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彼女を寝取られた俺、ショックで歌い手活動に没頭してたら死ぬほど人気が出てしまう~復縁したいと言われてももう遅い~  作者: 住処


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34話

「……」


「……」


 気まずさ、ってこういう感じかもしれない。

 でも、沈黙を放っておくのも妙に意識してるみたいで、余計に気になる。


 咳払いをひとつして、俺は軽く首を回した。


「……どこか、行きたいとこある?」


 声が少しだけ裏返った気がしたけど、気づかれなかったふりをしてくれる空気だった。


「えっと……」


 咲は口元に手を添えて、少し考えるそぶりを見せた。

 下を向いていた視線を、ちらりとこちらに戻す。


「……音楽部の発表、見てみたいかも。ピアノとチェロのやつ、って聞いたから」


「ああ、あるな。たしか西棟の三階……音楽室だっけ」


「うん。たしか、13時からだったような……」


 咲がスマホを取り出して時間を確認する。

 俺もつられてポケットからスマホを出した。

 13時5分。ちょうどよさそうだ。


「じゃ、行ってみよっか」


「……うん」


 歩き出す咲の後ろに一歩遅れて続く。

 昨日までと同じ制服姿のはずなのに、髪の揺れ方や歩幅の感じまで、少し違って見える。


 追いついて隣に並ぶと、ほんの一瞬だけ、咲の肩がこちらに寄った。

 でもすぐに、元の距離に戻る。たぶん、偶然だ。


 西棟の三階は、屋台のある中庭からは遠く離れていた。

 移動中もほとんど会話はなくて、俺たちは左右の教室の飾りつけを眺めながら、静かに階段を上った。


 廊下も静かで、足音がやけに響く。

 音楽室の前に着くと、中から微かにピアノの音が漏れていた。


 咲が扉に手をかけ、こちらを一度振り返って、そっと開ける。

 俺も軽くうなずきながら、その後をついていった。


 教室の中には、十人もくらいの観客が座っていた。

 ピアノとチェロ。舞台ではなく、教室の前方に配置されただけの簡素な空間。

 だけど、漂っている空気はどこか澄んでいて、音がよく響いた。


 咲と俺は空いている椅子に並んで腰を下ろした。

 椅子の脚が床に擦れて、小さな音を立てた。

 誰も振り返らなかったけれど、なぜかその音がやけに大きく感じた。


 ピアノの旋律が柔らかく降りてきて、チェロがそれを包み込むように重なる。

 音楽の中に身を置いていると、妙に頭がすっきりしてきた。


 咲は手を膝の上に重ねて、じっと前を見ている。


「……すごいね」


 演奏が一区切りしたところで、咲が小さくつぶやいた。


「ああ。……上手いよな」


「うん。なんか、音にちゃんと想いがあるっていうか……」


 咲は視線を前に向けたまま、少しだけ頬に髪がかかる。

 俺は反射的にその髪の動きに目を奪われた。


「……朝倉くんも、そうだったよ」


 その言葉が唐突で、俺は思わず息を止めた。


「え?」


「……さっきのステージ。声、ちゃんと届いてた。……私にも」


 咲は、視線を合わせないまま言った。

 俺はなにか言い返そうとして、言葉が詰まる。


 ふと、咲が指先でスカートの裾をいじり始めた。

 いつもは見せない、落ち着きのない動きだった。


「昨日さ……私、あんまり役に立てなかったなって、思ってたの」


「そんなことないっ。……咲のおかげで歌えたよ」


 やっとの思いで返したその言葉に、咲は少しだけ目を見開いて、ふっと笑った。


「……ありがとう」


 その笑顔は、どこか少し、寂しげだった。

 でも、俺にはすごくあったかく感じた。


 もう一曲、演奏が始まったけど、内容は頭に入ってこなかった。

 隣でじっと座る咲の指先や、視線の動きばかりが気になった。

 こんなに距離が近くて、会話もしてるのに。


 さっきからずっと、何かがうまく言葉にならないまま、ここにある気がしていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ☆で応援してもらえると、とっても嬉しいです٩(ˊᗜˋ*)و

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