第19章 紫煙の街と、狂気の実験室(ラボ)
予選Dブロック。
フィールドは「模倣市街地」。
かつて栄えた都市の廃墟を模した、複雑に入り組んだ路地や崩れかけた建物が並ぶステージだ。
遮蔽物が多く、視界が悪い。
正面からの殴り合いを好むティランのようなタイプには不向きだが、罠や奇襲を得意とする者にとっては絶好の狩り場だ。
その廃墟の街角に、一人の女性が立っていた。
『水麻』のリーダー、ヴネナン。
彼女はいつものように妖艶な笑みを浮かべ、トレードマークの白衣を風になびかせている。
手には試験管を持ち、中の液体をチャプチャプと揺らしている姿は、戦場に迷い込んだ学者のようだ。
「あらぁ、素敵な場所ねぇ。隠れる場所がいっぱい。……実験にはおあつらえ向きだわ」
彼女は余裕たっぷりに呟いた。
だが、その内心は、言葉とは裏腹に激しく波打っていた。
(……怖い)
彼女の手が、微かに震えている。
ヴネナンは、基本的に「後方支援」の専門家だ。
毒を作り、薬を調合し、情報を分析し、傷ついた仲間を治療する。それが彼女の役割であり、誇りだった。
最前線で剣を交えるのはティランやノクトの役目。彼女が直接手を下すのは、弱った敵にトドメを刺す時か、暗殺(寝込みを襲うなど)の時だけ。
こうして真っ昼間に、大勢の敵に囲まれて単独で戦うのは、彼女の人生で初めての経験だった。
(私にできるかしら? ティランちゃんみたいに強くないし、リゼちゃんみたいに速くない。もし負けたら? 坊っちゃまに泥を塗ることになったら?)
不安が黒い霧のように心を覆う。
観客席を見上げる。
そこには、心配そうにこちらを見つめるクロノスの姿があった。
目が合う。
彼は優しく微笑み、口パクでこう言った。
『大丈夫。お前ならできる』
その言葉が、震える心に染み渡る。
あの日、爆発した研究室で交わした約束。
『最強のドーピング薬を作って、勝たせてあげる』と言った自分に対し、彼は『期待している』と言ってくれた。
その信頼に応えなくてどうする。私は彼の専属医であり、最強の矛(の素材を作る者)なのだから。
「……ふぅ」
ヴネナンは深く息を吐き、眼鏡の位置を直した。
迷いは消えた。あるのは、科学者としての冷徹な計算と、恋する乙女の情熱だけ。
「見てて下さいね、坊っちゃま。私の『愛』がどれだけ深く、そして……毒々しいかを」
彼女はゆっくりと、羽織っていた白衣のボタンを外した。
これは彼女の「研究者」としての殻だ。安全圏から観察する者の象徴だ。
それを、今ここで捨てる。
バサリ。
白衣が地面に落ちた。
露わになったのは、身体のラインを強調するスリットの深いチャイナドレス。太腿にはホルスターが巻かれ、無数のメスと薬瓶が収納されている。
それは、彼女が「戦士」としての本性を晒した瞬間だった。
ゴーン、ゴーン、ゴーン……。
開始の鐘が鳴り響く。
ヴネナンは懐から一本のアンプルを取り出し、首筋に注射した。
プシュッ。
圧縮空気が薬液を血管に送り込む。
クロノスとの実験で完成させた、身体能力強化薬『レッド・ブースト・改』。
ドクンッ!!
