表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/21

義弟からの忠告

 クロエと出会ってから一か月。


 中庭のベンチで昼食を取る私に、ルディが不機嫌な顔で切り出す。


「闇属性の女子生徒が将来路頭に迷ったら、メイドとして雇うと約束したというのは本当ですか?」


 義弟の指摘にギクッとする。確かに先日、将来を不安がるクロエに「もし行き場がなければ、うちに来たらいいわ」と励ました。


「ダ、ダメ? クロエはとてもいい子だし、絶対ではなくもしもの話だし、別に構わないと思ったんだけど」


 遠慮がちに理解を求める私に、ルディは冷ややかな呆れ顔で返す。


「姉上は絶対じゃないと言いますが、向こうはかなり乗り気でしたよ。先ほど本人から『もしかしたら将来そちらで、お世話になるかも』と笑顔で挨拶されましたから」

「そうだったの? 喜んでくれたのはいいけど、就職先がうちで本当にいいのかしら?」


 身寄りのない彼女からすれば、生活の安定が最優先なのだろう。


 けれど今は自信を失っているだけで、クロエの闇魔法はやはり希少で素晴らしい才能だ。それを生かせる仕事をまずは考えたほうが、のちのち自信に繋がるんじゃないかな?


 そんな心配をする私に、ルディは棘のある微笑みで言う。


「むしろ姉上のところほど理想的な就職先は無いのでは? 姉上ならメイドの遅刻や無礼どころか、皿を百枚割っても怒らなそうですし」

「流石に百枚は……『そんなに?』って驚くけど……」


 十枚くらいなら逆に失敗の原因を聞いて改善を求められるけど、百枚はあり得ない失敗過ぎて「なぜ?」と困惑が勝りそうだ。


 そんな私の反応がルディにはお人好しに見えたのか、彼は白い目で苦言を呈す。


「とにかくいくら可哀想だからって、同情で人を雇うのはどうかと思います。ただでさえ姉上は甘いんですから、隙を見せたら付け込まれますよ。去年だってさんざんお友だちに利用されましたし」


 ルディの言葉で去年、短期間だけ付き合った友人たちを思い出す。


「あれくらいのことを利用と言うのは……。ただ自分の兄弟と会ってみないかと勧められたり、逆にあなたとの縁を取り持って欲しいと頼まれたりしただけで……」

「その要求を断って縁が切れたなら、姉上に何かさせたかっただけの利用ということです」


 相変わらずの鋭い指摘に、私は肩を落としながら詫びる。


「ゴ、ゴメンね。うちが公爵家であるせいで、あなたまで人間不信にしてしまって」


 どの階級にも苦労はあるけど、前世は下町のご飯屋さんだった私からすれば、平均ちょっと下の生活はかえって気楽だった。美貌にしろお金にしろ、奪うものが無ければ悪人は寄って来ないので。


「僕は世の中には信用してはいけない人間がいると早々に学べて良かったですよ。姉上は一向に学ばないようですが」


 ルディはニコッと皮肉を言うと、なぜかさっきとは違う愛おしげな眼差しで、こちらに手を伸ばす。


「まぁ、義弟にいいように弄ばれても大人しく受け入れるようなお人好しですから仕方ありませんけど」


 意味深に頬を撫でられて「ル、ルディ」と焦る。


 けれど彼は離れるどころか、私の耳に唇を寄せて密やかに囁く。


「冗談じゃなく本気で危惧しているんですよ? だって彼女がメイドとして働くことになったら、確実に僕たちの関係を知られてしまいますから。それとも姉上は僕たちが二人きりでどう過ごしているか、もっとたくさんの人に知らしめたいんですか?」

「知らしめたくない。むしろ隠しておきたい。それと外で変なムードを出さないでください……」


 恥ずかしさに真っ赤になりながら半泣きで胸を押し返すと、彼は涼しい顔で私から離れた。


「冗談はさておき。姉上は自分にいい顔をする人間にほど気をつけてください。他の人間は姉上のように、何も考えずに笑っているわけじゃありませんから」

「私も何も考えずに笑っているわけじゃないのよ……?」


 どれだけ馬鹿だと思われているのだろうと、流石に少し不服だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全2巻発売中(電子版はオマケのSS付き)です。
なろう版はこちらからご覧になれます。
ldmp8i7fc81phms47dzqk9fo19z3_1mo_go_og_f5qu.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