エピローグ
そのあとは一方的だった。
それもそのはずこれほどの数の魔導士、それも第一線で戦えるレベルとの一線を彼らは想定していなかった。
というか、そうならないようにウェルスター王国の準備は用意周到にされていたはずだった。
魅了魔法を使える人間を使わせ、転移魔法で駆けつける術をうばってからの開戦。
ウェルスター王国と隣接する領地はすでに、ウェルスター王国から攻め入られたときの要である役割を失っていた。
公爵家とは名ばかりで、王都の貴族たちは私たち辺境に住んでいて高い位だけもっている貴族連中を完全に見下し、その影響は婚姻にも出ていた。
優れた魔法の使い手は何世代も前から排出されることはなく。
あらたに生まれるきっかけとなる婚姻が結ばれることもない。
戦闘に長けた人材は本来ある程度おいておくべきである隣国と隣接する領にはほぼおらず。
戦争になることなど想定していない平和ボケした国だったと言わざるを得ない。
いざとなれば転移魔法で駆けつければいいとの目論見だったのだと思うが、今回の事件でこの認識は改めさせられることとなるだろう。
訓練された兵を操るグラニフの奮闘むなしく、本来ならこの場に現れて一戦まみえることのない国を挙げての魔導士たちはたちどころに戦況をひっくり返しその場を制圧した。
隣接する領までは王都からは遠くとも、ここからならば早馬を使えば今日中につく。
魔導士たちはメランハルト領、ウルデ領に向かう部隊をわけられた。
今回これほどの魔法使いたちが現れることは想定されてなかったこともあり、翌日にはすべて蹴りが付いたとの報告が上がってきた。
リスタンにかけられていた魅了の魔法も、持続性はそれほどないらしく翌日には無事に正気を取り戻したようだった。
これをきっかけに、多くのことが見直されることとなるだろう。
マクミランでは防衛の要としての役割を再び強く求められるだろうし、それに伴って王国所属の魔導士や騎士たちの新たな赴任先の設定。
マクミラン公爵家の税収を下げるなり、国からの補助金を出すなりしての私兵を維持するための資金面。
今回のウェルスター王国からけしかけられた出来事の落としどころはどうなるかとか。
どれほどのことがこれから話し合われていくのかは想像はつかない。
ノアが私に強烈に惹かれた秘密である加護のことはもうノアにばれてしまった。
ウェルスター王国とのことは今後どうなるかわからないけれど、国がさすがに動くことによって十分な人材が配置されるように切り替わるし。
私の婿問題も腹のうちはどうであれ、相応な方が婚姻相手として今後を見据えてあてがわれることだろう。
もう無理にノアがこんな辺境の地に婿にくる理由はなにもない。
ノアは魔力拡散剤の治療のためにすぐにでもということで王都行きのスクロールで別れの言葉を言う暇もなく私の前から消えた。
今回のことが片付けば、いずれこの関係も終わるだろう。
すべてがなんとか終焉の方向にむけて動いた報告をうけた私は久々に眠りについた。
張りつめていた緊張の糸が切れた私はぐっすりと眠っていた。
ひんやりとして、なめらかで私が身じろぐとそれに合わせて寝やすいように動いてくれる。
………じゃない!?
まてまてまて、私はこれを知っている。
私の部屋にあるはずのないものというか、いてはならないもの。
バッと勢いよく朝から起き上がった。
「なんで私の部屋にいるのよ!? 治療は? 王都に戻ったんじゃないの? それにまだ記録石は壊れているからスクロールは使えないはずでしょ」
「治療はしているよ。まだ魔力が完全に漏れ出すのは治ってないから、しばらくは転移魔法を使ってここと実家との往復だね」
そういいつつ、まだ眠いといわんばかりにノアは私の腰に手を回して抱きしめると目を閉じた。
「なんでそんな意味がわからないことを……」
魔力がまだ拡散する状態が完治してないのに、どうして魔力をたくさん使う転移魔法をわざわざ使ってまで、ここから実家に通うという無駄な行為をするのかがさっぱりわからず絶句する。
「エミリーがね。家を空けると相手が不安になるって言っていてね。なんだそれとは思うんだけど、私が多少頑張るだけで防げることなら黙ってしておけばいいらしい」
エミリーって誰よと早速知らない女の名前がでてきて何なのと思う。
「誰よそれ……」
そんな私にぽんっと差し出されたのは見覚えのある紹介状だった。
「貸衣装屋のエミリーだよ。君の顧客だろ?」
ノアの答えにぎょっとした。
まさか本当にノアが貸衣装屋のエミリーにまでたどり着けるとは思ってもみなかったのだ。
「ウソでしょ」
どうやってたどり着いたんだこの男はとか問い詰めたいことはいろいろあるのに。
ノアはというと、私の隣で楽しそうにあの時のやり取りをなぞるかのように言葉を続ける。
「これで私は君の正式な客だ。それでは再戦と行こうか」
「はい?」
「当然受けるだろう? 私はイカサマとインチキには寛容だ、あくまでバレなければ問い詰めないという話だけれど」
「待って頂戴。再戦って……」
「私には婚約者がいるんだけれど、どうやら私との婚約にいまだに乗り気でないらしい。どうしたら結婚してくれると思う?」
ノアは意地悪く笑った。
「もう私たちが結婚しなければいけない理由なんてないでしょ」
「私を結構好きだといったのに?」
「あれは今生の別れだと思って」
「それでどうやったら結婚してくれる?」
その質問に私は沈黙した、だって勝負の内容がめちゃくちゃだからだ。
だって、ここで私が言った答えをノアが実行して成功すれば、私はノアと結婚するし。
かといって、私が言った答えをノアが実行して成功しなかったら、賭けに負けることとなる。
どちらにしてもこの勝負、私が勝つ道筋がないのだ。
「賭けは君の負けだ」
ノアがゆっくりと体を起こし、素直じゃないなぁの一言をつぶやくとゆっくりとその顔が私の顔に近づく。
その意味に気が付かないほど野暮じゃないし、どうしよう。どうしたらと思う間にあっという間に私はノアを受け入れることとなったのだが……
そっとノアの顔が離れてニッコリと笑ったノアがこの方が手っ取り早いと指をパチンとはじくと。
いざというときのベルが鳴った。
かかっていたはずの部屋の鍵はかかっていなくて。
私の部屋の付近にいてすぐに踏み込んできたセバスが、半裸でベッドにいたノアをみてふらっとよろめく。
「まって違う。」
私がいろいろ言う前に、ノアが言うのだ。
「私だってこのようなことはしたくなかった。だけれど……婚約をする女性に恥をかかせるわけにはいかないから」
「いやいやいや。何私が誘ったかのように言っているの!?」
こうして手っ取り早いからという実に合理的かつ、なんだそれという理由で外堀を埋められたのであった。




