第16章 竜の都の洗礼と、予選という名の蹂躙
国境を越えた瞬間、肌にまとわりつく空気が変わったのをはっきりと感じた。
重く、熱く、そして鉄の匂いが混じった空気。
呼吸をするたびに肺が熱くなるような感覚。
空を見上げれば、分厚い雲の隙間を縫うように巨大な影――飛竜の編隊が我が物顔で飛び交い、遠くからは絶え間なく地響きのような重低音が聞こえてくる。
ドラゴニア帝国。
大陸の東に位置し、最強の軍事力を誇る覇権国家。
その首都「ドラグニル」に、俺たちナイトレイ一行は到着した。
「……でけぇな」
馬車の窓から外を眺め、ティランが素直な感想を漏らした。
彼女の視線の先にあるのは、黒い鋼鉄と巨石で築かれた要塞都市だ。
城壁の高さはルナリア王国の倍はあるだろうか。その上には無数の対空魔導砲が牙のように並び、空を飛ぶもの全てを撃ち落とさんばかりの威圧感を放っている。
街全体がひとつの巨大な兵器のようだ。
「治安も悪そうですねぇ。見てください、あそこの路地裏」
ヴネナンが指差した先では、屈強な女戦士たちが昼間から殴り合いの喧嘩をしていた。
血が飛び散り、悲鳴が上がる。だが、通りかかる衛兵は止めるどころか、どちらが勝つかで「賭け」を始めている始末だ。
力こそ正義。勝った者が正しい。
この国のルールが、街の隅々まで、空気のように浸透している証拠だ。
「……野蛮。掃除しがいがある」
ノクトが不快そうに目を細める。
彼女のような潔癖な性格には、この雑多で暴力的な空気は肌に合わないだろう。手元のモップ(携帯用)を握る手に力が入っている。
「皆様、警戒レベルを上げてください。ここは敵地です」
レグルが地図を広げながら注意を促す。
彼女は既に帝都の地理、主要施設、避難ルートを頭に入れているようだ。その表情はいつになく硬い。
かつて先代当主(俺の父)が命を落とした因縁の地。彼女にとっても、ここはただの観光地ではない。
「私たちの目的地は、都市の中央にある『王立闘技場』。そこで武闘大会のエントリーが行われます」
「へへっ、いよいよだな! 武者震いが止まらねぇ!」
「クロノスさま、お腹空いてませんか? 緊張したら甘いものですっ! アメちゃん食べます?」
リゼが俺の口に強引にアメを放り込んでくる。
俺はそれを転がしながら、街行く人々を観察した。
女性は皆、武装している。ドレスの下にチェインメイルを着込んだり、腰に剣を帯びたりしているのが普通だ。
対して、男性は……極端に少ない。
たまに見かけても、首輪をつけられて重い荷物を運ばされていたり、女性の後ろを怯えながら歩いていたりする。
ルナリア王国も女尊男卑だったが、ここはさらに極端だ。
男は「所有物」であり、労働力か愛玩用としての価値しかないと言わんばかりの扱い。
(……スカーレットが支配する国らしいな)
俺は拳を握りしめた。
こんな国で、彼女は俺を「ペット」にしようとしている。地下牢で一生飼い殺しにするなどと宣った。
ふざけるな。
俺は誰のモノにもならない。俺の運命は俺が決める。
そのために、この一ヶ月間、血反吐を吐くような地獄の特訓を乗り越えてきたのだ。
馬車は進み、やがて巨大な建造物の前に到着した。
王立闘技場。
古代ローマのコロッセオを数倍の規模にしたような、圧倒的な威容を誇る石造りのスタジアムだ。
周囲には、世界中から集まった猛者たちと、それを見物に来た観客たちで溢れかえっている。熱気が渦を巻いているようだ。
「よし。行くぞ」
俺は馬車を降りた。
その瞬間、周囲の視線が一斉にこちらに向いた。
値踏みするような視線。嘲笑するような視線。獲物を見るような視線。
