17 (最終話)
「ぐっふ……それは…また、戦の申し子とも言えるレオニダス様のように戦わねばならぬとは、難儀でございますなぁ。」
クルツが同情を滲ませて笑うと、他の騎士達もまた憐れんだように頷いた。
「王国の王太子………可哀想になってきましたね。」
「命がいくつあっても足らないでしょうな………。」
さっきまで王国へ殺気だっていたクセに同情した様子へとコロリと雰囲気が変わった。
『おい!』と思うが、怒りの矛先が収まったようで、秘かにホッと息をつく。
「よし!分かったならこの話は終わりだ!おら、俺は疲れてんだ、全員はけろ!」
もういいだろうと終いにしようとしたのに
「でも……せめてフィオーナ様にだけでも真実を告げても良かったんじゃないですか?
そしたらフィオーナ様だって考えを改めるかもしれませんよ。」
まさかなサマンサが食い下がってきて驚きに目を見開く。
「は?サマンサ?まだ文句を言い足りないのかよ?」
「だって、レオニダス様が命を懸けで戦われたのは結局フィオーナ様の為だったのでしょう?
魔王討伐の名声や王太子の地位なんて貴方には要らないのでしょうが、彼女くらい手に入れてもバチは当たらないと思います。」
「あのなぁ……彼女は王太子の野郎が好きなんだからしょうがねえだろ?ってか失恋の傷口に塩塗り込むんじゃねえよ!」
「でも、事情を知ったら気持ちも変わるかもしれないじゃないですか。」
せっかく穏便に話が纏まりそうなのに何故まだ食い下がるのか?
俺の為を思って言ってくれているのは有り難いが、もう引き下がって欲しい。
やっと弛緩した空気が、また澱み始めて緊張が走るが
「顔は一緒なんてすよ?話してみたらワンチャンあると思うんですよ!
スペックはレオニダス様の方が高いですよ!王太子なんて一度は彼女を見限って離れようとしたんでしょ?それに比べたらレオニダス様の方が一途に思っていたわけですし、誠実さだって負けてないと思うんですよ。こう見えて政治的な駆け引きだって出来ますし、口も態度も悪いけど実は礼儀正しいし、頭だっていい方ですし、こうやって帝国の騎士達が慕うほど人望も厚くて、情も深いじゃないですか!それに………………。」
「!!!!!????」
いつになく引き下がらない上に、やけにレオニダスを持ち上げるような発言を始めて度肝を抜かれる。
どんどんと続いていく褒め言葉に、何となく生温くなっていく雰囲気がむず痒くて居心地が悪くなる。
淡々としながらも、レオニダスの良い所を挙げ出し説得して来ようとする連続褒め殺し攻撃に、とうとう我慢ならずお手上げした。
「ちょっ、ストップ、やめろサマンサ!それ以上俺を褒めるな!」
羞恥に耐えられずに赤くなった顔を片手で隠すように覆うも
「でも事実ですが?」
ニヤつく周りの空気などお構いなしにスンとした表情で言うので敵わない。
「ああ、もうそうかよ!じゃあ、もしお前が彼女だったら俺を選ぶってのかよ!俺と結婚するってか!?」
たまらずヤケクソ気味に叫ぶと
「当たり前じゃないですか。当然ぶっちぎりでレオニダス様を選びますよ。」
素で即答されて、カッと顔に熱が集まった。
「お、おま……、おまえ……そんなこと………。」
「まあ、二者択一の場合ですけど……。」
「……………お前なあ。」
まったく何なんだと、どっと疲れが押し寄せた。
「くくくっ、そうですね。私も女性に生まれていたら是非レオニダス様に娶って頂きたかったです。」
クルツが笑いを噛み殺したように言う。
「はあ!?お前まで何言ってんだクルツ!!」
「ハイ!俺も女だったらレオニダス様を選びます!」
「あっ、俺も!」
「俺もです!!」
「俺は男のままでも行けますよ!」
「誰だ!最後に男でもって言ったやつ!!!」
クルツに続いて他の騎士達も騒ぎ出し、笑い出した。
「ああああ!くそ!おら!!!これ以上巫山戯んなら叩っ切るぞ!!さっさと去ねや!!」
もういい加減限界になり、シッシと鞘に収めた聖剣をぶん回しながら全員追い払う。
(ちょっと約一名説教こきたい奴がいたがそこは無視だ。)
まだ言い足りなそうにしながらもサマンサは騎士達に引きずられていった。
クルツには去り際に
『流石伝承の勇者様、四方八方丸く宥めましたね。』
と振り回される聖剣に目を細めながら囁かれ
(コイツ、さては騎士達の鬱憤を晴らす為に態と煽りやがっだったな。)
