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人形劇はこの日のために宮廷作家がわざわざ書き下ろしただけあり、子どもたちが夢中で楽しめるストーリーだった。それでいて教育的要素もしっかり含まれている。
「王子が街にお忍びという設定がよかったですわね」
「そこに登場する悪党を、なんと同じお忍びで街にいたお姫様が退治するのも痛快でしたわ」
「最後はお互いの身分が分かり、二人はめでたく結ばれましたわね」
「お姫様は王子がみすぼらしい姿をしていても、ちゃんと助けた。心の優しいお姫様なのね」
「いいお話でしたわ」
並んで歩く伯爵令嬢と子爵令嬢の会話からも、人形劇は大成功だったと分かる。
「皆さん、今日、最後のイベントはこちらで行います!」
てっきりスイーツを食べた席に戻るのかと思ったら、ジョセフ殿下が大きく手を振ってこちらへと呼びかけていた。そこはガゼボで、中には石の大きなテーブルがあるが、その上には何かが置かれており、白い布が掛けられている。
「おや、あれは何だろう?」
兄が興味津々となっているが、伯爵令嬢と子爵令嬢も「何かしら?」と声を上げていた。しかもジョセフ殿下のそばに用意されたテーブルには真っ白な包みにゴールドのリボンがついたギフトボックスがいくつも置かれている。
きっとあれはお土産ね。あの白い布の何かを披露した後、あのギフトボックスをジョセフ殿下が一人一人に手渡して今日はお開きとみたわ。
ガゼボの周りに子どもたちが集合すると、ジョセフ殿下は笑顔で告げる。
「宮殿のパティシエがわたしのために作ってくれた特別なスイーツがあるのです。今日はこれをみんなに見せて誕生日パーティーを締めくくりたいと思います」
ジョセフ殿下はそう言うと、ガゼボに備え付けられている石のベンチに靴を脱いで上がり、白い布をそっと掴む。
「ではご覧ください!」
パサリと白い布が外され、そこに現れたのは――
「すごい! これは……飴細工で作られたお城では!?」
兄の声に「本当だ!」「すごいぞ!」「食べられるお城だ!」と歓声が起きる。
そのお城はいくつもの尖塔があり、屋根はストロベリーやレモンの飴でできているのだろうか。壁はミルキー色で、レンガの部分は蜂蜜色、黄金の装飾は……本物のゴールドだろう。お城の周りを取り巻くのは薄水色のハッカ飴。小粒の薔薇の花も飴で表現されている。
この世界で砂糖の輸入量は増えているとはいえ、まだまだ高級品。それでこれだけの飴細工を作るということは……。
王家のすごさを間違いなくこの場にいる子どもたちは感じている。
「この飴細工、ガラスケースに入れてしばらくはエントランスホールに展示するつもりだけど……。実はパティシエたちはみんなのために、このお城のミニチュアサイズの飴細工を用意してくれています。今日、来てくれたみんなへのお土産は飴細工です!」
ジョセフ殿下のこの言葉には「わー!」と歓声が上がり、自然と拍手も沸き起こる。
「では順番に渡すから、僕の前に並んでくれる? 人数分、ちゃんとあるから、慌てないでいいよ!」
そうジョセフ殿下は言うが、令嬢と令息はわっと殿下の前に集まる。おしくら饅頭状態になるが、そこは家門の力関係が働き、自然と列が整う。
「では先頭にいる……ホプキンス公爵令息から、どうぞ」
「はい、殿下!」
いつの間にか庭には令嬢令息と共に宮殿に来ていた乳母や従者が現れ、飴細工の入った箱を手にした子どもたちは彼らと共に宮殿を後にする。
「まあ、フィッツロイ公爵令嬢、そんな後ろではなく、こちらへ」
伯爵令嬢と子爵令嬢はかなり前の列にいるが、私と兄は最後尾に近い。気を遣って声をかけてくれるが、それを辞して並んでいると――
「フィッツロイ公爵令息とフィッツロイ公爵令嬢は共に謙虚ですね。公爵家なのですから、先頭だって許されるのに」
後ろから声を掛けてくれるのはエリザベス!
