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現代魔女はダンジョンに潜る  作者: 齋藤 真白
第1章 青春ダン活編
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第13話 パラサイト

 思わぬ流れ弾で再起不能になりかけたものの、なんとか気を取り直すことができた。


 食事を終えて一息ついたので、ようやく今日のメインである中継キャンプの下見に乗り出す。

 移動の間、ヒルデさんは色々と質問を受けており、ヒルデさんも律儀に答えてくれていた。意外にも一番熱心に話しかけているのは茜ちゃんだった。

 魔道士になりたかったと言っていたし、やっぱり憧れがあるのだろうか。それか、どういうときにスペルをひらめきやすいのか聞いてたり……


「あのっ、どうしてヒルデさんは神林さんのパーティに入ったのか、聞いてもいいですか?」

「ワタシのクラスB到達記録に迫りそうなヒトが気になって、会いにきたのがはじまり。マサミツと一緒にいればもっと強くなれると思った。だから頼んで入れてもらった」

「なるほど……」


 ……個人的な興味もあってのことらしい。


「選んだテント、ここで使えそうですか?」

「問題ないと思う。ちゃんとスペース区切られてるし、そこに収まってりゃ文句は言われんだろ」


 那月ちゃんの見立てにほっと息をついて、色とりどりのテントが張られた周囲を見渡す。

 テントにはそれぞれ個性があり、探索者たちが何を重視するかも様々であることを思わせる。中にはテントを張らず寝袋のみで夜を過ごそうとする猛者もいた。

 この階層の気候は固定されているから無茶ではないんだろうけど、わたしはちょっとやりたくない。


「下見ってことは、キャンプしたことはないのか」

「はい。あたしたち、第六層で活動できるようになりたいんですけど、どうしても日帰りだと厳しくて」

「なるほど……よし」


 後方から遥香ちゃんと神林さんのそんな会話が聞こえる。

 何がよしなんだろうと思っていると、神林さんは自分のパーティメンバーと何か一言二言話して、またこちらへと戻ってきた。


「遥香と……パーティのみんな。ちょっといいか」


 なんだろうと首を傾げつつ、神林さんのところに集まる。


「あのさ、今日、一泊しても大丈夫か?」


 …………はい?



 ---



 神林さんからの提案は、自分たちはこれから第十層まで一気に潜るので、一緒についてこないか……というものだった。


「せ、先輩、急にそんなこと言われても……あたしたち泊まりの準備なんて何もしてませんよ」

「そこは大丈夫だ。寝床に余裕はあるし、食事もこっちで出すよ」

「そーそー。シャワーも浴びれるし、着替えとかも心配しなくていいかんね! スキンケアも貸したげる!」


 一体どんな環境で野宿してるんだろうと気になってきたところで、清野さんが割って入る。


「正光様、柚希さん。まずは彼女らのご家族から許可が出てからです。成人しているとはいえ、皆さん高校生なのですよ」

「あっ、そうか。そうだよな……今ここで家族に連絡は……」

「クラスD探索者に許可されているのはメッセージによるやりとりのみです。ご家族からすぐにレスポンスがあればいいですが、適切な手段とは言い難いですね」


 ダンジョン内からのライブ配信と同じように、音声通話も探索者クラスによる制限がかかっている。通信コストの問題だとか。

 ダンジョンで快適なインターネットライフを送るにはクラスを上げるしかない。ままならないものだ。


「どうしよっか」

「わたしは一人暮らしなので特に許可とかいらないですけど……」

「私も、メッセージだけで十分だと思います」


 わたしに続いてそう言うのは茜ちゃんだ。……薄々思っていたけれど、あんまり家族の話をしないってことは、そういうことなんだろうか。


「連絡がいるのはそっちの二人だけ?」

「はい」

「おう」


 それを聞いたヒルデさんは、「ついてきて」と言い残してスタスタと歩いて行ってしまう。よくわからないまま全員でついていく。


「何かあるのか? ヒルデ」

「ここは協会の拠点だから。クラスBのワタシなら、外部に連絡をとらせてもらえる」


 何がどうしてそうなるんだろうと思っていると、元協会職員らしく清野さんが説明してくれた。


 ダンジョン外に音声通話で連絡を取るには、探索者クラスがC以上でなければいけない。

 ここでいう音声通話とはスマホのキャリア通話機能ではなく、チャットアプリなんかに付属している通話機能だ。ダンジョンにモバイル回線は通っていないので。

 大抵の音声通話サービスはお互いのアカウントを連絡先として登録しておくとか、同じグループに所属しているとかの前提条件が必要になる。たとえ電話番号のみで連絡が可能だとしても、今時知らない番号からの電話はすぐに取らない人も少なくない。

