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誰も救われない物語

 『悪役令嬢連続殺人事件』という小説がある。ジャンルは悪役令嬢界隈では珍しいミステリー。


 王立学園を舞台に貴族の令嬢たちが次々と姿を消す。


 彼女たちの共通点は、いじめやら男好きやらで周囲の評判が悪かったいわゆる悪役令嬢ということだけ。


 この時点では令嬢たちが誘拐されたのか自ら消えたのか、生きているのか死んでいるのかも分からない。


 だから学園側も対応を決めかね、不穏な空気の中、生徒たちは通常どおり授業を受けていた。


 ただ失踪した令嬢たちは、いずれも周囲から恨まれていた。


 ゆえに彼女たちは殺されたのではないか? そして事件はまだ続くのではないか? と生徒たちは噂していた。


 本作の主人公であるクロエ・シーカーは失踪した令嬢の一人に嫌がらせを受けていた。そのせいで「クロエの仕業では?」と疑う生徒もいた。


 そんな彼女のもとに同じ学園に通うルディオンがやって来て、


『僕の婚約者のデボラ様も、周囲から悪役令嬢と呼ばれる評判の悪い女性です。もし事件が続けば彼女も被害に遭うかもしれない。あなたにかけられた疑いを解くためにも、一緒に事件の真相を突き止めませんか?』


 と誘われたことから一緒に事件の謎を追うことになる。


 言うて一緒に謎を追うイケメンとくっつくんやろ。ミステリー風異世界恋愛やろと思いきや、そのイケメンが犯人だった。


 しかも主人公を勧誘したのは、最終的に全ての罪を彼女に着せるため。


 孤児の上に闇属性であるクロエは他の生徒たちから「闇魔法が使える貧民なんて、いつ犯罪に手を染めてもおかしくない」と差別されていた。


 そんな彼女なら一見繋がりの無い悪役令嬢たちを密かに殺害した犯人として信憑性が高い。


 物語のラスト。失踪していた悪役令嬢たちの死体が発見されると同時にクロエは姿を消す。


 寮にある彼女の部屋からは、悪役令嬢たちについて調べた自筆のメモと被害者たちの遺髪が見つかった。


『快楽殺人犯は殺人の快感を何度も思い出すために、被害者の体の一部や遺品をコレクションすることがあるそうです』


 自分で仕掛けたくせに、他人事のように捜査官たちに解説するルディオン。


 学園側はクロエの失踪を捕まる前に自ら逃げたと判断。実際はそう見せかけたルディオンに、密かに葬られていたのに。


 読者はよほどの非が無い限り、主人公の味方だ。


 そんなヒロインの信頼を裏切り、利用し尽くして殺したのだから、普通ならルディオンの評価は駄々下がり。


 実際に小説の感想欄には、


『いくら悲しい過去があるからって、なんの罪も無いヒロインに罪を着せて無関係の人まで殺した犯人が裁かれないまま終わるのは胸糞』

『どんな過去があろうと許されない』


 などの否定的なコメントもあった。


 けれど、それを上回る勢いで、こんな感想が上がった。


『義姉に人生を狂わされたルディオンが可哀想すぎる……』


 他にも『デボラさえいなければ』『あの時、お姉さんと行けていたら』『幸せになって欲しかった』など。


 いわゆる悲しき殺人者だった彼の過去を知った読者たちから同情の声が殺到した。


 私もその一人。彼が本当に殺したかったのは義姉と義父の二人だけ。その他の被害者たちは本当の動機を隠すための目くらましだった。


 どんな事情があろうと、たとえ評判の悪い人物でも無関係の人間を手にかけていいはずがない。


 それでも本編完結後に公開されたルディオン視点の番外編を読むと、彼が実は冷酷非情どころか人並み以上に健気で優しい人物だったことが分かる。復讐も完全犯罪も本当は自分のためではなかった。


 ルディオンには自由の身になって果たしたい目的があった。けれど番外編のラストで、まるで罰のように彼は最後の望みまで打ち砕かれて、更なる奈落へと叩き落される。


 今思い返しても胸が引き裂かれそうになるほど悲惨な結末を辿る本作は、ファンの間で『誰も救われない物語』として有名だった。


 推理ものと明記されていたにもかかわらず『悪役令嬢』という単語から、勝手に異世界恋愛ものとして読んでいた私は余計に心に深い傷を負ってしまい、


(ルディオン……。ああ……どうして幸せになれなかったの……?)


 と読後一か月は引きずったし、それからも悪役令嬢ものを読むたびに彼の悲運を思い出した。


 けっこう人気なんだから書籍化され、なんならアニメ化もしてくれれば、才能あふれる神字書きさんたちがルディオンもファンも救われるIFストーリーを書いてくれるかもしれないのにと幾度夢想したか知れない。


 感想欄で指摘されているようにデボラさえいなければ、ルディオンの心の傷はあらかた消え失せ、『悪役令嬢連続殺人事件』も起こらずに済んだのだからと。


 成人して以来、こんなにあるキャラが深く心に突き刺さるのは初めてで、推しと言っても過言では無かった。


 私が数ある物語の中で『悪役令嬢連続殺人事件』の世界に来てしまったのは、その強い思い入れのせいかもしれない。


 だとしたら義姉になったのも頷ける。身も心も醜い彼女の許されざる所業が、彼を罪に走らせたのだから。

本作をご覧になってくださり、ありがとうございます。

初日は後3話、18:10、20:10、21:10に更新します。

よろしければ引き続き、お楽しみいただけましたら幸いです。

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