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報告(後編)

*クロウ・ナガミネ(アルキュール王国王都ギメリア、ギルド「ロウキーパー」本部四階)



 話は簡単だ、とベノムさんは続けた。


 「お前たちに受けてほしい依頼がある。

  少し離れた町までの荷運びだ。

  「ロウキーパー」の適当なやつを連れて、東のゴートの町まで小麦の粉を運んでほしい。

  最近野盗が出るらしくてな。依頼が入ってるんだ」


 話を聞いて顔が少しこわばる。

 ベノムさん(ブラックギルド)絡みの「小麦粉」って……。

 明らかにそれ、やばいやつ(毒薬か麻薬)だよ。

 絶対小麦から出来てないよ。


 こわばった顔に気付いたのか、直ぐにベノムさんが補足する。


 「あーいやいや、話を最後まで聞け。ただの小麦だよ。

  依頼も「ロウキーパー」宛てに来てるちゃんとしたやつだ

  もうそこの(シグルド)とも相談済みだが、この依頼を受けたお前たち以外のやつらは、向こうの商人から依頼を受けることになってる。

  おまえたちはゴートの町でフリーになるわけだ」


 んー。

 要するに、小麦輸送の依頼は僕たちをゴートの町まで移動させる偽装ってことかな?

 また手の込んだ真似をする……。

 ってことは、ベノムさんは王都のなかに敵がいるとみてるのか。

 あー、もしかしてアルベールさんが単独犯じゃないってことかな。

 そうするとこの話、でかいぞ……。勘弁してくれ。

 頷いて先を促しておく。


 「で、お前たちにゴートの町で別件の依頼を受けてもらう。

  じつはゴートからさらに山間に入った村で、山中に盗賊団が住み着いたって話があってな。

  ちょうどお前たちがゴートに着くころに、その調査の依頼がでるはずだ。

  その依頼を受けてほしい」


 ……ベノムさん多分だいぶ暗躍してるな。

 盗賊団の情報はどうだろう。ベノムさんの偽装か、それともそういう情報が入ったのか。五分五分かな。

 どちらにせよ、僕たちがゴートの町に着くころに入る依頼というのはやらせ(・・・)だろう。

 ああ、ため息しか出ない。予想通りなら僕たちはえさ(・・)だからだ。

 しかしそれに気づいていると言っても立場は全く好転しないから、黙っているけれど。探りくらい入れておくか。


 「失礼ですが、その依頼がなぜ僕たちに?」

 「ああ、ちょうどよく手が空いている冒険者が「ロウキーパー」にいるって聞いてね。

  頼もうかってことになったんだ、なあ?」


 と、エレイシアさんやシグルドさんの方を人の悪い笑い方をしながら見やる。

 殴りたい、この笑顔。

 おまえも気づいてんだろ、みたいな目でこっち見んな。

 エレイシアさんもシグルドさんも苦笑いしてる。


 僕たちが選ばれた理由は、アルベール事件絡みである可能性が高い。

 そうでなければ、他に使えそうな人材(こま)はいくらでもいるからだ。

 そして多分、僕たちがそれほど強くないことも理由に入っている。

 ベノムさんが描きたい絵はおそらくこうだ。

 アルベールの事件には黒幕がいる。

 その黒幕が、今回の調査地近くで何かしている可能性がある。

 そこで、アルベールの事件を解決した僕たちを送り込んで黒幕のリアクションを引き出そうというわけだ。


 ……たちの悪いことに、いま提案された手順で現地に向かえば、黒幕がリアクション(僕たちに直接手を出)してくる可能性は高い。

 というのも、僕たちがアルベールの事件から手がかりを得て、独断で調査しに来たように見えるからだ。

 僕たちはそういう危険が見込まれる場所に送られるにしては新米過ぎる。

 いくら黒幕だって、ギルドぐるみ(・・・・・・)で調査に来ているなら隠ぺいするかもしれない。

 ギルドぐるみで調査するなら普通それなりの冒険者を送り込むからだ。

 強い冒険者がいれば打つ手も限られてくるし、偽装するのが手っ取り早い。

 だが、それほど強くない冒険者たちがこっそりと調査に来ているのならば?


 ベノムさんのこの依頼(・・)は非常に悪質だ。

 率直に言って、リスクとリターンが釣り合っていない。

 助けを求めてギルドマスター(シグルドさん)や先輩冒険者(エレイシアさん)を見る。

 温かい目で見守るオーラを止めてください。


 と、視線に応えてシグルドさんが口を開く。


 「クロウくん。

  端的に言えば、ベノムの依頼は、君たちが調査してくれたスライムの件に関わっているんだ。」


 続けようとしたシグルドさんを遮って、ベノムさんが話し始める。

 この二人、仲よさそうだな。

 いかん、思考が現実逃避してる。


 「まあ、なんだ。

  要するに、俺たちも疑ってたんだよ。

  おまえがさっき言ったようなことをな」


 ふむ。


 「アルベールはどう考えても希代の錬金術師って柄じゃねえ。

  だがおまえらの報告を聴いても、上に上がった報告を見ても、あいつはうまくやってたらしい。

  ……普通に考えておかしいんだよな」


 それはそうだろう。

 前代未聞の新発見をしたという可能性は残ってるんだろうけど。

 おそらく誰かの研究をコピーしたか、テコ入れされたんだろう。


 「しかも錬金術師団が確保した資料は一部しか残ってないときた。

  おまえらも察してるだろうが、これはアルベールが単独で成し遂げた成果じゃない。

  たぶん誰かに尻尾きりされたんだよ、あいつは」


 突っ込み逃したけど、「上に上がった報告」を見れるってことは、このひと(ベノムさん)宮廷錬金術師団の内部か王族にコネがあるのか。

 さすがというか当然というか。 


 「おおかた、そのだれかに実験体が逃げたことをばれたくなくて、冒険者を使ってスライムを捜索したんだろ。

  だが、ばれた。そして、アルベールの家に捜索が入ることを懸念して、資料の一部だけ予め処分しておけとか言われたんだろうな」


 それならつじつまが合う。

 だけど、今回の調査先とアルベールとの関係は? と自問したところでベノムさんが続ける。


 「次に村とアルベールとの関係だが……。

  この村の近辺がまずきなくさい。

  近場には何もないのに、妙に物資が出入りしてる痕跡がある。

  偽装されてるけどな。

  かといって村が発展したとかいう話も聞かない」


 こりゃ、何かあるだろ? とベノムさん。

 シグルドさんが補足。


 「厳密に辿れたわけじゃないのだけれど、

  その村の方面からアルベールに荷物が届いていたようなんだ。

  おそらく今回のスライムに使われていた材料だと思う」


 なるほど、関係は分かった。

 ……しかしなあ。


 「それほどきちんとした調査はしなくていいし、危険があったら逃げてくれて構わない。

  もちろん受けるかどうかはクロウ君たちの意志次第だけど。

  どうかな?」


 これはだめだな。信頼という名のスパルタだ。

 君たちならできると思ってる、って目をしてる。

 そういえばこういう人たちだったっけ。

 期待してくれるのはありがたいし、応えたいんだけど。


 ジョシュアとマディンを見る。

 二人とも問題ないみたいだ。

 ……わかってるのかなあ。これ、囮捜査なんだけど。

 しょうがないか。


 「……手当の相談をさせて頂きたいのと、アイテムの手配をお願いできますか?」



 僕が折れて、三日後に出立という話がまとまったのだった。



章の名称を暖かな時間⇒王都編に変更しました。

今回で王都編終わりです。

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