↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/22

夜の篝火

*マディン・ソルネイル(アルキュール王国 セダの村)



 朱色に照らされる村の路地。

 立て続けに飛んでくる高速の《炎弾(ファイアバレット)》から身を隠すために、物陰に入る。



 「……こいつは困ったな」



 セダの村の外延部にちらりと目を向ける。

 深夜だというのにごうごう(・・・・)と照らされる村。

 昼に近い明るさで、朱色に染まっている。


 敵さんは、俺たちを消すという方向に動いたわけだ。

 それはいいんだが……。



 「こいつ、下手するとエレイシアさん級じゃね?」



 セダの村を取り囲むは長大な《炎壁(ファイアーウォール)》。

 それを生み出したものと対峙していると考えるだけで、冷汗が流れる。


 魔力量で到底勝負にならないのは明らかだ。

 術式制御の繊細さなら勝負になる可能性はあるが、果たして。


 少なくとも魔力量だけとるならば、エレイシアさんに匹敵するだろう。

 つまりそれは、王都最大のギルド「ロウキーパー」の最大戦力クラスの敵だということである。

 はるか格上だと考えたほうがいい。


 初弾にうまく対処できなかったのが悔やまれる。

 およそ5分ほど前。自分たちに宛(あて)がわれた仮宿に休んでいた。


 そこに突如、最大威力の《炎弾(ファイアバレット)》をぶち込まれたのである。

 精霊に対する強大な干渉を感じ取り、予め散開しておかなければやられていた。

 しかも、散開した二人とは爆風で逆方向に吹き飛ばされ、逸れてしまった。


 戦術は二つ。

 合流して戦力を集中するか。

 ここで俺がこいつを抑えている間に撤退するか。


 精霊に対する強大な干渉……魔術行使の気配を感じる。

 物陰から気配のもとを見る。


 村のなかでも街道から最も遠い区域。

 その途中の屋根の上に黒っぽい何かがいる。

 遠すぎてどうもわからないが、人間……なのか?


 「視力強化(ビジュアルエンハンス)」


 詠唱。予め自分の支配下にある精霊たちに干渉。

 目の組織をあらかじめ設定したかたちに組み替える。


 自分の体を構成する精霊たちに干渉する術式はあまり好まれない。

 失敗したときのリスクが大きいのと、魔力の効率が悪く、あまり長時間持続するタイプの術式ではないからだ。

 俺も、冒険者をやっていた以前の師匠から有用性を説かれなければ覚えることはなかっただろう。

 だが、今回のように一瞬だけ見えればいいなら十分。


 ……あれは、黒い……犬、か?

 額に赤い宝石がはまり、背に蝙蝠のような翼が生えた生物を犬と呼んでいいなら、だが。


 霊獣か魔獣か。あるいは変わった魔族か。

 魔獣、魔族というのは、簡単にいえば悪しき神々の干渉を受けて変質した霊獣や人のことである。

 悪しき神々の影響をうける際に姿かたちがかわる場合もあるので、もとが人という可能性もある。



 と。

 その黒犬の周囲に五つほど、巨大な火の玉が生じる。


 おいおい。

 あれ一つで「ロウキーパー」の新米だったら魔力切れ起こすぞ。


 戦術を切り替えたようだ。

 先ほどまでは拳大の火球の遠隔射撃。こちらが視認できるときに有用なタイプ。

 こちらは2メートルほどの火球による遠隔砲撃(・・)。つまり…


 火球がこちらの方へ向けて発射される。


 今隠れている場所から5~6メートルほど離れた家に着弾。

 俺が隠れながら接近していると踏んだようだ。

 今隠れたばかりの場所よりもやや相手に近い箇所。

 そこにあった家が粉みじんに破壊され、破片が周囲に飛び散る。

 

 ……こいつはやばいな。

 精霊魔術師の十八番は遠距離戦の火力勝負だが、相手さんの方が腕前が上だ。

 相手の火球はあと四発。


 正直いって、発射されてから避ける自信がない。

 防御魔法は、下手に行使すると居場所がばれかねないのでなし。



 さて、どうしたもんか。

 最悪の手は敵がこっちに移動してくることだが、どうもその気配はない。


 その理由はおそらく、《炎壁(ファイアーウォール)》にある。

 村の周囲はきっちり《炎壁(ファイアーウォール)》で覆われているのだが、街道とは全く逆のほうにだけ裂け目があるのだ。

 そして、その方向に黒犬はいる。


 要するに、脱出方向を絞って罠にかけようとしているのだ。

 村ごと焼き殺すか、黒犬との正面対決させるかという罠に。


 問題なのはそれだけじゃない。最悪の場合を考える。


 悪いのは、あいつが霊獣か魔獣だった場合だ。

 その場合、あいつを使役している術者がいるはずだ。


 そして、なお悪いのはそいつが切れ者だった場合。

 そいつは戦況が硬直することを見越して、村の中に潜んでいる可能性が高い。


 さらに最悪なのは、そいつが切れ者で、かつ手下がいる場合。

 村の中に配置するかどうかはわからないが、あの砲撃で硬直している戦場をひっかきまわすために、人海戦術をとってくる可能性が考えられる。  

 


 火球がさらに発射。

 先ほどよりも着弾点がこちらに近い。


 なるべく静かに移動。

 絨毯爆撃してくる気なら、とりあえず着弾点は読みやすい。

 少しでも離れる方向に。



 困った。

 面倒くさすぎる。

 あの黒犬だけでも対処に困るってのに、こっちは三人だぞ。

 

 そもそもあの黒犬にしてからが、俺と相性最悪。

 火属性の霊獣や魔獣は火の精霊魔術に対する強い耐性がある。

 となると物理的に破壊するのが順当なわけだが、多くの精霊を従えた霊獣は身体的にも頑強。

 少なくとも後衛職の俺が物理的に破壊する手段はない。


 今の手持ちは魔法陣布、触媒入りの魔法杖、魔力用の霊薬数本。

 せめて他の相手ならなんとかなるが、精霊魔術師としては完全にお手上げだ。


 撤退ルートは塞がれている。

 とすると撃破を視野に入れて行動すべきだ。


 あれを撃破するとしたら、俺一人では手札が足りない。

 一度合流するか離れたまま連携するしかないな。


 クロウもまだ戦える状態ならおおよそ戦況は掴んでいるだろうが……

 とりあえず黒犬から距離を取りながら、索敵してみることにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。