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ふたりのハヤテ その4 バッタのスープ

今回はバッタ戦以上の迫力の戦闘シーンをお届けします!

また、魔法を使うシーンも出てきます!

ゲームなんかで最初期に使える魔法、簡単なものですが、めちゃくちゃ助かりますよね。そういうありがたみを噛み締めながら書きました。

かざみとほむらの活躍も書けて嬉しかったです!

今回も作中に昆虫が出て来ますので、苦手な方はご注意ください。

挿絵(By みてみん)

 日が落ちて森が暗くなり、五にんは川の右岸から少し離れた高台で、キャンプをすることにしました。河原の石で作った即席の竈の上には鍋が置かれ、ぐつぐつとスープが煮立っています。その中にはブツ切りのバッタに干し肉、それにうみとそらが採取した野草が入っていました。

「おいし! おいし!」

「お兄ちゃん、プリプリね!」

 きょうだいは大喜びでバッタのスープを食べています。

「ううっ、いい匂いなのが辛い……!」

 ほむらは鍋から目を逸らし、固いパンを囓っています。するとかざみがじっと鍋を見つめ、そしてカップに少しスープを掬い取り、啜って目を瞠りました。今度はバッタ以外の具もカップに入れ、食べて大きく頷きます。

「ほむら、このスープは良い味だ。俺もバッタを食べる気にはなれないが、バッタ以外の具は美味しいぞ」

「……ホント?」

「カップを貸してくれ」

 かざみはほむらからカップを受け取り、バッタを避けてスープを注いであげました。

「食べてみろ」

「う、ウン……」

 恐る恐るスープを啜ったほむらが目を丸くします。

「美味しい……!」

「おおほむら、こうしてパンをスープに浸すと最高のお味よ!」

 うみの勧めに従い、ほむらが携帯用の固いパンをスープに浸すと、なんとも美味しく食べやすくなります。初夏の夜はまだ冷えます。優しい出汁のスープは、身体にじんわりと染み渡りました。

「だいぶ奥まで来たとは思うんだけど……この森は一周するのに三日がかりだったっけ?」

 ほむらが言います。

「明日はとにかく川を遡って、行けるところまで行ってみよう」

 かざみの言葉に皆が頷きます。

「ところでさ、うみとそら、けっこう強くね……?」

 ほむらが言いました。

「そうだな。初対面の時は正直頼りなく見えたが、バッタとの戦いぶりは見事だった」

 かざみも言います。

「おお、森には慣れているのよ。うみたちが生まれ育ったのも森なのね。高い木に板を渡して、皆が巣を作っているの」

「そうだったのか……」

 ほむらとかざみは納得します。

「うみとそらは巣立ちの練習と言っていたな。将来はどうするんだ」

 うみが答えます。

「もしなれるのなら、父さんと父ちゃんみたいな強い冒険者になりたいのね」

「そうだね、お兄ちゃん!」

 そらが明るく言います。

「うみはお金が欲しいの。でっかい巣を作りたいのよ。そこで卵を孵して、いっぱい子供を育てるの」

「お兄ちゃん、楽しみだね!」

「いっぱい子供って……ハーレムでも作るのか?」

 ほむらが訝しげな顔になります。

「うみはね、お墓に入るはずの卵から産まれたの」

 穏やかな口調のうみに、ほむらとかざみは言うべき言葉が見つかりませんでした。

「産んだらいけない卵を、父さんと父ちゃんがこっそり預かって、孵してくれたの。うみのお母さんは卵を産んだ後、遠くにお嫁に行ったのよ」

「うみ……」

「おお、卵を葬るのは仕方がないことよ」

 鳥人はカップルの間に卵が産まれても、育てられなければ孵さないこともあります。その場合は死んだ鳥人同様、卵にも墓が作られました。

「だけどうみは、父さんと父ちゃんに譲られて、立派なおととまでできたの。とても運が良くて、素晴らしいことよ」

 竃の火がパチパチと爆ぜ、うみが静かに話す声に皆が聞き入ります。

「うみはね、一つでも二つでもいいから、なるべく卵をお墓に入れたくないの。だからうみは、将来は卵を預かって、孵すお仕事をしたいの。もちろん産まれるヒナたちには、ご飯をあげて、字を教えるのよ」