 本人以外が代理で連絡を取るというのは、案外難しいのだ。


 そこで、Bクラス探索者のヒルデさんの出番である。

 この中継キャンプには協会職員さんが常駐していて、色々な設備も揃っている。

 ヒルデさんが協会職員さんに申請することで、下位の探索者に対してCクラスの権限を一時的に付与することができる……らしい。

 とにかく、これで遥香ちゃんと那月ちゃんは自分で家族に連絡を取れるというわけだ。


「うん、うん……そこは大丈夫。高校の先輩だし。友達も一緒だよ」


 那月ちゃんがすぱっと連絡してすぱっと許可を取った一方で、遥香ちゃんの親は色々と心配しているようだ。まあ、それが普通といえば普通だろう。


「……そうだね、一泊だけかな。何かあったらちゃんとメッセージ送るから……うん、ありがとう。それじゃ」


 遥香ちゃんがスマホを耳から離して一息つく。どうやら話はついたようだ。


「これで全員宿泊OKになりました。でも、その……本当にいいんですか、先輩」

「いいんだって。後輩にいいとこ見せさせてくれよ」

「……他のみなさんは?」


 わたしも自然と神林さんのパーティメンバーの方を見てしまう。

 既にBクラスのヒルデさんはもちろん、神林さんもBクラス内定だというし、ほかのパーティメンバー三人も同じくらいの実力があるのだろう。

 第十層程度の経験値なら半減しても惜しくはない、と言われたら何も言えないけれど、それでも気になるのが人情というものである。


「ウチらは全然オッケーだよ?」


 ねー、と頷きあう様子を見るに、本当に気にしていなさそうだ。


「そういうことで、じゃ、準備できたら行こうか!」


 ……気づけば同行してキャンプまでご一緒する流れになっているけれど、実はわたしたちは一言も了承していない。

 わたし以外のみんなが最初から行く気であったとしても、了承の返事はしていないのである。

 別にいいけどなんだかなあ、下見はもういいのかなあ……とモヤモヤした心のままに、相変わらず準備のいらないわたしは壁に寄りかかって皆さんを待つことにしたのだった。



 ---



「麻痺入った!」

「了解。……アイシクルアロー」


 神林さんたちのパーティのコンビネーションは、わたしたちとは比べ物にならないほど様になっていた。

 盾で引きつけて受け止める、茜ちゃんのような盾役がいない代わりに、鈴村さんが身軽な動きで敵を翻弄(ほんろう)しながら注意を引いている。ゲームでいう避けタンクというやつだろう。

 しかも麻痺の状態異常まで入っている。敵の動きを止めるのが盾役の役割だと考えれば、この上ない成果だ。特にスキルの宣言もなかったし、装備の効果かもしれない。


「……ん、いい感じ」

「だな。おーいみんな、とどめを頼む!」


 ヒルデさんの放った氷の矢は、モンスターたちの四肢を貫いて地面に縫い留めていた。本来のアイシクルアローより本数が多いのは『広域化』のギフトの恩恵で、胴体は綺麗に避けているのは本人の技量だろう。

 その光景を見て満足そうに頷いた神林さんが、わたしたちに声をかけた。

 それまで戦闘に加わらず遠巻きに見ていただけのわたしたちの役目は、こうしてお膳立(ぜんだ)てされた状況で、とどめだけを刺すことだ。

 これだけでも戦闘に参加したことになり、わたしたちも経験値を得られるというわけである。

 ちなみに遥香ちゃんだけは、事前に神林さんたちに支援スペルを使っている。それだって全員に順番にかけるわけではなく、一回の戦闘につき一人ずつ順番だ。


 那月ちゃんはいつもより表情を硬くして、茜ちゃんも口数が少なくなっている。


「いいんでしょうか。こんなに楽しちゃって」


 茜ちゃんのつぶやきが神林さんたちに聞こえていたら、きっと「気にするな」と返ってくるだろう。

 でもわたしの心の中は、申し訳なさとは別の感情に占められていた。


 こんなの全然、楽しくない。

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