表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺貴族の溺愛ハーレム ~「守られる弱い男」を演じていたら、最強の女たちが忠誠を誓って離れません~  作者: 藤風大地
第2部 竜の女王と、恋の最終戦争(ラグナロク)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/24

第18章 灼熱の処刑台と、模倣された最強

予選Cブロック。

そのフィールドが公開された瞬間、会場からどよめきが上がった。

そこは、この世の地獄を再現したかのような灼熱の世界だった。

地面の至る所から溶岩が噴き出し、赤い川となって流れている。

立っているだけで靴底が溶け出しそうな高熱。空気は乾燥しきっており、呼吸をするたびに肺が焼けるようだ。

焦熱地獄インフェルノ』。

それが、このステージの名前だった。

「ギャハハハ! こりゃあいい! 最高の舞台じゃねぇか!」

その地獄の中心で、豪快に笑う女がいた。

ナイトレイ家最強の戦士、ティランだ。

彼女は身の丈ほどもある巨大なバスターソードを、豆腐に箸を突き立てるように軽々と岩盤に突き刺すと、無造作にストレッチを始めた。

「んん~っ! やっぱ暑いトコは体がほぐれるなぁ!」

彼女の露出度の高い戦闘服ビキニアーマーとホットパンツは、この環境下では理にかなっているように見えるが、普通の人間なら火傷では済まない。

だが、彼女の肌は汗一つかいていない。

むしろ、周囲の熱気をエネルギーとして吸収しているかのように、赤く艶やかに輝いている。

対する参加者たちは、悲惨だった。

このCブロックには、スカーレット・ドラゴニア直属の精鋭部隊『竜牙兵団』のメンバーが多く配属されていた。

彼らは耐火魔法のかかった重装備に身を包んでいるが、それでも暑さに喘ぎ、動きが鈍っている。

「おい見ろよ、あの女。今さら準備運動かよ」

「余裕ぶってんじゃねぇぞ。どうせ暑さで頭がイカれたんだろ」

「まずはあいつから血祭りにあげてやる。あの露出狂をミンチにしろ!」

竜牙兵団の男たちが、嘲笑と共に武器を構える。

彼らは知らない。

目の前の女が、ただの露出狂ではなく、このマグマよりも熱く、危険な活火山であることを。

ティランは屈伸をし、肩を回し、最後に首をコキリと鳴らした。

「……ふぅー」

深く、長く息を吐く。

その瞬間。

ドォォォォォンッ!!!!

彼女の足元の地面が爆発した。

いや、爆発ではない。

彼女の体内から放出された「闘気」が、物理的な衝撃波となって周囲を薙ぎ払ったのだ。

マグマが逆流し、空気がねじ切れる。

「な、なんだッ!?」

「地震か!?」

嘲笑っていた男たちが、尻餅をついて狼狽える。

ティランはゆっくりと顔を上げた。

その瞳は、紅蓮の炎のように燃え盛っていた。

「さぁ、ろうか。トカゲども」

彼女が岩盤からバスターソードを引き抜く。

ズズズズズ……ッ!

岩が砕ける音が、まるで怪物の唸り声のように響いた。

「俺の準備運動に付き合ってくれてありがとな。

お礼に、痛みを感じる暇もなく蒸発させてやるよ」

戦闘開始のゴングは、もはや聞こえなかった。

ティランの咆哮が、全てを塗り潰したからだ。

「死ねェエエ!!」

竜牙兵団の戦士たちが、一斉に襲いかかってきた。

数にして五十人。

全員がAランク冒険者に匹敵する実力者であり、連携も取れている。

魔法使いが氷の槍を放ち、重戦士が盾で押し込み、槍使いが隙間から突きを繰り出す。

完璧な布陣。

だが、ティランには関係なかった。

「邪魔だッ!!」

ブンッ!!

ティランが大剣を一振りした。

ただの横薙ぎ。

だが、その質量と速度が生み出す運動エネルギーは、竜巻に匹敵する。

「ぐわぁぁぁッ!?」

「盾ごとッ!?」

前衛の重戦士たちが、盾も鎧も粉砕されて吹き飛んだ。

人間が木の葉のように舞う。

さらに、剣圧によって発生した真空波ソニックブームが、後衛の魔法使いたちを襲う。

「ひぃっ! 結界が割れ……!」

魔法障壁がガラスのように砕け散り、彼らは壁まで吹き飛ばされて気絶した。

一撃。

たった一振りで、十数人が戦闘不能になった。

「ははっ! どうしたどうした! ドラゴニアの精鋭ってのはその程度かよ!」

ティランは笑いながら戦場を駆ける。

その足取りは、巨大な剣を持っているとは思えないほど軽い。

溶岩の上を飛び石のように渡り、敵の集団に飛び込む。

「囲め! 動きを止めろ!」

「網を撃て!」

敵が捕獲用のミスリル製の網を射出する。

だが、ティランは避けない。

網が彼女に絡みつく――その瞬間、彼女の全身から炎が噴き出した。

ボウッ!!

