた形になる。


 数が多いということで、やっとまともに戦闘に参加させてもらえた。

 茜ちゃんのギフト『ヘイト集中』は、距離が遠かったり攻撃せずにいたりすると効力が弱まるという性質があり、寄生プレイ中は離れて見ていることでモンスターが流れてこないようにしていたのだけれど、今回はそうはいかない。

 いきなりフロアボス戦に放り込まれて大丈夫か心配だったけれど、意外にも茜ちゃんは平気そうに持ちこたえていた。


 それだけでなく、那月ちゃんの動きも明らかに見違えている。その上遥香ちゃんの支援スペルまでかかれば、もはや別人に見えるほどだ。

 これまでの作業で、それほどの経験値が得られたということだろうか。……こんなに人数が多いのに?


 腑に落ちない点はあるものの、わたしだけ何の変化もないというわけにはいかないので、魔法の威力を上げておいた。ここらへんの加減は、やはり難しい。


「格上モンスターの経験値って、すごいね……」

「だな。慣れるのにちょいと苦労するレベルだわ」

「今ならアリの大群に一人で突っ込める気がします……っ」


 それはやめた方がいい、と突っ込んでおいて。

 みんなが急成長の感覚に酔っている一方で、わたしはやっぱり納得できずにいた。


 探索者としての能力に頼らず魔法で戦っているわたしでも、探索者としてどれくらい成長しているかは感覚でわかる。

 神林さんたちにキャリーされてからの成長効率は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 いくら奥の階層に来たからって、そんなことがあってたまるか。経験値は九等分されているはずなのに。


 神林さんの大躍進(だいやくしん)の秘密は、間違いなくここにある。

 ……軽々しくわたしたちを連れてきてしまって、本当によかったのだろうか?



 ---



「今日はここで野営にしよう。次の階層は湿地らしいから、過ごしにくいだろ」


 そんな神林さんの一声により、第八層に入る手前で探索を終えることになった。

 同じことを考える人が多いのか、第八層への階段の周りにはちらほらとテントが立っている。でも神林さんたちはそこから離れた人気(ひとけ)のないところで腰を落ち着けた。


「先輩、あたしたちも設営手伝います」

「ありがとう、遥香。でも大丈夫だよ」


 そう言うと神林さんはリュックを下ろして、中をまさぐる。リュックは戦闘の邪魔にならない小さなサイズで、それほど中身が入っているようには見えない。かなり上等な空間拡張が(ほどこ)されているとみた。

 やがて神林さんが取り出したのは、手のひらサイズの結晶だった。装備をダンジョン外に持ち出すときの結晶に似ているけれど、少し形が違う。


「このへんでいいかな? ヒルデ」

「ん、問題ない」

「了解。みんな、ちょっと離れてくれ」


 言われるがままに距離を取って見守る中、ヒルデさんが一歩前に出た。


「リリース」


 その一言を合図に、一瞬にしてコンテナハウスのような建築物が現れる。


「す、すごっ!」

「中を見たらもっと驚くぞ」


 神林さんがドアを開けてわたしたちを招き入れる。

 コンテナハウスの中は見た目よりずっと広い。これも空間拡張による効果なのだろう。


 内装のイメージとしては豪華なキャンピングカーという感じだ。

 入ってすぐのところに綺麗なキッチンとテーブルがあった。テーブルはわたしたち九人がぎりぎり囲めるサイズである。


「ヒルデの持ち物を使わせてもらってるんだ。もともとはヒルデのお父さんがダンジョンで手に入れたもので、その時は装備みたいに小さくできるだけで中に何もないシェルターだったらしいんだけど……色々工事してこうなったんだと」

「Bクラスの認定祝いだっけ? 海外のお金持ちはやることが違うね~。使わせてもらってるウチらは助かってるけど!」


 そんな説明を聞きつつヒルデさんを見ると、なんとなく得意げな顔をして胸を張っている。


「あのドアがトイレで、反対側にシャワー室がある」


 神林さんが開けたドアの先は脱衣所になっていて、ドラム式洗濯機みたいな機械が置いてあった。さらにガラス戸で区切られた先にシャワースペースがある。


「寝間着はフリーサイズのがいくつか置いてあるからいいとして、その……下着とかはここに入れてスイッチを押せば、シャワー浴び終わる頃には綺麗になるから。使ってくれ」

「先輩、これってもしかして……水なしで綺麗になるっていう、あの?」

「あー、うん。ちょっと前に話題になったよな。それだよ」


 その会話を聞いて、わたしも前にネット記事でこれと同じものを見たことを思い出した。衣類を素早く清潔にする、ダンジョン産資源を使った洗濯機。

 当然本体もとんでもないお値段がするけれど、一回使うだけでもそこそこのコストがかかったはず。一人一回ずつなんて、あまりに贅沢な使い方だ。

 わたしは魔法でどうとでもなるから、使わないでおこうかな……


「で、遥香たちに使ってもらうのはこっちのベッドルームになる」


 次に案内されたのは、カプセルホテルの一角のような空間だった。上下で重なった個室が左右に二つずつ、ちょうど四つのベッドがある。


「ゲスト用の部屋だから、狭くて申し訳ないんだけど……」

「そんな! じゅうぶんですよ!」


 ここでいうゲストとは、大事なお客様という意味ではなく、パーティに臨時で参加した人とかのことなのだろうなと思った。

 このベッドルームからダイニングを挟んで反対側にも扉があった。きっと神林さんたちの生活スペースはあちら側にあるのだろう。


「じゃあ、これから食事を用意するから。ゆっくりしててくれ」

「いえ、手伝います」


 そう言って遥香ちゃんが神林さんについていくので、わたしもそれに続く。食事を出してもらうのだから、これくらいはしないといけない。

 「おれらは片付けんときだな」「ですね」という料理苦手組のやり取りを背に、そっとゲストルームの扉を閉めた。


「手伝い? ありがとー! じゃあこっちの皮むきお願いしていい?」


 キッチンに立っているのは鈴村さんだった。

 作るのはシチューかカレーか、大鍋が用意されている。そして大量の野菜や肉も。


「…………」


 遥香ちゃんの視線は、作業台の上のそれらに釘付(くぎづ)けになっていた。


 スーパーでは絶対に見ないような、独特な色や形の野菜にキノコ。

 巨大なブロック肉は牛や豚のそれとは思えない。


「……これ……全部ダンジョン産食材……ですよね?」

「そだよー? 全部鑑定してあるから安心してオッケー!」


 遥香ちゃんがごくりと喉を鳴らす音が、ダイニングに響いたような気がした。

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