第18章 灼熱の処刑台と、模倣された最強
予選Cブロック。
そのフィールドが公開された瞬間、会場からどよめきが上がった。
そこは、この世の地獄を再現したかのような灼熱の世界だった。
地面の至る所から溶岩が噴き出し、赤い川となって流れている。
立っているだけで靴底が溶け出しそうな高熱。空気は乾燥しきっており、呼吸をするたびに肺が焼けるようだ。
『焦熱地獄』。
それが、このステージの名前だった。
「ギャハハハ! こりゃあいい! 最高の舞台じゃねぇか!」
その地獄の中心で、豪快に笑う女がいた。
ナイトレイ家最強の戦士、ティランだ。
彼女は身の丈ほどもある巨大なバスターソードを、豆腐に箸を突き立てるように軽々と岩盤に突き刺すと、無造作にストレッチを始めた。
「んん~っ! やっぱ暑いトコは体がほぐれるなぁ!」
彼女の露出度の高い戦闘服は、この環境下では理にかなっているように見えるが、普通の人間なら火傷では済まない。
だが、彼女の肌は汗一つかいていない。
むしろ、周囲の熱気をエネルギーとして吸収しているかのように、赤く艶やかに輝いている。
対する参加者たちは、悲惨だった。
このCブロックには、スカーレット・ドラゴニア直属の精鋭部隊『竜牙兵団』のメンバーが多く配属されていた。
彼らは耐火魔法のかかった重装備に身を包んでいるが、それでも暑さに喘ぎ、動きが鈍っている。
「おい見ろよ、あの女。今さら準備運動かよ」
「余裕ぶってんじゃねぇぞ。どうせ暑さで頭がイカれたんだろ」
「まずはあいつから血祭りにあげてやる。あの露出狂をミンチにしろ!」
竜牙兵団の男たちが、嘲笑と共に武器を構える。
彼らは知らない。
目の前の女が、ただの露出狂ではなく、このマグマよりも熱く、危険な活火山であることを。
ティランは屈伸をし、肩を回し、最後に首をコキリと鳴らした。
「……ふぅー」
深く、長く息を吐く。
その瞬間。
ドォォォォォンッ!!!!
彼女の足元の地面が爆発した。
いや、爆発ではない。
彼女の体内から放出された「闘気」が、物理的な衝撃波となって周囲を薙ぎ払ったのだ。
マグマが逆流し、空気がねじ切れる。
「な、なんだッ!?」
「地震か!?」
嘲笑っていた男たちが、尻餅をついて狼狽える。
ティランはゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、紅蓮の炎のように燃え盛っていた。
「さぁ、殺ろうか。トカゲども」
彼女が岩盤からバスターソードを引き抜く。
ズズズズズ……ッ!
岩が砕ける音が、まるで怪物の唸り声のように響いた。
「俺の準備運動に付き合ってくれてありがとな。
お礼に、痛みを感じる暇もなく蒸発させてやるよ」
戦闘開始のゴングは、もはや聞こえなかった。
ティランの咆哮が、全てを塗り潰したからだ。
「死ねェエエ!!」
竜牙兵団の戦士たちが、一斉に襲いかかってきた。
数にして五十人。
全員がAランク冒険者に匹敵する実力者であり、連携も取れている。
魔法使いが氷の槍を放ち、重戦士が盾で押し込み、槍使いが隙間から突きを繰り出す。
完璧な布陣。
だが、ティランには関係なかった。
「邪魔だッ!!」
ブンッ!!
ティランが大剣を一振りした。
ただの横薙ぎ。
だが、その質量と速度が生み出す運動エネルギーは、竜巻に匹敵する。
「ぐわぁぁぁッ!?」
「盾ごとッ!?」
前衛の重戦士たちが、盾も鎧も粉砕されて吹き飛んだ。
人間が木の葉のように舞う。
さらに、剣圧によって発生した真空波が、後衛の魔法使いたちを襲う。
「ひぃっ! 結界が割れ……!」
魔法障壁がガラスのように砕け散り、彼らは壁まで吹き飛ばされて気絶した。
一撃。
たった一振りで、十数人が戦闘不能になった。
「ははっ! どうしたどうした! ドラゴニアの精鋭ってのはその程度かよ!」
ティランは笑いながら戦場を駆ける。
その足取りは、巨大な剣を持っているとは思えないほど軽い。
溶岩の上を飛び石のように渡り、敵の集団に飛び込む。
「囲め! 動きを止めろ!」
「網を撃て!」
敵が捕獲用のミスリル製の網を射出する。
だが、ティランは避けない。
網が彼女に絡みつく――その瞬間、彼女の全身から炎が噴き出した。
ボウッ!!
