焔下の剣戟(閑)
*ジョシュア・クリプトン(アルキュール王国 セダの村)
「驚いた、君は口を利くのだな」
と言いながら、眼前の騎士に話しかける。
考えてみれば、実はそれほどおかしくもないのだが。
「私をその辺りの木偶と一緒にされてはこまる」
声が高く、伸びやかで若い。
話しぶりからすると齢は二十ほどだろうか。
脚運びからして、相当剣術を修めているのは間違いなさそうだ。
クロウならこの時点で色々と気の利いた質問をするのかもしれないが、私には無理だ。
正攻法で行こう。警戒は怠らないように、言葉を紡ぐ。
「ずいぶんなものだな。
村を焼き討ちなどして、王宮が黙っていないぞ」
「この国のことなど知ったことか。
来ると言うなら、今すぐ叩き殺してやりたいところだ」
言葉遣いが流暢だ。貴族だろうな。証拠はないが、確信する。
宮廷にいるような、命令しなれた人間の空気を纏っている。
真似をして、少しカマをかけてみるか。
「トミナールの残党が、なぜこんな研究に手を染めている。
こんな兵士、いくら作ったところでアルキュールに勝てると思っているのか」
「賢しいな。
私から情報を引き出そうとは。
教えてやってもいいが、まずは腕前を見てからだ」
全身鎧の騎士が手をかざすと、周りの兵士たちが退いていく。
やはり、この騎士があの兵士たちの運用者だったか。
「運用者」という言い方が、一般的かどうかは詳しくない。
ただ、騎士見習いとして過ごしていた時に、ああいう準ゴーレムの話を学ぶ機会があった。
運用者とは、その時に戦術論の先生が使っていた用語だ。
簡単にいえば、ゴーレムにそのつど命令をだす人物を指す。
不得手だった戦術論を詰め込んでくれた先生に感謝しておこう。
「腕前を見るとはどういう意味だ?」
「言葉通りの意味だよ、賢しい錬金術師くん」
全身鎧の騎士がすらりと剣を抜く。
一目で業物とわかる代物だ。
やはり最低でも貴族階級の人間だな、これは。
アルキュールの六大貴族の関係者なのかもしれない。
言葉を通じてはこれ以上情報が引き出せそうにない。
実際に剣を合わせてみるしかないか。
万が一打ちかかってきても受けきれるように、もう剣は構えている。
逃げて合流するのも手だが、
この全身鎧の騎士が「運用者」ならば、倒せればだいぶ楽になる。
私が切り結んでいた兵士たちは明らかに様子がおかしかった。
自由意思がなく、与えられた命令にだけ従って動く木偶たち。
ああいう類の手駒は、複雑な命令を実行しにくい。
そういう風に作ったり術をかけるだけでコストがかさむかららしい。
しかし、単純な命令しか聞かない手駒は、動かすのが難しい。
「動くものを攻撃しろ」と命令しただけだと、風に揺れる草木を攻撃し続ける。
「あやしいものを攻撃しろ」と命令しただけだと、情報が曖昧過ぎてうまく動いてくれない。
単独では使いどころが限られるのだ。
だから、運用にあたっては人間がそこをフォローする必要がある。
この手の手駒は運用者を伴っていることが戦術的に定石なのだ。
あの兵士たちは「この騎士の指定する対象に攻撃しろ」とでも条件づけされていたのだろう。
「木偶たちに余計な手出しをさせるつもりはない。
安心して斬られたまえ」
騎士が正眼に構えた瞬間、ぞくりと体が震える。
これは厳しいな。シグルドさんと立ち会ったような感触だ。
下手を打たずとも、私より数段上だぞ。
「四肢の数本は飛ばすかもしれんが、安心しろ。
あとできちんと補ってやる」
ありがたくない保証だ。
しかし、そうすると最初から彼らは私たちを拿捕するつもりだったのだな。
いまさら気づいた。
村ごと焼くのは、私たちが殺されているという風に、周囲の思考を誘導するためか。
私たちを捕まえて尋問するための隠れ蓑といったところだろう。
さて、うまくいなせるか。
逃げを打つことも視野に入れなくてはならないが、倒せれば大きい。
ひさびさに更新しました。
焔の壁に包まれた村で、錬金騎士ジョシュア、神聖術師クロウ、召喚術師マディンがバラバラになり、それぞれ敵と対峙しています。
今回はジョシュア回。
次回はクロウのところを書く予定。
全体的に行間の使い方に手を入れましたが、以下の話をとりわけ加筆し再構成しました。
序「逆向きの独白」
一部一話「新米冒険者の朝」
二部三話「夕方の路上」




