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「キャロライン、とっても可愛いドレスだね。似合っているよ」
宮殿へ向かう馬車の中、兄は大絶賛で褒めてくれるが、私はむすうっとふくれっ面。
お母様があんな風に怖いなんて知らなかった! 結局、キャロラインが最も可愛く見えるドレスで宮殿へ向かうことになってしまったわ。これでは第二王子に気に入られてしまう……!
婚約は避けられないと思いつつも、ワンチャンあるかもしれないと考えていた。だからこそ、諦めきれない。
ドレス選びでは失敗してしまった。ならばせめて……。
しかめっ面で近寄りがたいオーラを出し、なんだか面倒そうと思われ、婚約者には向かない公爵令嬢をアピールしようと思ったのだ。
「キャロラインはそんなに素敵なドレスを着ているのに、ご機嫌斜めなの?」
兄は不思議そうな顔で私を見る。
私は口をへの字にして答えない。
すると同乗している乳母のモリーが代わりに答える。
「お嬢様は本当は別のドレスをお召しになりたかったのです。でもそちらはドレスにほつれがあり……。代わりにこちらのドレスになりました。お嬢様としては不本意だったのでしょう」
「なるほど。それは……残念だったね、キャロライン。でも今のドレスは本当に似合っているよ。だから怪我の功名だと思い、ほつれのあったドレスのことは一度忘れよう」
私は無言で「いや」とばかりに首をプイと窓の方へと向ける。
「キャロラインがご機嫌斜めだと僕、悲しいな。どうしたら笑顔になれる?」
そんなの知らないとばかりに私は窓を睨みつける。
「もしキャロラインがご機嫌を直してくれたら……大好きなバニラ入りのカスタードタルトを作るよう、お父様に僕から頼んでみるけど」
これには「!」と刮目してしまう。
この世界でカスタードクリームは簡単にいただける。でもバニラ入りとなると、途端にハードルが上がってしまう。なぜならバニラが超高級スパイスだからだ。そのバニラを使ったタルトは……。
もう甘い香りがたまらないの!
前世ではバニラなんて当たり前だった。でもこの世界では滅多にバニラの香りをかがないから……。いざかぐと身も心も蕩け落ちそうになる。
うっかり「分かったわ!」と言いそうになり、慌てて気を引き締める。
「バニラ入りのカスタードタルトもダメかぁ。じゃあ……仔馬は?」
「!」
「キャロラインは自分専用の仔馬が欲しかったのだろう? でもお父様から乗馬より、ピアノや語学のレッスンを頑張りなさいと言われたんだよね、キャロラインは。でも僕からキャロラインも乗馬が出来た方がいいと説得するよ。そしてキャロライン専用の仔馬も買ってもらおう!」
「……わ、分かったわ、お兄さまがそこまで言うなら……」
「それにしても」と思う。
兄は鋭い。私が何を欲しがっているのか……熟知していた。そして仔馬は……今、一番私が欲しいものだった。前世でも乗馬に憧れがあったし、挑戦してみたいことだったのだ。
「キャロラインの笑顔、最高だな。嬉しいから、僕自身のお願いとして、バニラ入りのカスタードタルトもリクエストしておくよ。一緒に食べようね、キャロライン」
そこで紫紺色の瞳を細めて笑顔になる兄は……実にハンサムで素敵だった。
◇
兄に懐柔され、馬車ではニコニコしていたが、お茶会の会場に着いたら話は別だ。まず令息と令嬢でグループ分けされ、同行している乳母や従者は控え室で待機となる。モリーと兄の目がなくなるので、私は途端に仏頂面。周囲の私と同い年ぐらいの令嬢はこの顔を見て、すぐに目を逸らし、以後は見て見ぬふりをする。
いい感じで敬遠されているわ。この調子で第二王子にも嫌われてしまおう!
意気揚々としながら、お茶会の会場となっている庭園へと向かう。令嬢たちを先導するのは宮殿の侍女長で、長身で眼鏡をかけたとても真面目そうな御仁だった。
「それでは控えているメイドに名前を告げ、席へ案内してもらってください」
庭園の一画には天幕が張られ、その下には丸テーブルがいくつも並べられている。さながら結婚式に続くガーデン披露宴が行われるような雰囲気。さらに天幕の端の方にはパティシエが待機しており、この日のために用意された屋外用の竈からは甘い香りが漂っている。
第二王子と会うのは困るけど、お茶会のスイーツ自体はとっても美味しそうだわ……!