【闘気燃焼】
ミスリルの網が、一瞬で溶けて赤熱した鉄屑となる。
ティランは灼熱の蒸気を纏い、鬼神の如く敵陣を蹂躙する。
「熱い! 熱いッ!」
「近づけねぇ! 鎧が溶ける!」
敵は恐怖にパニックを起こす。
ティランの大剣が振るわれるたびに、誰かが空を飛び、誰かが地面にめり込む。
斬るのではない。叩き潰す。
圧倒的な質量による暴力。
「オラオラオラァ! 坊主との特訓に比べれば、テメェらの攻撃なんて止まって見えるぜ!」
ティランは叫びながら、襲い来る槍を素手で掴み、へし折った。
クロノスとの修行。
スキルのない状態で、彼の神速の動きに対応し続けた日々。
あれに比べれば、こいつらの動きはあまりにも遅く、そして軽い。
調子に乗ったティランは、さらに速度を上げて大剣を振り回した。
遠心力を最大に乗せ、敵の集団を薙ぎ払おうとした、その時だった。
ズルッ。
手のひらの感触が滑った。
灼熱のマグマ地帯。全身から噴き出る汗が、柄を握る手の摩擦を奪っていたのだ。
「――あ」
ティランの手から、巨大なバスターソードがすっぽ抜けた。
ヒュンッ!!
主を失った凶器は、回転しながら空の彼方へと飛んでいき、遠くの岩山にズドン! と突き刺さった。
「…………」
戦場に、一瞬の静寂が訪れた。
ティランは自分の空っぽの手を見つめ、敵の兵士たちは空を見上げた。
「……わりぃ。手汗ですべった」
ティランがテヘへと頭を掻く。
その隙を、敵が見逃すはずがなかった。
「い、今だァァァッ!!」
「武器を失ったぞ! 丸腰だ!」
「殺せぇぇぇ!!」
竜牙兵団の男たちが、好機とばかりに殺到する。
剣、槍、斧。あらゆる刃が、無防備なティランに降り注ぐ。
「ちっ、うぜぇな」
ティランは面倒くさそうに呟くと、迫りくる槍の穂先を素手で掴んだ。
ガシッ!
そして、そのまま強引に引っ張り、槍使いの体勢を崩すと、がら空きの腹部に拳を叩き込んだ。
ドゴォォォンッ!!
「がはっ……!?」
槍使いはくの字に折れ曲がり、後続の味方を巻き込みながら吹き飛んだ。
ティランは奪った槍をバトンのように回し、別の兵士の頭蓋を柄で砕く。
「武器なんざ、飾りだよ! 俺の拳が最強の武器だ!」
彼女は笑いながら敵陣を突破し、岩山に刺さった自分の大剣へと歩き出した。
誰も止められない。
斬りかかれば拳で砕かれ、魔法を撃てば熱気で蒸発させられる。
彼女は悠々と大剣の元へたどり着き、引き抜いた。
「よっと。……やっぱこいつが一番しっくりくるな」
彼女は服で柄の汗を拭うと、再び構え直した。
「さて、休憩は終わりだ。……消えなッ!」
ティランは大剣を風車のように回転させ、周囲の敵を一掃した。
つむじ風が発生し、マグマを巻き上げて炎の竜巻となる。
残っていた兵士たちは、悲鳴を上げる間もなく巻き込まれ、場外へと弾き飛ばされた。
「……ふぅ」
ティランは大剣を肩に担ぎ、周囲を見渡した。
立っている者はいない。
フィールドは瓦礫の山と化し、マグマの池が増えていた。
「こんなところかなー。準備運動にもなりゃしねぇ」
彼女は少し退屈そうにあくびをした。
気が抜けた瞬間。
それこそが、戦場において最も危険な瞬間であることを、彼女は知っていたはずだった。
だが、あまりの戦力差に、慢心が生じていたのかもしれない。
ゾクリ。
背筋に冷たいものが走った。
殺気ではない。
もっと鋭く、研ぎ澄まされた「死」の予感。
「――ッ!?」
ティランは反射的に身を捻った。
ヒュンッ!!
