41話
ここ数日、白川からの連絡はなかった。
話しかけられることも、すれ違うことすらもなかった。
それが自然だと自分に言い聞かせていたけど。時折、あの日の玲奈の表情が浮かんできて、少しだけ胸の奥がざわついた。
それを振り払うように、俺は声をかけてきた咲のほうへ顔を向けた。
「智也くん。今日の放課後、ひさしぶりにどっか行かない?」
昼休み。弁当を広げながら、咲がそう言ってきた。
「どっかって?」
「ななちゃんとさっき話してて……カラオケとかどうかなって」
俺はほんの一瞬だけ考えてから、うなずいた。七海も明るく笑って同意する。
「……じゃあ、行くか」
咲の表情がふわっと明るくなったのが、なぜか印象に残った。
夕方、駅前のカラオケビル。
受付を済ませて三人で小さな部屋に入る。
ドリンクを選びながら七海がデンモクを手に取る。
「じゃ、トップバッターいきまーす」
七海が選んだのはアップテンポなJ-POP。
軽快なリズムと、どこまでも伸びる高音。教室での彼女とは別人のようだった。
マイクを握る姿も様になっていて、俺は思わず感心する。
(やっぱ、うまいよな……)
何度聞いても感心してしまうくらいきれいな歌声だ。
声の芯がしっかりしていて、聞き入ってしまう魅力がある。
歌い終わった七海は息も乱さずに、ドリンクをちゅーっと吸った。
「次、咲いってみよっか?」
「えっ、わ、わたし……? う、うん……がんばるね」
咲はもじもじとリモコンを操作し、ちょっと流行りのアニメのED曲を選んだ。
イントロが流れ、咲がマイクを口元に近づける。
優しい、少し鼻にかかった声。
七海の後だと声量が全然違うことがわかるけど、それが逆に耳に心地よく残った。
リズムは少し不安定で、でも丁寧に真剣に歌っているのが伝わってくる。
(……なんか、いいな)
上手いとか、そういうんじゃなくて、咲の声には不思議な温かさがあった。
歌い終わると、七海がぱちぱちと拍手する。
「うんうん。咲の歌ってかわいいよね~。ね、朝倉」
「お、おう。かわいいと、思う」
急に同意を求められて、照れくさくなったが素直な感想を告げる。
「えっ、そ、そんなこと……」
照れてうつむく咲。
その横で、七海がマイクを俺に差し出してきた。
「はい、朝倉の番ですー」
マイクを受け取って曲を選ぶ。
最近練習していた曲にしようかな。次の動画であげようと思っていた少し懐かしめの名曲を選んで再生ボタンを押す。
息を吸って、声を出す。
……悪くない。思ったより、体が動いてくれる。
腹式呼吸が自然に入って、ブレが少なくなってるのがわかった。
歌い終わると、七海がすぐに言った。
「やっぱうまくなったね。そういえば今も私が渡したメニュー続けてんの?」
「……まあ、それなりにな」
「それなり、ねえ……」
七海が悪い笑みを浮かべ俺のシャツをじっと見て言った。隣に腰掛けて七海が俺の腹部へと腕を伸ばす。
一切躊躇のないその動きに、止める間もなく七海の手が腹筋に触れた。
「おお? 前と違ってちゃんと堅くなってるじゃん」
「おい!」
「ほら咲も気になるでしょ」
手招きして咲を呼び寄せて七海が笑う。
「ほんとだ、すごいね。智也くん、がんばってるんだ」
咲が、ほんのり目を丸くしてうれしそうに言った。
「……別に、ちょっと鍛えてるだけだし」
「そういうの、すごいなって思うよ。継続できるの、えらい」
その一言に、なんだか胸がくすぐったくなった。
でも喜んでいるのが恥ずかしくなって「勝手に触るとかセクハラだからな」と七海だけに文句を言った。
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