表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺貴族の溺愛ハーレム ~「守られる弱い男」を演じていたら、最強の女たちが忠誠を誓って離れません~  作者: 藤風大地
第2部 竜の女王と、恋の最終戦争(ラグナロク)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/24

第16章 竜の都の洗礼と、予選という名の蹂躙

国境を越えた瞬間、肌にまとわりつく空気が変わったのをはっきりと感じた。

重く、熱く、そして鉄の匂いが混じった空気。

呼吸をするたびに肺が熱くなるような感覚。

空を見上げれば、分厚い雲の隙間を縫うように巨大な影――飛竜ワイバーンの編隊が我が物顔で飛び交い、遠くからは絶え間なく地響きのような重低音が聞こえてくる。

ドラゴニア帝国。

大陸の東に位置し、最強の軍事力を誇る覇権国家。

その首都「ドラグニル」に、俺たちナイトレイ一行は到着した。

「……でけぇな」

馬車の窓から外を眺め、ティランが素直な感想を漏らした。

彼女の視線の先にあるのは、黒い鋼鉄と巨石で築かれた要塞都市だ。

城壁の高さはルナリア王国の倍はあるだろうか。その上には無数の対空魔導砲が牙のように並び、空を飛ぶもの全てを撃ち落とさんばかりの威圧感を放っている。

街全体がひとつの巨大な兵器のようだ。

「治安も悪そうですねぇ。見てください、あそこの路地裏」

ヴネナンが指差した先では、屈強な女戦士たちが昼間から殴り合いの喧嘩をしていた。

血が飛び散り、悲鳴が上がる。だが、通りかかる衛兵は止めるどころか、どちらが勝つかで「賭け」を始めている始末だ。

力こそ正義。勝った者が正しい。

この国のルールが、街の隅々まで、空気のように浸透している証拠だ。

「……野蛮。掃除しがいがある」

ノクトが不快そうに目を細める。

彼女のような潔癖な性格には、この雑多で暴力的な空気は肌に合わないだろう。手元のモップ(携帯用)を握る手に力が入っている。

「皆様、警戒レベルを上げてください。ここは敵地です」

レグルが地図を広げながら注意を促す。

彼女は既に帝都の地理、主要施設、避難ルートを頭に入れているようだ。その表情はいつになく硬い。

かつて先代当主(俺の父)が命を落とした因縁の地。彼女にとっても、ここはただの観光地ではない。

「私たちの目的地は、都市の中央にある『王立闘技場コロッセオ』。そこで武闘大会のエントリーが行われます」

「へへっ、いよいよだな! 武者震いが止まらねぇ!」

「クロノスさま、お腹空いてませんか? 緊張したら甘いものですっ! アメちゃん食べます?」

リゼが俺の口に強引にアメを放り込んでくる。

俺はそれを転がしながら、街行く人々を観察した。

女性は皆、武装している。ドレスの下にチェインメイルを着込んだり、腰に剣を帯びたりしているのが普通だ。

対して、男性は……極端に少ない。

たまに見かけても、首輪をつけられて重い荷物を運ばされていたり、女性の後ろを怯えながら歩いていたりする。

ルナリア王国も女尊男卑だったが、ここはさらに極端だ。

男は「所有物」であり、労働力か愛玩用としての価値しかないと言わんばかりの扱い。

(……スカーレットが支配する国らしいな)