「なるほど、孤児院だね」

 ほむらが言いました。

「そうよほむら、うみは孤児院の先生になりたいのね」

「お兄ちゃん、そらも孤児院の先生になる!」

 わかっているのかいないのか、そらも元気に言いました。


「ほむらとかざみは修行中ね」

 うみが確認します。

「そうだね。うちの村はね、飛べるだけじゃ巣立ちできないんだ。なにか試練をくぐり抜けなくちゃいけないんだよ」

「おお、それは難しいの?」

 うみが身を乗り出します。

「そうだね、いろいろな試練があるんだ。冒険して功績を上げたり、機で織った布で祝いの衣装を仕立てたり、絨毯を織ったり、本を一冊書いたり、いろいろよ」

 かざみが頷きます。

「空が飛べて、なにか他に功績があれば巣立ちできる。俺たちは冒険でそれを達成したいと思っている」

 ほむらは手に持ったカップに目を落とします。

「かざみは村長さんの息子でさ……いっぱい縁談がくる。巣立ちしたら……今より少しは自由になれるかもって思ってさ」

 うみが訊ねます。

「かざみとほむらはつがいなの?」

「ああ。将来の約束をしている」

 かざみが言いました。ほむらは頬を赤くして俯きます。

「おお、素敵ね! きっと父さんと父ちゃんのように、立派なつがいになるのよ」

 少し離れた場所で、オキナはカップのスープを啜りました。普段は厳しいその視線は穏やかで、唇は微笑みの形を作っています。

 その時、静かだった森に、遠くから悲しげな声が響きました。

「お兄ちゃん、誰の声かしら」

「おお、この森には狼はいるの?」

「狼の遠吠えかな……」

「ほむらたちは狼と戦える……?」

 微かな吠え声をなんとなく聞いていた皆は、そこで我に返りました。

「犬!!!」

 そらがガバッと立ち上がります。

「ハヤテちゃんの声よ、きっとそうよ! 大変! すぐに助けに行かなくちゃ!」

「待て! 落ち着け小僧、今は真っ暗だ。朝まで待つんだ!」

 オキナが厳しい声を出します。皆が浮き足立ったその時です。ごうっと黒い竜巻のようなものが襲いかかってきました。バサバサという羽音と共に竈の火が掻き消え、辺りは真っ暗になります。

「空飛ぶ魔物よ! 気をつけて!! おお、おとと、どこにいるの!?」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

 かざみは立ち上がって剣の柄に手を置き、ほむらも弓を構えました。

「皆、声を出せ! 俺はかざみだ。ここにいる!」

「俺はほむら! なにが起きている!?」

 突然辺りが明るくなりました。見るとオキナが杖を掲げています。杖の先には煌々とした光が灯っていました。

「オキナ殿、助かった! ほむら、背中を頼む!」

「勿論よ!」

 ふたりは背中合わせになりました。かざみは剣を抜き放ち、ほむらは弓に矢をつがえます。黒い竜巻のようなものは、ワッと広がった後、またパーティに襲いかかってきました。

「これは蝙蝠! たぶん血吸い蝙蝠よ! 噛まれても引っ掻かれても駄目!」

 うみが声を張り上げました。

「おとと、オキナさんとうみを守って!」

「わかったのね、お兄ちゃん!」

 そらが拳を突き合わせ、ふたりの前に立ちはだかります。

 蝙蝠は群れをなして五にんを襲います。ほむらは素早く矢をつがえ、放ちました。飛び回る蝙蝠ですが、ほむらも翼を動かしながら素早く跳ね回り、二匹を射落としました。

「かざみ、行け!」

「わかった」

 蝙蝠に襲われながらも、かざみは精神を集中させます。そして気合いの声と共に、大剣を振るいました。ごうっと風が巻き起こり、蝙蝠が巻き込まれ、切り裂かれます。何匹かが落ち、蝙蝠たちはギャアギャアと叫び声を上げました。

「もう一発いけるか!」

「ああ」

 かざみは再び剣を構えます。ほむらも続けざまに矢を放ちます。すると蝙蝠たちの動きが変わりました。群れをなしていた蝙蝠たちはパッと散開し、ギャアギャア言いながら上空に逃れて行きました。悲しげな遠吠えが微かに聞こえ、再び森は静かになりました。



