償いの要求
これでルディオンのために、できる限りのことはした。
これ以上の関与は向こうが望まないだろうから、しばらくは平穏な日々が続くだろう――と思いきや、父と話した夜。
使用人たちも寝静まった頃、ルディオンが自分から私の部屋を訪ねて来た。
「ど、どうしたの? ルディオン。こんな遅くに」
真夜中の訪問に内心怯える。なぜなら原作のデボラは数年後、ルディオンに殺されるから。
私の関与で逆に死期が早まる可能性もあるよね!?
見たところ凶器になりそうな物は持ってないが、友好的な関係では無いので、とても怖かった。
入室したルディオンは重い沈黙を破って問う。
「……なんで僕を庇ったんですか?」
「えっ? なんのこと?」
キョトンと聞き返す私に、彼は疑いの眼差しで続ける。
「昼間、公爵に言われたでしょう。僕をこの家から追い出すって。なんで止めたんですか?」
「き、聞いていたの?」
狼狽える私に、ルディオンは少し気まずそうに顔を逸らして経緯を話す。
「……あなたが公爵に呼び出されたと聞いて、もしかして僕の話じゃないかと」
自分の処遇について、彼は常に気にしていたのかもしれない。
私たちの会話を盗み聞きしていたらしい彼は、こんな疑問を抱いた。
「さんざん酷いことをしたくせに、なんで急にまともな人みたいに僕を気にかけるんですか? 公爵に言ったとおり、僕にしたことを悔いて許して欲しいんですか?」
矢継ぎ早にぶつけられる質問から、ルディオンの怒りと戸惑いが伝わってくる。
「いえ、何をしたところで許されるとは思ってないわ。私はただ……」
「これまで傷つけた分、幸せにしたいって? さんざん苦しめたくせに綺麗ごとを言うな!」
ついに怒りを爆発させた彼に、私は胸を痛めながら謝る。
「ゴ、ゴメンなさい。本当にゴメンなさい」
「謝ったって許さない……。今さらあなたをいい人だなんて思いたくない……」
ルディオンは顔を覆って、泣きそうに声を震わせた。
デボラは彼にとって、この世でいちばん憎い相手だ。そんな女に借りなどできたら、与えられた分、憎めなくなって余計に辛いのだろう。
だから私はルディオンにこう申し出る。
「いい人だなんて思わなくていいわ。ずっと憎んだままで。あなたはただここで必要な援助を受けて、安心して大人になればいいの。私を許したり関わったりする必要は無いから」
ただでさえ傷つけられ苦しんでいる人に、許しまで乞うのは酷だ。だから私はデボラとして、ずっと憎まれたままでいい。
ただ彼が安心して大人になれるように援助しつつ、さっきのように抑え切れない怒りをぶつける相手として、ここにいよう。
これなら彼の負担にならないだろうと思ったのだが、ルディオンは殺意の表情で口を開く。
「……つまり丸投げですか? 僕を幸せにすると言いながら、金を出すだけで後は使用人任せ?」
思いもよらない解釈に、私はオロオロと弁解する。
「いえ、そういうつもりじゃ。ただあなたが私の顔なんて見たくないだろうと」
「顔を見たくないのは、あなたのほうじゃないですか? あなたが本当に自分の過ちを悔いているなら、僕は罪の象徴ですから」
そういう考えもあるのかと驚きながら、なんとか彼を宥めようとする。
「いえ、本当にそんなつもりは。ルディオンが許してくれるなら本当は毎日自分の目で、あなたが元気か確認したいくらいなのよ?」
これまでも使用人さんたちに「ルディオンはちゃんと食べている? 様子はどう?」と毎日尋ねていた。
けれど、やはり百聞は一見に如かず。本当はこの目で彼がちゃんと育って行く様を確認したい。でも、それは嫌だろうと遠慮していた。
ところが当のルディオンはこう言う。
「……じゃあ、そうすればいいじゃないですか」
「ど、どういうこと?」
「あなたは裕福だから、僕の養育のために金を出すなんて大した負担じゃないでしょう。本当に僕に悪いと思うなら、使用人に任せるのではなく自分で面倒を見るべきです」
被害者からのまさかの要求に、私は呆気に取られた。
「い、いいの? そんなことして。私に構われるなんて嫌じゃない?」
「もう嫌なことはさんざんされましたから。これからは僕があなたを苦しめることにします」
ルディオンは無愛想に宣言すると、なぜかスタスタと私の横を通り過ぎて寝台に上がった。
「ど、どうして私のベッドに?」
困惑する私に、彼はオコジョみたいに羽毛入りのベッドカバーからひょっこり顔を出す。
「……今日はここで寝ます」
「な、なんで?」
「あなたが本当に改心したか知りたいから」
「一緒に寝たら、また手を出すかもってこと?」
私の推測に、ルディオンは無言でコクンと頷いた。
まだ十二歳なのに辛い経験のせいで、すっかり人間不信になってしまったみたいだ。
「もうあんな酷いことは絶対にしないわ。だから安心して大人になってね」
思わず頭を撫でてしまったが、彼は意外にも何も言わなかった。その夜は、そのままルディオンと一緒に寝た。
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