表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✴︎追放令嬢は闇魔法で無双する✴︎第二章  作者: ちょこだいふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/34

32話✴︎ノクティスの選択

深淵は、静かだった。


海の底であるはずなのに、そこには波の音も、水流の感覚もない。

ただ、白い光だけが満ちている。


——あまりにも強すぎる光。


輪郭は曖昧になり、距離感すら狂っていく。

セレナが小さく息を呑んだ。


「……音が、消える」


その声すら、どこか遠く聞こえた。

アレクが眉を寄せる。


「なんだよここ…近いのか遠いのか、全然分かんねぇ」


フィンは周囲を警戒しながら、低く告げる。


「クラウディア様。これ以上は危険です」


クラウディアは振り返った。

フィンの影が、薄い。

セレナも、アレクも、この空間では存在そのものが揺らいでいる。

光が強すぎて、影が、定義できない。


——光だけでは、世界は認識できない。


その意味を、クラウディアは理解し始めていた。


だが、ノクティスだけは違った。

幼竜は静かに前を見つめ、まるで何かに導かれるように歩いていく。


「……ノクティス?」


小さく鳴いたノクティスの声は、不思議とはっきり聞こえた。


次の瞬間、深淵の奥で、光が揺れた。

まるで呼応するように。

クラウディアは息を呑む。

そして、見た。


——巨大な光。


海の底に眠る、あまりにも膨大な存在。

けれどそこにあったのは、威圧感ではなかった。


長い長い孤独。


均衡を守るため、ただ一人で在り続けた静かな祈り。

触れた瞬間、言葉ではない感覚が流れ込む。


人々は光だけを求めた。


影を恐れ、

闇を拒絶した。


そして均衡は崩れた。


だから自らを封じた。

世界を壊さないために。

永い時を、ずっと一人で。


クラウディアの胸が痛んだ。


——違う。


闇は、光を壊すものじゃない。

影があるから、光は形を持てる。

どちらかだけでは、世界は成り立たない。


——クラウディアは静かに手を伸ばした。


影が広がる。

だがそれは、光を覆い潰す闇ではなかった。

光を区切り、輪郭を与えるための影。

柔らかな境界のようだった。


その瞬間。


暴れていた光が、ゆっくりと落ち着き始めた。

海が震え、深淵が脈打つ。

白一色だった世界に、少しずつ“形”が戻っていく。

フィンが目を見開いた。


「……均衡が」


セレナも息を呑む。


「音が……戻ってる」


アレクは呆然と立ち尽くしていた。

光はもう、苦しそうではなかった。

静かで、とても穏やかだった。


その時ノクティスが、ゆっくりと前へ進み出た。

クラウディアが目を見開く。


「ノクティス…?」


幼竜は振り返らない。

まるで最初から、ここへ来ると決まっていたように。


光が、優しく揺れる。


ノクティスは小さく鳴き、その光へ寄り添った。


その瞬間に深淵全体が、静かに安定した。


ニブル・アドゥムの声が、低く響く。


「……古き竜は、均衡を見守る者」


「そして新しき竜は孤独を終わらせるために生まれる」


クラウディアは、ノクティスを見つめた。

寂しさはあった。

けれど不思議と、引き裂かれるような感覚ではない。

むしろ、“あるべき場所”へ還るような静けさ。

クラウディアはそっと微笑む。


「…ノクティス、女神と共に生きるのね?」


光が、静かに脈打つ。

そして、女神の言葉がやわらかく流れ込んできた。


——均衡は保たれる…もう、孤独ではない。

——何度でも、会いに行きましょう。

——…ノクティスと共に。


クラウディアは静かに頷いた。


「…ええ。また会いに来るわ」


光が、優しく揺れる。

深淵はもう、恐ろしい場所ではなかった。


静かに世界を支える、光と影の境界だった。



海面へ浮上したとき、空は朝焼けに染まり始めていた。


海は穏やかだった。


あれほど不気味だった光も、もう暴れてはいない。

潮風が静かに吹く。

クラウディアは、水平線を見つめながら小さく息を吐いた。


闇は、光を壊すためにあるんじゃない。

光を、世界に留めるためにある。

その意味を、ようやく理解できた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