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寄り道と訓練

*ジョシュア・クリプトン(アルキュール王国 飼い葉売りの村 宿屋『朝の光』亭裏)



 「……ふう」


 鎧の内着が吹き出た汗を吸って湿り気を帯びている。

 実戦形式の訓練のあいま。

 ひとしきり打ち合ったので休憩することにした。


 鎧に魔力を通し、形態操作。

 カチャリ、と外して地面に置く。

 体が涼やかな夜気に晒される。



 深夜、宿屋の裏手。

 辺りを囲む森からは虫たちの声なきざわめき。

 私たちは吹き出る汗を布でぬぐいつつ、休息をとっている。


 クロウが「ロウキーパー」出身の同行者たちを交えて訓練をしたいと言い出したのだ。

 私も、他の「ロウキーパー」たちも、体を動かすのは賛成だった。

 私たちは日中、荷運びを多少手伝うことこそあれ、殆どずっと歩いているばかりだからだ。

 動かさなくては勘もすっかり鈍ってしまう。

 

 辺りにはクロウをはじめとして、今回の依頼を受けた「ロウキーパー」の前衛たち。

 私とクロウを含めて計五人。

 大剣使いの重戦士クロフォード。

 短弓と手斧の使い手エラン。

 槍使いのロイター。


 訓練用の木剣などないから、勝負は基本寸止め。

 暗闇でも手元が狂わないように、クロウが《光球(ライト)》を使っていた。

 なお傍らには何故かマディンがいた。

 観戦ふうに座って訓練の様子を見ていたが、彼の意識が私たちに向いていないことがなんとなく察せられた。

 クロウに頼まれたのだろうか、おそらく夜の森の方に意識を受けているのだろう。


 「どうだ、塩梅は」


 と、軽く尋ねると、まあ問題ない、という返答。

 マディンが言うのであれば問題ないだろう。


 マディンの索敵を掻い潜るのはだいぶ難しい。

 熱感知と爬虫類との意思疎通能力を持っているからだ。

 


 私たちはいま「飼い葉売りの村」のひとつに宿泊している。


 東の大国ラグマータの出資によって敷設された街道、「鉄の道」。

 そこは日夜多くの商人たちが往来する交易路になっている。

 そういう事情から、この街道の恩恵に浴して、商人たち向けの商売というのも成立している。

 馬を休め情報交換の場所を提供する、沿道の宿場町。

 そしてその宿場町に飼い葉を卸す「飼い葉売りの村」たちもそうだ。

 要は飼い葉を売って生活を潤している村ということだ。


 この村落では普段、一年のうち草が芽吹くころから肌寒くなるころまでのあいだ、毎月宿場町に飼い葉を運び、帰りに食品を買い付けてくる。

 それほど宿場町から遠いわけではないが、山を二つほど越えなくてはならず、普段は殆ど往来がないからだ。


 いま私たちは、依頼主の商人マティスさんの意向で、こうした「飼い葉売りの村」を回っているところだ。

 どの村でも、マティスさんは村長や村で暮らす騎士たちに歓迎された。

 どんな時期でも、村単位ではうまく自給自足しきれない物品がある。

 そうした物品を必要とする家などの助けになっているからだ。

 年に何度かの楽しみということで、着物や飾り物なども買う人も多かった。

 村には娯楽が少ないのだ。マティスさんを歓迎するのも村を挙げてという風であった。


 ベノムさんの頼みで普段は受けない依頼を受けることになったが、私にとってこの道中は興味深いもので満たされていた。

 私が幼少期から奉公していた方たちはアルキュール王都から出ることはほとんどなく、自分の領地は代官に任せていたからだ。

 このような立場で村落にかかわることはほとんどなかったといっていい。


 結構気疲れしているクロウやマディンには悪い気がしているのだが。



 「ジョシュア、休憩は終わりだ。やろう」


 と、考え事をしていると、大剣使いのクロフォードが獲物を持って立ち上がり、声をかけてきた。

 これ以上やるのか、と苦笑いしながら応じることにする。


 明日も昼までは村にいるそうだから、もう少しやっても影響は出ないだろう。



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