漆黒の閃光が、彼女の首があった空間を切り裂いた。
数本の赤い髪が、ハラリと落ちる。
もし反応がコンマ一秒遅れていたら、首が落ちていた。
「あっぶねぇ……!」
ティランはバックステップで距離を取り、大剣を構え直した。
冷や汗が頬を伝う。
背後に誰かがいた。
気配遮断? いや、違う。
今の今まで、そこに「存在」していなかったかのような唐突さ。
「……ここは戦場だ。気を抜くだなんて、大した度胸だな」
マグマの湯気の中から、一人の騎士がゆらりと姿を現した。
全身を漆黒の鎧で覆っている。
手には、刀身が波打つ奇妙な形の長剣が握られている。
その鎧の胸元には、ドラゴニア帝国の紋章とは違う、不気味な髑髏の刻印があった。
「あぁ? 誰だテメェ。卑怯な真似しやがって。挨拶もなしか?」
ティランが睨みつける。
騎士は動じない。フルフェイスの兜の奥から、無機質な、しかし凛とした女の声が響く。
「名は不要。死人に名乗る必要はない。……私は『掃除屋』。陛下の命により、予選のゴミ掃除を任されている」
「掃除屋だと? 偉そうに……。ゴミはお前の方だろ」
ティランは鼻を鳴らしたが、内心では警戒レベルを最大まで引き上げていた。
こいつは、さっきまでの雑魚とは違う。
構えに隙がない。魔力の揺らぎもない。
そして何より、その立ち姿。
重厚な鎧を着ているにも関わらず、女性特有のしなやかさと、底知れぬ強者の風格が漂っている。
「……やっと、やりあえる奴が出てきたな」
ティランの唇が吊り上がる。
恐怖よりも先に、闘争本能が湧き上がる。
彼女は獰猛に笑い、地面を蹴った。
ガギィィィィンッ!!
二つの剣が激突し、火花が散った。
ティランのバスターソードと、女騎士のフランベルジュ。
重量差は倍以上あるはずだが、女騎士は片手でティランの剛撃を受け止めていた。
「重いな。……だが、単調だ」
女騎士が手首を返すと、フランベルジュが蛇のようにしなり、ティランの大剣を絡め取って逸らした。
受け流し(パリー)。
体勢を崩されたティランの懐に、女騎士の鋭い蹴りが突き刺さる。
「ぐっ……!?」
ティランは腹部に衝撃を受け、数メートル後退した。
だが、すぐに踏みとどまり、追撃の突きを大剣の腹で弾く。
「へっ、やるじゃねぇか! 芸達者だな!」
「……無駄口が多い」
女騎士は流れるような剣舞で攻め立ててくる。
突き、払い、斬撃。
その軌道は変幻自在で、しかも一撃一撃が重い。魔法で身体強化をしているのだろうが、それ以上に技術が高い。
カカカカカッ!!
刃と刃がぶつかる音が、途切れることなく響く。
互角。
いや、手数では女騎士が勝っている。ティランは大剣の重量ゆえに、どうしても初速で遅れを取る。
(チッ、こいつ……慣れてやがる。対大剣の戦い方を熟知してやがるな)
ティランは舌打ちした。
女騎士は正面からは打ち合わず、常にティランの死角へと回り込み、大剣の振りが遅くなる瞬間を狙ってカウンターを入れてくる。
狡猾で、冷徹な戦闘スタイル。
「ハァッ、ハァッ……!」
数分後。
ティランの呼吸が乱れ始めた。
体力の消耗ではない。マグマの熱気と、張り詰めた集中力の消耗だ。
女騎士の方は、息一つ乱していない。不気味なほどタフだ。
「終わりか? 『火怒』の二つ名も、聞いていたほどではないな」
女騎士が挑発する。
ティランの体に、浅い切り傷が増えていく。
「……うるせぇよ」
ティランは汗を拭い、大剣をだらりと下げた。
諦めたわけではない。
彼女の脳裏に、ある光景が蘇っていた。
――クロノスとの手合わせ。
泥まみれになりながら、自分に向かってきた少年。
彼は力では劣っていた。スピードでも劣っていた。
だが、彼は勝った。
なぜか?
