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橙色の旗、風の夢〜親友の脚を守ったら、歴史が塗り変わりそうになってます〜  作者: summer_afternoon


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43/66

帝都って、かっこいいじゃん

読んでくださってありがとうございます。

前の話、「牛金星おじさま」を「藩ちゃんと金ちゃん」に変更しました。

ストーリーの本筋は変わっていません。

 8月14日、北方民族の王は、数えで6歳。摂政は、碧(ビー)の祈りも虚しくチート男に決まった。内輪揉めで力を削ぎ合う骨肉の争いはなく、碧の知る歴史通りに決着した。


 知らせを聞いた碧の頭を占めたのは、治世が殺されること、国防費が跳ね上がることへの恐怖だった。今、一(イー)国の中で北方民族の地に面しているのは、西安があったもともとの藩のみ。他は大盟帝国が国防を担っていた。しかし、袁(エン)将軍のころから始まった皇帝への不信感により、軍の忠誠心は離れ、多くの者が国境を越えて敵国に降っているという惨憺たる有様。それを引き継ぎ、立て直すなど、彼女に言わせれば、ムリゲーなのである。


 ──一国軍が帝都を攻めないかもしんないじゃん!


 宮廷で夕食を摂っているとき、治世(チィシー)が近くにいた。それぞれの居室があてがわれた今でも、橙巾党(とうきんとう)の面々は皆で、最初に雑魚寝した部屋になんとなく集うのである。シルクロードでやってきた精緻な模様の絨毯と立派なマホガニーの西洋のテーブルセットは、あのときと同じように佇んでいる。


「な、碧。西へ行かないのは分かる。荒地だから。東は? 北の国境があるから?」

「それもある。ってか、一国って、領土広げようとしてるわけじゃないよ? 治世。成り行きじゃん。いろんな反乱軍が力貸してって言ってくれたから、治世らが助っ人して、なーかま!って感じんなってるだけじゃん」

「そーだったそーだった。東の藩って、なんも言ってこなかったんだっけ」

「うん。お金持ちだもん」

「そーなん?」


 治世は、政治や経済の動向にあまり興味がない。


「塩採れるじゃん」


 東の藩は、塩の産地、山西(さんせい)地方を含む。歴史に残る大金持ち、山西商人の拠点であり、西(シー)氏の故郷でもあった。


「あ、そっか。山西商人とこか。へー。だったら、国境から北へ、いっぱい武器の密輸、されてるんかな」

「さー。どーだろ」

「碧はさ、もし東を攻めるってなったら、反対する? 西氏に気ぃ遣ってんの?」

「反対する。お世話になってる西氏も大きいけど、それじゃなくて。北の国境がついてくるから」

「長城が4重、5重にあって、修繕も大変らしーもんな」

「そーだよ!」


 このとき、碧は財政に占める修繕費を考え、治世が思い浮かべたのは徴用される民の労役だった。


「大南国はさ、領土広げる気ないんかな」

「どーだろ」

「もし碧だったら、どう?」

「広げない。自分とこで十分豊かだもん」

「ふーん。碧って、全部、金で考えるのな」

「んーっと。統治できるかどうかだよ」


 何気なく進んだ会話は、やがて1つの点に着地する。


「みんなが、帝都、欲しがってる」


 碧は、2秒ほど目を閉じた。やはり、歴史の大きな流れは変わらないのだ。


「みんなって誰?」


 これまで、自ら藩王を倒しに行ったのは、西安(シーアン)のみ。


「軍」

「自分達が強いから?」

「それもある。今だったら、ペストでボロボロだから落とせる」

「そんな危険な場所へ行ってどうするの。移っちゃうよ」

「だな。なんか、でも、一国が大きくなったから、思うんだろーな」

「北方民族対策費の税が嫌で一国に入った南の藩は? 帝都を落とすって、その後、ずーっと国境で北方民族とガチバトルするってことだよ。また税、増えちゃうよ」

「たぶん、そこまで考えてないんだと思う」

「ヤバいね。今度の相手、歴代トップ3くらいなんだけど」

「へ?」


 碧は、つい現代の知識を持ち出してしまった。


 それをスルーし、治世は言う。


「なんだっけ、ほら、牛氏の考えた組織ってやつ」

「うん?」

「各地域の代表が出てきて話し合ったら、帝都、攻めると思う」

「え、もうそんな感じんなってんの?」

「なってる」

「デメリットはあるのに、メリットなしじゃん」

「デメリットって、さっき言ってた、北の防衛費の税?」

「ペストも。それに、官僚国家の総本山じゃん。大南国みたいに、あっという間に腐り始めそう」

「そこは司法長官に頑張ってもらってさ」

「司法長官は西安なの。いくらいい法を作っても、全部握りつぶせれるようになっちゃうよ」

「帝都って、かっこいいじゃん」


 ──出た。


 碧は思わず、呆れた声が漏れそうになる。結局は、そんな単純な理由なのだ。


 碧は即座に案を出した。


「ね、帝都よりもずっとかっこいい場所を作っちゃえばいーじゃん。ほら、えーっと、たとえば一国の真ん中ら辺、武漢(ブカン)に」(1643年、実際には武漢という地名はなく、武昌、漢陽、漢口という街がありました)

