24話
教室に入ると、何人かの視線を感じた。
特別目立つようなことはしてない。
でも、明らかに前とは違う「注目」がそこにあった。
「……あの動画、朝倉じゃね?」
「名前も声も似てるよな、てか、あの感じ……」
ぼそぼそと交わされる声が、すぐ後ろから聞こえる。
「え、マジ? えーあれ本人?」
興味本位の好奇心、軽口。
俺は、前を向いたまま無反応を貫いた。けれど、背中にはじっとりと汗がにじんでいた。
休み時間。昼食を終えた後のゆるい空気の中で、七海がぽつりと口を開いた。
「最近すごいじゃん。朝倉」
「なにが?」
わざとらしくとぼけると、七海は鼻で笑った。
「ほら、再生数。ちゃんと見てんだからね」
「……ああ、うん。まぁ、ちょっとは伸びてる」
「ちょっと、ねえ……」
七海はそう言いながら、咲と顔を見合わせて笑い合う。。
「でも、すごいことだよ? わたし、朝倉くんが投稿始めたころから見てるから……なんか、うれしいな」
俺はその言葉に、照れくさくて目をそらした。
教室のざわめきと、二人の沈黙。
名前を呼ばれるでもなく、正面から褒められるでもない。
でも、変化は確かに始まっていた。
放課後、机を片づけていたら、視界の端にひょこっと影が差した。
すぐ横では、七海がスマホをいじっている。
「……あのさ、ちょっといい?」
「おっと〜、朝倉に話すときは私を通してもらわないと?」
七海が冗談めかして口を挟む。
「いや、誰のマネージャーだよ」
軽く突っ込みつつ、視線を佐原に戻す。
見れば、同じクラスの女子。地味目な髪型に眼鏡、おとなしい印象の女子だ。
「あ、うん。どうかした?」
「えっと……その……もしかして、sakuraAって……」
一瞬、心臓が跳ねた。
でもすぐに表情を作り直す。
「んー? なんの話?」
ごまかすように笑ってみせると、佐原は慌てて手を振った。
「ご、ごめん! 違ったらほんとごめん! でも……なんか、すごく声が似てたから……」
その目は、真剣だった。茶化すでもなく、詮索でもなく、ただ純粋に確認したいという顔。
「……ばれた?」
苦笑まじりにそう言うと、佐原の目がぱっと見開かれる。
「やっぱり!? わ、嬉しい……! わたし、あの投稿、めっちゃ好きで……! なんか、声に真っ直ぐさがあって……ごめん、うまく言えないけど」
「いや、ありがとう。なんか、嬉しいわ」
言いながら、頬が少し熱くなるのを感じた。
まさかこんなかたちで誰かから感想をもらえるとは思ってなかった。
「これからも聴いていい?」
「もちろん。むしろ、聴いてくれるなら励みになる」
佐原ははにかんで笑って、軽く頭を下げた。
「じゃ、じゃあ……またね!」
そう言って、弾むように教室を出ていく。
その背中を見ながら、俺は少しだけ、深呼吸した。
誰かに知られるのは、やっぱりちょっと怖い。
でも、こういう出会いがあるなら――悪くない。
(……次も、ちゃんと投稿しないとな)
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