俺は拳を握りしめた。

こんな国で、彼女は俺を「ペット」にしようとしている。地下牢で一生飼い殺しにするなどと宣った。

ふざけるな。

俺は誰のモノにもならない。俺の運命は俺が決める。

そのために、この一ヶ月間、血反吐を吐くような地獄の特訓を乗り越えてきたのだ。

馬車は進み、やがて巨大な建造物の前に到着した。

王立闘技場。

古代ローマのコロッセオを数倍の規模にしたような、圧倒的な威容を誇る石造りのスタジアムだ。

周囲には、世界中から集まった猛者たちと、それを見物に来た観客たちで溢れかえっている。熱気が渦を巻いているようだ。

「よし。行くぞ」

俺は馬車を降りた。

その瞬間、周囲の視線が一斉にこちらに向いた。

値踏みするような視線。嘲笑するような視線。獲物を見るような視線。

その中心を、俺は胸を張って歩き出した。

背後には、最強の五人の従者たちを従えて。

闘技場の正面ゲートには、長蛇の列ができていた。

並んでいるのは、身の丈2メートルを超える巨女、全身傷だらけの傭兵、怪しげなオーラを纏った魔術師など、一癖も二癖もありそうな連中ばかりだ。

その列に、俺のような「華奢な男」が並んだのだから、目立たないはずがない。

「おい見ろよ。男だぞ?」

「迷子か? ここは託児所じゃないんだがな」

「綺麗な顔してるじゃねぇか。大会の賞品か? それとも夜の相手の売り込みか?」

ヒソヒソという嘲笑が、さざ波のように広がる。

俺は無視して列を進んだ。

ティランが額に青筋を立てて大剣の柄に手をかけようとするのを、レグルが目配せで制する。

今はまだ、騒ぎを起こす時ではない。

やがて、受付の順番が回ってきた。

受付嬢は、筋肉隆々のオーク族の女性だった。机の上に足を投げ出し、気だるげに爪を磨いている。

「次! ……あぁん? なんだお前」

彼女は俺を見下ろし、鼻を鳴らした。

「観客席への入り口はあっちだ。ここは参加者の受付だぞ、坊や。ママとはぐれたのか?」

「知っている。参加登録を頼む」

俺が言うと、受付嬢は目を丸くし、それから腹を抱えて笑い出した。

「ギャハハハハ! 聞いたかおい! この男、参加するってよ!」

「マジかよ! 死にに来たのか!」

「ママのおっぱいでも吸ってな!」

周囲の参加者たちも爆笑する。闘技場全体が俺を笑い者にしているようだ。

受付嬢は涙を拭いながら、書類を突き返した。

「悪いことは言わねぇ、帰んな。ここは遊び場じゃねぇんだ。

この大会は死人が出る。五体満足で帰れる保証はねぇ。

男の柔肌じゃ、開始一秒でミンチになっちまうよ」

彼女なりの親切心かもしれない。この世界では、それが常識なのだから。

だが、ここで引くわけにはいかない。

「……ルールブックには、『性別不問』と書いてあったはずだが?」

「あぁ? 書いてあるけどよぉ、常識ってモンがあるだろ? 男が戦うなんて、猫がドラゴンに挑むようなもんだ」

「その猫が、ドラゴンを倒すかもしれない」

「ハッ! 口だけは達者だな」

受付嬢が机をバン! と叩いた。

その拍子に、厚さ5センチはある鉄製の机が、飴細工のようにひしゃげた。

単純な腕力による威圧。周囲が静まり返る。

「いいか、邪魔なんだよ。失せろ」

彼女が俺の胸ぐらを掴もうと、丸太のような腕を伸ばした。

その動きは、一般人には見えないほどの速さだ。

だが。

(……遅い)

一ヶ月前なら反応できなかっただろう。

だが今の俺には、彼女の筋肉の収縮、重心の移動、視線の先までが手に取るように見える。

ティランの剛剣に比べれば、止まっているも同然だ。

俺は一歩も動かず、ただ軽く首を傾げた。

ブンッ!

俺の鼻先数ミリを、豪腕が空振りする。

「あ?」

受付嬢がバランスを崩し、前のめりになる。

俺はその隙を見逃さず、彼女の手首に軽く触れた。

力を加える必要はない。彼女自身の勢いを利用して、重心をずらすだけでいい。

ノクトとの組手で学んだ「柔」の理。

ドスンッ!!

受付嬢の巨体が、床に叩きつけられた。

何が起きたのか分からないという顔で、彼女は天井を見上げている。

「な、なんだ今の……?」

「触れただけだぞ……?」

周囲のざわめきが、困惑へと変わる。

俺は倒れた受付嬢に手を差し伸べた。

「……失礼。足元が滑ったようですね」

「て、てめぇ……!」

彼女が顔を真っ赤にして起き上がろうとした、その時。

ヒュンッ!!

風切り音と共に、受付嬢の顔の横を何かが通過した。

ドスッ!