闘気燃焼オーラ・バーン

ミスリルの網が、一瞬で溶けて赤熱した鉄屑となる。

ティランは灼熱の蒸気を纏い、鬼神の如く敵陣を蹂躙する。

「熱い! 熱いッ!」

「近づけねぇ! 鎧が溶ける!」

敵は恐怖にパニックを起こす。

ティランの大剣が振るわれるたびに、誰かが空を飛び、誰かが地面にめり込む。

斬るのではない。叩き潰す。

圧倒的な質量による暴力。

「オラオラオラァ! 坊主との特訓に比べれば、テメェらの攻撃なんて止まって見えるぜ!」

ティランは叫びながら、襲い来る槍を素手で掴み、へし折った。

クロノスとの修行。

スキルのない状態で、彼の神速の動きに対応し続けた日々。

あれに比べれば、こいつらの動きはあまりにも遅く、そして軽い。

調子に乗ったティランは、さらに速度を上げて大剣を振り回した。

遠心力を最大に乗せ、敵の集団を薙ぎ払おうとした、その時だった。

ズルッ。

手のひらの感触が滑った。

灼熱のマグマ地帯。全身から噴き出る汗が、柄を握る手の摩擦を奪っていたのだ。

「――あ」

ティランの手から、巨大なバスターソードがすっぽ抜けた。

ヒュンッ!!

主を失った凶器は、回転しながら空の彼方へと飛んでいき、遠くの岩山にズドン! と突き刺さった。

「…………」

戦場に、一瞬の静寂が訪れた。

ティランは自分の空っぽの手を見つめ、敵の兵士たちは空を見上げた。

「……わりぃ。手汗ですべった」

ティランがテヘへと頭を掻く。

その隙を、敵が見逃すはずがなかった。

「い、今だァァァッ!!」

「武器を失ったぞ! 丸腰だ!」

「殺せぇぇぇ!!」

竜牙兵団の男たちが、好機とばかりに殺到する。

剣、槍、斧。あらゆる刃が、無防備なティランに降り注ぐ。

「ちっ、うぜぇな」

ティランは面倒くさそうに呟くと、迫りくる槍の穂先を素手で掴んだ。

ガシッ!

そして、そのまま強引に引っ張り、槍使いの体勢を崩すと、がら空きの腹部に拳を叩き込んだ。

ドゴォォォンッ!!

「がはっ……!?」

槍使いはくの字に折れ曲がり、後続の味方を巻き込みながら吹き飛んだ。

ティランは奪った槍をバトンのように回し、別の兵士の頭蓋を柄で砕く。

「武器なんざ、飾りだよ! 俺の拳が最強の武器だ!」

彼女は笑いながら敵陣を突破し、岩山に刺さった自分の大剣へと歩き出した。

誰も止められない。

斬りかかれば拳で砕かれ、魔法を撃てば熱気で蒸発させられる。

彼女は悠々と大剣の元へたどり着き、引き抜いた。

「よっと。……やっぱこいつが一番しっくりくるな」

彼女は服で柄の汗を拭うと、再び構え直した。

「さて、休憩は終わりだ。……消えなッ!」

ティランは大剣を風車のように回転させ、周囲の敵を一掃した。

つむじ風が発生し、マグマを巻き上げて炎の竜巻となる。

残っていた兵士たちは、悲鳴を上げる間もなく巻き込まれ、場外へと弾き飛ばされた。

「……ふぅ」

ティランは大剣を肩に担ぎ、周囲を見渡した。

立っている者はいない。

フィールドは瓦礫の山と化し、マグマの池が増えていた。

「こんなところかなー。準備運動にもなりゃしねぇ」

彼女は少し退屈そうにあくびをした。

気が抜けた瞬間。

それこそが、戦場において最も危険な瞬間であることを、彼女は知っていたはずだった。

だが、あまりの戦力差に、慢心が生じていたのかもしれない。

ゾクリ。

背筋に冷たいものが走った。

殺気ではない。

もっと鋭く、研ぎ澄まされた「死」の予感。

「――ッ!?」

ティランは反射的に身を捻った。


ヒュンッ!!

