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橙色の旗、風の夢〜親友の脚を守ったら、歴史が塗り変わりそうになってます〜  作者: summer_afternoon


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ほぼ金かよ


 国名発表の式典。


 皆の前で発表したのは、声が大きいという理由で選ばれた、髭面の男。国中の民が"一つ"になって国を築いていく、この世にたった"一つ"の国、ともっともらしいことを述べたのに、最後に台無しにした。


「この字なら、オレでも書ける!」


 笑いが起こった。


 数日後、武官達は、「一」と国名が入った鮮やかな橙色の軍旗を見せてくれた。


 橙巾党は、自分達が戦に強いと自覚し始めていた。北方を任されるのは、軍でも名だたる将軍である。それを降伏させたのだ。国名を決め、軍旗ができ、ノリに乗っていた。その勢いのまま、中央から制圧に来た官軍3万に大勝を収めた。


「オレら、やばくね?」

「バッキバキに強ぇ」


 碧(ビー)の分析では、ノリに乗っていただけではない。情報伝達と交通にある。


 まず、北方の駐屯地を降伏させることができたのは、奇襲が成功したからだ。


 向こうは戦のプロ。荷物を運んでくるだけの者達など、赤子の手をひねるようなものだと踏んでいた。ところが、そこには、西安駐屯地で訓練を受けた精鋭が何人もいたのだ。返り討ちにした後、橙巾党は急いだ。「荷物を襲いに行ったヤツら、戻ってくるの、遅いな」と思われる前に、北方の駐屯地を攻めなければならない。


 橙巾党は無駄な血を流したくなかった。火薬を積んだ荷車、武器庫、食糧庫を爆破させると脅し、駐屯地のトップを捕縛。降伏させた。


 帝都からの3万の官軍に勝利したのも、情報伝達のタイムラグが功を奏した。


 帝都と西安の距離は1000km。元駅卒の橙巾党は、帝都への早馬や伝令を扱う駅站(えきたん)の業務を止めた。これにより、帝都に西安陥落の情報がかなり遅れた。隣の藩から届いたのである。


 驚いた朝廷は、3万の兵を出した。西安の兵力は1万3000人、それに反乱軍5~6000人という情報があったからだった。しかし、1000kmの距離を進軍している間に、橙巾党は北の国境である駐屯地を降伏させて取り込み、勢力を拡大していた。


 北の国境を守るのは戦のプロ。官軍のルート、規模、到達時刻などを経験から把握していた。彼らの采配により、北の駐屯地の兵と橙巾党で、官軍を一網打尽にした。官軍は1000kmを旅した疲弊の末の戦。一方、一(イー)国は迎え撃つ側だった。


 同じころ、一国の外、遥か南東でも農民達が蜂起していた。


「隣の藩やもっと向こうの反乱軍が、オレらと手ぇ組みたがってる」

「オレらすげー」

「オレらが一緒なら、勝てるんじゃね?」


 碧はこれを止めた。


「目的を忘れてます。私達は戦がしたいわけじゃないんです」


 そして、戦をしてはいけない理由を挙げる。


① 勝ったら報酬を出さなければならない。

  新しい領土が一国に加わったら、降伏させた向こうの兵士の分の報酬はどうすのか。

② 一国の領土が広がったら、2年間無税の範囲が広がる。

  西安の藩王は資産を持っていたが、他は期待できない。統治できない。

③ 一国の領土が広がったら、飢えた農民が増える。対処できない。

④ こちらの軍の規律は守られているが、合流する相手は無法者。

  戦の報酬を略奪によって得ている。手を組めば、一国の信用は地に落ちる。


「なんだよ。ほぼ金かよ」


 ──ほぼ金だよ。


 碧は心の中で毒づく。


 そして、寡黙だった治世が発言する。


「一国の領土が広がったら、飢えた農民が増えるんだな。この国がそーゆー人らまで助けられるようになったらいいな」


 碧はほっとする。治世は目先の勝利に目が眩んでいない。大局を見ている人がいる。


 発言は多くないけれど、治世の言葉はいつも重い。皆が冷静さを取り戻した。


「オレら、まず、一国をちゃんとしよう」

「均田免賦、2年不納糧」

「南の方は蝗害(こうがい)やったから、ひどい飢饉って話だ」

「生きるために反乱軍に入った者(もん)がいっぱいおる」

「そりゃ、略奪前提って戦か」


 南部は、例年ならば、ざくざく米が収穫できる豊かな穀倉地帯である。今年はバッタの大量飛来で大打撃を受けた。メンバーが話すように、反乱軍は暴徒化している。


 歴史では、橙巾党が来年、西部と大盟国の中央へ勢力を伸ばす。4年後、一国の領土は大盟帝国の1/3まで拡大する。しかし、戦場は遠く、戦費の調達にこと欠き、それでも橙巾党が膨れ上がり、統制が取れなくなっていく。


