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ジョセフ殿下とのお茶会から一週間後、父は国王陛下に呼び出された。
間違いなく、ジョセフ殿下の婚約の件が話し合われるのだわ。
そうであろうと分かっているが、一体どんなところが落としどころになるのかは全く想像がつかない。
その一方でジョセフ殿下はさらに体調が悪化しているということで、お茶会は延期され、私はお見舞いの手紙と花束を届けている。
ジョセフ殿下からは「申し訳ないです」と返事の手紙が届いたが……。それは代筆。本人が手紙を書けない程、弱っていると分かる。
今こそ、ヒロインの支えが必要なのだろうけど、彼女は動いているのかしら?
もう一度だけ、陰の支援者となり、ヒロインに手紙を書いた。ジョセフ殿下にその後、体調に変わりはないか尋ねる手紙を書くといいと。
そんなことをしてさらに一週間が経ち、執事長が部屋まで来て、「旦那様がお呼びです」と言う。
これは「いよいよ来た!」と身を引き締めることになる。
夕食のためにロイヤルブルーのドレスに着替えていた私はマリエットに「ちょっとお父様のところに行って来るわ」と伝え、背筋を伸ばす。
ここが正念場だと思う。円満解消であれば、両親も推しも復讐の鬼にならないで済む……!
「お父様、キャロラインです」
ノックと共に声を掛けると、扉が内側から開く。母が顔を覗かせ、優しく微笑む。
間違いないわ。ジョセフ殿下との婚約の件!
母が父の書斎にいてそこに呼ばれる時は間違いなく、フィッツロイ公爵家にとって重要な話の時だった。
「キャロライン、夕食前にすまないね」
執務机に座る父の横に母が戻ると、早速会話がスタートする。
「いえ、もう着替えも終わっているので、問題ありません……何かありましたか?」
私が問うと「実は……」と父は切り出す。
「ジョセフ殿下は湖に落ちて以降、気持ちが沈みがちだったが……。最初は心の問題に思われた。しかし体にもその影響が出始めたようだ。ここだけの話だが、殿下はその……跡継ぎを作るための体が機能しなくなってしまったそうだ」
これには「……!」と驚くしかない。
ジョセフ殿下はフィッツロイ公爵家に非はなしで、婚約解消にすると言っていた。でもまさか不能を理由に婚約解消をするなんて……!
この世界のヒーローなのに……と驚愕するしかないが理由としては絶妙だった。
「キャロラインと殿下はこの一年以内には挙式となる方向で実は水面下で調整が始まっていた。でも殿下の体が機能しないとなると、それは延期するしかない」
父をフォローするように母が口を開く。
「王家にとって第二王子であろうと、跡継ぎはとても重要なの。王位継承者に含まれることになるから。当然、国民も王子誕生を期待するわ。でも今の殿下の状況では子作りはとても無理な状態なの。そしていつその体が機能するようになるのか。それは宮廷医も本人も分からないのよ」
本当にジョセフ殿下が不能になっているのかは分からない。我が家が納得するために用意された理由の可能性もあるが、もし真実なら……心が起因して不能になっているのなら、いつ治るかは未知になるだろう。
「いつ治るか分からないジョセフ第二王子殿下と結婚し、いつまで経っても子供が出来ないとなった時、王家側に問題があるのでは?と噂することは出来ない。つまり自然とキャロラインに何か問題があるのではと社交界で噂となり、ゴシップ紙も、おもしろおかしく書き立てる可能性も出て来る。そうなったら国民も興味を持ち、あることないことを語り出すだろう」
父の言葉はまさにそうだと思えた。公爵家<王家で、話のネタにされるのは確かに私だ。
「王家としてはそれは申し訳ない。かと言ってジョセフ殿下の不能の件を公にはしたくないわけだ。そこで……王家有責で婚約解消の申し出があった。ジョセフ殿下は表向き、いつ完治するか分からない病気により、婚約は解消になると発表される。同時に殿下は本当に王都を離れ、地方で療養されるそうだ」
これを聞いた私は「なるほど」だった。
ヒロインとの婚約の件は水面下で進めるのだろう。私と婚約解消し、いきなり婚約するわけではない。一年ほど療養として王都を離れ、なんならその地方でヒロインと出会い、二人は愛を育む……そして病が治り、婚約に至るという流れにしたいのでは?
