第三話 白亜の城
突然の出来事にパニックを起こしかけたマレリオだったが、ビューポートに映し出された光の流れがまるで恒星風に晒された惑星の極域で見られるオーロラのようだと気づいた。
光を発しているのは、ツァリーナ・キャザリン号の船体を磁気嵐や恒星風から守る防御フィールドが何かに干渉しているからだ。
早鐘のように激しく打つ鼓動と乱れた呼吸の中、少しずつ思考が巡りはじめ、マレリオは自分が落ち着きを取り戻し始めていることに気が付いた。船体は激しく振動しているが、今のところどこかが破損している気配はなかった。
やがてビューポートから見える光の流れが途切れ、代わりに宇宙の漆黒と星々の輝きが映るようになった。船体の振動も落着きはじめたため、マレリオは指先でエアバッグの衝撃吸収ジェル排出ボタンを押した。
低いモーター音と共に衝撃吸収ジェルがタンクの中に戻されていき、身体に自由が戻っていくのを感じながらマレリオは考えていた。
致命的な船体の損傷がない状態で防御フィールドが発光したということはビームのような高出力な光学兵器の直撃を受けたわけではない。可能性としては高密度な荷電粒子流に突入したか、あるいは別の船の防御フィールドと接触したかだ。
防御フィールドどうしが接触した場合、お互いに反発しあいながら質量の軽い方がはじき返されるだろう。であれば今この船は弾き飛ばされて虚空に漂っているはずだ。
身体の自由を取り戻すとマレリオは船載AIに船体の損傷具合の診断を命じ、自らは航法システムを呼び出し、船がどのベクトルでどのくらいの速度で流されているのかを確認しようとした。
モニターに表示された数字の羅列を見てマレリオは眉を顰めた。『ドリフト角:なし』『相対距離:56,000』『相対速度:ゼロ』『対象の全長:24,000』
「一体どういうことだ?」
数値を見る限りツァリーナ・キャザリン号の近くに何かがあり、それとの相対距離が固定されているという。しかもあれほど衝撃で弾き飛ばされたにもかかわらず船は一切回転していなかった。そんな事例、これまで聞いたこともない。
困惑したマレリオはここでようやく船外に目を向け、数値ではなく自分の目で確認しようとした。顔をあげて前面ビューポートを凝視し、そして小さく呟いた。
「嘘だろ……」
そこに浮かんでいたのは、まるでおとぎ話の絵本に描かれる『城』そのものだった。長く伸びた3本のシャフトはその両端が鋭く窄まっており、さながら天を衝く尖塔のようだった。そして長大なシャフトの中央部分で束ねるように配置された幅の広いリングは尖塔を守る堅牢な城壁を連想させた。
『城』の周りにはあたかも霧のような靄が漂っていた。真空の世界に霧など存在するはずがない。だがその霧の密度の高い部分は宇宙の漆黒に紛れて肉眼では底知れぬ深淵にしか見えなかった。それが突如として揺らぎ、急速に晴れていく。闇を孕んだ霧が散り、その奥から現れたのは宇宙の暗闇とは対照的な、虚空に浮かぶ白亜の巨城だった。




