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第13章 同じ遥かな空の下、千の小さな夢

高橋陽翔が京都旅行について最初に学んだのは、インターネットには難しいことをいとも簡単そうに見せる、驚くべき才能があるということだった。

そして二つ目に学んだのは、一部の旅行サイトを設計した人間は、マウスを使わずにサイトを操作した経験が一度もないらしいということだった。

月曜日の午前九時までに、陽翔はすでにブラウザのタブを十七個開き、ホテルを四軒ブックマークし、誤って旅行情報のメールマガジンに登録し、さらに、バリアフリーを大々的に宣伝している宿泊施設の一つが、車椅子対応だという客室へ続く階段の写真を掲載していることを発見していた。

陽翔は画面を見つめた。

そしてため息をついた。

「素晴らしいね」

ダイニングテーブルの反対側に座っていた叔父の高橋大地が顔を上げた。

「何が?」

「どうやら京都では、建築の法則が通用しないらしいよ」

大地は眉をひそめた。

「どういうことだ?」

陽翔は写真へ視線を向けた。

「見て」

大地は身を乗り出した。

ホテルの広告には、畳敷きの床、障子、そして風情ある日本庭園を望む、上品な客室が写っていた。

写真の下には、身体の動きに制限のある宿泊客も快適に過ごせるという、明るい宣伝文句が添えられていた。

そのすぐ隣に、狭い木製の階段があった。

大地は写真をじっと見た。

「どこか別の場所にエレベーターがあるんじゃないか?」

「かもね」

陽翔は別の写真を開いた。

また階段が現れた。

今度は違う角度から撮影されていた。

「それとも、俺に空中浮遊を期待してるのかな」

大地は笑った。

「可能性は捨てきれないな」

陽翔はにやりと笑った。

「空中浮遊できるなら、車椅子対応のホテルなんて探してないよ」

叔父はくすくす笑い、書類へ視線を戻した。

陽翔はスクロールを続けた。

ダイニングルームは再び臨時の事務室と化していた。ただし、今回テーブルの上に散らばっている書類は、訪問看護とはほとんど関係がなかった。

代わりに並んでいたのは、交通手段、宿泊施設、観光経路、車椅子対応のトイレ、そして重度の身体障害がある若者を連れて日本国内を旅行するための、膨大な準備に関する資料だった。