心臓が早鐘を打つ。血管が浮き上がり、筋肉が収縮する。
視界が赤く染まり、世界がスローモーションになる。
思考速度が加速し、恐怖心が化学的に遮断される。
コツン、コツン。
ヴネナンはヒールの踵を地面に打ち付けた。
リズムを取るように。
そして、妖艶に唇を舐めた。
「さあ、実験開始よぉ♡」
市街地に潜んでいた参加者たちが、一斉に動き出した。
ここDブロックには、素早さと隠密性を重視した暗殺者や、トリッキーな魔法使いが多く集められている。
その多くは女性だ。この国において、戦場に立つのは女の特権だからだ。
彼女らは白衣を脱いだヴネナンを「無防備な女」……いや、「目立ちたがり屋のいいカモ」と見なし、四方八方から襲いかかってきた。
「頂いたッ! その首、私の手柄よ!」
路地裏から飛び出したのは、双剣を操る女戦士だった。
速い。風を纏うような加速で、ヴネナンの背後を取る。
刃が彼女の細い首に迫る。
だが。
「……失礼」
ヴネナンの姿が揺らいだ。
女戦士の刃が空を切る。
気づいた時には、彼女は女戦士の懐に滑り込んでいた。
まるでダンスのパートナーのように密着し、耳元で囁く。
「ごきげんよう。……さようなら」
すれ違いざま、ヴネナンの指先が女戦士の首筋を撫でた。
ただ、撫でただけ。
傷一つない。血も出ていない。
「は……?」
女戦士は何が起きたのか分からず、振り返ろうとした。
だが、体が動かない。
視界が暗転する。手足の感覚が消える。
ドサッ。
糸が切れた人形のように、女戦士は地面に崩れ落ちた。
「な、何をした!?」
周囲で見ていた敵たちがどよめく。
ヴネナンは人差し指についた透明な液体をペロリと舐めた。
「『神経遮断毒』。皮膚から浸透して、脳からの電気信号をカットするの。痛みもなく、意識だけを闇に落とす……慈悲深い毒よぉ」
彼女は微笑みながら、次の獲物へと歩き出した。
その歩調は優雅で、戦場を散歩しているかのようだ。
「囲め! 毒使いだ! 近づくな!」
「遠距離から魔法で焼き殺せ!」
敵は警戒し、距離を取って魔法の詠唱を始めた。
炎の矢、氷の礫、雷撃。
数十発の攻撃魔法がヴネナンに集中する。
「ふぅ。ごめん遊ばせ」
ヴネナンはスカートをひらりと翻し、踊るように回転した。
その遠心力で、ドレスの裾から無数の粉末が散布される。
【中和散布】
キラキラと光る粉末が空中に舞う。
それが魔法の弾幕と接触した瞬間、ジュッという音と共に、炎も氷も雷も、全てが中和されて消滅した。
魔力を分解する特殊な粉塵。
「なッ……魔法が消えた!?」
「今よぉ」
敵が動揺した隙を見逃さず、ヴネナンは両手から無数のメスを投擲した。
シュシュシュシュッ!!
正確無比なコントロール。
メスは敵の喉、手首、足首――血管が浮き出る急所のみを貫く。
「ぎゃあぁぁぁッ!?」
「あ、熱い! 傷口が焼けるようだ!」
メスには『火傷毒』が塗られている。
傷口から侵入した毒が、血液を沸騰させるような激痛を与える。
致死性はないが、戦闘続行は不可能だ。
「あらあら、元気な悲鳴。肺活量は十分ねぇ」
ヴネナンは倒れ伏す女たちの間を縫うように歩く。
時折、苦しむ敵の顔を覗き込み、瞳孔の開き具合を確認したり、脈を測ったりしている。
完全に、実験を楽しんでいる。
「……化け物よ……」
「逃げろ! あの女に関わるな!」
恐怖が伝染する。
敵は戦意を喪失し、我先にと逃げ出した。
だが、この会場は「模倣市街地」。入り組んだ路地は迷路のようだ。
そして、その空気中には、いつの間にか甘い香りが充満していた。
「逃がさないわよぉ? ここは私の『無菌室(オペ室)』なんだから」
ヴネナンが指を鳴らすと、逃げた敵たちが次々と膝をつき、昏倒していく。
遅効性の睡眠ガス。
戦闘開始直後に散布しておいたものが、今になって効果を発揮したのだ。
気づけば、彼女の周囲には動く者はいなくなっていた。
静寂。
死屍累々の山。
「ふぅ。……意外と簡単ねぇ」
ヴネナンは汗を拭い、乱れた髪を直した。
勝てる。
私でも、戦える。
彼女の中に自信が芽生え始めた、その時だった。
「――油断したな、アマ」
背後から、しわがれた女の声がした。
殺気を感じる間もなかった。
ヴネナンが振り返ろうとした瞬間、彼女の視界が斜めにずれた。
ザシュッ!!