そこで思わず気が緩んでしまったようだ。
「フィッツロイ公爵令嬢、初めまして! エリザベス・サラ・ポーレットです! お兄さまからお話に聞いていましたが……。とてもお綺麗でお会いできて嬉しいです!」
アイスブルーより銀髪に近く、瞳が碧いこの幼い美少女は推しの妹であることが判明する。
気が緩んだと思ったけれど、推しの妹となると……。いや、推しの妹でもここは凛としないと!
そう思ったところで、なんとずらずらと人がやって来たと思ったら楽団の皆様で、優雅に音楽を奏で始めた。そして令息たちの着席も終わり、軽やかなメロディが流れる中、遂に第二王子の登場となる。
私は生唾をゴクリと呑み込んで、第二王子のジョセフ殿下を見る。
緩やかなカーブを描く金髪に碧眼のジョセフ殿下は天使のように美しい。白のフリルたっぷりのブラウスも胸元のリボンも白いタイツすら似合ってしまうのは……彼がまごうことなき美少年だからだろう。
お兄様も美少年だけど、こちらは眉がキリッとして凛々しい。対してジョセフ殿下は優しい顔立ちなのよね。甘い顔立ちの王道王子様顔。でも私の一番の好みは……。
チラリと私は目の端に推しの姿を捉える。
アイスブルーの髪を左側に束ね、涼やかな銀色の瞳でジョセフ殿下を見ている推しは限りなくクール・ビューティー。
しゃら~んという効果音が似合うまさに爽やかウィリアム! お兄様よりも、ジョセフ殿下よりも、お父様よりも、やっぱりウィリアム!
推しはこんなに美少年なのに、やはり髪のことを気にしているのか、私が頻繁に外出するのに対し、あまり外に出ていないようだ。何せあのガーデン・パーティー以降、推しを見かけたのは一度だけ!
もっと推しを愛でたい気持ちもあったが、私も悪役令嬢としての実績を積むので忙しかった。よってこの一年、推しを愛でるチャンスが一度しかなかったのも我慢していたが……。
今日、ちゃんと見ることが出来た。それだけで満足だった。私がついニマニマしていると、ジョセフ殿下のソプラノボイスが聞こえてくる。
「みんな、今日はわたしの誕生パーティーに来てくれて、ありがとうございます。八歳の誕生日をみんなとお祝いできること。とても嬉しく思います。これから焼き立てのパンケーキがみんなに順次届きます。テーブルには既に沢山の焼き菓子やチョコレート、メレンゲ菓子もありますよね。果実水やミルクも出すので、存分に楽しんでください」
ジョセフ殿下は挨拶すると、近衛騎士と従者を連れ、みんなが座るテーブルを順番に回るようだ。ここでみんなプレゼントを渡し、ジョセフ殿下と二言三言話すわけだが、令嬢はここでしっかりアピールするよう、両親から言われているはず。
かくいう私も父から「ジョセフ殿下にプレゼントを渡しながら、ちゃんと優しく微笑むのだよ。そして『これは特注の象牙で作ったチェスのセットです』と殿下に渡すんだよ、キャロライン」と言われているが。
このチェスも渡すが、それだけではない。
それは……これよ!
私は前世でも絵心がなかった。そして転生したこの世界でもそこは同じ。キャロライン自身に絵心があるという設定がなかったからか。字は美しいのに、絵は破壊的。
ということで前衛芸術家もビックリな斬新過ぎる油絵をチェスの箱の上にドーンと置いて渡し、センスのなさと下手くそな絵をプレゼントにする非常識さで、この公爵令嬢絶対に婚約者候補から外そうと思ってもらう……という作戦を立てていたのだ。
どうかこれで私の悪役令嬢としての名声が高まりますように!
お読みいただき、ありがとうございます!
推しへのぶれない愛、そして遂にヒーローと対峙するキャロライン!
続きは明日の夜公開予定です!
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