その中心を、俺は胸を張って歩き出した。
背後には、最強の五人の従者たちを従えて。
闘技場の正面ゲートには、長蛇の列ができていた。
並んでいるのは、身の丈2メートルを超える巨女、全身傷だらけの傭兵、怪しげなオーラを纏った魔術師など、一癖も二癖もありそうな連中ばかりだ。
その列に、俺のような「華奢な男」が並んだのだから、目立たないはずがない。
「おい見ろよ。男だぞ?」
「迷子か? ここは託児所じゃないんだがな」
「綺麗な顔してるじゃねぇか。大会の賞品か? それとも夜の相手の売り込みか?」
ヒソヒソという嘲笑が、さざ波のように広がる。
俺は無視して列を進んだ。
ティランが額に青筋を立てて大剣の柄に手をかけようとするのを、レグルが目配せで制する。
今はまだ、騒ぎを起こす時ではない。
やがて、受付の順番が回ってきた。
受付嬢は、筋肉隆々のオーク族の女性だった。机の上に足を投げ出し、気だるげに爪を磨いている。
「次! ……あぁん? なんだお前」
彼女は俺を見下ろし、鼻を鳴らした。
「観客席への入り口はあっちだ。ここは参加者の受付だぞ、坊や。ママとはぐれたのか?」
「知っている。参加登録を頼む」
俺が言うと、受付嬢は目を丸くし、それから腹を抱えて笑い出した。
「ギャハハハハ! 聞いたかおい! この男、参加するってよ!」
「マジかよ! 死にに来たのか!」
「ママのおっぱいでも吸ってな!」
周囲の参加者たちも爆笑する。闘技場全体が俺を笑い者にしているようだ。
受付嬢は涙を拭いながら、書類を突き返した。
「悪いことは言わねぇ、帰んな。ここは遊び場じゃねぇんだ。
この大会は死人が出る。五体満足で帰れる保証はねぇ。
男の柔肌じゃ、開始一秒でミンチになっちまうよ」
彼女なりの親切心かもしれない。この世界では、それが常識なのだから。
だが、ここで引くわけにはいかない。
「……ルールブックには、『性別不問』と書いてあったはずだが?」
「あぁ? 書いてあるけどよぉ、常識ってモンがあるだろ? 男が戦うなんて、猫がドラゴンに挑むようなもんだ」
「その猫が、ドラゴンを倒すかもしれない」
「ハッ! 口だけは達者だな」
受付嬢が机をバン! と叩いた。
その拍子に、厚さ5センチはある鉄製の机が、飴細工のようにひしゃげた。
単純な腕力による威圧。周囲が静まり返る。
「いいか、邪魔なんだよ。失せろ」
彼女が俺の胸ぐらを掴もうと、丸太のような腕を伸ばした。
その動きは、一般人には見えないほどの速さだ。
だが。
(……遅い)
一ヶ月前なら反応できなかっただろう。
だが今の俺には、彼女の筋肉の収縮、重心の移動、視線の先までが手に取るように見える。
ティランの剛剣に比べれば、止まっているも同然だ。
俺は一歩も動かず、ただ軽く首を傾げた。
ブンッ!
俺の鼻先数ミリを、豪腕が空振りする。
「あ?」
受付嬢がバランスを崩し、前のめりになる。
俺はその隙を見逃さず、彼女の手首に軽く触れた。
力を加える必要はない。彼女自身の勢いを利用して、重心をずらすだけでいい。
ノクトとの組手で学んだ「柔」の理。
ドスンッ!!
受付嬢の巨体が、床に叩きつけられた。
何が起きたのか分からないという顔で、彼女は天井を見上げている。
「な、なんだ今の……?」
「触れただけだぞ……?」
周囲のざわめきが、困惑へと変わる。
俺は倒れた受付嬢に手を差し伸べた。
「……失礼。足元が滑ったようですね」
「て、てめぇ……!」
彼女が顔を真っ赤にして起き上がろうとした、その時。
ヒュンッ!!
風切り音と共に、受付嬢の顔の横を何かが通過した。
ドスッ!