陽翔のパソコンの隣には、一冊のノートが置かれていた。

表紙には大地の字で、こう書かれていた。

京都作戦

陽翔はその題名に異議を唱えていた。

もっと劇的なものを提案したのだ。

作戦名:東京大脱出

しかし大地は、誘拐を計画しているように聞こえるという理由で却下した。

陽翔は、実に惜しい機会を逃したと思っていた。

それでも、ノートは役に立っていた。

中には候補となる観光地、旅行会社への質問、予想費用、そして旅程の原案が書き込まれていた。

最初のページには、桜の季節の京都を写した写真が貼られていた。

その下に、陽翔は一言だけ書いていた。

母さんのために。

今、彼はその文字をちらりと見た。

胸の奥に、懐かしい痛みが戻ってきた。

美咲が残した手紙を読んでから、三日が経っていた。

叔父が母の最後の願いを読み上げてから、三日。

そして、幼い頃からの遠い約束だった京都旅行が、本当に実現するかもしれないものへ変わり始めてから、三日。

すぐには無理だろう。

もしかすると、今年中にも行けないかもしれない。

それでも、いつか。

陽翔は、その「いつか」が「結局、一度も」という意味にならないようにしたかった。

夢の地図

高橋由紀がお茶を載せた盆を持って、ダイニングルームに入ってきた。

パソコンを見ると、足を止めた。

「まだ調べてるの?」

陽翔は微笑んだ。

「まずは、おはようって言ってほしいな」

由紀は笑った。

「おはよう」

大地は湯飲みを受け取った。

由紀はもう一つを、陽翔が好む位置と手の届く範囲を考えて置いた。

それからノートを見た。

「よさそうなところは見つかった?」

陽翔はうなずいた。

「いくつかね」

彼は大地に頼み、ホテルの紹介ページまでスクロールしてもらった。

「ここには車椅子対応の部屋があるんだ」

由紀は身を乗り出した。

写真には、十分な移動スペースと高さを調整できるベッド、そして車椅子でも使えそうな広さの浴室を備えた、現代的な客室が写っていた。

「素敵じゃない」

陽翔はうなずいた。

「うん」

大地は詳細を確認した。

「いくらだ?」

陽翔はためらった。

「ええと……」

叔父が目を細めた。

「陽翔」

彼はにやりと笑った。

「『高い』の定義を教えてくれる?」

大地はため息をついた。

由紀が画面をのぞき込んだ。

そして目をぱちくりさせた。

「あら……」

陽翔は厳かにうなずいた。

「そういうこと」

大地は口笛を吹いた。

「結構するな」

「しかも交通費は別だよ」と陽翔が付け加えた。

由紀は椅子に座った。

「もう少し安いところを探したほうがいいかしら」

「もう探したよ」

「それで?」

陽翔は別のタブを開いた。

その安いホテルも、車椅子対応を宣伝していた。

残念ながら、浴室は立っている大人一人が入るだけでも窮屈そうで、電動車椅子と身体介助を行う人が入る余地など、ほとんどなさそうだった。

由紀は眉をひそめた。

「これは難しそうね」

「でしょ」

大地は写真を見た。

「詳しく問い合わせてみたらどうだ?」

「もちろん」

陽翔はメモを開いた。

「質問リストを作ってあるんだ」

そして読み上げ始めた。

「出入り口の幅。浴室の寸法。ベッドの高さ。移乗するためのスペース。必要な機器を使えるかどうか。介助者が動けるだけの広さがあるかどうか」

由紀はゆっくりとうなずいた。

「入り口は?」

「もちろん段差なし」

大地は微笑んだ。

「もちろんだな」

陽翔は続けた。

「それから、エレベーターに俺の車椅子が入るかどうかも確認しないと」

由紀は驚いたようだった。

「ホテルのエレベーターなら、どれでも十分な広さがあるんじゃないの?」

陽翔は片方の眉を上げた。

「由紀叔母さん」

彼女はため息をついた。

「そうよね。ごめんなさい」

彼は微笑んだ。

「大丈夫。ちゃんと調べてるから」

大地はノートを見た。

「交通手段は?」

陽翔の表情が明るくなった。

「そこが結構面白いんだ」

新幹線で行ける可能性はあるが、事前の準備が必要だと説明した。

