第31章 まだ見ぬ明日へ、心が選んだ道
陽翔は、仕事の契約について慎重に考えていた。
新しい仕事を引き受けることは、単に収入が増えるという意味ではなかった。
自分の体力。
介助の予定。
住まい探し。
そして、仕事以外の人生。
そのすべてを考えなければならなかった。
以前の陽翔なら、そんなことを考えるのは贅沢だと思っていたかもしれない。
けれど今は違った。
仕事をするためだけに生きたいわけではない。
生きたい人生の中に、仕事があってほしかった。
◇ ◇ ◇
翌朝、清水陸から返事が届いた。
修正された契約条件では、追加のテスト作業を、より現実的な期間にわたって短い作業時間に分けて実施できるようになっていた。
成果物の内容も明確に定義されたままだった。
報酬も変わらなかった。
そして、合意した業務範囲を超える作業については、別途承認が必要とされていた。
陽翔は修正された条件を確認した。
それから、もう一度予定表を開いた。
介助のスケジュール。
自分の体力。
進行中の住まい探し。
そして、パソコンの前に座っている時間以外にも、人生を楽しみたいという気持ち。
彼はかすかに微笑んだ。
以前なら、最後の項目など、少しばかり贅沢なことに思えただろう。
しかし今は、それが欠かせないものだと感じていた。
起きている時間のすべてを仕事に捧げるために、キャリアを築こうとしているわけではない。
自分が生きたいと思える人生の中に、仕事を組み込みたかったのだ。
必要な報告上の疑問点を確認し、提案されたスケジュールに無理がないことを確かめた後、陽翔は有償契約の変更書類に署名した。
そして、陸に送信した。
数分後、返事が届いた。
高橋様、ありがとうございます。追加テストでもご一緒できることを楽しみにしております。
陽翔は微笑んだ。
それから、美咲の写真に目を向けた。
「さて」
少し間を置いた。
「母さんの息子は、また一つ契約を取りつけたよ」
そして、にやりと笑った。
「それでも、まだ家は買えないけどね」
写真は何も答えなかった。
陽翔は小さく笑った。
少し苦い冗談だった。
けれど、希望がまったくないわけではなかった。
彼は前に進んでいた。
たとえ、その進歩がいつも自分の想像した形で訪れるとは限らなくても。
◇ ◇ ◇
その夜、葵はついに、自分がどれほど怖かったのかを美香に打ち明けた。
二人はキッチンのテーブルに座っていた。
夕食はすでに終わっていた。
洗った食器がシンクの横で乾かされていた。
アパートは、遠くを走る車の音を除けば静かだった。
美香がスマートフォンで何かを読んでいると、葵が口を開いた。
「ねえ、ちょっと話してもいい?」
友人が顔を上げた。
「もちろん」
葵はためらった。
それから、自分の手元に視線を落とした。
「私……本当は、思っているほど立ち直れていないのに、平気なふりをしてた」
美香はスマートフォンを置いた。
「拓海のこと?」
葵はうなずいた。
美香は黙って待った。
葵は唾を飲み込んだ。
「ちゃんと対策を取ってきたのはわかってる」
少し間を置いた。
「警察が証拠を持っていることも、わかってる」
美香はうなずいた。
「でも、時々……」
葵は言葉を探した。
「時々、まだあの人が突然現れるような気がするの」
声が震えた。
「仕事から帰るときとか」
「スマホが鳴ったときとか」
「誰かが後ろに近づいてきたときとか」
美香は静かに耳を傾けていた。
葵は続けた。
「自分でも、馬鹿みたいだって何度も言い聞かせてる」
美香は首を横に振った。
「馬鹿なんかじゃないよ」
葵は彼女を見た。
美香の表情は真剣だった。
「あなたは脅されたんだよ」
少し間を置いた。
「それに、まだ全部解決したわけじゃない」
葵は唾を飲み込んだ。
「わかってる」
目に涙が浮かんだ。
「でも……まだ怖がっている自分が嫌なの」
美香はテーブル越しに手を伸ばしかけた。
けれど途中で止めた。
触れてほしいかどうか、葵自身が決められるように。