背後の石柱に突き刺さったのは、一本のフォークだった。
銀製の、ディナー用のフォーク。
それが、石柱に深々と、柄までめり込んでいる。
「――ッ!?」
受付嬢が凍りつく。
数センチずれていれば、彼女の眼球を貫いていた。
「……主人の体に、気安く触れるな」
背後から、氷のような声が響いた。
ノクトだ。
彼女はいつの間にか、投擲の姿勢から通常の立ち姿に戻り、何事もなかったかのように佇んでいた。
だが、その全身から放たれる殺気は、周囲の猛者たちを圧倒していた。
「な、なんだ今の……見えなかったぞ……」
「あのメイド、タダモノじゃねぇ……」
ティランも前に出て、指の関節をポキポキと鳴らした。
「おい、受付。ウチの坊主が登録したいっつってんだ。さっさと手続きしろよ。
それとも、俺がそのひしゃげた机ごと、テメェを壁のシミにしてやろうか?」
レグルが眼鏡を光らせ、ヴネナンが毒瓶を揺らし、リゼが笑顔で鎌を構える。
受付嬢の顔から血の気が引いた。
彼女は本能で悟ったのだ。
目の前の男はただの男ではない。そして、この怪物たちを従える彼こそが、最も底知れない存在であると。
「……わ、分かったよ。登録すりゃいいんだろ」
彼女は震える手で書類を受け取り、スタンプを押した。
「名前は?」
「クロノス・ナイトレイ」
「……はいよ。エントリーナンバー1086番。
……死んでも知らねぇからな」
投げ渡されたプレートを受け取り、俺は微笑んだ。
「忠告、感謝する」
俺たちは踵を返し、控え室へと向かった。
背中に突き刺さる視線は、先ほどまでの「侮蔑」から、「困惑」と「警戒」へと変わっていた。
闘技場の中は、熱狂の坩堝と化していた。
収容人数十万人。
すり鉢状の観客席は満員で、地鳴りのような歓声が響き渡っている。
フィールドは広大で、砂漠、森林、市街地など、様々な地形が魔法で再現されている。
正午。
ファンファーレが鳴り響き、会場の大型スクリーンに一人の女性が映し出された。
王族専用のロイヤルボックス。
そこに、スカーレット・ドラゴニアが立っていた。
「うおおおおおおッ!! スカーレット様ぁぁぁ!!」
「女帝陛下万歳!!」
観客のボルテージが最高潮に達する。
彼女は手を上げるだけで、その歓声を制した。
静寂。
十万人が息を呑む。
「……皆の者、よく集まった」
マイクも使っていないのに、彼女の声は会場の隅々まで朗々と響き渡った。
覇気だ。声に乗せた魔力が、空気を震わせている。
「今宵、この闘技場は血で染まるだろう。
弱者は去れ。強者のみが残れ。
優勝者には、莫大な富と名誉、そして……」
スカーレットは言葉を切り、妖艶に唇を歪めた。
「私の『夫』となる権利を与えよう」
ドッと会場が沸く。
参加者たちの目の色が変わった。
帝国の支配者と結婚できる。それは、この世の全てを手に入れるに等しい。
「ただし」
スカーレットの声が低くなる。
「私は弱い雄には興味がない。
私の隣に立つ資格があるのは、私を力でねじ伏せられる者だけよ」
彼女は視線を巡らせた。
そして、参加者待機エリアにいる俺を、正確に見つけ出し、視線を固定した。
遠く離れているのに、目が合った気がした。
「……見ているわよ。私の愛しい人」
口パクで、彼女はそう言った。
背筋に戦慄が走る。
これは公開プロポーズであり、処刑宣告だ。
「それでは、これより予選を開始する!ルールは簡単。バトルロイヤル!各ブロック百名のうち、立っていられた最後の一名のみが本戦へ進める!殺しても構わない。手段も問わない。……生き残りなさい!」
スカーレットが高らかに宣言した。
銅鑼の音が打ち鳴らされる。
殺し合い(フェスティバル)の始まりだ。
俺が割り振られたのは、予選第一試合、Aブロック。
