ふたりのハヤテ その3 森へ
パーティはいよいよ呪われた森に入ります! この回はなかなか面白く書けたと思うので、楽しんでいただけたら嬉しいです!
みんなのイラストを描いてくださった立川エコさん、新しい表紙画像をご用意くださった鳴滝さん、お二方ともありがとうございます!
※昆虫が出てくるので苦手な方はご注意ください!
翌朝、五にんは森に入る準備を整え、別荘を出ました。執事とダニエルが館の裏に案内してくれます。家畜小屋と畑がありました。使用人がいく人か働いています。そこは牧場になっていました。さらに向こうに草原と森が見えます。牧場と草原の境目には石壁が築かれていました。牧場の脇には森から流れ出したせせらぎがあります。
[石垣は魔物のために作られたのですか?]
かざみが訊くと、執事は首を振ります。
[いえ、これは昔からありました]
ダニエルが不機嫌そうに言います。
[以前は石垣の内側で家畜を放牧してた。だけどヤギが魔物に攫われてな。今は家畜小屋に閉じ込めておる。可哀想な話だし、わざわざ草刈りして餌をやるのも面倒で敵わん]
執事がため息をつきました。
[これは旦那様方には決して言えませんが、正直なところ……我々はこの館を離れたいと思っています。ヴェフツの街にあるお館で働けたら、どんなに安心でしょう]
[わかりました。犬を探し、この森を元に戻すために全力を尽くします]
かざみが言いました。
[私共もご無事を祈っております]
執事が頭を下げます。
[バッチリ解決してやるよ!]
ほむらは親指を立てました。
[あの……執事さん、この川の水は地域の人が使っているのかしら?]
うみが執事に訊ねます。
[そうですよ。我々も生活用水として使いますし、下流の領民も同様です]
そしてパーティは二人に見送られ、川に沿って歩き始めました。
牧場を出てから森までは、見た目より距離がありました。五にんが歩いていると、どこからか一羽のカラスが飛んで来て、上空を旋回しました。
「アホー! アホー!」
「おお、おとと、あのカラスさんがなんと言っているのかわかる?」
「そうねお兄ちゃん、あのカラスさんはそらたちを『バーカバーカ』と言っているのよ」
「あいつ! 撃ち落としたろか!」
ほむらが弓を構えます。
「やめた方がいい。我々に情報を与えてくれただろう」
かざみが言いました。
「情報!?」
「森に入るのは愚か者だという警告かも知れない」
「失礼な!」
「怒るな。俺たちは修行を積んできた。森に入り、その成果を見せる時だ」
かざみは動じません。カラスは上空でしばらく皆を嘲っていましたが、やがて飽きたのか、森の中に入って行きました。
川縁を歩きながらうみが地図を広げました。
「まずは川を遡ってみるといいと思うの」
「うん、俺もそれがいいと思う」
ほむらが答えます。
「迷いにくいし、犬が無事ならきっと水場があるところだと思うのね」
「そうだよな。地図には他に目立った地形もないし」
五にんは川沿いに歩き、森に入って行きました。森の中はひんやりとしていて、せせらぎが聞こえます。
「『呪われた森』って感じはしないよなぁ」
「ほむら、油断してはいけない」
先頭に立ったほむらとかざみは声を掛け合いながら進みます。背後のうみとそらとオキナも、問題なく着いて来ているようです。
パーティは川の右岸を進みました。左岸はだんだん高くなり、地図にあるような崖になっていきます。やがて川が大きく曲がった場所に来ました。崖のある左岸側は水の色が青く、いかにも深そうです。右岸側は水深が浅く、広めの河原になっていました。そこで突然、草むらからいくつかの影が飛び出しました。
「ほむら、来たぞ!」
どうやら敵襲です。ほむらが弓を構え、かざみが剣を抜き放ちます。すると背後から凄まじい雄叫びが上がりました。
