報告(中編)
*ジョシュア・クリプトン(アルキュール王国王都ギメリア、ギルド「ロウキーパー」本部四階)
クロウの報告を聴いて、エレイシアさんが問いかける。
「では、最後に報告に付け加えることはありますか?」
「はい」
疑問点を三点、とクロウは切り出す。
「一点目は、アルベールの研究が成功した理由です。あれほどの成果が出せるならどの国も積極的にスライムを研究していてもおかしくないはずです」
エレイシアさんが無言で続きを促す。
他の二人は口を出す気はないようだ。
「二点目は、アルベールの研究資料が隠滅されていたということです。現場での資料捜査にあたった宮廷錬金術師の方から伺ったことなのですが、四割ほどが消失している可能性があるということです」
今回の案件は少し特殊な捜査体制になっていた。
人死にが出ると王宮の兵士がいちおう状況見分に来るのだが、今回はそれに錬金術師団の数名が同行していた。
それからこちらもこちらで捜査を申請したので、初動捜査に協力するかたちで動いていた。「ロウキーパー」でなければ許されなかっただろう。
資料の件については、私も捜査に参加したので、よく覚えている。
私たちが調査した限りでは、明らかに一部の資料がなかった。別の場所に保管されているのか、処分されたのかは不明瞭なままだ。
とはいえ私たちは資料の内部を詳しく閲覧する時間はなかった。
だから、あの中身を見ることが出来た宮廷錬金術師の意見は傾聴に値する。
ただ、この段階でクロウが「あの言葉」を出さないのが気にかかった。
あの資料にははっきりと書いてあったのだ。
錬金術師ならだれでも興味をひかれる「あの言葉」が。
彼も聞いていないのか、それとも黙っているのか。前者だろうな、となんとなく察せられる。
そうするとそれに気づいているのは私だけということになるが。
「三点目は、あのスライムがあっさりと討たれた理由です。あれほど周到な計画を練っていながら、なぜ簡単に討伐されたのか」
以上になります、とクロウが口を閉じる。
……と、それまでだまっていた黒髪の男が口を開く。
「まあ、こいつらならいいんじゃねえか?
いいよ、俺は」
ソファーに体を預けた細身の男が突然口を開く。
「……ベノムさん」と諌めるように声をかけるエレイシアさん。
……ベノム? どこかで聞いたような。
「別にいいだろ。
お前らも受けさせるつもりだったんだろう。
こいつらがどれだけ出来るかはもう視た。
調査くらいなら問題ないだろうよ」
ああ、思い出した。
かのブラックギルド「夜の刃」のギルドマスター。
「毒蛇」のベノム。
王都ギメリアで五本の指に入る強者の一人。
そして、おそらくアルキュール最高の暗殺者がそこにいた。