車椅子の寸法と重量を確認し、適切な車椅子スペースを調べ、利用する列車や区間について、鉄道会社に介助や予約の手続きを問い合わせる必要がある。

細かな条件が重要だった。

陽翔は、適切な介助や機器なしに普通の座席へ移ることができない。

また、車椅子スペースと表示されている場所なら、どこでも彼の電動車椅子が収まるとは限らなかった。

切符を購入する前に、利用条件を確かめる必要がある。

大地は真剣に聞いていた。

「つまり、まず鉄道会社に問い合わせるんだな」

「そのとおり」

由紀もうなずいた。

「駅の中はどうするの?」

「車椅子で通れる経路。エレベーター。路線を乗り換えるときの移動」

陽翔は少し間を置いた。

「あと、予定はあまり詰め込みすぎないほうがいいと思う」

大地は微笑んだ。

「どうしてだ?」

「エレベーターが一基故障しただけで、旅程全体が出来の悪いトランプタワーみたいに崩れる可能性があるから」

由紀は笑った。

陽翔はにやりと笑った。

「旅行の計画って、要するにお菓子付きの工学なんだよ」

大地はくすくす笑った。

「それ、お前の座右の銘にしたらどうだ?」

陽翔は少し考えた。

「案外悪くないね」

由紀は首を横に振った。

それから考え込むような表情になった。

「旅行中の介助はどうするの?」

陽翔の笑顔が少し和らいだ。

それが最も複雑な問題だった。

交通機関とホテルだけでは済まない。

彼には、移乗、着替え、入浴、排泄、食事、姿勢の調整など、日常生活のさまざまな場面で確実な介助が必要だった。

旅行中だからといって、必要なケアを止めるわけにはいかない。

かといって、叔母と叔父にすべてを任せるわけにもいかなかった。

資格や訓練を持つ支援事業者と調整し、現在利用しているサービスが旅行中にも対応できるのかを確認し、必要なら追加の介助を適切に手配しなければならない。

普段の利用地域から外れると、使えなくなるサービスもあるかもしれない。

全額自己負担になるものもあるだろう。

必要な機器についても、持参するか、現地で手配する必要があった。

陽翔は理解していた。

そして、それにどれほどお金がかかるかも、ある程度想像できていた。

由紀が彼を見た。

「家のことが全部落ち着くまで、待ったほうがいいんじゃないかしら」

陽翔はその提案を考えた。

それから首を横に振った。

「旅行に行くのは待てるよ」

由紀はうなずいた。

「でも、計画まで待ちたくない」

大地は微笑んだ。

陽翔は続けた。

「何が必要なのかわからなかったら、いくら貯めればいいのかもわからないでしょ」

由紀はノートを見た。

「明日出発したいって言ってるわけじゃないんだ」

彼女はかすかに微笑んだ。

「わかってるわ」

「どうすれば行けるのか、一緒に考えてほしいんだよ」

由紀は数秒間、黙っていた。

そしてうなずいた。

「わかったわ」

陽翔はにやりと笑った。

「よし」

大地は湯飲みを持ち上げた。

「京都作戦、続行だな」

陽翔は微笑んだ。

「すべての困難を乗り越えて」

まだ自分でコートのボタンを留められる女性

水野葵が訪問看護事業所に到着したのは、午前八時半少し前だった。

その朝、初めての同行訪問が予定されていた。

前日の夜には研修資料を読み直し、制服を準備し、自分は経験のある看護師なのだと何度も言い聞かせていた。

残念ながら、そうした準備をしても、大事な試験当日の学生のような気分になることは防げなかった。

森山千里が入り口の近くで出迎えた。

「おはようございます」

葵は頭を下げた。

「おはようございます」

「準備はいいですか?」

「たぶん……」

千里は微笑んだ。

「心強いお返事ですね」

葵はため息をついた。

「楽しんでますよね?」

「少しだけ」

二人は笑った。

葵は、地域でのケアにおける事業所の連携方針をよく理解している、経験豊富な介護職員の遠藤幸子に同行する予定だった。看護業務については、先輩訪問看護師の林紀子が同行し、葵の臨床業務を指導することになっていた。