漆黒の閃光が、彼女の首があった空間を切り裂いた。

数本の赤い髪が、ハラリと落ちる。

もし反応がコンマ一秒遅れていたら、首が落ちていた。

「あっぶねぇ……!」

ティランはバックステップで距離を取り、大剣を構え直した。

冷や汗が頬を伝う。

背後に誰かがいた。

気配遮断? いや、違う。

今の今まで、そこに「存在」していなかったかのような唐突さ。

「……ここは戦場だ。気を抜くだなんて、大した度胸だな」

マグマの湯気の中から、一人の騎士がゆらりと姿を現した。

全身を漆黒の鎧で覆っている。

手には、刀身が波打つ奇妙な形の長剣フランベルジュが握られている。

その鎧の胸元には、ドラゴニア帝国の紋章とは違う、不気味な髑髏の刻印があった。

「あぁ? 誰だテメェ。卑怯な真似しやがって。挨拶もなしか?」

ティランが睨みつける。

騎士は動じない。フルフェイスの兜の奥から、無機質な、しかし凛とした女の声が響く。

「名は不要。死人に名乗る必要はない。……私は『掃除屋』。陛下スカーレットの命により、予選のゴミ掃除を任されている」

「掃除屋だと? 偉そうに……。ゴミはお前の方だろ」

ティランは鼻を鳴らしたが、内心では警戒レベルを最大まで引き上げていた。

こいつは、さっきまでの雑魚とは違う。

構えに隙がない。魔力の揺らぎもない。

そして何より、その立ち姿。

重厚な鎧を着ているにも関わらず、女性特有のしなやかさと、底知れぬ強者の風格が漂っている。

「……やっと、やりあえる奴が出てきたな」

ティランの唇が吊り上がる。

恐怖よりも先に、闘争本能が湧き上がる。

彼女は獰猛に笑い、地面を蹴った。

ガギィィィィンッ!!

二つの剣が激突し、火花が散った。

ティランのバスターソードと、女騎士のフランベルジュ。

重量差は倍以上あるはずだが、女騎士は片手でティランの剛撃を受け止めていた。

「重いな。……だが、単調だ」

女騎士が手首を返すと、フランベルジュが蛇のようにしなり、ティランの大剣を絡め取って逸らした。

受け流し(パリー)。

体勢を崩されたティランの懐に、女騎士の鋭い蹴りが突き刺さる。

「ぐっ……!?」

ティランは腹部に衝撃を受け、数メートル後退した。

だが、すぐに踏みとどまり、追撃の突きを大剣の腹で弾く。

「へっ、やるじゃねぇか! 芸達者だな!」

「……無駄口が多い」

女騎士は流れるような剣舞で攻め立ててくる。

突き、払い、斬撃。

その軌道は変幻自在で、しかも一撃一撃が重い。魔法で身体強化をしているのだろうが、それ以上に技術スキルが高い。

カカカカカッ!!

刃と刃がぶつかる音が、途切れることなく響く。

互角。

いや、手数では女騎士が勝っている。ティランは大剣の重量ゆえに、どうしても初速で遅れを取る。

(チッ、こいつ……慣れてやがる。対大剣の戦い方を熟知してやがるな)

ティランは舌打ちした。

女騎士は正面からは打ち合わず、常にティランの死角へと回り込み、大剣の振りが遅くなる瞬間を狙ってカウンターを入れてくる。

狡猾で、冷徹な戦闘スタイル。

「ハァッ、ハァッ……!」

数分後。

ティランの呼吸が乱れ始めた。

体力の消耗ではない。マグマの熱気と、張り詰めた集中力の消耗だ。

女騎士の方は、息一つ乱していない。不気味なほどタフだ。

「終わりか? 『火怒』の二つ名も、聞いていたほどではないな」

女騎士が挑発する。

ティランの体に、浅い切り傷が増えていく。

「……うるせぇよ」

ティランは汗を拭い、大剣をだらりと下げた。

諦めたわけではない。

彼女の脳裏に、ある光景が蘇っていた。

――クロノスとの手合わせ。

泥まみれになりながら、自分に向かってきた少年。

彼は力では劣っていた。スピードでも劣っていた。

だが、彼は勝った。

なぜか?