鮮血が舞う。
ヴネナンの背中から胸にかけて、鋭利な刃が貫通した。
赤い血がドレスを染め、口から血の泡が溢れる。
「――が、はッ……!?」
彼女はその場に崩れ落ちた。
背後に立っていたのは、小柄な女だった。
道化師のような派手な衣装を着て、両手には不気味な大鎌を持っている。
顔半分を仮面で隠しているが、その口元は三日月形に裂け、狂ったような笑みを浮かべている。
彼女の名は『ジェスター』。帝国の指名手配犯であり、快楽殺人鬼だ。
「ヒャハハハ! 毒使いが背中ガラ空きだぜぇ! 傑作だ!」
ジェスターは鎌を引き抜き、血についた刃を舐めた。
「毒見だ。……ん~、鉄の味! 最高!」
ヴネナンはピクリとも動かない。
即死だ。心臓を一突きされている。
「ヴネナンッ!?」
観客席のクロノスが叫んだ。
レグルが悲鳴を上げ、ティランが手すりを握りつぶす。
まさか。
あの慎重なヴネナンが、こんなあっけなく?
「……ふん。口ほどにもねぇな」
ジェスターは、ヴネナンの死体を蹴り飛ばそうと足を上げた。
その足が、死体をすり抜けた。
「……あ?」
ジェスターが動きを止める。
足がすり抜けた? 幻覚?
次の瞬間、床に倒れていたヴネナンの体が、紫色の煙となって霧散した。
「な、なんだコリャ!?」
ジェスターが慌てて周囲を見回す。
煙の向こう、路地の影に、人影が立っていた。
傷一つない、無傷のヴネナンだ。
「……『幻惑香』。
吸い込んだ人間に、術者の望む幻覚を見せるお香よぉ」
ヴネナンは冷ややかに告げた。
彼女は最初から、そこにいたのだ。
斬られたのは煙で作ったデコイ。ジェスターはずっと、幻影と戦っていたことになる。
「チッ、小賢しいマネを!」
ジェスターは舌打ちし、再び鎌を構えた。
だが、ヴネナンの目は笑っていなかった。
彼女の視線は、ジェスターの足元に向けられていた。
そこには、一人の男性が転がされていた。
ボロボロの服を着た、痩せこけた少年だ。
首には太い鎖が巻かれ、その端をジェスターが握っている。
少年は全身傷だらけで、意識も朦朧としている。もう長くはないだろう。
「……その子は?」
「あぁ、こいつか? ドラゴニア帝国に『勝てば解放してやる』って言われて参加させられた、哀れな奴隷さ。ま、俺にとってはただの『盾』だけどな」
ジェスターは鎖を強く引いた。
少年が呻き声を上げて引きずられる。
ジェスターは少年を抱き上げ、自分の前に突き出した。
「さあ、撃ってきな! 毒でもメスでも!
