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暗殺貴族の溺愛ハーレム ~「守られる弱い男」を演じていたら、最強の女たちが忠誠を誓って離れません~  作者: 藤風大地
第2部 竜の女王と、恋の最終戦争(ラグナロク)

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第26章 静寂の処刑人と、語らぬ銀刃

王立闘技場は、死んだように静まり返っていた。

つい先ほどまで、数万の観衆が熱狂し、怒号と歓声が渦巻いていた場所だとは到底思えない。

その理由は明白だった。

フィールドに残る、濃密すぎる「気配」のせいだ。

第四試合で女帝スカーレットが放った『覇気』。

生物としての格の違いを見せつけ、最強のタッグ(ノクトとレグル)を子供扱いした、圧倒的な暴力の記憶。

スカーレット本人はすでに退場し、姿は見えない。

だが、彼女が残した魔力の残滓は、未だに空気中にこびりつき、空間を歪ませていた。

まるで、透明な巨人がそこに居座り、睨みを利かせているかのような重圧。

「……息が、しづらいな」

俺――クロノス・ナイトレイは、選手入場ゲートの暗がりで、自身の胸元を掴んだ。

心臓が早鐘を打っている。

恐怖ではない。武者震いとも違う。

これは、生存本能が発する「拒絶反応」だ。この先に進めば死ぬぞ、と細胞の一つ一つが警鐘を鳴らしている。

俺は振り返った。

背後の通路には、ボロボロになった仲間たちがいる。

全身包帯だらけで意識のないリゼ。

治療を終えたばかりで、顔色の悪いノクトとレグル。

彼女たちは負けた。

俺を守るために戦い、そして敗北した。

(……これ以上、負けられない)

俺は拳を強く握りしめた。爪が皮膚に食い込み、痛みで意識を現実に繋ぎ止める。

ここで俺が負ければ、どうなる?

スカーレットのペットとして一生を終える?

いや、それだけでは済まない。

俺という主柱を失ったナイトレイ家は解体され、彼女たちは路頭に迷うか、あるいはスカーレットの逆鱗に触れて処刑されるかもしれない。

領主としての顔。

主人としての責任。

そして何より、男としての意地。

「……勝つ。絶対に」

俺は自分に言い聞かせるように呟いた。

深呼吸を一つ。

肺に満ちた鉄と血の匂いを吐き出し、代わりに覚悟を吸い込む。

俺は一歩、光の中へと踏み出した。

フィールドに出ても、歓声はなかった。

観客たちは皆、青ざめた顔で押し黙っている。スカーレットの覇気に当てられ、声を出す気力すら奪われているのだ。

カツ、カツ、カツ。

俺の靴音だけが、不気味に響き渡る。

そして。

対面のゲートから、その「敵」は現れた。

ガシャン、ガシャン、ガシャン。

重厚な金属音。

全身を継ぎ目のない銀色のフルプレートアーマーで包んだ騎士。

『銀色の処刑人』。

ドラゴニア帝国四天王の最後の一人であり、その素性も、顔も、声さえも知られていない謎の存在。

騎士はフィールドの中央まで歩み寄ると、ピタリと足を止めた。

距離、十メートル。

俺は騎士を凝視した。

(……なんだ、こいつは?)

違和感があった。

スカーレットのような、空間を歪めるほどの覇気はない。

ティランのような、肌を焼くような闘気もない。

ノクトのような、鋭利な殺気すらない。

そこにあるのは、『無』だ。

感情も、意志も、気配さえも希薄な、虚無の塊。

まるで、中身の入っていない鎧が、魔法だけで動いているかのような不気味さ。

昨日の予選後の惨劇を思い出す。

他の四天王たちが嬉々として奴隷を虐殺する中、この騎士だけは違った。

峰打ちで気絶させ、無駄な殺生を避けていた。

慈悲か? それとも、殺す価値もないという傲慢か?

