逃げて
援軍がくるかもしれないとか、リスタンをどうしようとかそれどころではない何かが起ころうとしている。
とりあえず今を生き延びるために私とノアが走り出してすぐのことだった。
地面が私でもわかるほど揺れたのを感じたのを合図に屋敷から伸びたトンネルにそうように亀裂が走った。
木々が折れるバキバキとした音と揺れの中もたつく足取りで走り抜けた私たちとは対照に、土魔法の使い手がいてもすでに魔力をかなり消費した魔道士たちではこれほどの規模の災害をとめるすべはない。
続いて聞こえた叫び声でリスタン達は不幸にも巻き込まれたことがわかったが、私は怖くて後ろを振り返れなかった。
叫び声を聞き体を震わせるとノアの手が優しく私の耳を覆った。
足の裏から伝わる振動が落ち着いてきて私は意を決して後ろを振り返った。
リスタン達は生きてはいたようだが、もう戦闘を続けることが不可能なのは明らかだったが。
アレほどの規模で斜面が崩壊したとなれば、ここに状況確認も兼ねて援軍が来るだろことは明らかだった。
魅了の魔法が使える人材を投入してまで行われた転移スクロールが使えないようにする作戦。
短時間でアレほどの距離を掘り進められる土魔法の使い手。
戦争はもう避けられないことは明白だった。
隣国の援軍が来るまでに残された時間は?
私たちを助けにくる援軍の到着はいつ?
こんな惨状でも雲一つなく晴れ渡った空を見上げて私はこれからマクミランが戦場になることが避けられないことをどうすべきかを考えた。
ノアも束の間のひと息にこれからどうすべきかを思案しているようだ。
ノアは今ほとんど魔法が使えない。
優秀な魔法の使い手である彼は相手にとって脅威になる、もし魔法がロクに使えないことに気が付かれたら彼の命はないことだろう。
私は大きくため息を付いてから雲一つない快晴を見上げほとんど残ってない魔力を使って雨を降らせることにした。
ここではない、ここからほど近い市街地にだ。
マクミランは雨があまりふらない。
ましてやこの快晴で魔力によって雨が街に降ればおかしいときっと私の親友なら気がついてくれるはず。
雨雲ができて1分ほどの通り雨を降らせた。
もう私の魔力は空っぽ。立っているのもやっとだ。
私に残された手段は加護だけ。
でも人の心の内がわかったところで、戦争は止めることは出来ない。
私に後できることは、ノアにこの場から離脱していいことを伝えることだけだ。
「ノア」
振り返り私は彼の名を呼んだ。
「なんだい?」
「最後にあなたを占ってあげる」
「跡形なくビル一棟潰してでも逃げて占う気がなかったのに?」
まだ半年もアレから経ってないのに、強烈な出会いを思い出して、そして私の手のひらの上で転がされ連日ヴィンセントと反省会をしていたことを思い出して笑ってしまった。
「そんな事もあったわね」
「ティアは意地の悪いところがある。こちらの思惑をわかってて誤魔化し続けたりね。だからこそ君といるとおもしろいよ」
さらっとあの日々を面白かったと言い切るあたりノアはやはり常人とは考え方の違う奇人だ。
さて、彼はこんなところで無駄死にすべき人ではない。
「でも残念ね。私といるのはここでお終い」
「最終的に一緒に居るかどうかを決めるのは、私だ。」
「策はないわ、ここに居ると優秀な魔術師のあなたはこの機を逃さず殺される。だから逃げて」
魔力拡散剤の効力が切れれば、魔力は徐々に回復するからそれまで逃げ切れれば王都までノアは転移できる。
ここから近い領地の転移の目印となる石は壊されてしまっている今、私たちの援軍はもう間に合うことはない。
マクミランの名を背負った父と母がいない今私は領民を残して戦火を離れるわけには行かない。
「大丈夫。策があるよ」
その言葉に絡みつくように浮かぶ、ウソ、ウソ、ウソの文字。
「私にウソは通じない」
「ならなんとかしてみせるよ。どうやってマクミランに名前も知らない会ったばかりの占い師が逃げたことを突き止めたと思ってるんだ」
なんとかしてみせるに絡みついて浮かぶホントの文字に彼らしいと思ってしまう。
「それに……」
ノアはそう言って私の手を引くと遠くを見据えた。
「もう逃げる時間もなさそうだ」
その視線の先には隣国の援軍がすでに姿を現していた。
少数で隠密で動いていたリスタンたちとは違い、現れたのはちゃんとした軍だった。
馬に乗った体格のよい騎馬隊の後に続いたのは、体格からして魔道士たちだろう。
その数は無情にも数えきれないほどだった。
弓兵がいないのは、魔道士を多く連れてきておそらく必要がないからだ。
マクミランには現在傭兵を雇って兵力を最低限維持しようとはしているもののまともに戦闘に使える魔法を使える者はいない。
戦力の差は歴然だった。




