運命の選択
家人以外の仕業だとすると、誰がどんな動機で父を殺したか調べようがない。
とにかく私とルディの仕業ではないとだけ確認した分家の人たちは、予想外すぎる提案をした。
「えっ? 私とルディオンが結婚?」
思いもよらない提案に、私は信じられない気持ちで問い返す。
「どうしてですか? この間はルディオンが、私と結婚してこの家を乗っ取るつもりで、お父様を殺したんじゃないかとまで疑っていらしたのに」
公爵殺しの容疑者を、どうして次の当主として推薦するのか?
普通なら考えられない申し出だけど、分家の代表の意見はこうだった。
「しかし詳しく調べた結果、君とルディオン君は無実だと分かった。ルディオン君が潔白なら、イヴルハイド家にとって彼ほど理想的な婿はいないだろう。彼は天涯孤独で、なんのしがらみも持たず、頭脳明晰で剣も魔法もトップレベル。何より君の恋人だった」
彼を憎んでいた父と違って、分家の人たちにとってルディはただの優秀な青年なので、
「他の男と無理に結婚させて陰で彼と関係を続けられるより、正式な夫婦になってくれたほうがよほどいい」
と率直に自身の思惑を語った。
賢い人は高い身分には大きな責任が伴うと知っている。それを承知で手を伸ばすのは、苦労と引き換えにしても欲しい何かがあるか、一族や領民に対して責任を果たす気が全く無いかのどちらかだ。
この分家の人は自分で商売をし、羽振りもいいそうだから、責任が大きすぎる仕事は有能な他人に任せたいのだろう。
それで言えば私は、目の前の人が避けたがる重責をルディに背負わせたくなかった。
領主は単に領地を運営するだけでなく、領内で起きた重大事件の判決を決める他、有事の際は戦闘も指揮する。
もちろんそれぞれの分野に精通した部下がいるけど、最終的に彼らの仕事が正しいか判断するためには、自分にも経済、法律、軍事など多岐に渡る知識と能力が必要になる。さらには大量の人員やお金を動かすことによって生じる重すぎる責任を負う度量も。
その大きすぎる負担を引き受けるに見合った報酬が、多分ルディには無い。
それに今の私とルディの関係は当時とは違う。
「あの、ですが、ルディオンにそんな意思があるかどうか。確かに私と彼は男女の関係でしたが、恋人ではないので。最近は口も利かないほどでしたし、恐らく断られるんじゃないかと」
あんなにキッパリと拒絶されたのに、父がいなくなった途端『私と結婚して公爵にならない?』なんて尋ねるだけでも恐ろしい。
余計に彼を怒らせてしまうだろうし、私としてはここで話を止めたかった。
ところが私は分家の男性から思いがけない事実を聞かされる。
「本当なの、ルディオン? あなたが私と結婚して公爵家を継ぐと承諾したって」
分家の男性は私より先にルディに話を持ちかけたらしい。そして、その答えはイエスだったと言う。
以前のルディならまだしも、あれだけ容赦なく私を拒絶したのに、結婚を受け入れるなんて信じがたい。
そこで彼の部屋に行って、真偽を尋ねた。
窓辺に立つルディは私に背を向けたまま、おもむろに口を開く。
「僕をあなたから引き離そうとしていたお父上は亡くなり、分家の方たちはむしろ僕との結婚を奨励している。そして僕自身も結婚して構わないと言っている」
ルディは淡々と言うと、こちらを振り向いてさらに続ける。
「これでもう言い訳できませんね? この結婚を断るなら、あなたは自分の意思で僕を拒んだことになる」
口元は柔らかく微笑んでいるのに、背筋が凍るような恐ろしい瞳で突きつける。
「さぁ、選んでください、姉上。僕と結婚して生涯償うか。それとも一生は無理だと、今度こそ自分の意思で僕を拒むか」
彼は私に一生償わせるためなら、結婚しても構わないと思っているのか。
でも、この場合のイエスは彼の自由と可能性を奪うことなのに。