スカーレットの側にいながら、その行動原理が見えない。

「……」

騎士は無言のまま、腰に帯びた大剣(クレイモア)の柄に手をかけた。

その動作はあまりにも自然で、予備動作が全くない。

水が流れるような、静かな構え。

『それでは……本戦トーナメント、第五試合!始めッ!!』

アナウンサーの声が震えながら響いた。

ゴングが鳴る。

その音が消えるよりも早く、世界が動いた。

(……来る!)

俺は身構えた。

相手は四天王。ティランやヴネナンが苦戦した相手と同格か、それ以上だ。

初手から全力で行く。

【思考加速(アクセラレート)】を展開し、相手の初動を見切る――

はずだった。

「――ッ!?」

いない。

目の前にいたはずの銀色の巨体が、瞬きする間に消失していた。

消えた? 転移か?

いや、違う。

視界の端、認識の外側。

風すら起こさず、音もなく。

気づいた時には、騎士は俺の目の前――鼻先数センチの距離に立っていた。

(速い……ッ!!)

リゼのような「速さ」ではない。

リゼの速さは、風を巻き起こす爆発的な加速だ。予備動作があり、音があり、軌跡が見える。

だが、こいつの速さは違う。

「移動」のプロセスが欠落しているかのような、唐突な出現。

縮地。あるいは、歩法(フットワーク)の極致。

俺は咄嗟に反応した。

防御? 回避?

間に合わない。思考が追いつかない。

俺ができるのは、反射的に体を硬直させることだけだった。

ドンッ!!

腹部に、重い衝撃が走った。

鋭い痛みではない。内臓全体を揺さぶられるような、鈍く、重い衝撃。

「が、はっ……!?」

俺の体はくの字に折れ曲がり、数メートル後方へ弾き飛ばされた。

地面を転がり、受け身を取ってなんとか立ち上がる。

口の中に鉄の味が広がる。

「……な、に……?」

俺は痛む腹を押さえ、相手を見た。

騎士は、剣を抜いていなかった。

大剣は鞘に収められたままだ。

今の一撃は、剣の柄頭か、あるいは鞘の先端による突きだ。

(……舐めやがって)

屈辱がこみ上げる。

剣を抜くまでもないということか。

殺す気がない? 手加減されている?

ふざけるな。ここは殺し合いの場だぞ。

「クソっ……!」

俺は短剣を構え直した。

相手が抜かないなら、こっちから抜かせてやる。

俺は地面を蹴った。

【影渡(シャドウ・ウォーク)】。

影に潜り、騎士の背後へ回り込む。

「シッ!」

死角からの刺突。

だが、騎士は振り返りもしなかった。

ただ、大剣の鞘を背中に回し、俺の短剣を受け止めたのだ。

ガィン!

硬い音が響く。

まるで背中に目がついているような反応速度。

いや、気配を読まれたのか?

「なら、これならどうだ!」

俺は攻撃の手を緩めない。

連撃。

上下左右、あらゆる角度から短剣を繰り出す。

ティランとの特訓で磨いた体術と、リゼとの訓練で得た立体機動。

今の俺の攻撃速度は、予選の時よりも遥かに速い。

だが、当たらない。

騎士は最小限の動き――体を半歩ずらし、首を傾け、鞘で弾く――だけで、俺の猛攻をすべて捌いていく。

その動きには、一切の無駄がない。

流水のように滑らかで、それでいて鉄壁。

「……ッ!」

焦りが募る。

こちらの攻撃は全て見切られているのに、相手の攻撃は見えない。

騎士が反撃に転じた。

鞘に入ったままの大剣を、棒術のように振り回す。

ブンッ! ブォンッ!

風切り音が重い。

鞘とはいえ、鋼鉄の塊だ。直撃すれば骨が砕ける。

俺は紙一重で回避するが、そのたびに体勢を崩される。

(重い……! なんだこの圧力は!)