この体制によって、看護と日常生活の介助がどのように連携するのかを、それぞれの役割を混同せずに学ぶことができた。

今回の利用者は、七十八歳の長谷川節子という女性だった。

彼女は東京西部の小さなマンションで一人暮らしをしていた。

娘が定期的に訪ねてきており、日常生活のいくつかの場面では、決められた支援を受けていた。

節子は病気のあと、筋力と移動能力が低下していたものの、頭の回転は鋭く、自立した生活を守ることに強いこだわりを持っていた。

紀子によると、彼女には人を上品に侮辱するという、並外れた才能もあるらしい。

葵はその説明を聞いて、少し安心した。

誰かを思い出したからだった。

到着すると、少し時間を置いてから節子が玄関を開けた。

小柄な女性で、銀色の髪をきれいに整え、薄紫色のカーディガンを着ていた。

近くには歩行補助具が置かれていた。

「おはようございます、長谷川さん」と紀子が挨拶した。

節子は微笑んだ。

「おはようございます」

それから葵を見た。

「あら」

葵は頭を下げた。

「水野葵と申します。本日は林さんのご指導のもと、見学とお手伝いをさせていただきます」

節子は彼女をじっと見た。

「若いわね」

葵は微笑んだ。

「そうかもしれません」

「何歳?」

「二十四歳です」

節子はうなずいた。

「ほとんど胎児みたいなものね」

紀子が笑った。

葵は目をぱちくりさせた。

そして吹き出した。

「褒め言葉として受け取っておきます」

節子は微笑んだ。

「結構。あなた、やっていけそうね」

三人は室内に入った。

部屋は暖かく整頓されており、窓辺には鉢植えが並び、低い棚には額に入った写真が何枚も飾られていた。

緑茶のかすかな香りが漂っていた。

節子は三人をリビングへ案内した。

ゆっくりと。

本当に、ゆっくりと。

葵は反射的に近づいた。

「お手伝いしましょうか?」

節子は首を横に振った。

「いいえ、結構よ」

葵はうなずいた。

そのとき、節子がカーディガンを整えるのに少し苦労していることに気づいた。

思わず手を伸ばした。

「あ、私が――」

節子は身を引いた。

「自分でできると言ったでしょう」

葵は固まった。

部屋が静かになった。

紀子が彼女をちらりと見た。

葵は手を引っ込めた。

「すみません」

節子はカーディガンを見下ろした。

そしてボタンを留め始めた。

指の動きはゆっくりだった。

最初のボタンが指から滑り落ちた。

もう一度試した。

葵は見守った。

二度目も失敗した。

手伝いたい衝動を抑えた。

節子は一度息を吸った。

そして三度目を試みた。

ようやくボタンが穴に収まった。

彼女の顔に小さな笑みが浮かんだ。

「ほらね」

葵も微笑んだ。

「できましたね」

節子は彼女を見た。

「当然よ」

そのまま、残りのボタンを留め続けた。

二分近くかかった。

葵は静かに立っていた。

すべて留め終えた頃には、節子は満足そうな表情をしていた。

それから葵へ向き直った。

「わかった?」

葵はうなずいた。

「はい」

節子は微笑んだ。

「私は動作が遅いかもしれないけれどね、お嬢さん」

彼女はカーディガンを整えた。

「まだ何もできなくなったわけじゃないのよ」

助けることと、奪うことの違い

午前の訪問は、節子のケア計画に従って進められた。

紀子は健康状態の評価を確認し、葵が適切な看護業務を行う際には指導と監督を行った。

幸子は日常生活の介助を担当し、節子がどのような支援方法を好むのか説明した。

葵は注意深く耳を傾けた。

看護業務そのものは、慣れたものに感じられるだろうと思っていた。

実際、多くの部分はそうだった。

しかし、時間の流れ方が違った。

隣の部屋から警報音が聞こえることはない。

救急患者が次々と運び込まれてくることもない。

同僚が廊下を慌ただしく駆け抜けることもない。

そこには、何十年もの思い出が詰まった品々に囲まれ、自分の家に座っている一人の女性がいるだけだった。

すべての仕事が、他人の私的な空間の中で行われていた。

葵は以前なら見過ごしていたかもしれない細部に、目を向けるようになった。

節子が物を並べる方法。

好んで座る椅子。

何かを動かす前に、許可を求めることの大切さ。

湯飲みを置く位置でさえ、意味があった。

あるとき、節子がテーブルの上の小さな木箱に手を伸ばした。

その手がわずかに震えた。

葵は反射的に箱を取ろうとした。

しかし、途中で止まった。

「こちらへ寄せましょうか?」

節子は彼女を見た。

一瞬、驚いたようだった。

それから微笑んだ。

「ええ、お願い」

葵は箱を近づけた。

節子が蓋を開けた。

中には古い写真が何枚か入っていた。

彼女は一枚を選び、持ち上げた。

若い頃の節子が、黒っぽいスーツを着た男性の隣に立っていた。

二人とも笑っていた。

「主人よ」と節子が説明した。

葵は少し身を乗り出した。

「優しそうな方ですね」

節子は鼻を鳴らした。

「どうしようもない人だったわ」

紀子が笑った。

節子は続けた。

「いつも鍵をなくすし、眼鏡をどこに置いたかも覚えていないし」

かすかに微笑んだ。

「料理なんて、命がかかっていてもできなかったでしょうね」

葵はにやりと笑った。

「魅力的な方だったんですね」

「ええ、そうよ」

節子は写真を見下ろした。

「とても魅力的な人だった」

一瞬、その表情が柔らかくなった。

それから写真を箱へ戻した。

葵は待った。

無理に沈黙を埋めようとはしなかった。

やがて節子が彼女を見た。

「あなた、恋人はいるの?」

葵は固まった。

紀子が顔を上げた。

葵は丁寧に微笑んだ。

「今はいません」

節子はうなずいた。

「よかったわ」

葵は目をぱちくりさせた。

「よかった、ですか?」

年配の女性は微笑んだ。

「まだ若いんだから。自由を楽しみなさい」

紀子が笑った。

葵もくすくす笑った。

「そうします」

節子は箱を閉じた。

そして再び葵を見た。