背後の石柱に突き刺さったのは、一本のフォークだった。

銀製の、ディナー用のフォーク。

それが、石柱に深々と、柄までめり込んでいる。

「――ッ!?」

受付嬢が凍りつく。

数センチずれていれば、彼女の眼球を貫いていた。

「……主人の体に、気安く触れるな」

背後から、氷のような声が響いた。

ノクトだ。

彼女はいつの間にか、投擲の姿勢から通常の立ち姿に戻り、何事もなかったかのように佇んでいた。

だが、その全身から放たれる殺気は、周囲の猛者たちを圧倒していた。

「な、なんだ今の……見えなかったぞ……」

「あのメイド、タダモノじゃねぇ……」

ティランも前に出て、指の関節をポキポキと鳴らした。

「おい、受付。ウチの坊主が登録したいっつってんだ。さっさと手続きしろよ。

それとも、俺がそのひしゃげた机ごと、テメェを壁のシミにしてやろうか?」

レグルが眼鏡を光らせ、ヴネナンが毒瓶を揺らし、リゼが笑顔で鎌を構える。

受付嬢の顔から血の気が引いた。

彼女は本能で悟ったのだ。

目の前の男はただの男ではない。そして、この怪物たちを従える彼こそが、最も底知れない存在であると。

「……わ、分かったよ。登録すりゃいいんだろ」

彼女は震える手で書類を受け取り、スタンプを押した。

「名前は?」

「クロノス・ナイトレイ」

「……はいよ。エントリーナンバー1086番。

……死んでも知らねぇからな」

投げ渡されたプレートを受け取り、俺は微笑んだ。

「忠告、感謝する」

俺たちは踵を返し、控え室へと向かった。

背中に突き刺さる視線は、先ほどまでの「侮蔑」から、「困惑」と「警戒」へと変わっていた。

闘技場の中は、熱狂の坩堝と化していた。

収容人数十万人。

すり鉢状の観客席は満員で、地鳴りのような歓声が響き渡っている。

フィールドは広大で、砂漠、森林、市街地など、様々な地形が魔法で再現されている。

正午。

ファンファーレが鳴り響き、会場の大型スクリーンに一人の女性が映し出された。

王族専用のロイヤルボックス。

そこに、スカーレット・ドラゴニアが立っていた。

「うおおおおおおッ!! スカーレット様ぁぁぁ!!」

「女帝陛下万歳!!」

観客のボルテージが最高潮に達する。

彼女は手を上げるだけで、その歓声を制した。

静寂。

十万人が息を呑む。

「……皆の者、よく集まった」

マイクも使っていないのに、彼女の声は会場の隅々まで朗々と響き渡った。

覇気だ。声に乗せた魔力が、空気を震わせている。

「今宵、この闘技場は血で染まるだろう。

弱者は去れ。強者のみが残れ。

優勝者には、莫大な富と名誉、そして……」

スカーレットは言葉を切り、妖艶に唇を歪めた。

「私の『夫』となる権利を与えよう」

ドッと会場が沸く。

参加者たちの目の色が変わった。

帝国の支配者と結婚できる。それは、この世の全てを手に入れるに等しい。

「ただし」

スカーレットの声が低くなる。

「私は弱い雄には興味がない。

私の隣に立つ資格があるのは、私を力でねじ伏せられる者だけよ」

彼女は視線を巡らせた。

そして、参加者待機エリアにいる俺を、正確に見つけ出し、視線を固定した。

遠く離れているのに、目が合った気がした。

「……見ているわよ。私の愛しい人」

口パクで、彼女はそう言った。

背筋に戦慄が走る。

これは公開プロポーズであり、処刑宣告だ。

「それでは、これより予選を開始する!ルールは簡単。バトルロイヤル!各ブロック百名のうち、立っていられた最後の一名のみが本戦へ進める!殺しても構わない。手段も問わない。……生き残りなさい!」

