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新生活(1)

「ちょっと、手伝ってもらっても良いかな」

「もう少し寝かせて」


 安定期に入り、少しばかりお腹が膨らむとともに、マシになるだろうと思っていたつわりも気持ちばかり重くなっているらしい。


 全く平気な時もあるからと、連休が無い限りあまりあれこれと俺へ頼み事をしない彼女は、妊娠前と変わらず、献身的に俺に尽くしてくれていた。


 接客業である俺の休日は残念ながら不定期で、最近の若者は嫌なことがあるとすぐに辞めてしまう影響をもろに受け、今週も気付けば10勤目にしてやっとの休みだった。


「そっか、ごめんね。あのねもし良ければ」

「後で聞くからちょっと寝かせて」

「うん、おやすみなさい」


 夢うつつの中で、雪が部屋を離れていく足音を聞き、また心地良い夢の世界へ落ちていく。



 それからしばらくして目が覚めたのは、夕日も落ちて空に一番星が輝き始めた時だった。


「おはよ」

「おはよう、よく眠れた?」


 柔らかい笑みが心地よくて、うんと答えてソファーへ腰を下ろす。

 途端に鳴り出す腹の虫が今日は何も食べていないと知らせてくるから、いつもの様に食事の催促をしてみた。


 けれど。


「ごめんなさい。つわりが酷くて私も寝てしまって……買い出し行かなきゃ何も無いのに行けてなくて」

「早く言えよ」

「うん。ごめんね」


 申し訳なさそうに笑う彼女へ、俺はどう答えたのかなんてさっぱり覚えていない。

 だけど申し訳なさそうに笑ってくれていたことだけは確かで、そこで初めて二人で買い物に出かけたのだった。



 妊娠後期に入って、つわりが幾分か落ち着いたと思うと、今度は細身の彼女だからこそ目立つほどにお腹が大きくなってきた。


 今まで俺には感じられなかった胎動に触れられるようになり、父親という自覚が芽生え始め、雪とこの子のためにもっと頑張らなければと仕事を増やすようになった。


「陽くん」


 雨の日の午後。

 数日ぶりの休日。

 俺は遅くまでゲームをしてしまって、なかなか起きないことを心配したのか、わざわざ起こしに来てくれた。


「……んぁ?」

「買い出し、何時に行く?」

「行かなきゃ、いけないの?」


 よいしょと身重な体を気遣いながら俺のそばで腰を落とす雪へ、無意識にそんなことを言ってしまって、ゆっくりと目覚める頭が少しばかり後悔しつつも、ため息までついてしまう。


「冷蔵庫空っぽで……」

「仕方ないなぁ」


 あわよくばまだ眠ろうとする頭と体にムチを打つように立ち上がり、さっさと支度する。


「せっかくの休みなのにごめんね」


 申し訳なさそうに支度をする姿に、俺の方が悪い事を言っているのにと思いつつ、馬鹿な気持ちが素直に言葉を出せず、彼女の頭をポンポン撫でるという返事をしてみせた。

 すると予想以上に彼女は嬉しそうに笑い、ありがとうと満面の笑みを向けてくれた。


 その可愛さと言ったら比べ物が無いだろうほどの輝きを放ち、今しがたの最低な自分の言動を恥じ、彼女の手を引いた。


「可愛いな」

「何だか恥ずかしい、ありがとう」


 そう言ってまた笑ってくれる彼女が持つカバンを受け取って、雨の中ドライブがてら買い物へ出かけた。




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