「うぉおおぉお!!」
「バッタよーッ!!!」
うみとそらがふたりの背後から踊り出ました。そして目まぐるしく跳ね回るバッタ数匹に襲いかかります。
そらは素早い相手をものともせず、拳をバッタに叩きつけ、非力そうに見えたうみまでも、癒しの杖でバッタをボコボコに殴っています。最後に残ったバッタがブゥンと羽ばたき、逃げようとしました。
「逃がさない!!」
そらが地面を蹴り、翼の浮力を借りて舞い上がります。勢いのままに宙返りし、バッタを地面に叩き落としました。そこにうみが躍りかかって、癒しの杖でバッタの頭を潰しました。
「ふぅ!」
ほむらとかざみが呆然としている間に、戦闘は終わっていました。河原には一抱えもありそうなバッタの骸が点々と落ちています。
「俺は…狂戦士というものを見たことはないが、あんな感じなのだろうか……」
「そ、そうね……」
「おべんと、おべんと」
うみとそらがバッタを拾い上げ、麻袋に入れています。ほむらは震える声で訊ねました。
「そ……それ、どうするの?」
満面の笑みのそらが、あどけない声で言いました。
「今日のお弁当よ! 干したバッタもおいしけど、丸焼きもそれはそれはおいしのね!」
「待て。小僧共、そのバッタをよく見せろ」
「おお、勿論いいのよ」
うみとそらは倒したバッタ五匹を河原に並べました。ほむらやかざみにとっては目を背けたい光景です。オキナはしゃがみ込み、バッタをじっくりと検分しました。そして一匹のバッタから、慎重に羽根を一つ、取り外します。
「こいつぁバッタの風切り羽根だ。弱い風魔法がかかっとる」
「おお、そうだったのね、オキナさん」
うみが目を丸くします。
「矢に込めたら、飛ぶ速度も当たる確率も高くなるぞ」
バッタから目を逸らしていたほむらの表情が変わりました。そしてオキナの傍にしゃがみ込みます。
「どうせなら弓に込める方が良くない? 矢だったら一回限りだけど、弓にかければもっと効率がいいよ」
「そうさな、無事な風切り羽根は……四つだ」
オキナがバッタをひっくり返しながらさらに三つ、羽根を取り外しました。
「これだけあれば弓にかけられるだろう」
「オキナ、いいとこあるじゃん!!」
ほむらはすっかり気分を良くしました。オキナはバッタの検分を続けます。そして一匹のバッタの後ろ脚を慎重にもぎりました。
「バッタの後ろ脚は強いから強化に使える」
「おお!」
皆はオキナの周りに集まりました。
「同じような役割の……靴なんかにかけると相性がいいだろう。歩いても疲れにくいし、高く跳べるようになるぞ」
言いながら、無事だった後ろ脚を河原に並べます。
「左右の靴でひとり分だ。そうさな……体力のないヤツが使うべきか、戦うヤツが使うべきか」
「おお、オキナさんはおじいちゃんだから、是非使って欲しいのね」
うみの言葉に、オキナは言いました。
「実は俺の靴には、もっといい素材の魔法がかかっとる。うみ、お前さんにかけるといいかもしれんな。見たところ一番体力がなさそうだ」
「そうだな、ヒーラーは体力を温存した方がいい」
かざみが同意し、ほむらも頷きました。
「それと顎……」
オキナは並ぶバッタの頭部を検分しました。
「ずいぶんボコボコにしよったな……無事なのは二つだ。バッタの顎は強いから、鈍器の強化に向いている」
一同は顔を見合わせ、そしてそらに視線が集中しました。
「そうさな、拳にかけるといいだろう。その革手袋を外してくれ」
「オキナおじいちゃん、ありがとう!」
そらは喜んで指なしの革手袋をオキナに預けます。そこでほむらとかざみが驚きました。
「えっ……この場で魔力を取り出すの!?」
「そうだ。言っただろ、『少しばかり魔法が使える』と」
「おじいちゃん、付与術師か!」
普通、素材による魔法の付与は専門の店に行ってするものです。冒険者でその技能を持つ者は珍しく、パーティにいるのは非常に稀です。
