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焔踊の迂路

*クロウ・ナガミネ(アルキュール王国 セダの村)



 光の獣を幾匹躱したか。


 まきあがった煙に隠れ、老人の姿はいつのまにか消えていた。

 相手の姿が見えない。

 姿を現すのは獣型をした《光矢(ライトアロー)》。

 建物の陰からは光の獣が現れ、こちらへと特攻してくる。

 周囲の建造物は見るも無残に破壊されつつあるけれど、幸いなことに攻撃は対処しやすい程度にとどまっている。


 まさかこちらを警戒でもしているのか。

 相手は姿を隠して、単調な遠距離攻撃を仕掛けてきている。

 あのまま他の魔術を交えて攻撃されれば、それなりに厳しかったんだけどな。



 視界にわずかな明かりのブレ。

 焔でいささか明るくなっているとは言え、建物の裏には影が残る。

 そうした影が一瞬ちらりと照らされたのだ。

 何に? 決まっている。


 死角となっている建物の陰から飛び出してきた光獣を紙一重でかわし、またも後ろの家屋が吹き飛ぶ。



 さて、どうしよう。

 まさかこの程度でこちらが行動不能になるとは思っていないだろう。

 勝ちを拾うのではなく負けを避けるタイプの相手かな?


 それなら悪くない。

 攻めに行こうと思っていたけれど、方針を変えればいい。

 こちらは攻撃を避けつつ残りの二人と合流を目指すだけだ。

 こちらが懐に入る可能性も潰されているけれど、合流すれば手はある。

 一気に撤退するだけの隙はいまのところないけれど、そう難しくない気がする。


 しかし、何かがひっかかる。

 最悪な場合を想定しよう。

 まず僕の思考を誘導されている可能性を配慮するべきだ。

 こうして《光矢(ライトアロー)》を躱しつづけ、隙を見てこの場を離れようと考えさせられている(・・・・・・・)可能性。


 そうだとしたら、目的は何だろう。

 間接的に負けるパターンと、直接的に負けるパターンがある。

 逃げられる逃げられると思いながら、釘づけにされていて、本体が別行動をとっていたり、僕を動かさないようにしている。

 それか、本体が別の攻め筋を持っていて、そちらに嵌めようとしている。

 どちらもありそうかな。



 嫌な未来を予想してみる。

 あの老人がこちらを攻め切らないことで、勝ちが確定するとしたら。


 間接的に負けるパターン。

 こちらが散開してしまっている今、最悪の手筋は各個撃破されることだ。

 別の敵に合流しに行っている。ほかの敵が合流してくるまで時間を稼いでいる。

 ほかの二人が各個撃破を控えた状態にあるので、僕を釘付けにしているだけでいい。

 不味いのはこのあたりだろうか。

 僕への目下の脅威は去るが、避けたいパターンかな。


 あの老人の老練さを考えると、間違っていない気がしてくる。

 ただ、それだけではないような気がしている。

 何かがひっかかっている。


 思えば、あの老人の話しぶりには余裕がありすぎた(・・・・・)。

 こちらの生まれを気にしたというのはどういう意味か。読み切れはしない。

 ただ、いずれにせよ、あの会話は最低でも興味本位の物であったろう。

 そう問いかけるだけの余裕があったのだ。


 あれは、負けを避けるタイプの相手が、僕を釘付けにしているだけで勝てるというだけの理由で、安心して生まれた余裕だろうか?

 ちがう、となんとなく思う。



 こうして思考を巡らせるあいだにも、何頭もの光獣が家屋を吹き飛ばしてゆく。

 家がないほうがこちらとしても回避しやすく攻めやすい、と考えるのは早計だ。

 先方に物量で押しこまれた場合、足場がないと厳しい。


 相手がこちらの位置を把握している方法がわからないけれど、それを潰せれば奇襲もとれる。

 なるべく壊してほしくはないんだけどな。



 完全に勘だけれど、あの老人は矜持がある人物な気がする。

 負けを避けるのではなく、自分を曲げず、勝ちに来るタイプ。

 あの余裕は負け筋を避けられて安堵しているのではなくて、勝ち筋を打てているという確信なんじゃないか?


 そうだとしたら。

 「僕を捕らえる」と言ったことは、嘘でも惑わしでもなく、宣言だとしたら。

 この状況は別の負け筋への誘導ということになる。


 しかし、だとすれば、あの杖にはなんらかの制約があると考えてよいだろう。

 あの出力があれば、搦め手を使う必要はない。

 僕は搦め手を使うまでもなく追いつめられてしまう。


 制約のあるものをなぜ使うのか?

 こういうときは、相手がなぜこういう行動に出たのかをかなり大きなフレームで考えると道が開けることが多いのだが、今はそこまで余力がない。

 目下使わない脈絡に頭を割きすぎると、対応力が損なわれる。

 直観に身を任せたほうがうまくいくことが多い。



 僕の直観はこう言っている。

 このまま敵の姿を見失ったままでいるのはなにかがまずい(・・・)。

 攻めに行くのが最善手だ、と。

焔の壁に包まれた村で、錬金騎士ジョシュア、神聖術師クロウ、召喚術師マディンがバラバラになり、それぞれ敵と対峙しています。

今回はクロウ回。頑張って考え事をしています。

予定していたところまで進まなかったので、次回もクロウ回の予定です。



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