「でも、一つだけ覚えておきなさい」

葵は首をかしげた。

「何でしょう?」

「あなたを愛してくれる人は、あなたの世界を広げてくれる人であるべきよ」

節子の声は穏やかだった。

「狭くする人じゃなくてね」

葵は彼女を見つめた。

数秒間、言葉が出なかった。

節子は、自分の言葉が葵にどれほど強く響いたのか、気づいていないようだった。

ただ箱をテーブルへ戻した。

そして微笑んだ。

「さて、誰かお茶の用意を手伝ってくれないかしら?」

葵は小さく笑った。

「もちろんです」

千円の価値

昼頃までに、陽翔は表計算シートを作り上げていた。

それは実に見事な表だった。

少なくとも、本人はそう思っていた。

予想交通費、宿泊費、機器の手配費用、食費、観光施設の入場料がまとめられており、さらに独立した項目として、こう書かれていた。

予期せぬ大惨事

大地はその見出しを見た。

「これは何だ?」

陽翔は微笑んだ。

「緊急用の予備費」

叔父はうなずいた。

「どうしてそう書かないんだ?」

「『予期せぬ大惨事』のほうが劇的だから」

大地はため息をついた。

「そうだろうな」

陽翔は数字を入力し続けた。

調べれば調べるほど、旅行費用は介助の手配によって大きく変わることがわかってきた。

新幹線の切符代やホテルの宿泊費は、比較的簡単に概算を出せる。

しかし、必要な支援についてはそうはいかなかった。

利用できる割引制度やサービスによって、費用を抑えられる部分もあるかもしれない。

反対に、かなりの金額になる部分もあるだろう。

推測ではなく、信頼できる見積もりを取る必要があった。

陽翔も理解していた。

しかし、願っただけで数字が小さくなるわけではないこともわかっていた。

合計金額を見つめた。

そしてため息をついた。

「なるほど」

大地が顔を上げた。

「どうした?」

「どうやら俺、お金持ちになる必要があるみたい」

叔父は笑った。

「それは助かるな」

陽翔はうなずいた。

「よし。早速始めよう」

大地は微笑んだ。

「どうやって?」

陽翔は考えた。

「宝くじ?」

叔父は首を横に振った。

「ひどい計画だ」

「銀行強盗?」

「もっとひどい」

「大富豪と結婚する?」

大地は吹き出した。

陽翔はにやりと笑った。

「叔父さん、否定的すぎるよ」

大地は隣に座った。

「真面目な話、貯金は考えてるか?」

陽翔はうなずいた。

「うん」

別の書類を開いた。

一番上には、こう書かれていた。

京都旅行貯金

大地は微笑んだ。

「いいな」

陽翔は叔父を見た。

「毎月、少しずつお金を取っておきたいんだ」

「いい考えだ」

「でも……」

笑顔が消えた。

大地は待った。

陽翔は表計算シートをちらりと見た。

「そんなに余裕がないんだよね」

叔父はうなずいた。

「わかってる」

「ほかのことに必要なお金まで使いたくないし」

「もちろんだ」

陽翔はため息をついた。

彼は経済的な支援を受けていたが、使えるお金には限りがあった。また、支援制度の中には、収入や貯蓄、生活状況の変化によって利用資格が影響を受けるものもあった。

仕事で収入を得ても、今受けている支援がそのまま維持されるとは限らない。

どの給付に所得や資産の条件があり、どの給付にはないのか。そして、就労や貯蓄がどのように扱われるのかを理解する必要があった。

大地は彼を見た。

「制度に詳しい人に相談したほうがいいな」

陽翔はうなずいた。

「うん」

「恵子さんなら、適切な相談窓口を紹介してくれるかもしれない」

「それは助かる」

大地は微笑んだ。

「それまでは、少額から始めればいい」

陽翔は考えた。

「どれくらい少額?」

叔父は肩をすくめた。

「無理なく出せる金額でいいんだ」

陽翔はノートを見た。

そしてかすかに微笑んだ。

「千円とか?」

大地はうなずいた。

「立派な始まりだ」

陽翔はその数字を見つめた。

千円。

旅行全体の費用と比べると、笑ってしまうほど小さな金額だった。

それでも、ゼロではなかった。

始まりだった。

彼は表計算シートに金額を入力した。

京都旅行貯金――1,000円

大地は微笑んだ。

「よし」

陽翔はうなずいた。

「まずは千円」

叔父はくすくす笑った。

「先は長いな」

陽翔はにやりと笑った。

「せっかくの感動を台無しにしないでよ」

車椅子から離れずにできる仕事

その日の午後、陽翔は在宅でできる仕事について調べ始めた。

フルタイムの仕事を探しているわけではなかった。

少なくとも、今はまだ。

介助体制は整備中で、仕事にどれくらいの時間や体力を安定して使えるのかもわからなかった。

しかし、可能性を探ってみたかった。

彼は昔から文章を書くのが好きだった。

技術にも興味があった。

矛盾に気づいたり、質問をしたり、ほとんど何に対しても皮肉な感想を述べたりする才能もあった。

そのうちのどれか一つくらい、役に立つはずだった。

求人サイトを開いた。

次に別のサイト。

さらに別のサイト。

二十分もしないうちに、ほとんど何もしなくても巨額の収入が得られると約束する、怪しげな広告を三つ発見した。

陽翔は画面を見つめた。

「……へえ」

大地が顔を上げた。

「何だ?」

「どうやらボタンをクリックするだけで、週に百万円稼げるらしいよ」

叔父は笑った。

「信頼できそうだな」

「ものすごくね」

陽翔はページを閉じた。

検索を続けた。

フリーランスのライティング。

校正。

文字起こし。

在宅のカスタマーサポート。

ウェブサイトのアクセシビリティ検証。

デジタルコンテンツ制作。

現実的に思える仕事もあれば、そうでないものもあった。

経験不足で応募できないものもあった。

決められた勤務時間が、介助の予定と衝突しそうなものもあった。

しかし、いくつかは興味を引いた。

あるサイトでは、フリーランスの校正者を募集していた。

別のサイトでは、デジタルサービスの使いやすさを検証する人を探していた。