「お兄ちゃん、オキナおじいちゃん、蝙蝠さんたち、いないいないしたよ!」

 そらは拳を握り、鬱蒼とした森の梢を見上げます。

「おお、おとと、大丈夫!?」

「大丈夫よ。でも一匹も落とせなかったの。とても素早い蝙蝠さんたちだったのね。お兄ちゃん、おじいちゃん、お怪我はない?」

「俺は無事だ。ありがとよ、小僧」

「うみも大丈夫よ。おお、ほむらとかざみは無事かしら!?」

「うみ、来てくれ! かざみが怪我をした!」

 ほむらの声に、うみは血相を変えて駆け出しました。

「傷を見せて!」

「かすり傷だ」

 かざみは怪我をしたとは思えない落ち着きぶりで、服の左袖を捲って見せます。

「爪でやられたようだ。だが深い傷ではない」

 そう言いながらも抉れた傷口からは血が滴っています。

「おお、蝙蝠の傷を疎かにしてはダメ! おとと! お願いがあるの!」

「どうすればいいの? お兄ちゃん!」

「傷を露出して、腕を縛って欲しいの。おとともかざみも、決して傷や血に触っては駄目!!」

 言って竈に駆け寄って鍋を掴み、その中にカップを一つ放り込みました。

「身軽なほむらに着いて来て欲しいの! おお、この鍋を持って!」

「わかった! なんでもやる!」

「川に降りるのか! この灯りを持って行け!」

 オキナがうみに杖を預けます。

「オキナさん、ありがとう! 魔法をかける前に傷を洗いたいの。危ないけど行くのね!」

「任せとけ!」

 ふたりは翼を動かしてバランスを取りながら、川辺まで降りてきました。

「おお、お鍋とカップをゆすいで、お水を汲んで欲しいのね」

「わかった」

 うみがほむらの手元を照らし、ほむらは手際良く鍋に水を汲みました。水を満たした鍋を持ってかざみの許に戻ると、うみは鍋の前に跪き、祈りの言葉を紡ぎます。鍋の水が青白く光り、そして光はスッと消えました。

「聖水か……」

「かざみ、腕を見せてちょうだい」

 うみはかざみの傷を真剣に検分します。少し腫れがありました。うみは再び祈りの言葉を唱えながら、カップに聖水を汲み、傷を洗い清めていきます。それが終わると、癒しの杖を手に取りました。