ただの棒切れを振り回しているだけに見えるのに、その一撃一撃には凄まじい「重心」が乗っている。

フェイントがない。小細工がない。

ただ、最適解の軌道で、最大効率の打撃が飛んでくる。

まるで精密機械と戦っているようだ。

「ぐぅッ!」

避けきれなかった一撃が、俺の肩をかすめた。

ボキリ、と嫌な音がした気がした。

激痛が走るが、無視する。足を止めたら死ぬ。

俺はバックステップで大きく距離を取った。

荒い息を整える。

冷や汗が止まらない。

強い。

スカーレットのような「規格外の怪物」ではない。

研ぎ澄まされた「技の極致」。

純粋な剣士としての技量は、ティランさえも凌駕しているかもしれない。

「……お前、何者だ?」

俺は問うた。

喉が渇いて声が掠れる。

「スカーレットの配下にしては、異質すぎる。なぜ剣を抜かない? なぜ俺を殺さない?

……何が目的だ?」

問いかけが、静寂の闘技場に響く。

だが、騎士は答えない。

銀色の仮面(バイザー)の下から、こちらの様子を伺う視線を感じるだけだ。

無言。無反応。

それが余計に不気味さを煽る。

「……名前くらい、教えたらどうだ?」

挑発してみる。

だが、やはり反応はない。

ただ、騎士はゆっくりと大剣を構え直した。

鞘の先端を俺に向け、切っ先(見えないが)を喉元に定める「正眼の構え」。

『お喋りは終わりだ』という無言の意志表示。

「……そうかよ。だんまりか」

俺は唇を噛んだ。

会話による情報収集も、心理的な揺さぶりも通じない。

ならば、力ずくでこじ開けるしかない。

その鉄仮面を剥がし、その口を開かせてやる。

第二ラウンド。

俺は戦法を変えた。

闇雲な連撃は通じない。相手は「後の先(カウンター)」の達人だ。

ならば、こちらも「静」の戦いで挑む。

俺は呼吸を整え、意識を内側へと沈めた。

ノクトとの早朝訓練で掴んだ感覚。

殺気を消し、気配を断ち、世界と同化する。

【魔力循環・隠蔽(ステルス・サーキュレーション)】

体内の魔力を完全に循環させ、外部への漏出をゼロにする。

視覚的にはそこにいるが、感覚的には「石ころ」と同じ存在になる技術。

騎士の持つ「虚無」に近い状態を、擬似的に再現する。

俺はゆっくりと歩き出した。

摺り足。音を立てず、重心を一定に保ったまま滑るように移動する。

騎士の反応を見る。

……動かない。

こちらの気配を見失ったのか、それとも誘っているのか。

(慎重に……。一撃必中だ)

俺はジリジリと間合いを詰める。

騎士の大剣の間合い。約二メートル。

そこに入れば、音速の打撃が飛んでくる。

その刹那。

相手が動く「起こり」を捉え、カウンターを合わせるしかない。

三メートル。二・五メートル。

緊張で空気が張り詰める。

心臓の音がうるさい。

二メートル。

境界線(デッドライン)を踏んだ。

――ピクリ。

騎士の肩が、わずかに動いた。

来た。

右からの薙ぎ払い。

(見えたッ!)

俺は【思考加速】を最大出力で発動。

時間を引き伸ばす。

迫りくる銀色の鞘。その軌道を完全に見切る。

避けるのではない。踏み込む。

攻撃の起点、懐の内側へ。

【因果逆転・摩擦係数ゼロ】

足元の摩擦を消し、氷の上を滑るように加速する。

鞘が俺の髪の毛を数本刈り取りながら通過する。

死の風が頬を撫でる。

入った。

ゼロ距離。

騎士の懐。無防備な胸元。

「――貫け!」

俺は短剣に全魔力を込めた。

【闇穿(ダーク・ピアス)・一点突破】

ドリルのように回転する黒い魔力の刃。

それが、騎士の胸甲へと突き刺さる。

ガガガガガッ!!

金属音が火花と共に散る。

硬い。

この鎧、ただの鋼鉄じゃない。ミスリル、いや、オリハルコンか?

