クロエとさよなら
そんな状況に最初に耐えられなくなったのは、私ではなくクロエだった。
彼女は放課後の校舎裏に私とルディを呼び出すと、曇り顔でこう告げた。
「あの、私、デボラ様の代わりに自首しようと思います」
「か、代わりに自首って? やってもいない罪を認めるってこと?」
突然の宣言に驚く私に、クロエはすまなそうに眉を下げて続ける。
「だって私が不用意にケンカを買ったせいで、デボラ様が疑われてしまって。どうせ今でも犯人扱いだし、私の個人的な復讐だったことにすれば、デボラ様の疑いは晴れますから……」
二人とも疑われるよりは、せめて私だけでも助けたい。
そのために自分を犠牲にしようとするクロエを、私は断固として止める。
「ダメよ、そんなことをしちゃ。物を壊しただけなら弁償で済むかもしれないけど、髪を切ったり階段から突き落としたりは、れっきとした傷害事件よ。退学じゃ済まないかもしれないわ」
「でも他にどうしたらいいか……」
彼女の言うとおり、デボラの元々の悪評もあって、自然に疑惑が晴れることは無さそうだ。だからってクロエに、やってもいない罪を着せるわけにはいかない。
「誰に何を言われようと、無実なら堂々としていればいいの。とにかくこうなったのは、あなたのせいじゃないから。私のために無実の罪を被ったりしないで」
「デ、デボラ様……」
ところが私たちの話を聞いていたルディは、
「ですが、あなたのせいで姉上がトラブルに巻き込まれたのは事実です。あなたがいる限り、またどんな事件が姉上のせいにされるか分かりません。姉上に悪いと思うなら、もう近づかないでください」
と容赦なくクロエを遠ざけようとした。
「ルディオン、そんな酷いこと。こんなことになったのはクロエのせいじゃないのに」
反射的に庇うも、クロエ自身が「いえ」と否定する。
「ルディオン様の言うとおりです。私と親しくなければ、デボラ様がこんな風に疑われることはありませんでした」
「クロエ。あなただって疑われて辛い想いをしているのに、自分のせいだなんて思うこと……」
しかし彼女は首を振って私の発言を遮ると、キッパリと言い切る。
「私、もうデボラ様には近づきません。ルディオン様に言われたからじゃなく、自分の意志でそうしたいんです」
健気に微笑んだのも束の間「ただ……」と不安を吐露する。
「私こんなんで、どこで受け入れてもらえるんだろうと怖くて。もし学園を出てがんばっても行き場が無くて、本当にどうしようもなくなったら、デボラ様を頼っていいですか……?」
俯いて肩を震わすクロエの姿に、私は胸を締めつけられた。
「そんなの当たり前よ。今だって本当は寂しいなら離れることないわ」
「大好きなデボラ様に迷惑をかけたくありませんから、今は離れます」
彼女は綺麗な笑みを残して「さようなら」と私たちに背を向けた。
「クロエ……」
つい彼女を引き留めようとするも、ルディは「姉上」と私の腕を引いて止める。
「彼女が心配なら、むしろ離れたほうがいいです。二人が一緒にいる限り、いつまでも黒い噂は消えませんから」
確かにルディの言うとおり。私だけなら動機はあっても犯行は不可能で、クロエだけなら犯行は可能でも動機は薄い。
二人が揃ったせいで「もしかして」と疑われている。私といることは確かに、クロエのためにならないのかもしれない。
クロエのことが気になりつつも、彼女との親交はここで途絶えた。