「へー」

「長江があって、農豊か。今もすっごい大都市」

「でも、帝都や大南国の街に比べたら、素朴ってゆーか」

「大南国には勝てないよ。どこよりもお金持ちだもん」

「なにそれ、帝都に勝とうとしてる?」

「ダメなの? ものが集まるところにお金と人が集まる。お金と人が集まるところに流行が生まれる、かっこいいがあるって思ってるけど」


 SNS時代を知っている碧にとっては、それは必ずしも真ではないし、場所は地図上ではないのだが。


「へー」


 治世は生返事だった。


「帝都を攻める理由はかっこいいだけ?」


 碧の言葉に、ようやく治世らしい答えが返ってきた。


「これは、オレの意見だけどさ。ペストが終わって復活したら、真っ先に西安が狙われる」

「大南国より?」

「大南国は、少しずつ、帝都と裏で絡んでくよーな気ぃする」


 それは簡単に想像できる未来だった。運河と食糧のパイプは太い。


「かもね」

「一国は西安から始まった。ここが心臓なんだって」


 治世は、その瞳に鋭い光を宿した。


 ──始まってしまう。


 碧は、避けられない未来を悟った。


 それどころか、「一国の戦い」ではなく、「李治世の乱」として歴史に残っていることに納得できてしまった。


「もし、決まったら、私も行く」


 碧が言うと、治世は怪訝な顔をする。


「碧も? なんで。ペスト流行ってるから医師としてってこと?」

「ううん。ペストは手がつけられない。ペニシリンがないから」


 再び、現代でしか通じないことが碧の口から零れる。しかし、医師の碧が分からない言葉を使うことは、しばしばあるのだった。


「ムズイことは分かんねーし」

「治世、もしね、帝都へ行っても、絶対に略奪しないで。どんな悪徳官僚や商人がいても。軍のみんなにさせないで。絶対」

「当たり前じゃん」

「私、それを見たい」

「は?」

「略奪が起こらないとこ」


 かつて西安を制圧したときは、死傷者0であった。


「危険だって。官軍が来る。それに、馬に乗り続けるなんてできんの?」

「へ?」

「オレらはもう皮、硬くなってっけど。ケツの皮剥けるぞ」

「ええーっ」

「行軍に馬車なんか出さないからな!」

「当然じゃん。長時間馬に乗る練習する」

「おう」



 碧が馬上に身を置く時間は、日を追うごとに長くなっていった。


 もちろん彼女には、やらなければならないことが山積していた。しかし、牛金星が中心となって組織化したことで、幾分、彼女の負担は和らいでいたのだ。ピラミッド型の組織は、非常に効率よく機能している。



 碧は、鍵職人とからくり人形師が考案した銃の試射に臨んだ。


「うわぁ、的、的、的狙って」

「あっぶねーよ、娘娘(にゃんにゃん)」

「狙ってます。バンってなったときに、動いちゃう」

「足踏ん張って!」


 かねてより銃を撃ってみたいと思っていた碧だったが、実際に銃を撃つ理由は別にある。多くの者達の不安を払拭するためだった。舶来物ではなく、顔見知りが造った兵器である。碧は、暴発しないことを証明するために、名乗りをあげた。


 ミニュチュアではなく、実物大の大砲ができてきた。西安の街から離れた場所まで運び、撃った。大地が揺れ、山々に音が轟いた。威力、飛距離とも、従来品を凌駕する出来栄えだった。


 銃、大砲の増産、火薬の製造、軍の規模、進軍のルート、様々な課題が机上に乗り始めていた。それでも、まだ、帝都制圧については議題に載ることはない状態だった。橙巾党の軍中枢を担うメンバーは戦慣れし、綿密な計画をも立てる軍師へと成長していた。これに、北の国境の駐屯地にいた戦のプロが加わる。更に、火薬と兵器を生産する能力。いつの間にか、一国軍は、列強や周辺諸勢力から恐れられる脅威となっていた。


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