 碧は、現代で歴史を知った時、事実だけを頭にインプットした。今、理由を肌で感じる。橙巾党が膨れ上がるのは、憧れだけじゃない。反乱軍に入れば、兵糧が出る。兵糧がなくなれば、反乱軍を離脱して略奪すればいい。その日を生きるための者達で橙巾党が肥大する。


 ──歴史を変えることなんてできるの?


 来年、領土拡大に走らなければ、未来を変えられる証明になるのだと碧は拳をぎゅっと握る。


 同時に、碧のテーマが見えてくる。金である。


 戦には金が要る。戦などさせてはいけないのだ。同じ藩内の北まで行って帰ってきただけで、兵糧、武器、薬、テント、鎧、馬関連など、信じられない出費だった。官軍を迎え撃ったときも然り。戦場の後片付けにも人件費がかかった。


 ──この時代でこんなにお金かかるんだったら、現代の軍事費ってすっごいことになるよね。空母、ICBM、ドローン……は安いんだっけ、サイバー攻撃。


 金、金、金。碧は強く欲していた。朝廷とは切れた。予算の90%にも及ぶ上納金はなくなる。しかし、李治世軍の橙巾党は、いずれ帝都を手中に収める。歴史では44日間のみ。碧はこれを変えようとしている。44日ではなく、何百年に。それには、金が要る。


 ◇


 あるとき、財政部門に、男が1人、碧を訪ねて来た。


 最近、橙巾党の均田免賦、2年不能量の担当4人は、毎日、財政部門に詰めていた。初めて通された会議室とは別の狭い部屋で、来る日も来る日も様々なことと格闘していた。


「李(リ)碧(ビー)様という御仁に会いたいのだが、どの方かな?」


 男は、真っ直ぐに、年長の橙巾党メンバーを見る。


「はい。私です。初めまして。なにか御用ですか?」


 碧が扉の前に立ったままの男の前に行くと、男はとても驚いた顔をする。


「え。あ、李碧様ですか? 私は西(シー)と申します。塩の商いをしておる者です」


 ──塩商(えんしょう)キター! $_$


 塩商とは、大盟国から特別な許可を得た、塩専門の商人。塩は利権と深く結びつき、塩商は巨万の富を築いている。そして、この辺り一帯は、内陸で塩湖を抱える山西(せんせい)地方の塩に頼っている。山西地方の塩に携わる商人達は、山西商人と呼ばれ、歴史に残る金持ちであり、このころ、大盟帝国全土に一大経済ネットワークを築きつつあった。


 いきなり現れた大金持ちは、ちんまりとした低身長の50代男性だった。女性としては背が高い方とはいえ、碧よりも小さい。金の臭(にお)いが微塵もしない、地味な色の服を着ている。


 男は拱手(きょうしゅ)を取った。


「西(シー)と申します。山西商人でございます。この度、一国の設立、まことに慶ばしきこと。つきましては、塩の商い、北の前線への兵糧について、ご相談をしたい所存です」


 塩の利権は、北方の前線への兵糧運搬と結びついてる。かつてエリート官僚が構築したシステムにより、税収の15%もが、塩によるものという搾取の仕組みが出来上がっていた。山西商人は、朝廷にがっつり入り込んでいるのだ。碧は、歴史で習ったとき、公金をちゅうちゅうし、いい服を着ていい馬車に乗って高級料亭で遊ぶ悪徳商人と官僚をイメージしていた。目の前の男は真逆。


 茶器の置き場もないほど散らかったテーブルの上をそのままに。碧達は、西氏にイスを勧める。


 話の内容は、塩に関することだった。橙巾党はエリート官僚が構築したシステムをそのまま流用し、朝廷が懐に入れていた分を、一国の収入として受け入れることにしようと考えた。橙巾党の1人は、塩の原価と税に驚いた。


「ホントは塩って、そんなに安いんか?!」


 西氏は答える。


「はい。朝廷が北方民族の防衛に戦費を捻出するため、値を釣り上げざるを得ないようです」

「かー。なんちゅーこっちゃ。もっと安くならんか?」

「我々は、大盟帝国では朝廷に従っております。一国のご意向が別ならば、値段はお任せします。ただ……」


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