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橙色の旗、風の夢〜親友の脚を守ったら、歴史が塗り変わりそうになってます〜  作者: summer_afternoon


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知略対決 牛金星V.S.帝都官僚ツートップ


 牛金星(ギュウキンセイ)は、碧(ビー)と話し合わなければならないと考えていた。しかし、ペストに罹患したとなれば、最低でも3週間は隔離が解かれない。その間に碧の絞首刑が実行されてしまえば、話し合いどころではない。まず、彼女を助けることが第一優先である。


 武英殿からすぐの隔離小屋へ、橙巾党(とうきんとう)財政部門のおじさん3人が訪れた。


「牛(ギュウ)さん。参った。治世(チィシー)が使いもんにならん」

「娘娘(にゃんにゃん)に惚れとるからのう」

「誰かを王にしようと言い出した」


 牛金星は「王」に驚く。


「なぜ、今になって。そんな」

「帝都の官僚は国のトップを求めとる。それに妥協して帝都の官僚に寄り添いつつ、王の権限で娘娘を牢から出すってな」

「治世は娘娘を助けることだけを考えとるんや。娘娘は『ダメ』っつったらしいが」

「しゃーないのう。治世は自分が助けて貰ったで」


 ──助けて貰った?


 一国が立国してから登用された牛金星は、彼らの過去を知らない。リストラされた元駅卒と聞いていた。そういえば、どうしてそこに女の子が混じっていたのだろう、と今更不思議に思った。誰かの肉親でもない。しかも碧は医館の娘である。リストラ駅卒とは接点が見当たらないのだ。


「治世の親父がな、娘娘んとこに薬草を売りにいっとったんや。冬の農閑期んとき」

「そんで、治世が枷号で広場におって、死にかけとった時、娘娘が助けた」

「その後、治世の脱獄を手伝った。っちゅーか、やり方も何も、全部娘娘が考えたんや」

「脱獄?!」

「無罪で捕まっとったんや。無罪」


 事実を知った牛金星は絶句した。つまり、橙巾党幹部は犯罪者集団だったことになる。いくら治世が無実だったとはいえ、脱獄は立派な犯罪である。それを指南したのが碧で、その他は実行犯。法治国家の看板が聞いて呆れる。


 しかし、牛金星の羨望の的である司法長官に言わせれば「過去の自分など他人」。彼らと彼らの過去は切り離して考えるべきである。


 ──本当に切り離せるのか?


 いささか疑問ではあったが、自分とて無実が証明されたとはいえ、投獄歴のある身。他人の過去をどうこう言えた義理ではない。牛金星は過去に拘ることをやめた。


 そして、逡巡。頭脳明晰である牛金星は閃いた。


「人事異動を行いましょう」

「「「人事異動?!」」」

「はい。もともと、地方へ派遣される官僚は3年が任期です。ですが、大盟帝国の分裂や混乱があって、西安の司法長官は異動がありませんでした。こっちへ戻すと同時に法務大臣に任命するんです」

「「「おおーっ」」」

「辞令を出してから実際に赴任するまで、西安から帝都へ移動する間、一時的に司法業務が滞ります。李氏様の処刑が自然な形で延期されます」


 おじさん達は「やっぱ頭ええな」「挙人は悪知恵はたらくな」と牛金星を褒め称える。


 牛金星は続けた。


「もう1つ査察部を動かします」

「「「査察部?」」」

「査察部は帝都の官僚のツートップの裏金を調査中です。あの2人を更迭してしまえば、3番手は現法務大臣。司法長官と交代するので力が弱まりますし、今、西安にいる司法長官なら、必ずや正しい裁きを実行させるでしょう」

「「「おおーっ」」」

「現法務大臣は、意見が言えない議長というポストを新設してあてがうのです」

「「「議長?」」」

「まあ、司会進行のようなものです。従来は皇帝の言葉を宦官が伝えていました。今、橙巾党の誰かがなんとなくやっていることです。『次にこれについて話し合いますって』」

「「「おおーっ」」」

  

