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焔下の剣戟(一)

*ジョシュア・クリプトン(アルキュール王国 セダの村)



 鈍色の剣戟が焔を映して赤銅に燃える。

 朱色に染まった村の中で、舞踊のように、幼いころから身に沁みついた動きを繰り返す。


 いずれの兵士も同型の黒い全身鎧を着こみ、顔が見えない。

 雑兵という役柄を割り当てられた役者めいている。

 ここまでお膳立てされていると、まるで何かの演劇のようだな。


 周囲にはすでに切り伏せた兵が二体。

 眼前にはまさに切りあっている兵が三体。


 降り降ろされる剣を受ける。

 思ったよりは力が強い。

 だが、技術面は非常にお粗末で機械的だ。

 だから、対処はそれほど難しくない。


 逸らして流し、斬り上げる。

 このように。

 十歳の子でも習うような剣術でいなすことが出来る。


 わきの下の継ぎ目に剣を突き込み、右腕を落とす。

 動きを確実に封じるためだ。

 この敵の正体ははっきりとはわからない。

 だが目下は利き腕を使えなくしておけば十分。

 一体をぶじ無力化できた。

 と、安心している場合ではない。


 対峙している二体が切りかかってくる。

 さらに、背後の家の影から一体が現れ、切りつけてくる。

 狭い村とはいえ家屋が立ち並んでいる地域だ。

 警戒済みのため、それほど驚くことではない。


 正面の一体の切り込みを躱しつつ、二体目を剣でうける。

 後ろの一撃には防御が間に合わない。


 即座に鎧で衝撃を受けきるよう足はこびを修正。

 同時に――そもそものはじめから魔力を通してある――鎧を操作。

 攻撃を受けると予測される箇所に二つの形式で変成する。

 重装化。形状固定化。

 鎧にあらかじめかけている硬度強化を加えると、三重の防御ということになる。

 硬度強化は鎧に使われている合金の配列を組み替え硬度を高めるもの。

 重装化は、攻撃を受けるであろう予想箇所の厚みを変更するもの。

 形状固定化は、攻撃を受ける際に生じる初動的な「歪み」を低減するもの。

 一つ一つはそれほど強固な防御効果をもたらさないが、重なれば――


 ごあん(・・・)というゆるい音と同時に、後方から軽い衝撃。

 はじめから受けきるつもりだったので、予定通り軽く踏みとどまる。

 体の後ろに盾を構えている感覚といえばいいか。



 「その程度では効かないな」


 受けている剣を引いて斜め後方に跳躍。

 眼前の一体目が力を加え損なって体勢を崩し、切り込もうとしていた二体目を躱す。

 わざわざ言う必要のない言葉をしゃべってしまうのは、クロウの癖が移ったのだろう。

 クロウは情報を集めることにどん欲だ。

 相手の手札が見えないときは、こちらの手札を多少出してもいい。

 とにかく相手の手札を推し量ること。それが彼の戦術だ。


 引きながら体をやや左にねじり、その動きに任せて後方の兵士の頭部に肘を一撃。

 今度は肘部の形状をやや変更し、装甲をやや厚くしている。

 これもあまり大きな変更ではないが、相手に与える衝撃の度合いが全然変わってくる。


 兵士が体勢を崩し、距離があいたのを確認して、もう一手。

 剣の形状をやや変更する。重心をやや手前にずらし、剣速を優先。

 最速でわきの下を切り上げる。

 無力化を果たしつつ降り抜き、残る二体に対峙しようと剣を構えようとする。


 と、二体が剣を保ったままじりじりと後退し始める。

 二体が下がったところで、今度は眼前の建物の陰から、全身鎧をまとった小柄な騎士が現れた。



 「真打登場というわけか」 


 と軽口を叩いてみる。

 正直いって、あまり返事は期待していなかった。

 この兵たちはおそらくまっとうな人間ではない。

 なるほど、斬った感触はたしかに人だ。

 だが動きがあまりに単純すぎるし、斬り結んだ際にも気迫のようなものを殆ど感じない。

 自由意思が奪われた兵か、人間の肉体を利用したゴーレムだろう。

 ということは、いくら軽口を叩いても返答が返ってくるわけはないのだ。


 仮に応答するにしても、ゴーレムはふつう決められたルーチンに従って動くだけだ。

 そして、眼前の騎士が兵たちと同類であることは鎧から察せられる。

 だが。



 「ふん、使えん木偶どもが」



 と、女の声が返ってきた。




不定期投稿になりそうですが、とりあえず復帰しました。

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