フィールドは「荒野」。
遮蔽物の少ない、岩だらけの平原だ。
開始の合図と共に、百人の参加者がフィールドに放たれた。
周囲は敵だらけ。
屈強な女戦士、狡猾な魔法使い、重装甲の騎士。
誰もが殺気立っている。
そして、案の定。
彼らの矛先は、一斉に「一番弱そうな獲物」に向けられた。
「おい、まずはあいつからだ!」
「あの優男、目障りなんだよ!」
「血祭りにあげてやる! 生贄にしてやるよ!」
十数人の戦士が、示し合わせたように俺を取り囲んだ。
まあ、そうなるよな。
バトルロイヤルの定石。まずは弱者を排除し、数を減らす。
俺はため息をつき、剣を構えた。
「……クロノス様、加勢しますか?」
観客席の最前列で見ていたレグルが、通信魔法で問いかけてくる。
ヒロインたちは今回は参加していない。
スカーレットの条件は「クロノスが優勝すること」であり、彼女たちが参加して俺と潰し合っては意味がないからだ。
彼女たちはセコンドとして、また不測の事態に備えて待機している。
「いや、無用だ。ここは俺一人でやる」
「承知しました。……存分に、暴れてください。練習通りに」
レグルの信頼のこもった声。
俺はニヤリと笑った。
「死ねぇぇぇ!!」
先頭の大男が、鉄パイプのような棍棒を振り上げて突っ込んできた。
速い。一般人なら反応できない速度だ。
だが。
(……遅い)
一ヶ月前。ティランと殴り合った日々に比べれば、あくびが出るほど遅い。
スキル**【思考加速】**を使わなくても、動きがコマ送りのように見える。
筋肉の収縮、重心の傾き、視線の先。
情報が脳に流れ込んでくる。
俺は半歩前に出た。
棍棒が振り下ろされる軌道の内側、死地へ。
そして、男の顎を掌底で突き上げる。
ガッ!!
鈍い音がして、男の巨体が宙に浮いた。
脳震盪。一撃で意識を刈り取る。
男は白目を剥いて崩れ落ちた。
「なッ……!?」
周囲がどよめく。
だが、俺は止まらない。
倒れた男の体を踏み台にして跳躍。
体内の魔力を循環させ、最低限の出力で筋肉を弾く。
【身体強化・弱】。
「シッ!」
空中で回転し、後衛で魔法を詠唱していた魔術師の背後に着地。
詠唱を始める前に、首筋に手刀を叩き込む。
二人目。
「こ、こいつ速いぞ!」
「囲め! 魔法で動きを封じろ!」
敵が連携をとろうとする。
四方八方から剣、槍、斧が迫る。
だが、俺は止まらない。
壺を割らずにノクトたちと戦った、あの闇夜の組手を思い出せ。
敵の攻撃を利用し、同士討ちを誘う。
「そこだ」
迫りくる剣士の剣を、最小限の動き――首を数センチ傾けるだけで躱す。
その剣先が、背後から迫っていた槍使いの肩に深々と刺さる。
「ぐあっ!?」
「バカ野郎! どこ見てんだ!」
混乱する敵陣の中を、俺は水のようにすり抜ける。
触れさせない。捕まらせない。
そして、すれ違いざまに急所を打つ。
鳩尾、顎、こめかみ、膝の裏。
人体構造を知り尽くした、ヴネナン直伝の「解剖学的打撃」。
バタバタと、人が倒れていく。
魔法を使う暇もない。武器を振るう隙もない。
俺が通った後には、呻き声を上げる敗者の山が築かれていく。
「……な、なんだあいつは!?」
「スキルを使っていない……? ただの体術か!?」
「あの細い体で、どうやってあんな力を!?」
観客席がざわめき始める。
嘲笑は消え、驚愕と、そして熱狂へと変わっていく。
弱者が強者を倒す。
それはいつの時代も、観衆を最も興奮させるエンターテイメントだ。
「すげぇぞ! あの少年!」
「行けぇ! ぶっ飛ばせぇ!」
いつしか、俺への声援が響き始めていた。
俺は汗を拭い、残った敵を見据えた。
あと五十人。
……いい運動だ。
敵の数が半分を切った頃、戦場の空気が変わった。