「どうせエントランスで馬車を待つことになる。これだけの数の貴族がいたら、馬車も順番に出すしかない。結局、早く飴細工を受け取ってエントランスホールに行っても、そこで待つことになる。だからこれで構わないのさ」
兄の言葉にエリザベスがクスクス笑い「フィッツロイ公爵令息は、八歳とは思えない達観ぶりです」と応じ、兄は「そう言うポーレット侯爵令嬢も四歳に思えない落ち着きですよ」と、なんだか二人はいい感じで話し出す。
そこで視線を感じ、目を動かすと、ハッとした様子の推しが目を泳がせている。
「ポーレット侯爵令息」
「は、はい」
「髪、伸ばしているのですね」
「!」
「とっても綺麗ですよ」
「……そう言ってくれるのはフィッツロイ公爵令嬢と家族だけです」
「そんな」
「でも、それでもいいと思えました」
「!」
「誰にも認められないわけではなく、認めてくれる人もいるのですから。僕自身、この髪色、嫌いではないんです。ハッカ飴みたいに澄んだ水色で……好きなんです。だから、気にしないことにしました」
そこで推しがクールな表情から一転、にこやかな笑顔になる。
うわあ、八歳でも推しは何だか色気がある! そしてこの笑顔、めっちゃいい!
ここにスマホがあれば連写だろうし、なんならクリアファイルや缶バッジにして欲しい表情だった。
「僕に自信を持てばいいって教えてくれたのはフィッツロイ公爵令嬢です。ありがとうございます」
「そ、そんな……私は別に」
「今日も、かっこよかったですよ」
「!」
「妹の……エリザベスについた蛾に対応してくださり、ありがとうございました」
「いえ、そんな、大したことは」
「もしあの蛾を僕が見つけていたら……多分、『うわぁ』って声を出してしまったと思います。蛾自体が不気味というかグロテスクなのもありますし、突然、あんなものが妹の背に止まっていたら……衝撃的だと思うので……」
「それは……まあ、そうなりますよね」
「だから本当にフィッツロイ公爵令嬢はすごいと思います。……僕、あなたに負けないよう、強くなろうと騎士見習いも始めたんです。当主教育もあるから、本当に忙しくて……。ベッドを前にするとバタンと倒れ、気絶するように寝てしまいます。騎士団に入ることはできないので、騎士に叙任されるまでは……頑張ってみようと思っています」
これを聞いた私は目を大きく見開き、ビックリするしかない。
推しが騎士見習いをしていた!? 騎士を目指している……なんて情報、前世の知識でもないこと。この世界の推しは……なんだか我が道を爆走している気がする……!
驚愕したところで「フィッツロイ公爵令嬢」と声を掛けられ、前を見ると、ジョセフ殿下が笑顔でこちらを見ている。
「今日はわたしの誕生日パーティーに参加いただき、ありがとうございます」
「い、いえ、こちらこそ……」
「よかったらお持ち帰りください」
「ありがとうございます」
飴細工が入っている箱を受け取り、後ろにいるエリザベスと推しに場を譲ろうとしたその時。
「フィッツロイ公爵令嬢は大活躍でしたので、これも特別に」
「……!」
透明なガラスのケースの中には、飴細工で作られた馬車!
飴細工の白馬が引くのは卵型の馬車。蜂蜜色で、パールのような飾りに薔薇の飴細工が飾られている。中にはプリンセスも乗っているのだ。
「すごいです……! これ、いただけるのですか!?」
「ええ。一つしかありません。勇敢なフィッツロイ公爵令嬢に」
「……ありがとうございます……!」
前世でも見たことがないぐらい繊細な作りで、私は「すごい」と感動してしまう。
いや、違う。そうではない。悪役令嬢になるはずが、第二王子にばっちり好印象を持たれていない!? かくなる上は、この飴細工を「いらない」と突き返す……。
そんなことできるわけがなかった。本能がこの飴細工を欲しいと言っている。
「チェスもぜひ、しましょうね」
悪役令嬢になり切れない私にジョセフ殿下がダメ押しのようにウィンクした。
お読みいただき、ありがとうございます!
どうしても物語の進行に抗えないキャロライン
気になる続きは明日の夜時頃公開予定です!
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