それは、彼が「自分の限界」を知り、その上で「限界を超えるための工夫」を持っていたからだ。
(坊主は言ってたな。『力任せじゃ勝てない相手がいる。そういう時は、理を書き換えろ』って)
ティランは目を閉じた。
この一ヶ月。
彼女はただクロノスを鍛えていたわけではない。
彼女もまた、クロノスを見ていた。
彼の動き、彼の魔力操作、彼が使う『因果逆転』や『身体超強化』の波動。
それを一番近くで、肌で感じてきた。
天才的な戦闘センスを持つ彼女が、それを見逃すはずがない。
盗めるものは、全て盗む。
それが、最強を目指す者の貪欲さだ。
「……どれ、試しにやってみるか」
ティランは呟き、大きく深呼吸をした。
体内の魔力回路を開く。
普段なら、炎の魔力を外に放出する(爆発させる)使い方しかしない。
だが今は違う。
魔力を内側に。筋肉の繊維一本一本に浸透させ、圧縮し、爆発の予兆を封じ込める。
イメージするのは、クロノスの背中。
あの細い体から放たれる、信じられないほどの爆発力。
ティランの全身から、赤い蒸気が噴き出した。
筋肉が異常に膨張し、血管が蛇のように浮き上がる。
鎧が軋み、地面が重圧でひび割れる。
女騎士が、初めて後ずさった。
本能的な恐怖。目の前の女が、別の「ナニカ」に変貌しようとしている気配。
ティランはカッと目を見開き、低く、重く告げた。
「――【身体強化・暴走】」
ドォンッ!!!!
音が置き去りにされた。
ティランの姿が消えた。
女騎士が反応する間もなく、彼女の眼前に巨大な影が迫っていた。
「なッ――!?」
速い。
さっきまでの動きとは次元が違う。
大剣を担いでいるとは思えない、獣のような瞬発力。
「遅ぇよ!!」
ティランの大剣が、横薙ぎに閃いた。
女騎士は咄嗟にフランベルジュでガードする。
だが、それは悪手だった。
受け止められる威力ではない。
ガギィィィィィンッ!!!!
金属が悲鳴を上げる音と共に、女騎士のフランベルジュが真ん中からへし折れた。
そのまま大剣は止まらず、女騎士の胴体を鎧ごと強打する。
「きゃぁぁっ……!?」
女騎士は悲鳴を上げ、砲弾のように吹き飛ばされた。
闘技場の壁に激突し、さらに壁を貫通して観客席の土台にめり込む。
会場が静まり返った。
何が起きたのか、誰も理解できなかった。
ただ一人、VIP席で見ていたクロノスを除いて。
「……おいおい、マジかよ」
クロノスは身を乗り出し、驚愕の表情を浮かべていた。
「あれは……俺の『身体超強化』か?
いや、違う。原理は似ているが、もっと荒々しい。魔力を循環させるんじゃなく、体内で爆発させ続けて、その推進力で動いているのか……?」
クロノスの分析通りだった。
ティランの『オーバードライブ』は、クロノスのスキルの完全なコピーではない。
彼の繊細な魔力操作は、大雑把な彼女には真似できない。
だから彼女は、自分流にアレンジしたのだ。
「魔力を筋肉の中で爆発させる」という、一歩間違えれば自爆しかねない荒技に。
まさに、彼女らしい「力技の模倣」。
「……っぐぅ、ぅぅ……!」
瓦礫の中から、女騎士がよろめきながら出てきた。
漆黒の鎧はひしゃげ、兜は割れ、中から金色の長い髪がこぼれ落ちている。
端正な顔立ちだが、口元からは血が滴っている。
タフだ。普通なら即死している威力だが、まだ立っている。
「ば、馬鹿な……。貴様のステータスに、あんな速度は……」
「ステータス? そんなもん、飾りだろ」
ティランは肩で息をしながら、ニヤリと笑った。
全身から赤い蒸気を噴き上げている。体への負担は凄まじいはずだが、彼女の顔には「最高に楽しい」と書いてある。
「坊主は言ってたぜ。『限界なんてのは、脳が勝手に決めたリミッターだ』ってな。
だったら、外しゃいいんだよ。壊れる覚悟でな!」
ティランが再び構える。
大剣が紅蓮の炎を纏う。今度は魔力放出も上乗せだ。
全力全開。
「これで終わりだ! 消し飛びなッ!」
ティランが跳躍した。
遥か上空からの、落下斬り。
女騎士は動けない。恐怖で足がすくんでいる。
「――爆砕・紅蓮剣!!」
ズドオオオオオオオオオンッ!!!!