こいつが全部受け止めてくれるぜぇ! ヒャハハハ!」
人間の盾。
それも、抵抗できない弱者を。
ヴネナンの表情から、感情が消えた。
彼女はマッドサイエンティストだ。人体実験もするし、毒も使う。倫理観は欠如しているかもしれない。
だが、彼女には絶対に譲れない一線がある。
それは、「愛する者と同質の存在=男性」を、理不尽な暴力で虐げることだ。
彼女が実験台にするのは、罪を犯した者だけ。
罪なき弱者を盾にするなど、彼女の美学に反する。いや、生理的に許せない。
「……貴女、最低ねぇ」
ヴネナンの声が、絶対零度まで下がった。
彼女の周囲の空気が、ピリピリと震えだす。
「あら、褒め言葉として受け取っておくよ。 勝てばいいんだよ、勝てば! スカーレット様もおっしゃっていたさ、弱者は強者のためにあるってな! さあどうする? 攻撃すればこいつが死ぬぞ? 見捨てるか? それとも降参するか?」
ジェスターは少年を盾にしながら、ジリジリと間合いを詰めてくる。
卑劣極まりない戦法。
だが、有効だ。ヴネナンは攻撃できない。
「……助けて……」
少年が、か細い声で呟いた。
その声を聞いた瞬間。
ヴネナンの脳裏に、かつて自分を救ってくれたクロノスの姿が重なった。
絶望の淵にいた自分に手を差し伸べてくれた、あの日の少年。
(……許さない)
ブチッ。
ヴネナンの中で、何かが切れた音がした。
「……そろそろ、仕上げといきましょうか」
彼女は懐から、一つの瓶を取り出した。
それは、毒薬ではない。
赤と青の液体が二層に分かれ、不気味に発光している瓶。
先日、城の研究室を半壊させた、あの失敗作。
『爆縮反応液』。
「な、なんだそれは? 毒か? 効かねぇぞ、こいつが盾に……」
「盾? 関係ないわ」
ヴネナンは冷たく言い放つと、その瓶を空高く放り投げた。
ジェスターの頭上へ。
「上!?」
ジェスターがつられて空を見上げる。
瓶が放物線を描き、落下の頂点に達した瞬間。
「――弾けなさい」
ヴネナンが指を鳴らした。
魔力干渉。瓶の封印が解ける。
二つの液体が混ざり合い、臨界点を突破する。
カッ!!!!
強烈な閃光が炸裂した。
だが、それは爆発ではない。
爆縮。
周囲の空気を一瞬で真空状態にし、内側に向かって空間ごと押しつぶす現象。
ズウゥゥゥンッ……!!
音のない衝撃波。
ジェスターの鼓膜が破れ、平衡感覚が失われる。
盾にされていた少年は、気圧差で気絶したが、爆風の直撃は受けていない。ヴネナンが爆心を精密にコントロールしたのだ。
だが、ジェスターは違う。
彼女は真空の中心にいた。
「ぎ、ぁ……!?」
肺の中の空気が強制的に抜かれ、眼球が飛び出しそうになる。
全身の血管が膨張し、激痛が走る。
意識が飛びかけたその時、彼女は見た。
煙を切り裂いて突っ込んでくる、白衣を捨てた悪魔の姿を。
ヴネナンはヒールで地面を蹴り、一気に距離を詰めていた。
手には、長めのメスが握られている。
「坊っちゃま以外の男を傷つける女は……消毒よッ!!」
ザシュッ!!!!
メスが閃いた。
ジェスターの仮面が割れ、その下の素顔に深い傷が刻まれる。
さらに、手首、足首の腱を正確に切断。
武器を持つことも、逃げることもできないように。
「ギャアアアアアッ!!」
ジェスターが絶叫し、地面に転がる。
ヴネナンは倒れた彼女の胸を踏みつけ、見下ろした。
その瞳は、冷たく、そして美しかった。
「……痛みを知りなさい。彼らが味わった痛みを」
彼女は懐から紫色の粉末を取り出し、ジェスターの傷口に振りかけた。
激痛を100倍に増幅する粉末だ。
「ひぃぃぃッ! ごめんなさい! 許してぇぇ!」
「反省の時間よ。たっぷりと味わってね」
ヴネナンはもう彼女に興味を示さず、倒れている少年の元へ駆け寄った。
ジェスターの断末魔のような悲鳴が響き渡る中、彼女は少年を抱き上げた。
「……大丈夫? 今、楽にしてあげるからね」
少年は薄く目を開けた。
全身の骨が折れ、内臓も破裂している。
ヴネナンの目には分かった。
もう、助からない。どんな魔法を使っても、命の灯火は消えかけている。
「……ありがとう……お姉さん……」
少年は血の混じった息で、微かに微笑んだ。
「……強くて……綺麗だ……」
その言葉を最後に、少年の手が力なく落ちた。
事切れたのだ。
「…………ッ」
ヴネナンは唇を噛み締めた。
助けられなかった。
勝ったけれど、守れなかった。
彼女は少年の瞼をそっと閉じ、静かに立ち上がった。
ゴーン、ゴーン、ゴーン……。
終了のゴングが鳴り響く。
フィールドの中央。
煙が晴れた後に立っていたのは、亡骸を抱いたヴネナン一人だった。
「勝者、ヴネナン選手ぅぅぅ!!」
試合終了後。
控え室に戻ったヴネナンを待っていたのは、沈黙だった。
彼女は少年の遺体を医療班に預け、血に汚れたドレスのまま戻ってきたのだ。
少し気まずそうに、ドアの前で立ち尽くす。
やりすぎただろうか。最後は感情的になってしまった。助けられなかった。
クロノスに失望されたかもしれない。
「……ただいま戻りましたぁ」
恐る恐る中に入ると、次の瞬間。
バシッ!!