スカーレットが高らかに宣言した。

銅鑼の音が打ち鳴らされる。

殺し合い(フェスティバル)の始まりだ。

俺が割り振られたのは、予選第一試合、Aブロック。

フィールドは「荒野」。

遮蔽物の少ない、岩だらけの平原だ。

開始の合図と共に、百人の参加者がフィールドに放たれた。

周囲は敵だらけ。

屈強な女戦士、狡猾な魔法使い、重装甲の騎士。

誰もが殺気立っている。

そして、案の定。

彼らの矛先は、一斉に「一番弱そうな獲物」に向けられた。

「おい、まずはあいつからだ!」

「あの優男、目障りなんだよ!」

「血祭りにあげてやる! 生贄にしてやるよ!」

十数人の戦士が、示し合わせたように俺を取り囲んだ。

まあ、そうなるよな。

バトルロイヤルの定石。まずは弱者を排除し、数を減らす。

俺はため息をつき、剣を構えた。

「……クロノス様、加勢しますか?」

観客席の最前列で見ていたレグルが、通信魔法イヤーカフで問いかけてくる。

ヒロインたちは今回は参加していない。

スカーレットの条件は「クロノスが優勝すること」であり、彼女たちが参加して俺と潰し合っては意味がないからだ。

彼女たちはセコンドとして、また不測の事態に備えて待機している。

「いや、無用だ。ここは俺一人でやる」

「承知しました。……存分に、暴れてください。練習通りに」

レグルの信頼のこもった声。

俺はニヤリと笑った。

「死ねぇぇぇ!!」

先頭の大男が、鉄パイプのような棍棒を振り上げて突っ込んできた。

速い。一般人なら反応できない速度だ。

だが。

(……遅い)

一ヶ月前。ティランと殴り合った日々に比べれば、あくびが出るほど遅い。

スキル**【思考加速】**を使わなくても、動きがコマ送りのように見える。

筋肉の収縮、重心の傾き、視線の先。

情報が脳に流れ込んでくる。

俺は半歩前に出た。

棍棒が振り下ろされる軌道の内側、死地へ。

そして、男の顎を掌底で突き上げる。

ガッ!!

鈍い音がして、男の巨体が宙に浮いた。

脳震盪。一撃で意識を刈り取る。

男は白目を剥いて崩れ落ちた。

「なッ……!?」

周囲がどよめく。

だが、俺は止まらない。

倒れた男の体を踏み台にして跳躍。

体内の魔力を循環させ、最低限の出力で筋肉を弾く。

【身体強化・弱】。

「シッ!」

空中で回転し、後衛で魔法を詠唱していた魔術師の背後に着地。

詠唱を始める前に、首筋に手刀を叩き込む。

二人目。

「こ、こいつ速いぞ!」

「囲め! 魔法で動きを封じろ!」

敵が連携をとろうとする。

四方八方から剣、槍、斧が迫る。

だが、俺は止まらない。

壺を割らずにノクトたちと戦った、あの闇夜の組手を思い出せ。

敵の攻撃を利用し、同士討ちを誘う。

「そこだ」

迫りくる剣士の剣を、最小限の動き――首を数センチ傾けるだけで躱す。

その剣先が、背後から迫っていた槍使いの肩に深々と刺さる。

「ぐあっ!?」

「バカ野郎! どこ見てんだ!」

混乱する敵陣の中を、俺は水のようにすり抜ける。

触れさせない。捕まらせない。

そして、すれ違いざまに急所を打つ。

鳩尾、顎、こめかみ、膝の裏。

人体構造を知り尽くした、ヴネナン直伝の「解剖学的打撃」。

バタバタと、人が倒れていく。

魔法を使う暇もない。武器を振るう隙もない。

俺が通った後には、呻き声を上げる敗者の山が築かれていく。

「……な、なんだあいつは!?」

「スキルを使っていない……? ただの体術か!?」

「あの細い体で、どうやってあんな力を!?」

観客席がざわめき始める。

嘲笑は消え、驚愕と、そして熱狂へと変わっていく。

弱者が強者を倒す。

それはいつの時代も、観衆を最も興奮させるエンターテイメントだ。

「すげぇぞ! あの少年!」

「行けぇ! ぶっ飛ばせぇ!」

いつしか、俺への声援が響き始めていた。

俺は汗を拭い、残った敵を見据えた。

あと五十人。

……いい運動だ。

敵の数が半分を切った頃、戦場の空気が変わった。

雑魚はあらかた片付いた。

残っているのは、実力者たちだ。

彼らは俺を「獲物」ではなく「脅威」として認識し、本気で潰しにかかってきた。

「調子に乗るなよ、小僧!」

一人の魔剣士が、剣に炎を纏わせて突っ込んできた。

その背後からは、高位の魔術師が広範囲魔法の詠唱を完了させている。

逃げ場を塞ぐ土壁アース・ウォール。頭上から降り注ぐ氷のアイス・レイン

物理と魔法の波状攻撃。

体術だけでは捌ききれない。

(……なら、少しだけ本気を出すか)