魔法耐性が異常に高い。

「……硬ぇなッ!」

だが、衝撃は通るはずだ。

俺は短剣を押し込みながら、さらに魔力を爆発させた。

【浸透撃(ペネトレイト)】。

鎧の内部へ、衝撃波を流し込む。

「くっ……」

初めて、騎士が声を漏らした。

苦悶の声。

効いている。

騎士がたたらを踏み、後退する。

「まだだ! 逃がさない!」

俺は追撃に移る。

体勢を崩した今が好機。

足払いで転倒させ、マウントを取る。

騎士の銀色の腕を掴み、関節を極めようとする。

だが。

ガシッ。

逆に、手首を掴まれた。

万力のような力。

騎士は体勢を崩したまま、片手で俺の身体を持ち上げたのだ。

嘘だろ? どんな筋力だ。

「……調子に乗るな」

兜の奥から、低い声がした。

次の瞬間、視界が回転した。

ドガァッ!!

俺は一本背負いのように投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた。

背中から肺への衝撃。息が止まる。

受け身を取る暇もなかった。

「が、はっ……」

俺は咳き込みながら転がり、距離を取った。

危なかった。

もし追撃されていたら、終わっていた。

騎士は……追ってこない。

ただ、胸甲についた傷(俺がつけた傷)を、手袋で軽く払っているだけだ。

「……傷がついたか」

騎士が呟いた。

その声には、怒りではなく、微かな驚きと、そして称賛のような色が混じっていた。

「悪くない一撃だ。予選の時の動きとは違う。……迷いがない」

初めて、まともな言葉が返ってきた。

俺は痛む体を起こし、口元の血を拭った。

「……お褒めに預かり光栄だよ。だが、まだ終わってないぞ」

俺は短剣を構え直す。

手応えはあった。

無敵じゃない。攻撃は通る。隙もある。

そして何より、相手が「会話」に応じ始めた。

それは、相手が俺を「排除すべきゴミ」から、「戦うべき敵」として認識し始めた証拠だ。

騎士はゆっくりと、背中の鞘から手を離した。

そして、柄に手をかける。

ジャリッ……。

金属が擦れる音。

ついに、剣が抜かれるのか?

俺の緊張がピークに達する。

だが、騎士は剣を抜かなかった。

代わりに、カチャリと音を立てて、腰の留め具を外した。

ドスン!

鞘ごと大剣が地面に落ち、めり込んだ。

武器を捨てた?

「……剣など不要だ」

騎士は素手で構えた。

ボクシングのような、しかしもっと古流の武術のような独特の構え。

「貴様のその目。その覚悟。……敬意を表して、この拳で相手をしよう」

空気が変わった。

先ほどまでの「無」の静寂ではない。

熱を帯びた、ヒリヒリとするような闘争の気配。

騎士の全身から、銀色の闘気が揺らめき立つ。

「来い、クロノス・ナイトレイ。私を超えてみせろ。……その力が本物ならば」

それは、試練の宣告だった。

俺はニヤリと笑った。

望むところだ。

剣だろうが拳だろうが、全部ねじ伏せて、その仮面の下の素顔を拝んでやる。

「ああ。行くぞ、名無しの騎士さん」

静寂は破られた。

ここからは、魂と魂がぶつかり合う、本物の死闘だ。

俺たちの激突は、もはや観客の目には追えない領域に達していた。

ドガガガガガガッ!!

打撃音が連続して響く。

俺の短剣と、騎士の鉄拳(ガントレット)が、火花を散らして交差する。

騎士の拳は重い。一撃必殺の威力がある。

だが、振りが大きいわけではない。コンパクトで、鋭い。

鎧の重量を感じさせない高速のラッシュ。

俺はそれを、短剣で受け流し、あるいは紙一重で躱しながら、カウンターを狙う。

ティランとの特訓が活きている。

重い一撃に対する恐怖心はない。軌道が見えている。

「シッ!」

俺は騎士のストレートを潜り抜け、脇腹に短剣を突き立てる。

ガキンッ!