それは、彼が「自分の限界」を知り、その上で「限界を超えるための工夫スキル」を持っていたからだ。

(坊主は言ってたな。『力任せじゃ勝てない相手がいる。そういう時は、ルールを書き換えろ』って)

ティランは目を閉じた。

この一ヶ月。

彼女はただクロノスを鍛えていたわけではない。

彼女もまた、クロノスを見ていた。

彼の動き、彼の魔力操作、彼が使う『因果逆転』や『身体超強化』の波動。

それを一番近くで、肌で感じてきた。

天才的な戦闘センスを持つ彼女が、それを見逃すはずがない。

盗めるものは、全て盗む。

それが、最強を目指す者の貪欲さだ。

「……どれ、試しにやってみるか」

ティランは呟き、大きく深呼吸をした。

体内の魔力回路を開く。

普段なら、炎の魔力を外に放出する(爆発させる)使い方しかしない。

だが今は違う。

魔力を内側に。筋肉の繊維一本一本に浸透させ、圧縮し、爆発の予兆を封じ込める。

イメージするのは、クロノスの背中。

あの細い体から放たれる、信じられないほどの爆発力。

ティランの全身から、赤い蒸気が噴き出した。

筋肉が異常に膨張し、血管が蛇のように浮き上がる。

鎧が軋み、地面が重圧でひび割れる。

女騎士が、初めて後ずさった。

本能的な恐怖。目の前の女が、別の「ナニカ」に変貌しようとしている気配。

ティランはカッと目を見開き、低く、重く告げた。

「――【身体強化・暴走オーバードライブ】」

ドォンッ!!!!

音が置き去りにされた。

ティランの姿が消えた。

女騎士が反応する間もなく、彼女の眼前に巨大な影が迫っていた。

「なッ――!?」

速い。

さっきまでの動きとは次元が違う。

大剣を担いでいるとは思えない、獣のような瞬発力。

「遅ぇよ!!」

ティランの大剣が、横薙ぎに閃いた。

女騎士は咄嗟にフランベルジュでガードする。

だが、それは悪手だった。

受け止められる威力ではない。

ガギィィィィィンッ!!!!

金属が悲鳴を上げる音と共に、女騎士のフランベルジュが真ん中からへし折れた。

そのまま大剣は止まらず、女騎士の胴体を鎧ごと強打する。

「きゃぁぁっ……!?」

女騎士は悲鳴を上げ、砲弾のように吹き飛ばされた。

闘技場の壁に激突し、さらに壁を貫通して観客席の土台にめり込む。

会場が静まり返った。

何が起きたのか、誰も理解できなかった。

ただ一人、VIP席で見ていたクロノスを除いて。

「……おいおい、マジかよ」

クロノスは身を乗り出し、驚愕の表情を浮かべていた。

「あれは……俺の『身体超強化オーバー・ブースト』か?

いや、違う。原理は似ているが、もっと荒々しい。魔力を循環させるんじゃなく、体内で爆発させ続けて、その推進力で動いているのか……?」

クロノスの分析通りだった。

ティランの『オーバードライブ』は、クロノスのスキルの完全なコピーではない。

彼の繊細な魔力操作は、大雑把な彼女には真似できない。

だから彼女は、自分流にアレンジしたのだ。

「魔力を筋肉の中で爆発させる」という、一歩間違えれば自爆しかねない荒技に。

まさに、彼女らしい「力技の模倣」。

「……っぐぅ、ぅぅ……!」

瓦礫の中から、女騎士がよろめきながら出てきた。

漆黒の鎧はひしゃげ、兜は割れ、中から金色の長い髪がこぼれ落ちている。

端正な顔立ちだが、口元からは血が滴っている。

タフだ。普通なら即死している威力だが、まだ立っている。

「ば、馬鹿な……。貴様のステータスに、あんな速度は……」

「ステータス? そんなもん、飾りだろ」

ティランは肩で息をしながら、ニヤリと笑った。

全身から赤い蒸気を噴き上げている。体への負担は凄まじいはずだが、彼女の顔には「最高に楽しい」と書いてある。

「坊主は言ってたぜ。『限界なんてのは、脳が勝手に決めたリミッターだ』ってな。

だったら、外しゃいいんだよ。壊れる覚悟でな!」

ティランが再び構える。

大剣が紅蓮の炎を纏う。今度は魔力放出も上乗せだ。

全力全開。

「これで終わりだ! 消し飛びなッ!」

ティランが跳躍した。

遥か上空からの、落下斬り。

女騎士は動けない。恐怖で足がすくんでいる。

「――爆砕・紅蓮剣プロミネンス・バスター!!」

ズドオオオオオオオオオンッ!!!!