陽翔は可能性を考えた。

彼は長年、自分の生活を難しくすることに全力を注いでいるかのようなウェブサイトを使ってきた。

もしかすると、その経験を役立てられるかもしれない。

新しい文書を開いた。

そしてリストを書き始めた。

自分に向いていそうなこと

少し考えた。

それから入力した。

文句を言うことを仕事にする。

彼は微笑んだ。

さらに書き足した。

文章を書くこと。

編集。

ウェブサイトのアクセシビリティに関する意見や評価。

調査。

ひどい冗談を言うこと。

リストを眺めた。

そして笑った。

「うん。立派な履歴書だ」

大地が彼をちらりと見た。

「何してるんだ?」

「将来の職業計画」

叔父は微笑んだ。

「ほう?」

陽翔はうなずいた。

「フリーランスの仕事を考えてるんだ」

大地が近づいてきた。

「本当に?」

「うん」

見つけた仕事について説明した。

大地は注意深く聞いた。

そしてうなずいた。

「よさそうなのもあるな」

陽翔は微笑んだ。

「でも、収入を得たら今の支援にどう影響するか、調べないと」

「そうだな」

「あと、本当に自分が利用できる仕事なのかも」

「もちろん」

陽翔は画面を見た。

彼は世間知らずではなかった。

安定した仕事を見つけるのは難しいとわかっていた。

雇用主や依頼者が、障害について勝手な思い込みをするかもしれないことも。

利用しづらかったり、報酬が低すぎたり、単純に自分には向いていなかったりする仕事もあるだろう。

しかし、自分には能力があることも知っていた。

そして、その能力を使いたかった。

数週間ぶりに、お金を稼ぐという考えが、不可能な夢物語には思えなくなっていた。

調べれば解決策が見つかるかもしれない問題に感じられた。

難しい問題ではある。

それでも、答えがあるかもしれない問題だった。

担当候補者の書類に書かれた名前

葵が訪問看護事業所に戻ったのは、午後四時を少し過ぎた頃だった。

疲れていた。

病院勤務を終えたあとに感じるような、身体的な疲労ではなかった。

それよりも、訪問中に見聞きしたことが頭の中をいっぱいにしていた。

節子の粘り強さ。

紀子の丁寧な説明。

正確な記録を残すことの重要性。

そして、誰かがゆっくりと作業を終えるまで、何もせずに待つことが、思いのほか難しいという事実。

千里は葵を事務室へ招いた。

「訪問はどうでしたか?」

葵は微笑んだ。

「勉強になりました」

責任者は笑った。

「そう表現することもできますね」

葵は椅子に座った。

「カーディガンのボタンを留めるところを見て、あんなに学ぶことがあるとは思いませんでした」

千里は片方の眉を上げた。

「あら?」

葵は説明した。

すぐに手伝おうとしてしまったこと。

節子に断られたこと。

そして、あの女性は単に作業を終わらせようとしていたわけではないと、ようやく理解したこと。

彼女は大切なものを守ろうとしていたのだ。

自分のために何をするかを、自分で決める力を。

千里は耳を傾けた。

そしてうなずいた。

「大切なことを学びましたね」

葵はかすかに微笑んだ。

「どうやら私、まだ余計なところで手を出さない練習が必要みたいです」

責任者は笑った。

「私たちの多くがそうですよ」

二人は訪問記録を確認した。

千里は葵の観察やコミュニケーションについて助言した。

それから別のファイルを開いた。

「もう一つ、お話ししておきたいことがあります」

葵は背筋を伸ばした。

「はい?」

「高橋さんの担当についてです」

胸の鼓動が速くなった。

千里は机の上に書類を置いた。

葵はすぐに名字を見つけた。

高橋陽翔

一瞬、ただ見つめた。

千里は続けた。

「状況について、初期段階の検討が終わりました」

葵は顔を上げた。

「それで……?」

「担当については、引き続き検討中です」

彼女はゆっくりとうなずいた。

「事業所では、報告された嫌がらせ、ご家族から提供された情報、現在の安全対策について確認しました」

葵は注意深く聞いた。

「あなたがあのお宅で働くことが適切かどうか判断するまでには、まだいくつか確認すべきことがあります」

「わかりました」

千里は続けた。

「人員配置、指導体制、緊急時の対応手順、それから安全上の危険を許容できる範囲まで管理できるかどうかです」

葵はうなずいた。

「ご家族は……?」

「引き続き、あなたを候補者として考えたいとのことです」

彼女の表情が和らいだ。

「本当ですか?」

千里は微笑んだ。

「はい」

葵は目を伏せた。

思いがけない安堵を覚えた。

しかし、責任者は付け加えた。

「ただし、ほかの候補者とも面接をしています」

葵はすぐにうなずいた。

「よかったです」

千里は片方の眉を上げた。

「よかった?」

「はい」

葵はかすかに微笑んだ。

「陽翔君には安定したケアが必要です。私のために、いつまでも待たせるわけにはいきません」

千里は満足そうにうなずいた。

「そのとおりです」

そして続けた。

「ご家族は調整担当者と協力し、訪問看護と身体介助を組み合わせた支援体制を整えています。私たちの事業所が担当するのは、その一部分です」

葵は耳を傾けた。

「わかりました」

「それから、もう一つ考慮すべきことがあります」

葵は顔を上げた。

「あなたと陽翔さんが、以前、病院で看護師と患者という関係にあったことです」

彼女はうなずいた。

「はい」

千里は両手を組んだ。

「専門職として適切な距離を保つことの大切さについては、すでに話しましたね。以前からの面識は信頼関係を築く助けになりますが、期待や役割を複雑にする場合もあります」

葵は考えた。

「彼が、もう私を知っているからですか?」

「それもあります」

責任者は続けた。

「知らない看護師よりも、あなたのほうが安心できるかもしれません。それ自体はよいことです。しかし、その安心感によって、あなたの役割について誤解が生まれないようにする必要があります」