乾いた音が響いた。
ヴネナンの頬が、横に弾かれた。
叩かれたのだ。
「え……?」
ヴネナンが驚いて顔を上げると、そこにはレグルが立っていた。
彼女の手は震え、その瞳からはボロボロと涙が溢れていた。
「……っ、馬鹿! 大馬鹿者です!」
「レ、レグルちゃん……?」
「斬られたと思ったじゃないですか! 死んだと思ったじゃないですか!心臓が止まるかと思いましたよ! もう……もう……っ!」
レグルは泣き崩れ、そのままヴネナンに抱きついた。
強く、痛いほど強く。
普段は冷静な彼女が、子供のように泣きじゃくっている。
それだけ、あの幻影の「死」がリアルで、ショッキングだったのだ。仲間を失う恐怖に、彼女は耐えられなかったのだ。
「……ごめんね。心配かけて」
ヴネナンは苦笑し、レグルの背中をポンポンと叩いた。
彼女もまた、震えていた。
怖かったのだ。初めての最前線。孤独な戦い。そして、目の前で消えた命。
レグルの体温が、彼女の緊張と悲しみを溶かしていく。
「無事でよかったです……本当によかったです……」
「……私も、心配した」
ノクトも近づいてきて、無言でヴネナンの服の裾を握った。
ティランが鼻をすすりながら、親指を立てる。
リゼが「すごかったですぅ!」と泣きながら飛びついてくる。
そして。
人垣の向こうから、クロノスが歩いてきた。
彼は優しい瞳でヴネナンを見つめ、そっと頬(叩かれた方)に手を添えた。
「……痛かったか?」
「いいえ。……愛の鞭ですわ」
「そうか。……よくやったな、ヴネナン」
クロノスは彼女の頭を撫でた。
「お前はもう、サポート役なんかじゃない。立派な戦士だ。
あの少年を救おうとした判断も、最後の切り返しも……完璧だった」
「……でも、助けられませんでした」
「ああ。だが、お前は彼の無念を晴らした。彼の最期に、温もりを与えた。
それは、お前にしかできなかったことだ」
その言葉を聞いた瞬間、ヴネナンの中で張り詰めていた糸が切れた。
目頭が熱くなる。
「……勝ちましたよ、坊っちゃま」
「ああ。見ていたよ」
「私……役に立ちましたか?」
「役になんて言葉じゃ足りない。お前は俺の誇りだ」
ヴネナンは涙を流しながら、満面の笑みを浮かべた。
マッドサイエンティストの仮面の下にある、一人の恋する乙女の顔。
「……ご褒美、期待してますからね?」
「考えておくよ」
クロノスたちに囲まれ、ヴネナンは幸せそうに笑った。
彼女の戦いは終わった。
勝利の喜びと、少しの苦味を抱えて。
そして、物語は次なるステージへと進む。
残る予選はあと二つ。
最強の布陣で挑むナイトレイ家の快進撃は、まだ止まらない。
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