とムッと眉を顰めると同時に、聖剣へと流された視線にヒヤリとした。
(一体どこまで知っているのやら…………。)
わざわざ伝承の勇者と呼んだ当たり、粗方気づいているのだろうなと去りゆく背中を目で追った。
大帝国の海軍提督の肩書きは飾りではない。
入れ替わりの3年間、出来るだけ帝国へと情報が渡らないように遮断していたが、クルツ相手に完璧に隠し通せていたとも思えない。
恐らくは色々と分かった上で、見逃して貰っていたのだろうと思い至ると、怒る気にもなれずに脱力の息を吐いた。
「…………伝承の勇者ね………。」
キョロキョロと周りを見渡し、周りに誰一人いなくなったのを確認して鞘から聖剣をスラリと抜く。
鞘から抜き放たれた刀身は、まるで水鏡のように美しく不満気な男の顔を映し白銀に輝いていた。
それはまさしく聖なる森で抜き放たれた時と同じ輝きだ。
「…………おいクソ女神………これで満足かよ……。」
あの決別の日以来、頭に響かなくなった声の主に話しかける。
いや最後に声を聞いたのは、正確には魔王を倒したその瞬間だったなと思いを馳せる。
女神と喧嘩別れをしてから聖剣はずっと普通の剣だった。
切れ味は抜群だったが、そこらにある普通の剣と変わりのない鉄の剣。
輝きを失ってはいたものの魔族達を倒すのに問題はなく、勝ち進めることも出来ていた為、特に問題視されず俺自身も威力が多少落ちたか位の認識だった。
だから魔王との決戦に望むまで『聖剣でなければ魔王は倒せない』という伝承は頭の片隅へと追いやってしまっていた。
(魔王がいる玉座の間へと辿り着き、魔王と直接対峙するまでは…。)
魔族は魔石核と呼ばれる人間で言うところの心臓を破壊すれば倒せる。
幾万の魔族の頂点に立つ魔王と呼ばれる存在であろうとも、それは他の魔族と変わらない。
共に玉座の間へと辿り着いた幾人かの仲間の騎士達と共に魔王に挑んだ。
魔王は強大なの強さを誇り、その剣技も力も卓越したものがあったが、それでも玉座の間にいた他の魔族共全員を討ち取り最後の一人となるまで追い詰めることは比較的スムーズにいった。
しかし魔王には魔王と呼ばれるだけの所以があるのだと、他の魔族とは別格の存在なのだと思い知らされたのは、完璧なタイミングと正確な太刀筋で打ち込まれた騎士の剣が、魔王の身体を斬りつけることも叶わずに真っ二つに折れた時だった。
『斬り伏せるのでは威力が足りない!刺突で魔石核を狙え!!』
斬れぬなら貫き砕こうと何度も突き出される剣にも魔王の魔石核はヒビ一つ入れることは叶わない。
繰り返し同じ場所を穿ってみてもびくともしない魔石核に、無尽蔵とも言うべき魔王の体力のせいで、騎士達の疲労は重なり焦燥の色が色濃くなっていく。
(聖剣を兄に奪われたと言う千年前の勇者が、魔王を後一歩という所まで追い詰めていながら、封印するしか無かった筈だ。)
魔王の脅威はこの世ならざるものとしか思えない頑強さなのだと知った。
手近にいた側近に命じた。
『……次の一撃で俺が魔王の魔石核を砕けなければ、俺ごと結界で封じて全員退避させろ!』
『!!!???』
『港にサマンサと言う女がいる。後はその女の指示を仰げ!!』
『ゆ、勇者様!!!???お待ちを…………………!』
『命令だ!!違えるなよ!!!』
側近の制止する声を背に魔王へと駆けた。
この時この場所で、効力を失っているとはいえ聖剣を持つ俺が全力でぶつかり魔王の魔石核を破壊出来なければ、魔王を倒せる可能性はゼロだ。
倒せぬならば、魔王を倒す決定打がないままこの場にいる全員が全滅してしまう。
彼等を守る為にも一か八かの大勝負に出るしかなかった。
俺が死んだ場合に備えて、サマンサには事細かに指示を出してあった。
どうせそうなれば帝国の力を頼る以外に魔王を倒す道はないのだ。
後は帝国の武力と兵器が魔王へ通じることを祈るばかりだ。
『ふはははは、力を失った聖剣の勇者など恐れるに足らぬ!!捻り潰してくれる!!』
度重なる攻撃でもヒビ一つ入れられなかった聖剣を見て、聖剣には最早かつての力は残っていないと確信したのだろう。
俺の攻撃など警戒する必要すらないとばかりに、魔王は防御など顧みずに、全力の力で剣を振り下ろすべく、魔石核を晒した状態で腕を振り上げた。
侮られても仕方ないほど、魔石核を砕ける望みは薄かった。
それでも一縷の望みをかけて、晒された魔石核を目がけて一気に飛び込み、己の全てを賭けて渾身の一撃を繰り出した。