葵は、その手を握った。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
やがて美香が言った。
「私の前では、平気なふりをしなくていいんだよ」
葵の顔がくしゃりと歪んだ。
彼女は弱々しく笑った。
「わかってる」
美香は彼女の手を優しく握った。
葵は目元を拭った。
「同じ話ばかりしていたら、いつか美香も聞くのが嫌になるんじゃないかって、ずっと心配してたんだと思う」
美香は彼女を見た。
「葵」
その声が柔らかくなった。
「私はあなたの友達だよ」
葵はうなずいた。
美香は続けた。
「だからって、何でも解決してあげられるわけじゃない」
少し間を置いた。
「何て言えばいいのかわからないことだってあると思う」
葵は悲しそうに微笑んだ。
「でも、私を守るために自分の気持ちを隠す必要なんてないんだよ」
葵は唾を飲み込んだ。
その言葉を聞いて、真理子と優奈のことを思い出した。
アパートで交わした会話。
助けを受け入れたら、誰かが自分から離れていってしまうのではないかという恐れ。
葵は涙を浮かべたまま、小さく笑った。
「職場でも、ほとんど同じことを言っていた人がいた」
美香は微笑んだ。
「じゃあ、その人はとても賢いんだね」
葵は笑った。
「腹が立つくらいにね」
二人はしばらく一緒に座っていた。
それから美香は、今まで決めてきた安全対策をもう一度確認するか、不安が日常生活に支障をきたすほど強くなっているなら、適切な支援機関に相談してみるかと尋ねた。
葵は考えた。
今夜ずっと、危険に備えるための計画を立てて過ごしたいわけではなかった。
けれど、選択肢を示してくれたことは嬉しかった。
「……明日でもいい?」
美香はうなずいた。
「うん、いいよ」
葵は深く息を吸った。
それから、かすかに微笑んだ。
「ありがとう」
美香はにっこり笑った。
「どういたしまして」
葵は窓のほうを見た。
街は暗かった。
捜査はまだ終わっていなかった。
これからも気をつけなければならなかった。
けれど、怖くないふりをする必要はなかった。
そして、おそらく――
それを認めることもまた、小さな自由の一つなのだろう。
◇ ◇ ◇
陽翔と葵が初めて電話で話したのは、金曜日の夜だった。
そのきっかけは、二人の友情における多くの重要な出来事と同じく、SF映画についての馬鹿げた議論だった。
陽翔は葵に、見るからにひどそうな映画のポスターの写真を送っていた。
そこには、家庭用電化製品を寄せ集めて作ったような宇宙船を背景に、筋肉隆々の宇宙飛行士が立っていた。
タイトルは――
『銀河の破滅:宇宙皇帝の復讐』
葵は画像を見つめた。
そして、あまりにもおかしくて笑い出してしまった。
ソファに座っていた美香が顔を上げた。
「何がそんなに面白いの?」
葵は首を振った。
「何でもない」
美香は眉を上げた。
「陽翔くん?」
葵はため息をついた。
「……うん」
美香はにやりと笑った。
葵はメッセージに戻った。
葵:これ、絶対ひどい映画でしょ。
陽翔:何という侮辱だ。
葵:その宇宙船、洗濯機でできてない?
陽翔:高度な異星文明の技術だよ。
葵:洗濯機じゃん。
陽翔:君は一つの文明全体を偏見で判断している。
葵は吹き出した。
すると、陽翔からもう一通メッセージが届いた。
陽翔:あらすじを説明してあげようか。
葵はにやりと笑った。
葵:お願いだからやめて。
陽翔:もう遅い。講義の準備はできている。
葵は笑った。
それから、ほとんど何も考えずに文字を打った。
葵:だったら、電話してくれてもいいんだよ?
送信したメッセージを見つめた。
胸が思いがけず、小さく跳ねた。
削除しようかと考えた。
けれど、やめた。
自分から提案したのだ。
受けるか断るかは、彼が決めればいい。
何も悪いことではない。
少しして、返事が表示された。
陽翔:本当に?
葵は微笑んだ。
葵:うん。
陽翔:危険性は理解している?
葵は笑った。