これなら公爵家も王家も傷つかない!
「王家が今回、婚約解消を申し出たのはキャロラインのためであるそうよ。年齢的にも婚約者がいておかしくない。ずるずると婚約を長引かせ、やはり治りそうもないのでと、数年後に婚約解消になったら……それこそ新たなるお相手探しも難航するでしょう?」
母の言葉には強く同意だ。この世界の貴族令嬢の結婚適齢期は十八歳前後。数年も回復を待ち、婚約解消では正直、手遅れな年齢になっている。いくら公爵令嬢という肩書があっても、お相手に高望みができなくなってしまう。
「マーガレットとも話し合い、王家からの婚約解消を……呑むつもりだ。キャロライン、お前はどう思う?」
「私は……お父様とお母様の意見に従う所存です。何より病気が理由であれば王家としても苦渋の決断のはず。フィッツロイ公爵家としては受け入れるのが最善に思えます」
「そうか。キャロライン、そう言ってくれて安心だよ。ではフィッツロイ公爵家として婚約解消を受け入れると返事をしようと思う」
「分かりました、お父様」
「キャロライン、大丈夫よ。あなたならすぐにきっと、素敵な令息が見つかるわ」
そこで母がウィンクするのを見た私は確信する。
大丈夫。お父様もお母様もこの婚約解消を悪い話と思っていない。
あとは私がこの婚約解消を経て、川に身投げする……を回避できれば、家族も推しもダークサイドに落ちることはないはず。
「ではキャロライン、話はこれで終了だ。夕食まで部屋で寛ぐといい」
「はい、お父様」
「キャロライン、近日中に妃教育からも解放されるわ。でもね、そこで学んだことは無駄にならないはずよ。先生方は皆さんとても優秀な方ばかり。最高級の知識を得られたわね。それはこの後のキャロラインの人生に役立つはずよ」
「はい、お母様。私もそう思います!」
私が明るく返事をすると、今、この部屋にいる家族全員が笑顔になった。遅かれ早かれ兄にも連絡が行くだろうが、円満な婚約解消と分かれば、兄も激怒することはないだろう。
こうして王家との話し合いが進み、婚約解消のための手順が整えられていく。
お父様によると王家では今回の婚約解消のお詫びとして、婚姻契約書に書かれている以外の対応もしている。それは王家が所有する東部最大の鉱山の採掘権の70%が譲られ、南部に新たなる領地を付与されたということだ。
ここまでされたら王家がどれだけ申し訳なく思っているかが強く伝わってくるわ。
そしてついに新聞でジョセフ殿下の体調不良が伝えられ、療養のため、地方へ向かうことも記事になった。それから程なくして、ジョセフ殿下と私の婚約解消が発表される。
この世界では病気が理由で婚約が解消されることもよくあることだった。医療水準が高いわけではないので、病気により死亡するケースも残念だが多い。よって病気を理由に婚約が白紙に戻るのは貴族同士でも日常茶飯事なこと。先にジョセフ殿下の病気の件が伝えられていたので、社交界でも「仕方ない」「御気の毒に」という同情の声がほとんどだった。
王家が手を回したからか、新聞の論調もそれで統一されていたし、何より八月も終わると再び王都に貴族が戻り、議会も始まるのだ。収穫や狩猟の秋に向け、やることも目白押しで、皆、病気の第二王子と公爵令嬢の婚約解消ばかりに気をとられることはない。
そういう意味でも絶妙なタイミングで婚約解消が発表されたと思うわ。
これで家族は大丈夫だが、推しはこの婚約解消について絶対に心配しているだろう。
そこで私はこっそり手紙を書き、マリエットに推しへ届けてもらうことにした。今回の婚約解消は新聞が伝える通りの円満なものであること、私は元気であると――
お読みいただき、ありがとうございます!
実は婚約解消の理由がかつてないものになっています……!
続きは明日公開予定です~
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なろうの接続障害は復旧に時間がかかるようなので
10/2に40話を更新しました。

