闘技場の中央に、小型の太陽が落ちたかのような大爆発が起きた。

マグマが吹き飛び、岩盤が溶解する。

衝撃波が観客席まで届き、悲鳴が上がる。

やがて、煙が晴れると。

そこには、巨大なクレーターの中心で、大剣を突き立てて立つティランの姿があった。

女騎士の姿はない。

砕け散った黒い鎧の破片と、燃え尽きた灰が残るのみ。

「……ふぅ。ちっとやりすぎたか?」

ティランは首を回し、バキバキと音を鳴らした。

そして、静かに片腕を天に突き上げた。

勝利の宣言。

「勝者、ティラン選手ぅぅぅ!!」

アナウンスが響き渡り、会場が揺れるほどの大歓声に包まれた。

圧倒的な力。カリスマ性。

観客たちは、新たな英雄バーサーカーの誕生に酔いしれた。

試合後。

控え室に戻ったティランを、仲間たちが迎えた。

「お帰りなさい、ティラン! すごかったですっ! あの爆発、かっこよすぎですっ!」

「あらあら、随分と派手にやったわねぇ。私の治療費が高くつくわよぉ?」

「……筋肉断裂、骨にヒビ。無茶のしすぎ」

リゼたちが駆け寄る中、ティランは真っ先にクロノスの元へ歩み寄った。

そして、ニカっと笑ってVサインをした。

「どうよ坊主! 見たか、俺の『オーバードライブ』!」

「ああ、見たよ。……正直、度肝を抜かれた」

クロノスは苦笑しながら、ティランにタオルを渡した。

「いつの間にあんな技を覚えたんだ? 俺は教えた覚えはないぞ」

「へへっ、この一ヶ月、間近でお前の動きを見てたからな。お前が体の中で魔力をどう回してるか、どうやって限界を超えてるか……肌で感じて、盗ませてもらった」

ティランは悪びれもせずに言う。

「ま、お前の繊細なスキルとは違って、俺のはただの『自爆スレスレの暴走』だけどな。……どうだ? 合格点か?」

彼女は少し不安げに、上目遣いでクロノスを見た。

師匠として、弟子であるクロノスに認められたい。その想いが透けて見える。

クロノスは優しく微笑み、ティランの頭に手を置いた。

「充分すぎるよ。俺のスキルを模倣して、自分のものにするなんて……。さすが、俺の師匠だ」

「……っ!」

ティランの顔が、髪の色と同じくらい真っ赤になった。

彼女は照れ隠しに、バシッとクロノスの背中を叩いた。

「お、おう! 当たり前だろ!

弟子に追い越されっぱなしじゃ、師匠の名折れだからな!」

「いっつ!? ……背骨が折れるかと思った」

クロノスが痛がりながらも笑う。

その光景を見て、レグルたちも温かい笑みを浮かべた。

ティランの勝利。

それは単なる一勝ではなく、彼女が「クロノスを守るだけの存在」から、「クロノスと共に進化する存在」へと脱皮した証だった。

「さて、次は私の番ですねぇ」

ヴネナンが立ち上がり、白衣を翻した。

手には、不気味に泡立つフラスコが握られている。

「ティランちゃんが派手に暴れた分、私は静か~に、ネチネチと絶望を振り撒いてくるわ」

「……趣味が悪いぞ」

「うふふ、褒め言葉よぉ」

次なる戦いの幕が上がる。

ナイトレイ家の快進撃は、まだ始まったばかりだ。

そして、その様子を高い場所から見つめる、一組の視線があった。

ロイヤルボックスの影。

女帝スカーレットと、その傍らに立つ銀色の騎士。

「……ほう。あの筋肉女、面白い技を使う」

「ええ。クロノスの影響ね。愛の力、とでも言うのかしら」

スカーレットは楽しそうに笑った。

「私の騎士エクスキューショナー。お前の出番も近いわよ。……彼らの『愛』が、お前の『虚無』に勝てるかしらね?」

「……愚問です、陛下。愛など、切り刻めばただの肉塊です」

銀色の騎士は冷淡に答え、闇の中へと消えていった。

決戦の予感を含んだ風が、闘技場を吹き抜けていった。


最後までお読みいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら、下にある広告下の評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)や、ブックマークで応援していただけると、執筆の大きな励みになります。


感想も一言いただけると、作者が泣いて喜びます。よろしくお願いします!


X(旧Twitter)アカウントはこちらから

https://x.com/Fujikaze_novel

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