荒んだ男の子怖い
ルディオンと添い寝するようになってから一週間、私はまた父の書斎に呼び出された。
「またあの子と寝るようになったようだが、改心したんじゃなかったのか?」
恐らく使用人さんが気づいて父に報告したのだろう。しかし今は本当に、ただ一緒に寝ているだけだ。
「いえ、変なことをしているわけじゃなくて。また私が自分に何かしないか、一緒に寝て確認しているようです」
変に隠すほうがやましく見えるだろうと、ありのまま報告する。
「要するに、お前に下心が無いか試していると? 自分を弄んだ相手と、自ら寝たがるなんてあり得るのか? もしかして、お前を篭絡しようとしているんじゃ……」
十二の子がそんな企てをするかと、私は内心ちょっと怒りながら否定する。
「ルディオンはそんな子じゃありませんわ。お父様のご懸念については、何があっても結婚しなければいいだけですし、あまり心配なさらないでください」
父との会話を終えて、癒しを求めて庭に出る。
自分で決めたこととはいえ、ルディオンと父の間に入るのはなかなか大変だ。
気疲れから公爵家の立派な庭園をボーッと眺めていると、いきなり後ろから声をかけられる。
「また公爵と内緒話ですか」
「ルディオン、今日も聞いていたの?」
驚く私に、彼は子どもらしくない荒んだ微笑を浮かべる。
「だって気になるじゃないですか。一度は息子にしてくれた人が僕を憎み、数え切れないほど僕を苛んだ人が今は親身に護ろうとしてくれる。あなたたち親子は実に気まぐれで、いつまた扱いが変わるか分かりませんから」
ルディオンはこうしてよく言葉で私を刺してくる。だけど、これは全て純然たる事実で彼の傷だ。
「本当にゴメンなさい。そんなに傷つけてしまって」
泣きそうになりながら謝ると、彼は少し沈黙の末に再び口を開く。
「公爵は前にも結婚がどうのと言っていましたが、実情はどうあれ僕は法律上この家の息子なのに、義理の姉と結婚なんてできるんですか?」
「あまり外聞はよくないけど、血の繋がりは無いと証明できれば、義理の姉や妹と結婚した先例があるそうよ」
つい答えちゃったけど、デボラと結婚する可能性があるなんて怖いだろう。
「でも私は絶対あなたに、そんな気を起こさないから安心してね」
不安を解いたつもりが、なぜかルディオンは気分を害したようで、やや早口に畳みかける。
「ちょっと前までは嫌になるほど、そんな気ばかり起こしていたくせに、結婚は絶対にしないと言い切るんですね? 僕のような没落貴族はひと時遊ぶ分にはいいけど、夫にするのは恥だということですか?」
「そういう意味ではないのよ!?」
頭が良すぎるせいだろうか? しばしば思いもよらない解釈をするルディオンをなんとか宥める。
彼は怒ったのも束の間、急に冷ややかになって呟く。
「……まぁ、あなたみたいに醜く肥え太った女に、そんな欲を向けられても気持ち悪いだけだからいいですけど」
どうやら結婚して損するのは自分だと分かってくれたみたいだ。
「そうでしょう? あなたにはもっと綺麗で可愛い女の子が似合うわ」
ところが安堵して微笑む私にルディオンは――
「チッ」
「!?」
突然の舌打ちにビクッとする。
怖い。荒んだ男の子、怖い。
麗らかな青空の下。涙目で怯える私に、ルディオンは何事も無かったように平静に戻って告げる。
「……そろそろ午後の勉強の時間なので、失礼します」
「え、ええ。いってらっしゃい」
今は私よりも小さな背に手を振って見送る。
彼はお人形のように綺麗で可愛いけど、中身は手負いの獣なので、しばしば心を切り裂かれてしまうな……。