葵はうなずいた。

事業所で交わした会話を思い出した。

冗談。

悲しみ。

陽翔が母について話していたときの様子。

彼と話すのは楽しかった。

しかし、彼の看護師になるためには、一緒に話すのが楽しいというだけでは不十分だと理解していた。

明確な期待と役割。

専門職としての判断。

適切な境界線。

そして必要なときには、難しい決断を下す覚悟。

千里は彼女を見つめた。

「それでも、候補者として検討を続けてほしいですか?」

葵は息を吸った。

そしてうなずいた。

「はい」

責任者は微笑んだ。

「なぜですか?」

葵は慎重に考えた。

「私なら、適切なケアを提供できると思うからです」

少し間を置いた。

「それに、自分のケアを担当する人を選ぶとき、彼自身の意見が尊重されるべきだと思うからです」

千里はうなずいた。

「いいですね」

葵は続けた。

「でも、以前から知っているという理由で、陽翔君に私を選ばなきゃいけないと思ってほしくありません」

「大切なことですね」

「それから、ご家族が私を気に入ってくださっているというだけで、事業所に担当を認めてほしくもありません」

千里は微笑んだ。

「それも大切です」

葵は書類を見た。

「きちんと評価していただいたうえで、この仕事を任されたいんです」

数秒間、千里は黙っていた。

そしてうなずいた。

「私が聞きたかったのは、そういう答えです」

あまり笑えなかった面接

翌朝、陽翔は別の看護師候補と面接した。

名前は香川夏美。

三十六歳で、地域での看護経験が数年あり、落ち着いた専門職らしい物腰の女性だった。

葵とは違い、皮肉を交わして楽しむことには、あまり興味がなさそうだった。

それは、面接が始まってすぐに明らかになった。

陽翔は質問用紙を見た。

「第一問」

夏美は丁寧に微笑んだ。

「はい」

「皮肉には耐えられますか?」

彼女は考えた。

「さまざまなコミュニケーションの取り方に対応できます」

陽翔は目をぱちくりさせた。

そしてうなずいた。

「非常に外交的なお答えですね」

大地は微笑んだ。

隣に座る由紀は、笑わないように努力していた。

陽翔は続けた。

「ひどい冗談については、どう思いますか?」

夏美は微笑んだ。

「冗談の内容によると思います」

陽翔は考えた。

そして言った。

「車椅子が道路を渡ったのは、なぜでしょう?」

夏美は目をぱちくりさせた。

「なぜですか?」

陽翔はにやりと笑った。

「横断歩道がバリアフリーだったからです」

沈黙。

大地は口元を覆った。

由紀は天井を見上げた。

夏美はじっと見つめた。

そして丁寧に微笑んだ。

「なるほど」

陽翔はため息をついた。

「手ごわい観客だなあ」

大地が吹き出した。

夏美は今度こそ自然に微笑んだ。

「申し訳ありません。私、冗談があまり得意ではなくて」

陽翔はうなずいた。

「大丈夫です」

質問用紙をちらりと見た。

「次に行きましょう」

会話は次第に真剣なものになっていった。

夏美は、訪問看護や個別のケア計画、身体介助サービスの事業者との連携について、自分の経験を説明した。

そして陽翔に、彼自身の希望を尋ねた。

普段の生活習慣。

目標。

どんな状況で不満を感じるのか。

陽翔は正直に答えた。

あるとき、夏美は彼にとって自立とは何かと尋ねた。

陽翔は少し考えた。

そしてかすかに微笑んだ。

「自分に何が起きるかを、自分で決められることです」

夏美はうなずいた。

「介助が必要なときでも?」

「必要なときこそ、です」

彼女は微笑んだ。

「いい答えですね」

陽翔は彼女を見た。

初めて、心から感心したようだった。

面接はそのあとも二十分ほど続いた。

終わる頃には、陽翔は大切なことを一つ学んでいた。

夏美は葵ではなかった。

同じユーモアのセンスを持っているわけでもない。

これまでの共通の経験があるわけでもない。

そして、彼の皮肉をすぐに理解してくれるわけでもなかった。

しかし、経験があった。

敬意を持って接してくれた。

そして、話を聞く姿勢があった。

陽翔はそのことを評価していた。

夏美が帰ると、由紀が彼へ向き直った。

「どうだった?」

彼は考えた。

「いい人だと思う」

大地もうなずいた。

「俺もそう思った」

陽翔は微笑んだ。

「でも、あんまり面白くないね」

由紀は笑った。

「陽翔!」

彼はにやりと笑った。

「何?」

叔母は首を横に振った。

「みんながみんな、面白い必要はないでしょう」

陽翔は考えた。

「そんな人生、つまらなすぎるよ」

大地は吹き出した。

それから陽翔の表情が真剣になった。

「でも、真面目な話」

由紀は彼を見た。

「何?」

「気に入ったよ」

叔母は微笑んだ。

「よかった」

彼はうなずいた。

「仕事もちゃんとしてくれそう」

大地はうれしそうだった。

陽翔は窓へ目を向けた。

葵が自分のケアチームの一員になってくれたらいいと、今でも思っていた。

しかし、誰かを選ぶということは、単に知り合いだからという理由だけではないのだと、少しずつ理解し始めていた。

自分に合った支援を見つけることなのだ。

そして、ふさわしい人は、まだ会ったことのない誰かかもしれなかった。

最も小さな始まり

