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父の苦言

 声や音が漏れていたのか、それともシーツに残った痕跡のせいか。私と彼が再び一線を越えたことは、すぐに父に伝わった。


「どうやら私が懸念したとおりの事態になったようだな?」

「返す言葉もありません……」


 後日、父の書斎に呼び出されて真っ赤になって謝る。


 前世の私は享年イコール彼氏いない歴でキスの経験すらなかった。それが今回はデボラだった期間を除けば十六歳で男性を知り、しかも父親どころか屋敷中の人に知られてしまうなんて恥ずかしすぎる。


「誘ったのはお前か? それともアイツか?」


 ただこの質問には、咄嗟に嘘を吐く。


「わ、私です。再び悪い虫が(うず)いて。あの子が断れないのをいいことに」


 彼は公爵に訴えればいいと言っていたけど、そんなことできるはずがない。


 ルディがなんらかの罰を受けないように、自分のせいだということにするも、


「本当か? その割にルディオンは、いつも自分からお前に近寄っているように見えるが?」


 と父は簡単には騙されてくれなかった。


「わ、私に逆らったら公爵家の援助を失うと酷く脅したので。それで逆らえないだけかと」


 態度こそ無愛想かつ無表情だけど、父の言うとおり、ルディはいつも自分から「姉上、姉上」と寄って来る。流石に苦しい言い訳かと思ったけど、父には意外と通用した。


「結局お前もあの美貌に惑わされたということか? 私がルディオンの姉に骨抜きにされたように」


 傍から見れば美しい彼がパッとしない私を慕うなど、あり得ないのだろう。私はこのまま押し通そうと、


「は、はい。もうついムラムラと」


 勢い余って恥ずかしい言い方をしてしまった。


 貴族の令嬢らしからぬ下品な発言に、父は一瞬顔をしかめたが、ため息交じりに口を開く。


「まぁ、昔よりマシになったとはいえ、その器量でルディオン並の美男子に愛されることはまず無いだろう。お前がアイツの弱みに付け込みたくなるのも分かる」


 子どもの頃はいざ知らず、今のルディは脅して言いなりにできそうなタイプじゃない。むしろ私が弱みに付け込まれ、脅されている気もする。


 やや遠い目で我が身を振り返る私に、父はこう続ける。


「だが、お前が相手の弱みに付け込む時、相手もお前の弱みに付け込んでいるのを忘れるな。このまま心まで奪われて、やはりアイツと結婚したいと言い出しても私は絶対に許さないぞ」


 ものすごく結婚を不安視されている。まぁ、原作のデボラは無理を言ってルディオンと婚約したけど。


 ただ原作のルディオンにとって、デボラとの結婚は二百パーセント不幸だった。


 憎い女の弟に得させるわけじゃないならと、原作の父は二人の結婚を許した。


 でも私は父に反対されずとも、結婚によってルディオンを縛り付ける気は無い。


「そ、それは大丈夫です……。恐らく在学中には、なんとかなると思うので……」


 彼の私離れについて二つ当てがある。


 一つは私と違って綺麗で変な因縁も無いお嬢さんと、普通に恋をするかもしれないということ。


 もう一つはルディのお姉さんが迎えに来るエピソードだ。


 原作ではデボラが邪魔したせいで、むしろルディを復讐に走らせる最後の一打になった。


 でもそのデボラとなった私が邪魔しなければ、彼は本当の家族の元に帰って幸せになれるはず。


 お姉さんが迎えに来るのは二年生の半ばくらいなので、在学中にはなんらかの展開があるだろう。


 そう考えていると、


「今後もヤツとの関係を続けるつもりなら、せめてこの薬を飲ませろ」


 父から紺色の小瓶に入った謎の薬を渡される。


「こ、これは?」


 戸惑いながら尋ねる私に、父は怪訝な顔で答える。


「昔も飲ませていただろう? 子種を殺す薬だ。常用すればそのうち完全に生殖機能を失うが、何年も飲ませていないから回復している可能性もある。反対属性は子どもができにくいというが念のためだ」


 一時じゃなく常用すれば、子どもが完全にできなくなるという危険な薬。


 それを当時十二歳だったルディに飲ませていたと平然と話す父を、私は反射的に咎める。


「こ、こんな危険なものを子どもに飲ませていたんですか!?」


 ところが父は眉をひそめながら、こう返した。


「何を言っているんだ? 昔あの子に率先して、この薬を飲ませていたのはお前だろう。流石に十三歳で孕むなんて万が一でも御免だとな」

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