河原にオキナが呪文を詠唱する声が流れます。高くなり、低くなるそれは、せせらぎの音にかき消される程度の声量でしたが、彼の持つバッタの風切り羽根の輪郭がフッとぼやけ、光の粒となってほむらの弓に巻きつき、そして消えていきました。
「うわぁ……!」
傍で見ていたほむらが感嘆の声を上げました。弓は綺麗な緑色に染まっていたのです。
「おお! 綺麗なバッタ色ね!」
うみも興奮します。
「ほれ、できた」
オキナはほむらに弓を返しました。緑に染まった弓の表面には、小さな光の粒が瞬いています。ほむらが弓を握り、そっと引くと、弦がブン、と鳴りました。彼は目を瞠りました。
「……弦音が違う!」
ほむらの頬は昂揚から赤くなりました。
「どうだ、狙いやすくなったか?」
かざみが訊ねます。
「それは射てみないとわからないけど……オキナ、これ回数制限とかある?」
「そうさな……バッタの風切り羽根なら付与は持って数日だ。多少の消耗を惜しむよりも、この冒険で使い切るつもりでいた方がいいと思うぞ」
「そっか!」
ほむらは弓に矢をつがえ、感覚を確かめています。オキナはバッタの顎に取りかかりました。
「草の中を跳ね回る自由な魂よ、呼びかけに応えよ。若き鳥に力を与え給え……」
鳥の言葉で呪文を呟きながら魔力を紡ぎ出し、そらの革手袋に付与していきます。すると弓と同様、革手袋も綺麗な緑色に染まりました。
「ほれ、できた。俺が付与術師だということはあまり言い触らさんで貰えたら有り難い。煩わしいからな」
「うん、オキナおじいちゃん! そら、秘密にするね!」
革手袋は、ほむらの弓と同じように、表面に小さな光の粒が瞬いています。そらは喜んで革手袋を嵌め直し、パンチを繰り出しては感覚を確かめています。
「おお、パンチが速いのね!」
「そいつぁよかった。素材のバッタが素早さを上げたってところかな」
オキナは最後にうみの靴に取りかかりました。バッタの後ろ脚から紡ぎ出された魔力が、靴に吸い込まれていきます。付与が終わると、靴も綺麗な緑色に染まりました。うみは返された靴を履き直すと、軽くジャンプしてみました。ポンポンと跳ねながら翼も動かします。その跳躍は、ヒトにはとても不可能なものでした。
「おお……とても軽いのね! オキナさん、ありがとう! バッタになった気分よ!」
うみは腰につけたポーチを探ると、小瓶を取り出しました。
「オキナさんにはこれを飲んで欲しいのね」
その小瓶には黄金色の液体と白い花が入っていました。
「こいつぁ……」
「そうよ、気持ちを落ち着けるお薬よ。魔力の回復をして欲しいの。ずいぶんお使いになったと思うのね」
オキナは手を振りました。
「バッタは下級の魔物だし、そんなに減っちゃあいねぇよ」
「おお、素材や魔法の品物を惜しんではいけないの。おっしゃったのはオキナさんよ」
うみの言葉に、オキナはニヤリと笑いました。
「こいつぁ一本取られたな。わかった。有り難くいただくとしよう」
オキナによる付与も終わり、うみとそらは河原に並んだバッタをいそいそと拾い集めました。
「やっぱりそれ拾っていくんだ……」
ほむらとかざみはゲッソリとした表情です。
「バッタは悪くないぞ」
オキナが意外なことを言いました。
「茹でるといい出汁が出る。今晩はバッタのスープなんてどうだ」
「おお、オキナさん、それは素敵ね!」
喜ぶうみに、ほむらは思い切り顔を顰めます。
「オキナはこっち側だと思ってたのに……!」
オキナはくつくつと笑います。
「なに、お前たちが保存食が大好きなことはわかっとる。温かいスープが口に合わんのなら、固い干し肉とパンでも食えばいいさ」
お読みくださりありがとうございました! 如何でしたか?
次回は来週の金曜日に投稿予定です!