硬い。鎧の隙間を狙ったはずなのに、見えない膜(闘気の鎧)に阻まれる。

「浅い!」

騎士の膝蹴りが飛んでくる。

俺は腕をクロスさせてガードするが、衝撃で数メートル吹き飛ばされる。

「くっ、防御力が桁違いだ……!」

こちらの攻撃は通じにくく、あちらの攻撃は一撃必殺。

不公平なダメージレース。

だが、俺には数がある。

手札の数が。

【影分身(シャドウ・ドペル)】

俺の影が二つに分かれ、実体を持った分身が生成される。

二人掛かりでの攻撃。

左右から同時に襲いかかる。

「小細工を」

騎士は動じない。

右手の裏拳で分身を粉砕し、左手で本物の俺の短剣を掴み止める。

「捕らえた」

「そっちは囮だ!」

俺は掴まれた短剣を手放した。

そして、懐から取り出したのは――ヴネナンの作った『閃光玉(フラッシュ・バン)』。

カッ!!!!

至近距離での強烈な閃光。

騎士の視界が白く染まる。

バイザー越しでも、これだけの光量なら目は眩むはずだ。

「くっ……!」

騎士が怯んだ。

その一瞬の隙。

俺は背後に回り込み、リゼ直伝の空中殺法へと移行する。

【因果逆転・質量操作】

体を軽くし、騎士の肩に着地する。

そして、両足で騎士の首を挟み込む。

関節技。

首の骨をへし折るか、頸動脈を絞めて落とすか。

「落ちろッ!」

俺は全身全霊の力で締め上げた。

だが、騎士の首は岩のように動かない。

それどころか、騎士は自分の肩に乗った俺ごと、背中から地面に倒れ込んだ。

バックドロップ。

ズドォォンッ!!

俺は自分の背中と地面、そして騎士の体重というサンドイッチの具になった。

背骨が悲鳴を上げる。

呼吸ができない。

「が、ぁ……」

「……チェックメイトだ」

騎士が俺の上に乗ったまま、拳を振り上げた。

トドメの一撃。

避けられない。防げない。

終わったか。

いや、まだだ。

俺にはまだ、使っていないカードがある。

レグルとノクトから学んだ、最後の教え。

『諦めない心』と『隠し玉』。

俺は右手に魔力を集中させた。

短剣はない。素手だ。

だが、俺の手には、見えない刃が握られている。

【因果逆転】による、概念的な刃。

『切断する』という結果のみを抽出した、純粋な魔力の刃。

「――穿てッ!!」

俺は騎士の拳が落ちてくるより早く、その脇腹――鎧の継ぎ目に向けて手刀を突き出した。

ズプッ。

柔らかい感触があった。

鎧を、闘気を、筋肉を貫通した感触。

「……ッ!?」

騎士の動きが止まる。

振り上げられた拳が、空中で静止する。

脇腹から、鮮血が滴り落ち、俺の顔にかかる。

赤い血。

温かい、人間の血だ。

「……見事」

騎士が、掠れた声で呟いた。

そして、糸が切れたように脱力し、俺の上に倒れ込んできた。

重い。

金属の重さと、そして確かな生命の重さ。

静寂が戻ってくる。

俺は荒い息を吐きながら、動かなくなった銀色の騎士を見上げた。

勝った……のか?

その時。

衝撃で破損していた騎士の兜のバイザーが、カシャンと外れ落ちた。

露わになった素顔。

月光のような銀髪。

透き通るような白い肌。

そして、神秘的な紫色の瞳。

整いすぎた、美しい女性の顔立ちだった。

彼女は苦しげに眉を寄せ、しかし、どこか満足げに俺を見つめていた。

「……合格よ。クロノス」

その声は、機械音声ではなく、涼やかな鈴のような声だった。

俺は呆然とその顔を見つめた。

何者だ?

なぜ、俺の名前をそんな風に呼ぶ?

俺の疑問に答える間もなく、会場にアナウンスが響き渡った。

「しょ、勝者! クロノス・ナイトレイ選手ぅぅぅ!!」

大歓声。

だが、俺の耳には届いていなかった。

俺の意識は、腕の中で気を失った、この謎めいた美女に釘付けになっていたのだ。

静寂の処刑人。

その仮面の下に隠されていたのは、予想外の真実と、新たな波乱の予感だった。


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