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王立学園入学

 それから私たちは無事、王立学園に入学した。


 新入生代表の挨拶は、なんとルディが務めた。彼は入学試験がオール満点だったらしい。


 王立学園の新入生代表は成績だけでなく家柄も考慮される。彼は養子でも公爵家の人間なので、その点でも最適だったようだ。


 一つ飛び級で首席入学した彼は、当然ながら他の生徒たちの関心を集めた。


「首席入学されたルディオン様は、デボラ様の義理の弟君(おとうとぎみ)なのですよね?」

「飛び級で首席入学なんて本当にすごい!」


 入学してすぐ、同じクラスのご令嬢たちが興奮気味に話しかけてくる。


 幸いにも公爵家へのお世辞ではないようで、彼女たちはほうっとため息を吐きながら続ける。


「勉強がお出来になるだけでなく、サラサラの銀髪に澄んだ湖面を思わせるアクアマリンの瞳。今は美しいお人形のようですけど、きっとそのうち見目麗しい貴公子になりますわね」

「あんな素敵な弟君がいらっしゃるなんて、デボラ様が羨ましいですわ」


 たくさんの人にルディを褒められて、とても嬉しい。


 ただ彼自身は周りの評価に無関心なようで、後で話しても冷めた態度だった。


 ちなみに噂になっていたのは、ルディだけではないらしい。


「僕も姉上の噂を聞きましたよ。笑顔が優しくて感じのよい方だと」

「そう? あまり同世代の方とは話さないから緊張していたのだけど、好印象を持ってもらえたなら嬉しいわ」


 私自身、前世からなるべく笑顔を心がけている。それは大好きなおばあちゃんから、こう教わったからだった。


『人間は多少見た目が悪くても、いつも笑顔の人が好かれるもんだよ。笑美(えみ)だってムスッとした美人より、見た目は良くなくてもニコニコした人に寄って行きたいだろう?』


 確かにそうかもと頷く私に、おばあちゃんは悪戯っぽい顔でこう締めくくった。


『まぁ、笑顔の美人にはどうしたって負けるけどね。それでもめげずに笑っていれば「美人の笑顔より、あなたがいい」と言ってくれるもの好きが、一人くらいは見つかるもんさ』


 それは私の本当の名前である『笑美』の由来になったおばあちゃんの哲学。


 とても素敵な考えだから、私もそういう人になりたいと意識していた。


 それが認められたようで嬉しさのあまりニコニコと返すと、ルディオンは口元だけの笑みで言う。


「男子も噂していました。『噂どおり見目はイマイチだけど、あのくらいなら妥協(だきょう)できる。性格は良さそうだし、結婚相手としては悪くない』と」

「そ、そう。異性として全くダメなわけじゃないなら良かったけど、妥協して付き合われるのは少し複雑ね……」


 目鼻立ちは普通だけど、肌荒れしやすい体質のせいでメイクの恩恵を受けられない。だからどう足掻いても、そばかす地味顔止まり。私の容姿が好きで、あえて付き合いたい人は確かにいないだろう。


 普通なら無関心で済むはずが、私の場合は公爵家の一人娘であるせいで、つまらない女という本音を隠して笑顔で寄ってこられるから怖い。


 前世の私は二十三歳まで生きたし、食堂では中年以上のお客さんが多かった。そのせいか十五、六歳の男の子たちはまだ子どもに感じる。


 おかげで異性として意識せずに済むけど、向こうはこちらを地位や財産目当てに結婚相手として狙っているとなると、やっぱり少し複雑だ。


 そんな私に、ルディは棘のある微笑みで忠告する。


「大いに複雑になってください。同性の友人を作るのは止めませんが、男は全員シャットアウトしてもいいくらいです」


 まさか本気じゃないだろうと、シャットアウトのくだりは流して話を変える。


「ルディは、お友だちはできそう?」


 和やかな話題を振る私に、ルディはキッパリと答える。


「『将を射んとすれば、まず馬を』と言います。僕を通じて姉上に取り入ろうとする輩もいるでしょうから、友人は要りません」

「そ、そんなこと言わないで? 私は自分で気をつけるから、ルディは自由に過ごして?」


 デボラは苛烈な性格のせいで、ルディは暗い境遇のせいで、どちらも友だちがいなかった。


 自分もだけどルディにも、ぜひ仲のいい友人ができて欲しい。


 ところが義弟は猫のように読めない表情で私の手を取り言う。


「自由に過ごしていいなら、授業が別の時以外はずっと姉上といます」


 王立学園の生徒は現代で言えば高校一年生。ルディは中学三年生くらいだ。


 まだ女装が似合いそうな美少年だけど、流石に姉離れできない姿を周囲に見られるのは恥ずかしいんじゃないかな?


「ずっと私といたら甘えん坊だと思われちゃうわよ?」

「他人にどう思われようと構いません」


 ルディは宣言どおり、授業が別の時と寮に戻った後を除けば、いつも私について来た。


 まるでカルガモの親子のように、無表情に私の後を追う彼を見た他の生徒たちはこう噂する。


「ご覧になりまして? ルディオン様ったら、いつもお姉様の後をついて回って」

「もしかして飛び級で入学したのは、お姉様と一緒に通いたかったからなのでしょうか?」

「他の方には素っ気ないのに、意外と甘えん坊なのかしら?」


 女子生徒たちはヒソヒソ、クスクスとルディの話をすると、最後に「可愛い~」と声を揃えた。


 ルディは私たちより一つ年下なので、逆に母性本能をくすぐったようだ。

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