雑魚はあらかた片付いた。
残っているのは、実力者たちだ。
彼らは俺を「獲物」ではなく「脅威」として認識し、本気で潰しにかかってきた。
「調子に乗るなよ、小僧!」
一人の魔剣士が、剣に炎を纏わせて突っ込んできた。
その背後からは、高位の魔術師が広範囲魔法の詠唱を完了させている。
逃げ場を塞ぐ土壁。頭上から降り注ぐ氷の礫。
物理と魔法の波状攻撃。
体術だけでは捌ききれない。
(……なら、少しだけ本気を出すか)
俺はニヤリと笑った。
ここまでは基礎能力のテスト。ここからは、スキルの実戦テストだ。
ただし、全力ではない。まだ見せる必要はない。
【影渡】
俺の体が、インクが滲むように影へと沈んだ。
魔剣士の炎が空を切り、魔法の氷が地面を砕く。
「き、消えた!?」
「どこだ!? 隠密か!?」
狼狽する彼らの足元。
魔術師自身の影が、不気味に膨れ上がった。
俺は姿を現した。
「後ろだ」
背中を蹴り飛ばす。
魔術師は前につんのめり、詠唱が中断される。
そのまま、俺は跳躍した。
リゼとの特訓で編み出した、空中機動。
【因果逆転・質量操作】
体を軽くし、風に乗る。
空中を滑空しながら、戦場全体を俯瞰する。
敵の陣形、隙、死角。すべてが見える。
「終わりだ」
俺は懐から数本のナイフを取り出した。
手に魔力を込める。
【絶対不可視】
ナイフが消える。
見えない凶器が、雨のように敵陣へと降り注ぐ。
「ぐあぁっ!?」
「何だ!? 何が起きた!?」
「見えない! どこから攻撃が!?」
敵が次々と倒れていく。
何に斬られたのかも分からず、恐怖に顔を歪めて。
それは一方的な蹂躙だった。
ティランの力強さ、ヴネナンの狡猾さ、リゼの機動力、ノクトの隠密性、レグルの戦術眼。
それらすべてを吸収し、自分のものとした「完成された暗殺者」の舞踏。
十分後。
フィールドに立っているのは、俺一人だった。
「勝者、クロノス・ナイトレイ!!」
アナウンスが響き渡り、会場が割れんばかりの歓声に包まれた。
地鳴りのような拍手。称賛の嵐。
俺は木剣を下ろし、大きく息を吐いた。
……勝った。
それも、圧勝だ。
一ヶ月前の俺なら、最初の数分で死んでいただろう。
成長を実感する。自分の手が、確かに強さを掴んでいる。
俺は観客席のレグルたちに手を振った。
彼女たちも、満面の笑みで手を振り返してくれる。
ティランが親指を立て、ノクトが小さく頷く。
――だが。
退場しようとした俺の背中に、冷たい視線が突き刺さった。
殺気ではない。もっと不気味な、無機質な視線。
歓声の渦の中でも、その視線だけは明確に俺を捉えていた。
振り返ると、観客席の最上段、暗がりの通路に、一人の騎士が立っていた。
全身を継ぎ目のない銀色の甲冑で包んだ、巨大な騎士。
スカーレットの傍らにいた、「四天王」の一人か。
背丈は高く、肩幅も広い。
一見すると男性のようだが、その立ち姿にはどこか奇妙な艶めかしさがあった。
銀色の金属が、まるで皮膚のようにしなやかに動いている。
兜のバイザーは固く閉ざされ、表情は見えない。
だが、その奥から、値踏みするような視線を感じる。
騎士は俺を見下ろし、兜の奥で何かを呟いた気がした。
声は聞こえなかったが、その口の動きは、こう読めた。
『――合格だ』
騎士は踵を返し、音もなく闇へと消えていった。
背筋に冷たいものが走る。
予選は通過した。だが、本戦はこんなものではないだろう。
あの銀色の騎士。そして、玉座で待つスカーレット。
本当の地獄は、これからだ。
俺は拳を強く握りしめ、次なる戦いへと歩を進めた。
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