23話
朝、目が覚めた瞬間にスマホを手に取るのは、もはや習慣になっていた。
通知の数を見て、一瞬だけ指が止まった。
(……え?)
画面には、いつもと違う量の通知。
再生数の伸びも、明らかにおかしい。
昨夜、投稿してからまだ10時間も経っていないはずなのに、再生数が数千に届きそうな勢いだった。
「いつもなら、せいぜい300とか……」
言葉にすると、余計に実感が湧いた。
指でコメント欄を開く。
「おすすめから来た」
「イケボやん」
「朝から情緒ぶっ壊された」
おすすめに出た。
それが複数のコメントに共通していた。
たまたまじゃない。アルゴリズムが、この動画を押してる。
そう理解した瞬間、心臓の鼓動が跳ねた。
タイムラインにも、フォロー外のアカウントからいいねやリプが増えていた。
(知らない人たちが、俺の歌を聴いてる)
それは、思ってた以上に怖かった。
でも、それ以上に、どうしようもなくうれしかった。
「バズってる……のか?」
呟いた声は、自分でも聞き取れないほど小さかった。
そのまま布団の中でスマホを見続ける。
コメント欄を何度もスクロールして、既に見たはずの言葉を繰り返し読む。
全部が肯定。
全部が、今まで欲しかった言葉だった。
画面の光が、まだ薄暗い部屋の中でやけに眩しかった。
俺の声が、知らない誰かにちゃんと聴かれてる。
その人たちの胸に、ほんの少しでも引っかかって、残っている。
それが、こんなにも嬉しいことだなんて、思ってもみなかった。
ずっと欲しかった反応が、今ここにあるんだなと、じわじわ実感していく。
落ち着かない気持ちのまま、エゴサを始めた。
自分の動画タイトルやハンドルネームを検索窓に入れて、ツイートや投稿をひとつひとつ辿っていく。
最初は感想やリアクションが中心だったけど、徐々に『拡散元』らしき投稿が見え始めた。
「○○って配信者のライブで紹介されてたやつ、マジで良かった」
「○○経由で知ったけど、この声はもっと評価されるべき」
知らない名前が並ぶ中に、ひとつだけ見覚えのあるアイコンが目に入った。
タイトルには、人気配信者の名前。
『○○が語る今気になる歌い手』と書かれている。
(……まさか)
クリックして再生する。
動画の冒頭で、まさに俺の投稿が紹介されていた。
「最近おすすめに出てきたんだけど、この人の声、なんか……すげぇ真っすぐなんだよね」
「技量はまだ荒削りだけど、表情があるっていうか気持ちが伝わってくる」
その配信者は飾らず、淡々と話していた。
でも、その分だけリアルで、熱がこもっているように聞こえた。
「これからもっと伸びそう。まだフォロワー少ないけど、今のうちに押しとく」
冗談っぽく笑うその一言に、スマホを持つ手がほんの少し震えた。
(……ほんとに紹介されてる)
配信のコメント欄もざっと目を通すと、「めっちゃ良かった」「普通にリピしてる」といった書き込みがちらほら残っていた。
自分の知らない場所で、自分の声が話題になっている。
それが、なんだか信じられなくて、でも確かに嬉しくて、心が騒いだ。
通知が鳴った。
LINEだった。
七海からのメッセージ。
『今、これ見てた! あんた紹介されてんじゃん!』
『この人、登録者十万超えてるんだけど!? ヤバくね!?』
興奮した様子がそのまま文章に滲んでいた。
「……マジかよ」
スマホを握る手に、力が入る。
今起きていることが、夢じゃないって証拠が、また一つ増えた。
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