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答え合わせ

 ルディから真相を聞いた私は、縋るように彼に問う。


「じゃあ、クロエの言葉は全部嘘? ルディは私みたいな愚鈍で冴えない女、本当は見るのも嫌だと言っていたのも?」


 その確認に、彼は不快そうに眉をひそめる。


「あの女は、あなたにそんなことを言ったんですか? もっと苦しめてから殺すべきでしたね」

「こ、殺した? クロエを?」


 流石にこれだけの悪事をしたクロエは死刑だとは分かっている。


 けれど通常は刑が決まってから執行まで、少し猶予があるものだ。


 だとしたら正式な処刑ではなく、私的な制裁によって殺したのかと驚いたのだが、ルディの返事はこうだった。


「正確には衰弱死です。闇魔法が使えないように限界まで魔力を奪ってからの薬物でしたから。彼女の有罪はすでに明らかだったので、法的には問題ありません」


 ルディが激情によって、わざと殺したわけではないのは良かった。


 ただ限界まで魔力を奪ってからの薬物投与による衰弱死というのは、なかなか凄惨だ。


 この国では見せしめのためにも、犯罪者に楽な死に方はさせない。


 基本は絞首刑で次に斬首、最も重い罰が生きたまま火あぶり。


 それらの刑を思えば、衰弱死は優しいほうなのかもしれないけど……。


 考え込む私に、ルディはやや咎めるように問う。


「まさか同情しているんですか? あの女は学生時代から何度もあなたを欺き、父を殺し、あなたから全てを奪おうとしたのに?」

「同情しているわけじゃないんだけど……彼女は私にとって大切な友人だったから。すごく酷いことをされたんだと分かっても、死んだのかと思うと胸が苦しくて……」


 世の中にはどうしても分かり合えない相手がいて、クロエがそうだった。


 私たちへの被害もさることながら、学生時代の令嬢たちへの仕打ちや殺された父のことを思えば、彼女の死を惜しむべきではない。


 それでもこうなるまでは親しく付き合っていた人の死を知るのは、やはり複雑だった。


 ルディは私をジッと見つめると、再び口を開く。


「彼女の取り調べに立ち会った他の者たちは、転生者だの、この世界が創作物だの、とんでもない妄想だと呆れていました。彼女は現実と妄想の区別がつかなくなった狂人だと。だから容易く人の命を奪えたのだと」


 何が言いたいのだろうと彼を見ると、ルディは眉を寄せながら続ける。


「けれど僕は彼女の証言が、全て妄想だとは思えませんでした。なぜなら彼女が自分と同じ存在だと言っていたあなたも、ある時から確かに人格が一変したから」


 彼は疑わしそうな眼差しで核心に触れる。


「あなたは本当は何者なんですか?」


 これまでは、ずっと言っても理解できないだろうと真実を伏せてきた。


 だけどルディ自身が疑問を持ったなら、これ以上隠すのは保身のための嘘でしかない。


 彼は私を、ずっとデボラだと思っていたのに。クロエと同じ(わけ)の分からない存在だと知ったら、どうなってしまうのか?


 拒絶されたらと怖かったけど、もう彼に嘘をつきたくない。


「……クロエの言うとおり、私も本当はデボラじゃないの」


 それから私は可能な限り、ルディに自分の状況を説明した。


 本当は別の世界の住人で、向こうで死んだ拍子に気づいたらデボラになっていたのだと。


「普通なら信じられない話ですけど……本当はずっと思っていました。本物のデボラはあの日、死んだんじゃないかと。神様が僕を憐れんで、デボラの抜け殻に天使か何か入れてくれたんじゃないかと」

「そ、そんな風に思っていたの?」

「だってあなたはとても、あのデボラと同一人物には見えませんでしたから。でも『神様が奇跡を起こしてくれたのかも』なんて口にするのはあまりに愚かなので、ぼんやり思うだけで、あなたが何者かは考えないようにしていました」


 ルディは確かめなかっただけで、ぼんやりとは別人かもしれないと思っていたらしい。


「ですが、あなたの中身が本当に別人なら、どうしてやってもいない罪を代わりに背負ったんですか?」


 ルディは苦しげな顔で質問を続ける。


「あなたたちの言うとおりなら、僕は殺人鬼になるはずの人間だったんでしょう? デボラのふりをして恨みの対象になることで、僕に殺されたらと思わなかったんですか?」


 私は少し返答に困りながら、当時の考えを口にする。


「あの時は説明したところで信じられないと思ったし……自分があなたに殺されるかもしれないより、どうすればこの子を癒せるだろうって、それだけで頭がいっぱいで……要するに何も考えて無かったのかも」


 ルディには怒られそうだけど、最後の『何も考えて無かった』がいちばん正しいかもしれない。


 目の前に傷ついた子どもがいる。なんとかしなきゃ。あの時の私は、その反射的な感情だけで動いていた。


 それと原作のルディオンについても、彼は誤解している。


「それにお話の中のあなたは罪を犯してしまったけど、決して冷酷非情な殺人鬼なんかじゃなかった。今ここにいるあなたと同じ。冷たそうに見えて本当は誰よりも優しく潔癖な人だから、犯した罪の重さに胸が潰れそうなほど苦しんでいた」


 ルディオンが罪を犯したのは、ただ巡り合わせが悪かっただけで、本人の性質や我慢不足では断じてない。


 逃亡不可能な苦境によって極限まで追い詰められた人間は、自分か元凶を消すしかなくなる。私だって、きっとそうだ。


 だから罪を犯してもいいとは言えないけど、違う環境に生まれていればと、願わずにはいられない人だった。


「だから傲慢かもしれないけど、あなたを助けたかった。すでに起こったことは変えられなくても、これ以上傷つかないように。原作のように罪を犯して、あなたの優しい心が壊れてしまわないように」


 私はその願いのために、この世界に呼ばれたのかもしれない。


 それによってルディをちゃんと幸せにできたかはともかく、少なくとも破滅は回避できた。


 このあと全てを知った彼に拒絶されたとしても、その手を汚さずに済んだだけで涙が滲むほど満足だった。

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