 そして、おじさんの1人がまとめる。


「要するに、王なんかいらん、ってことやな」


 牛金星は大きく頷いた。


「はい。国のあり方や指針があれば、それに向かって話し合いを行うというのが理想です」

「国の?」

「あり方?」

「指針?」

「法治国家にしよう。民が飢えず、住む場所がある国にしようってことです」

「「「ほー」」」


 おじさん3人は、なんとな〜く分かったような気がしたのだった。


「すぐに査察部をここに集めていただけるでしょうか。それと、李氏様に『王はいらない』と伝えてください」


 牛金星の言葉を受け、周りはすぐに動き出す。


 武英殿の一角に招集された査察部の面々は「何事か」と顔を見合わせている。査察部は官僚の面接の際、志望者を募って結成された、親類に官僚がいない10人構成されていた。


「牛氏様はペストではないのですか?」

「内閣や大臣の方々から『もう亡くなったのでは?』と探られて困っています」


 帝都の官僚のトップ層は、牛金星がペストで亡くなるのを手ぐすね引いて待っているのだ。


 橙巾党財政部門のおじさん3人は、事実を暴露する。


「牛さんはペストやない。ぴんぴんしとる」

「帝都の官僚らが擦り寄ってくるのが嫌で、仮病使ったんや」

「一応、このことは極秘にしといてくれ」


 そして、武英殿からぞろぞろと隔離されている建物へ移動。


「騙すようなことをして、申し訳なく思います」


 最初に牛金星は、査察部の面々に頭を下げた。そして、帝都の官僚のトップを大南国からの物流の中抜きによる不正で、No.2を北方民族対策費横領で摘発することを指示した。


 しかし、査察部から反対意見が飛んだ。


「時期尚早です。まだ一国になってから1ヶ月も経っていません。全財産を没収するほどの罪に問うのですか? 他の官僚の反発を招きます」

「李碧殿を救うためですか。しかし……」


 これに牛金星は決然として言った。


「崇和帝の時代、寄付を乞われた際、財産はすでに隠しているでしょう。目的は財産没収よりも2人の失脚にあります」

「「「「はい」」」」

「気をつけてください。単独で歩くのは控え、必ず、護衛と共に行動してください」

「「「「はい」」」」

「まず、様々な動かぬ証拠、記録をここに集めてください」


 大盟帝国から一国へ変わるどさくさに紛れ、帝都の悪徳官僚は様々な方法で私腹を肥やし続けていた。そして、新参者の一国を舐めていたため、山のように悪事の痕跡があるのだ。


「2人だけですか? 10人くらい失職させられますが」

「まず、トップの2人を」


 やりすぎては、政が機能不全に陥った大南国の二の舞になってしまう。


 ◇


 月の夜。武英殿裏、白く光る漢白玉の階段には誰もいない。風だけが通り過ぎていた。


 治世は、まだ、牛金星からの言伝を聞いていない。昼間は駅卒制度の復活に奔走していたのだった。そして夜、彼は2人の官僚から食事に誘われていた。


 帝都の格式高い妓楼。治世は、一度行ってみたいと興味はあったものの、見たこともないタイプの女性達におどおどしていた。酒を注がれるたびに「あ、ありがとうございます」と礼を言い、食べ物を皿に取り分けられると「どうも。そんな。お構いなく」と身を引く。


「これはこれは。李氏様は女性はお好みではないのですか?」


 官僚は、暗にBL? と尋ねる。


「その。日焼けした女の人しか、あまり、知らないので」


 治世はおずおずと答え、盃を口に運ぶ。


「政を扱うともなれば、こういった席には慣れなければいけませんな」


 その言葉に、治世は眉間にシワを作った。瞬間、官僚の1人が、さっと手を払うように合図し、女性達を退席させた。


「こちらの方が、話せますか?」

「ありがとうございます」


 治世が緊張を解いてほっとしたのは、誰の目からも明らかだった。


 官僚は、治世を持ち上げる。


「一国軍は破竹の勢いですな。これも、李氏様の手腕あっての成果」


 しかし、治世の頭にあるのは、同じく「李氏様」と呼ばれる李碧のこと。


「そうなんです。李碧が、鉄鉱石に目をつけ、兵器を整えたんです」


 官僚は、話の齟齬があっても、治世の言葉を否定はしない。


「そうでしたか。一国軍の先頭で戦った、貴方様の功績でもありましょう」


 治世は、このころ、こうした賞賛を社交辞令として聞き流していた。それよりも、早く本題に入りたいと気が急いていた。


「乱世は終わりました。ここからは政を行うことが重要です。お二人のお力をお借りしたいと思います」


 治世の言葉に、官僚2人は一瞬顔を見合わせて「おや」という表情をし、直後、顔を綻ばせる。


「もったいない言葉です。こちらこそ、お力添えをお願いします」

「全く」


 治世は、回りくどい会話が苦手だった。だからこその言葉を放った。


「『王』が必要かを考えています」


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