闘技場の中央に、小型の太陽が落ちたかのような大爆発が起きた。
マグマが吹き飛び、岩盤が溶解する。
衝撃波が観客席まで届き、悲鳴が上がる。
やがて、煙が晴れると。
そこには、巨大なクレーターの中心で、大剣を突き立てて立つティランの姿があった。
女騎士の姿はない。
砕け散った黒い鎧の破片と、燃え尽きた灰が残るのみ。
「……ふぅ。ちっとやりすぎたか?」
ティランは首を回し、バキバキと音を鳴らした。
そして、静かに片腕を天に突き上げた。
勝利の宣言。
「勝者、ティラン選手ぅぅぅ!!」
アナウンスが響き渡り、会場が揺れるほどの大歓声に包まれた。
圧倒的な力。カリスマ性。
観客たちは、新たな英雄の誕生に酔いしれた。
試合後。
控え室に戻ったティランを、仲間たちが迎えた。
「お帰りなさい、ティラン! すごかったですっ! あの爆発、かっこよすぎですっ!」
「あらあら、随分と派手にやったわねぇ。私の治療費が高くつくわよぉ?」
「……筋肉断裂、骨にヒビ。無茶のしすぎ」
リゼたちが駆け寄る中、ティランは真っ先にクロノスの元へ歩み寄った。
そして、ニカっと笑ってVサインをした。
「どうよ坊主! 見たか、俺の『オーバードライブ』!」
「ああ、見たよ。……正直、度肝を抜かれた」
クロノスは苦笑しながら、ティランにタオルを渡した。
「いつの間にあんな技を覚えたんだ? 俺は教えた覚えはないぞ」
「へへっ、この一ヶ月、間近でお前の動きを見てたからな。お前が体の中で魔力をどう回してるか、どうやって限界を超えてるか……肌で感じて、盗ませてもらった」
ティランは悪びれもせずに言う。
「ま、お前の繊細なスキルとは違って、俺のはただの『自爆スレスレの暴走』だけどな。……どうだ? 合格点か?」
彼女は少し不安げに、上目遣いでクロノスを見た。
師匠として、弟子であるクロノスに認められたい。その想いが透けて見える。
クロノスは優しく微笑み、ティランの頭に手を置いた。
「充分すぎるよ。俺のスキルを模倣して、自分のものにするなんて……。さすが、俺の師匠だ」
「……っ!」
ティランの顔が、髪の色と同じくらい真っ赤になった。
彼女は照れ隠しに、バシッとクロノスの背中を叩いた。
「お、おう! 当たり前だろ!
弟子に追い越されっぱなしじゃ、師匠の名折れだからな!」
「いっつ!? ……背骨が折れるかと思った」
クロノスが痛がりながらも笑う。
その光景を見て、レグルたちも温かい笑みを浮かべた。
ティランの勝利。
それは単なる一勝ではなく、彼女が「クロノスを守るだけの存在」から、「クロノスと共に進化する存在」へと脱皮した証だった。
「さて、次は私の番ですねぇ」
ヴネナンが立ち上がり、白衣を翻した。
手には、不気味に泡立つフラスコが握られている。
「ティランちゃんが派手に暴れた分、私は静か~に、ネチネチと絶望を振り撒いてくるわ」
「……趣味が悪いぞ」
「うふふ、褒め言葉よぉ」
次なる戦いの幕が上がる。
ナイトレイ家の快進撃は、まだ始まったばかりだ。
そして、その様子を高い場所から見つめる、一組の視線があった。
ロイヤルボックスの影。
女帝スカーレットと、その傍らに立つ銀色の騎士。
「……ほう。あの筋肉女、面白い技を使う」
「ええ。クロノスの影響ね。愛の力、とでも言うのかしら」
スカーレットは楽しそうに笑った。
「私の騎士。お前の出番も近いわよ。……彼らの『愛』が、お前の『虚無』に勝てるかしらね?」
「……愚問です、陛下。愛など、切り刻めばただの肉塊です」
銀色の騎士は冷淡に答え、闇の中へと消えていった。
決戦の予感を含んだ風が、闘技場を吹き抜けていった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
もし「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら、下にある広告下の評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)や、ブックマークで応援していただけると、執筆の大きな励みになります。
感想も一言いただけると、作者が泣いて喜びます。よろしくお願いします!
X(旧Twitter)アカウントはこちらから
https://x.com/Fujikaze_novel




