モテモテルディオン
恐らく学園にはルディいわく、私を利用しようとする者たちだけでなく普通の子もいる。
ただ私は授業が別の時以外は、ほとんどルディと一緒だ。
年頃の女の子は美しい異性の前では緊張して自然に振舞えなくなる。
そのせいで私たちの周りには、明確にルディ狙いの子たち以外は寄って来ないようだ。
だからルディがいない時の私は大抵一人で過ごしている。
でもクロエと出会ってからは彼のいない時に、ちょくちょく彼女が会いに来てくれる。
今日もちょうどそうだった。
「あれ? 今日はお一人でお昼なんですね?」
学食で昼食を食べていると、クロエが声をかけてくれた。
「ルディオンは戦闘実習で外に行っているの。あの子は魔法の他に剣も上級者クラスを取っているから」
この学園では一般教養に加えて魔法の基礎と、男子は有事の際に戦えるように剣や体術の手ほどきを受ける。
さらに騎士や魔術師を目指す人向けに剣と魔法、それぞれの上級者クラスがある。
普通は一つの道を極めるものだが、ルディはどちらも受講している。
一般教養に加えて剣と魔法の上級者クラス。その全ての授業に出られない分、試験をクリアするために自習や自主鍛錬の時間が必要になる。
ものすごく大変なはずだが、
『寮に戻ってからは姉上がいなくて暇なので、寝るまでの時間潰しにちょうどいいです』
と本人は涼しい顔で、ハードなスケジュールをこなしていた。
父と法律さえ許せば、ルディのほうがよほどイヴルハイド家の跡継ぎに相応しいだろう。
伯爵家以上の貴族は皆それぞれの領地を持ち、領民を治めている。たくさんの人命と生活を預かる大事な仕事なので、当然ながら有能かつ慈悲のある人物が領主になるのが望ましい。
ルディは文句なしに有能だし、私と違って甘すぎない程度に思いやりもある。
そんな彼は当然、異性としても人気だ。
「今更ですけど、カッコいいですよね、ルディオン様。剣や体術だけなら彼より上の人もいますけど、魔法も組み合わせた戦闘では、二年生にしてルディオン様が学園一ですって」
クロエは顔を輝かせてルディオンを褒めると、さらに興奮気味に続ける。
「しかもルディオン様は飛び級だから皆より一年遅れなのに、剣も魔法も勉強もトップクラスなんてすごい。将来は騎士か宮廷魔術師か? 女子が放っておかないわけですね」
責任ある貴族の娘なら自分の好みより『家と領民のためにいい伴侶を』という観点で男性を選ぶ。
けれど本音を言えば、異性としても魅力的なほうが嬉しい。
それで言うとルディは貴族の娘にとって全項目パーフェクトヒューマンなのだった。
加えて彼は私と男女の関係になってから、グッと大人っぽくなった。
単に成長によって背が伸びて筋肉がつき逞しくなっただけじゃなく、同世代にはない落ち着きと、思わず引き込まれるようなミステリアスな魅力がある。
クロエの言うとおり、人気が出て当然だった。
「クロエもルディオンが好きなの?」
最近の私と彼の関係上、そうだったら気まずいなと尋ねる。
「いやいや、私なんか。姿を消すしか能の無い雑魚ですし」
クロエは顔の前で手を振って否定すると、私に質問し返す。
「それにルディオン様はデボラ様がお好きなんですよね?」
「えっ!? ど、どうしてそう思うの?」
まさか変なところでも見られたのかとドギマギする私に、クロエはこう答える。
「だっていつもデボラ様と一緒じゃないですか。休日はいつもお二人で、どこかに出かけていらっしゃるみたいですし。実の姉弟だってこの年齢になれば、友だちや恋人といることが多くなるでしょうに。お二人は本当に仲がいいですよね」
「あっ、そうよね。普通に姉弟としてよね」
休日にいつも二人で、どこかに出かけていると言われて焦った。でもクロエは普通の外出だと思っているようだ。
しかし私の態度が不審だったせいで、逆に疑いを招いてしまう。
「えっ? もしかして違うんですか? まさかお二人は密かに付き合っている!?」
「ちょっ、クロエ。声が大きいわ。そんな事実は無いから、変なことを言わないで」
普通のお付き合いならまだしも人には言えないような交際になってしまっているので、嘘をついてでも隠す。
幸いクロエは「すみません。つい興奮してしまって」と、すぐに引いてくれたけど、
「でも確か血の繋がりが無ければ、義理の姉弟でも結婚できるんですよね? でしたらルディオン様はあの懐きようですし、可能性はあるのでは?」
その指摘にドキッとする。
父と約束したのもあって、ルディと結婚なんて考えたことも無かった。
でも仮に父の反対が無くとも、彼と結婚しようとは思えない。
「いえ、そんな。ルディオンには彼に似合う綺麗で素敵な人と結婚して欲しいわ。私じゃ彼の恥になってしまうから」
私と結婚するメリットなんて地位と財産くらいだが、ルディはそれらに興味が無いらしい。
そんなルディが私と結婚すれば、彼としてはなんの得も無いどころか『公爵の座と引き換えに格下の女に身売りした』と周囲は見るだろう。
そんなのルディが可哀想すぎる……。
それに今の歪んだ関係も、純粋な恋情ゆえのことじゃなく、彼の過去の傷が原因だ。
あんなことがなければ、きっとルディが私を異性として求めることはなかった。
だから私はいつか彼を失うことが寂しくはあるけど、未だ暗闇から抜け出せないあの子の心を愛と幸福で満たせるような素晴らしい女性と結ばれて欲しかった。