だが渾身の力を込めて突出した剣の切っ先が、魔石核にガツリとぶつかり弾かれる感覚を感じて己の死を覚悟した
振り下ろされる腕に、もはや抗う術はない。
『クソったれ…………!!!!』
だが……
ここまでかと、死を受け入れようとした瞬間、聖剣は目が眩むほど眩く輝き、白銀の刃が魔石核を粉々に突き砕いた。
目を見開き驚きの表情を浮かべたのは、魔王だけでなく俺も同じだ。
すっかり力を取り戻し美しく輝く聖剣を、魔王は信じられないと見つめ、そして憤怒の表情へと変えながら、最後の力を振り絞るように剣を振り下ろした。
『貴様!!!我を謀った…か………。』
魔石核を貫いた聖剣を横薙ぎに振り抜けば、魔王は最後の言葉を最後まで放つことなく、真っ二つに別れて崩れ落ちた。
自身が成し遂げた事とはいえ、信じられずに呆然と死に絶えた魔王を見下ろす俺の頭に響く、懐かしくも忌々しいあの声………。
『……………ありがとう。』
それがクソ女神の声を聞いた最後だった。
ずっと疑問だったことがある。
何故…『伝承の勇者』に選ばれたのが俺だったのか。
帝国には俺以外にも勇者になり得る資格のある王家の血筋の男たちが数名いる。
俺が第二皇子なのだ。当然兄である皇太子がいれば、皇帝と年の離れた弟である叔父、王家の血筋である公爵家の令息達など、わざわざこんな捻くれ者を選ばなくても、女神の意思を尊重し命令に従順に聞く候補者は幾らでもいたのだ。
しかもこんな捻くれ者に育ったのも元を正せばクソ女神のせいだ。
俺が唯々諾々とクソ女神の手足として動かない事など、早い段階で分かっていた事だろう。
双子であった千年前の勇者達になぞらえて同じ顔にこだわっていたとしても、やりようは幾らでもあったはずだ。
「…………何時から謀ってやがった?」
返事のない女神に問いかける。
産まれた時には既にそのつもりだったのか、それとも途中から思惑が変わったのかは分からない。
分からないが、もしもレオニダス以外の勇者であったならば、結果は大きく変わったていたことだろう。
少なくとも途中からでも勇者を別の者に変更していれば、もともと衰退の一途を辿っていた王国だ、女神の望み通り滅んでいたに違いない。
勇者が王国の王太子と入れ替わり、あまつさえ王太子として魔王を倒すなんていう、正気の沙汰とは思えない行動をとるレオニダスという男でなければ、王国に未来などなかったろう。
「………そんなにあの二人を助けたかったのか?」
女神イリシスは神々の主神であり、愛の女神だ。
結果を見れば彼女の望みが何かなど、否が応でも分かるというものだ。
この茶番全部が女神の手によるものだったのだろう。
全ては女神の盤上遊戯、結局のところレオニダスは女神の掌の上で踊らされいたに過ぎないと言うことだ。
腹の立つことこの上ない。
「聞いてんのか、嘘つき女神…………。」
言い訳する気もねえのかよと悪態をつく。
せめて『最初から言えば良かったじゃねえか……。』と思うものの、それならばそれできっと女神の望み通りには動いていなかっただろうと思うと、腹が立ちつつも飲み込むしかない。
「……この貸しは高くつくからな。」
うんともすんとも言わないクソ女神にむかって、聖剣じゃ報酬にはなんねえからなと念を押す。
そして大きく大きく息を吐き出すと、大海原の水平線の遥か彼方にいるであろう彼女に
『幸せになれよ…。』
と呟いて晴れ晴れと笑ったのだった。
終わり
最後までお読み頂きありがとうございました。
後半レオニダスのパートはサラッと流そうかとも思っていたのですが、それだとタイトルが回収出来ないと思い細かに書いていたら、伸びに伸びてとうとう17話まで来てしまいました。
投稿テンポも悪いのにずっと読んで頂き本当に感謝です。
特にスタンプやメッセージで応援してくださった方がいなければ途中で心が折れて終わってたかもしれません。大感謝です。
このお話、最初はレオニダスが主人公の『フラれ勇者の諸国漫遊記』という、魔王を倒した勇者でありながら国を飛び出して、惚れっぽい主人公があっちやこっちでフラれまくりながら魔物を退治してまわるというオムニバスを書く予定でしたが、1話目を考えている内に1話目の話を盛りすぎてメインになってしまいました。
別物としていつか機会があれば書くかもしれないので、その時はまたお読み下されば嬉しいです。