「おお、いのちの精霊よ、この傷を癒やしてちょうだい」

 そして呪文の詠唱を始めます。すると傷の周囲が光り、やがてスーッと消えていきました。気づいたら傷も綺麗に消えています。

「かざみ、痛くない?」

 かざみは腕を振りました。

「全然痛くないな。うみは腕がいい」

 言われたうみはホッと息を吐きました。

「毒にやられなかったのはかざみが強いからよ。毒と戦う力があったのね」

「うみ、ありがとう!」

 ほむらがうみに抱きつきました。

「おお、ほむら、お願いがあるの。かざみの血がついた服は、そこを切り取ってしまって欲しいのね」

 うみが言います。

「わかった!」

 ほむらは慎重にシャツの左袖に鋏を入れ、半分から下を切り取りました。

「毒があったかなかったかは、実際のところはわからないの」

 うみが言います。

「だけど毒や病気を持つ蝙蝠さんはとても多いのよ」

「うみがいれば安心だな!」

 ほむらがうみの背中を叩きます。するとうみは首を振りました。

「おお、毒消しの技はとても難しいの。うみはヒーラーだけど、駆け出しだから毒消しの呪文はまだ使えないのね。だけど心配しないでね、森から持ってきたこの薬草があるの」

 言ってポーチから小瓶を取り出します。

「三回分あるの。だから、きっと大丈夫よ」

 ハッキリと言ったうみでしたが、ほむらはうみの目に不安の色を見ました。

「蝙蝠共は引き揚げて行ったな……だが、またいつ襲ってくるかはわからん」

 オキナが梢を見上げます。

「遠吠えは関係あるのか? 犬……ハヤテが蝙蝠を操っているとか……?」

 かざみが言います。夜空を透かし見ながらそらが言いました。

「ハヤテちゃんは悲しそうよ。それに、蝙蝠さんたちに引き揚げるよう言ったのは、違う誰かよ」

「誰が言っている」

 オキナが低く訊ねます。

「おお、とても聞き取りにくい声だったのね。でもその声が、蝙蝠さんたちに帰れと言ったのよ」

「『魔物に知恵がついた……』」

 ほむらが呟きました。

「ほむらもそう思う? 何者かが、バッタや蝙蝠さんを操っているのかしら」

 うみが表情を厳しくします。

「そうさな……また戦いになる可能性は高いだろう」

 オキナが言いました。



「さて、俺の出番だ。ヒーラーの小僧が言うように、蝙蝠には気をつけなくてはならんな」

 オキナは布で口元を覆い、手袋を嵌めました。皆が興味深げにオキナを見ます。

 オキナは杖を掲げ、地面に転がる蝙蝠たちを見て回ります。その中には矢に貫かれたもの、風に切り裂かれたものがありました。オキナは頷きます。

「蝙蝠はとんでもなく素早い。射落とすたぁ大したもんだ」

 するとほむらが唇を尖らせました。

「それが……俺の感覚では外してたんだよ」

「ほう」

「言うなら矢が蝙蝠に吸い込まれた……そんな感じ」

「きっとバッタのお陰よ! バッタの風切り羽根が効いたのね!」

 うみが興奮した声を出します。ほむらは笑いました。

「そこはオキナのお陰って言わないか?」

「そ、そうね……」

 うみが恥ずかしそうにすると、ほむらは声を立てて笑いました。オキナの目尻にも笑い皺が寄っています。オキナは今度は切り裂かれて落ちた蝙蝠を観察しました。

「大剣使いの小僧、風の加護があるんだな」

「はい」

「その歳でこの威力はなかなかのものだ。この中で一番早く飛べるようになるのはお前さんかも知れんな」

「かざみ、凄いじゃん!」

「ありがとうございます!」

 かざみはオキナに深く頭を下げます。オキナは落ちた蝙蝠を慎重に触り、翼についた鉤爪を観察しました。

「蝙蝠の鉤爪は鋭くて丈夫だから、刃に付与すれば鋭く良く切れるようになる。また、翼はバッタの風切り羽根よりも強い風魔法がかかっとる。かざみ、お前さんの剣に付与したら効果が高そうだが、どうだ?」

 かざみはしばらく考えて言いました。

「蝙蝠の魔力を付与したら……刃が毒を帯びたりはしませんか?」

 オキナは難しい顔をしました。

「そうさな……まず、うみの言ったようにこの蝙蝠が病気や毒を持っていたか自体がわからん。ただ、もし持っていたと仮定すると……可能性は低いが、確かに刃が毒を帯びる可能性はあろうな」

「俺は……可能性が低く、一時的なものになるのだとしても、毒を武器にしたくはありません」

 かざみは眉を寄せながらキッパリと言いました。オキナは軽い笑い声を立てます。

「わかった。多少強化されていても、使うのに気が進まない得物を振るうと、心に迷いも出るだろう。お前さんは潔癖のようだが、それもいいだろう」

「折角のお心遣いに申し訳ありません」

 かざみは深く頭を下げます。

「いいってことよ! それに、素材はなにも全部自分たちで使う必要もない。余った素材は売って次の冒険に備えてもいいわな」

「おお、そうね! もし売ることになったら、うみがしっかりお会計をするのね」

「うみってなかなかにがめついよな……」

 ほむらが言いながらしゃがみ込みます。そしてそこら辺の枝で蝙蝠をつつきました。

「俺、毒とか構わないから蝙蝠の翼で弓を強化してみたい」

 オキナは頷きます。

「そうさな……バッタの魔力がまだ残っているから、この冒険が終わってからでも遅くはないと思うぞ」

「わかった!」

 ほむらは膝をパンと叩いて立ち上がります。

「うみ、お前さんはまだ毒消しの魔法が使えないようだが、蝙蝠の鉤爪が毒を帯びていれば、薬の材料になるかもしれん。研究してみるか?」

 うみは頬を染めました。

「おお、それは素敵ね! 帰ったら図書館に寄ってみたいのよ」

 オキナは短刀を使って蝙蝠から鉤爪や翼を取り外し、腰に下げた小さなポーチに入れました。翼などかなりの大きさですが、スウッと吸い込まれ、ポーチは元の大きさのままです。ほむらがポカンと口を開けました。

「オキナ、もしかしてそれ……保存袋?」

 オキナはニヤッと笑いました。

「そうさな。ちっと危険な素材だから使った。盗まれちゃ敵わんから、他言無用で頼む」

 ほむらは羨ましそうにオキナのポーチを見ました。

「俺もいつかは欲しいけど、おじいちゃん流石だよな……」

 するとそらがいいました。

「おお、お兄ちゃんも保存袋を持っているの。ハヤテちゃんの飼い主さんから預かった、匂いつきのハンカチが入っているのよ」

「借りもんだけど、そういやそうだな!」

 ほむらが言います。

「おお……ハヤテちゃんが心配なのね。早くお嬢様のところまで連れ帰ってあげたいの」

 そらの言葉にオキナが厳しい顔つきをしました。

「さっきも言ったが朝まで待つんだ、小僧」

 そらは俯きます。

「そら、オキナ殿の言う通りだ。いつまた蝙蝠が襲って来ないとも限らない。交代で見張りを立てて、朝を待とう」

「そうよおとと、かざみの言う通りよ」

 うみがそらの背中に手を添えて慰めます。そらはゆっくりと頷きました。

今回のお話は如何でしたか?

次回は来週金曜日の更新になります!

是非よろしくお願いします!

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