その夜、陽翔は大地に頼み、千円札を小さな封筒へ入れてもらった。

封筒は由紀が引き出しの中から見つけたものだった。

淡い青色をしていた。

陽翔はすぐに気に入った。

表には、こう書いていた。

京都旅行貯金

大地が封筒を持ち上げた。

「準備はいいか?」

陽翔はうなずいた。

「うん」

叔父は千円札を中へ入れた。

それから、あとでまた開けられるように、封を軽く閉じた。

陽翔はじっと見つめた。

千円。

旅行全体の費用と比べれば、ほんのわずかな金額だった。

しかし、それは彼のお金だった。

自分が望むことのために、意識して取っておいたお金だった。

大地は微笑んだ。

「よし」

陽翔はうなずいた。

「一歩前進だね」

叔父はくすくす笑った。

「本当に小さな一歩だな」

陽翔はにやりと笑った。

「すべての偉大な旅は、ばかげた量の書類仕事から始まるんだよ」

大地は笑った。

「そんなことわざじゃないだろ」

「そうあるべきだよ」

由紀が小さな果物の皿を持って入ってきた。

封筒を見た。

「それは何?」

陽翔は微笑んだ。

「旅行貯金」

由紀の表情が和らいだ。

「あら……」

彼はうなずいた。

「最初の千円」

由紀は微笑んだ。

「素敵じゃない」

大地は妻を見た。

「京都作戦、正式に始動だ」

陽翔はにやりと笑った。

「経済的な絶望を乗り越えて」

由紀は笑った。

それから車椅子へ近づいた。

「お母さんも誇りに思うでしょうね」

陽翔の笑顔が和らいだ。

近くの棚に置かれた美咲の写真を見た。

一瞬、母が隣に立っている姿を想像した。

封筒を見て笑いながら。

十分なお金が貯まるまで何年かかるのかと、くだらない冗談を言いながら。

そして、自分を抱きしめてくれる姿を。

陽翔は唾を飲み込んだ。

「……うん」

声が震えた。

「そうだといいな」

由紀はそっと彼の肩に触れた。

陽翔はもう一度封筒を見た。

旅行が実現するまで、どれくらいかかるのかわからなかった。

自分に合った仕事が見つかるかどうかもわからなかった。

訪問看護の手配がどうなるのかもわからなかった。

そして、葵とのことがどうなるのかなんて、なおさらわからなかった。

しかし、目標があった。

計画があった。

そして、自分自身の未来が始まろうとしていた。

今は、それで十分だった。

窓の向こうに広がる地平線

その夜遅く、葵は美香のマンションの窓辺に座っていた。

研修資料はテーブルの上にきれいに積まれていた。

研修の新たな段階を終えた。

担当候補としての申請は、まだ有効だった。

そして、陽翔と一緒に働ける可能性も消えてはいなかった。

しかし、不確かさも消えてはいなかった。

拓海による嫌がらせは、引き続き警察が対応していた。

事業所はまだ担当を承認していない。

そして葵は、現在の病院での仕事についても決断しなければならなかった。

スマートフォンへ目を向けた。

新しいメッセージはない。

それには感謝していた。

しかし、連絡がないことを安全の証拠だと考えるほど、もう無邪気ではなかった。

美香がキッチンから出てきた。

「まだ起きてるの?」

葵はうなずいた。

「うん」

友人は隣に座った。

「考え事?」

「残念ながら」

美香は微笑んだ。

「危険な趣味だね」

葵は笑った。

二人はしばらく静かに座っていた。

やがて美香が尋ねた。

「仕事、決まりそう?」

葵は考えた。

「わからない」

「やりたいの?」

彼女はうなずいた。

「うん」

美香は微笑んだ。

「じゃあ、うまくいくといいね」

葵は窓を見た。

「私もそう思う」

東京の反対側では、陽翔が寝室に座り、その日のうちに印刷した京都の写真を眺めていた。

写真には、桜の枝が屋根のように覆いかぶさる、静かな小道が写っていた。

桃色の花びらが宙を舞っていた。

木々の向こうには、伝統的な木造建築が立っていた。

陽翔はその道を進む自分を想像した。

観光客の声を聞きながら。

春風を頬に感じながら。

どこかで立ち止まって、おいしいものを食べながら。

写真を撮る。

笑う。

生きる。

母の手紙は、すぐそばに置かれていた。

彼はそれを見た。

そして微笑んだ。

「千円だよ、母さん」

少し間を置いた。

「大金とは言えないけどね」

小さな笑い声が漏れた。

「でも、始まりだよ」

窓の外では、夜空の下で街が動き続けていた。

電車は乗客を乗せ、遠くの駅へ向かっていた。

車は明かりに照らされた道路を走っていた。

仕事から家へ急ぐ人もいれば、友人と夕食を楽しむ人も、翌朝の予定を立てる人もいた。

同じ星空の下で、何千もの人生が営まれていた。

陽翔はもう一度写真を見た。

東京の向こうには、京都がある。

まだ訪れたことのない街。

母が果たせなかった約束。

そして、ようやく自分自身のために思い描き始めた未来。

彼は目を閉じた。

一瞬、美咲の笑い声が聞こえたような気がした。

何もかも完璧になるのを待たないで。

陽翔は微笑んだ。

「待たないよ」

目を開けた。

そして、パソコンの隣に置かれた封筒を見た。

千円。

千の小さな可能性。

そして、地平線の向こうで静かに待っている、一つの夢。

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