Side 玲奈 2
(私、カラオケ一緒に行ったことある。あいつ、そんな上手くなかった)
ふいに浮かんだ記憶に、胸の奥がざわついた。
あのときの朝倉は、声が鼻にかかってて、喉だけで無理やり出してる感じで、二曲も歌えばすぐ枯れてた。
マイクの持ち方もぎこちなかったし、リズム感だってどこか頼りなかった。
正直、うまいとか下手とか以前に、聴けるものじゃなかった。
……なのに、何?
クラスで聞こえた投稿すごいだの声が綺麗だのって、どういうこと。
急にそんな劇的に変われるわけないじゃん。
何か裏があるんじゃないの? 誰かに手伝ってもらってるとか、編集とか。
そう思いたくなるくらい、今のあいつにかかってる評価は、自分の知ってる朝倉とあまりに違っていた。
前の席の男子たちのスマホに、動画のサムネイルが映ってるのがチラッと見えた。
タイトルも曖昧にしか見えなかったけど、どこかで見覚えのあるアイコン。
それだけで、鼓動が一瞬だけ早くなった。
自分のスマホを取り出す。
無意識に指が動いて、検索窓にsakuraAと入れている。
予測変換の中に、それらしき名前が並んでいた。
そのひとつをタップすると、チャンネル名にsakuraAと書かれた例の動画が出てきた。
再生ボタンの中央の▶マークが、無表情に待ち構えている。
指が、そこに触れそうになった。
……けど、寸前で止めた。
音は、聴かなかった。
その画面を見つめたまま、しばらく動けなくなる。
なんでこんなに、イライラするんだろう。
スマホの画面を、ぱたんと伏せた。
まるで、それ以上見ていたら負ける気がした。
(……聴いたら、負け)
自分の部屋。
ベッドの上に座っていた。
伏せたスマホが、小さく震えた。
通知。彼氏からのLINE。
「今日空いてる? またうち来いよ」
その一文だけ。
短いのに、いやらしさと雑さが滲んでいた。 相手の都合とか気持ちなんて、一切考えてない。 ただ自分勝手な欲求だけが透けて見える。安さの裏にある軽さが、どうしようもなく気に障る。
(私は都合のいい女でしかないのかもしれない)
そんな言葉が、喉元までせり上がってきて、でも吐き出せない。
もともと、こんな感じの人だったっけ?
いや、最初の頃はもっと優しくて、ちゃんと話もしてたはず。
でも、どこかから何かが崩れて、それでも自分が変えようと努力すればうまくいくって、思い込んでた。
そうしなきゃ、何も残らない気がした。
だから我慢して、笑って、合わせてきたのに――このLINEひとつで、全部バカバカしくなりそうだった。
一瞬、開こうとして、やめた。
未読のまま、スマホを裏返す。
……見たくなかった。
静かな部屋に、自分の呼吸だけが響いてる。
深く息を吐いて、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
天井をぼんやり見つめながら、目を閉じる。
昼間、友達に言われた言葉がよみがえる。
「その髪型、彼氏の趣味?」
そのときは笑って流した。
「えー、違うよ、たまたま」なんて。
でも心のどこかが、ざわっとした。
(……なんか、私のまんまでいちゃダメなの?)
最近、前より可愛いって言われる。
でもそのたびに思う。
(なんか違う)
褒められてるのに、ぜんぜん嬉しくない。
見た目も、言葉も、付き合い方も、ぜんぶ型に嵌められていく感じがする。
むかつく、むかつく、むかつく!
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