俺はニヤリと笑った。

ここまでは基礎能力のテスト。ここからは、スキルの実戦テストだ。

ただし、全力ではない。まだ見せる必要はない。

影渡シャドウ・ウォーク

俺の体が、インクが滲むように影へと沈んだ。

魔剣士の炎が空を切り、魔法の氷が地面を砕く。

「き、消えた!?」

「どこだ!? 隠密か!?」

狼狽する彼らの足元。

魔術師自身の影が、不気味に膨れ上がった。

俺は姿を現した。

「後ろだ」

背中を蹴り飛ばす。

魔術師は前につんのめり、詠唱が中断される。

そのまま、俺は跳躍した。

リゼとの特訓で編み出した、空中機動。

【因果逆転・質量操作】

体を軽くし、風に乗る。

空中を滑空しながら、戦場全体を俯瞰する。

敵の陣形、隙、死角。すべてが見える。

「終わりだ」

俺は懐から数本のナイフを取り出した。

手に魔力を込める。

絶対不可視インビジブル

ナイフが消える。

見えない凶器が、雨のように敵陣へと降り注ぐ。

「ぐあぁっ!?」

「何だ!? 何が起きた!?」

「見えない! どこから攻撃が!?」

敵が次々と倒れていく。

何に斬られたのかも分からず、恐怖に顔を歪めて。

それは一方的な蹂躙だった。

ティランの力強さ、ヴネナンの狡猾さ、リゼの機動力、ノクトの隠密性、レグルの戦術眼。

それらすべてを吸収し、自分のものとした「完成された暗殺者」の舞踏。

十分後。

フィールドに立っているのは、俺一人だった。

「勝者、クロノス・ナイトレイ!!」

アナウンスが響き渡り、会場が割れんばかりの歓声に包まれた。

地鳴りのような拍手。称賛の嵐。

俺は木剣を下ろし、大きく息を吐いた。

……勝った。

それも、圧勝だ。

一ヶ月前の俺なら、最初の数分で死んでいただろう。

成長を実感する。自分の手が、確かに強さを掴んでいる。

俺は観客席のレグルたちに手を振った。

彼女たちも、満面の笑みで手を振り返してくれる。

ティランが親指を立て、ノクトが小さく頷く。

――だが。

退場しようとした俺の背中に、冷たい視線が突き刺さった。

殺気ではない。もっと不気味な、無機質な視線。

歓声の渦の中でも、その視線だけは明確に俺を捉えていた。

振り返ると、観客席の最上段、暗がりの通路に、一人の騎士が立っていた。

全身を継ぎ目のない銀色の甲冑で包んだ、巨大な騎士。

スカーレットの傍らにいた、「四天王」の一人か。

背丈は高く、肩幅も広い。

一見すると男性のようだが、その立ち姿にはどこか奇妙な艶めかしさがあった。

銀色の金属が、まるで皮膚のようにしなやかに動いている。

兜のバイザーは固く閉ざされ、表情は見えない。

だが、その奥から、値踏みするような視線を感じる。

騎士は俺を見下ろし、兜の奥で何かを呟いた気がした。

声は聞こえなかったが、その口の動きは、こう読めた。

『――合格だ』

騎士は踵を返し、音もなく闇へと消えていった。

背筋に冷たいものが走る。

予選は通過した。だが、本戦はこんなものではないだろう。

あの銀色の騎士。そして、玉座で待つスカーレット。

本当の地獄は、これからだ。

俺は拳を強く握りしめ、次なる戦いへと歩を進めた。


最後までお読みいただきありがとうございます!


もし「続きが気になる」「面白い」と思っていただけましたら、下にある広告下の評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)や、ブックマークで応援していただけると、執筆の大きな励みになります。


感想も一言いただけると、作者が泣いて喜びます。よろしくお願いします!


X(旧Twitter)アカウントはこちらから

https://x.com/Fujikaze_novel

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