Side 玲奈 1
昼休みの教室。
カーストも空気も、全部がいつも通りに流れているはずだった。
なのに、あの笑い声だけが、やけに耳についた。
窓側の席、教室の隅。
咲と七海と、そして──朝倉。
「てかさ、朝倉さ、今のうちにサインくれない?」
「は? なんでだよ」
「あとで売るために決まってんじゃん。転売価値あるっしょ~」
「ほんとに売る気かよ……」
会話の内容はよくわからない。
でも、その中にあった空気が、どうしようもなく気に障った。
……楽しそうにしてる。
前は、もっと静かだった気がする。
あいつがあんなふうに笑い合うの、今まで見たことなかった。
何がそんなにおかしいの?
何がそんなに、気楽なの?
別に、自分が不幸だと思ってるわけじゃない。
けど、最近ずっと、なんか調子が狂ってる。
全部が微妙に噛み合わなくて、息が詰まるみたいな感じ。
隣の友達が話しかけてきたけど、何も返せなかった。
気づかれないように、ペットボトルのキャップを強く握った。
指先が白くなってるのが分かるけど、抑えられなかった。
目をそらすべきなのに、視線はそこから離れなかった。
「昨日の、投稿見たよ。ほんとすごかった」
咲が笑ってる。
「声、もっときれいになってる気がする。なんか……届くっていうか」
(……投稿?)
胸の奥に、ぐっと何かが詰まった。
何の話? 朝倉が何かしてるなんて、聞いてない。
そもそも、こいつが人前で何かやるようなタイプだったっけ?
私の知ってる朝倉って、もっと地味で、目立たないタイプだった。
少なくとも、ああして女子と並んで、自然に笑い合ってるようなやつじゃなかった。
あいつがあの輪の中に、何の違和感もなく混ざってるのが、どうしても理解できなかった。
ただのクラスメイトだったはずなのに、あたかも最初からそうだったみたいに、当然の顔で笑ってる。
違和感っていうより、むしろ居心地悪いくらいのズレを感じる。
……なのに、本人たちは何も気にしてない顔して、笑ってる。
変な空気。
でも、浮いてるわけじゃない。なぜか、それが自然に見えるのが、一番気に食わなかった。
七海が「ねーねーこれ見た? こいつ紹介されてんじゃん」ってスマホを見せて、また笑ってる。
咲もそれをのぞき込んで、驚いたように目を丸くして。また、笑った。
三人のその空気が、無性に鼻についた。
全部うまくいってる側の人間の、あの感じ。
自分だけが取り残されたみたいで、なんか、むかつく。
ペットボトルを机に置いて、目を閉じた。
思ったよりも、心臓が強く脈を打っていた。
(……バカじゃないの)
心の中でそう吐き捨てて、私はスマホを開いた。
そのとき、前の席の男子が小声で話しているのが耳に入った。
「なあ、これさ……朝倉じゃね?」
「え、誰?」
「こいつ。歌投稿してるやつ。声もそれっぽい気がしてさ」
その会話に、反射的に顔を上げそうになるのをこらえる。
(……は? 何言ってんの)
目線だけをそっと動かして、前の男子たちのスマホ画面を盗み見た。
ぼやけた角度だったけど、サムネイルの一部と、再生数らしき数字が視界に入った。
(まさか。まさか、そんなわけない)
その名前、聞いたことがあるような、ないような。
でも、もし本当にそれが朝倉なら。
思考が、うまくまとまらない。
だって、あんなやつが?
教室の隅っこで、静かにノートまとめてたような、あの朝倉が?
まさか、ね。
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